腹に入れずに部活はできる?
ドガズゴッ!
……なんだか、派手に何かが壊れたような音がしました。
「やぁやぁやぁやぁやぁ! 元気ィィィィィだった?! ねぇねぇねぇぇぇぇ栗兎くぅぅぅぅん!」
ドドガッ。
「ギャーッ、来るな来るなっ、俺に近づくなバケモノ!」
ヌチャクチャッ。
「もぅぅぅぅ! そんなバカモノみたいに言わなくても良ぃぃぃぃぃぃじゃん!」
「やめてっ俺の愛しのミミ子ちゃんを、もうブラックアウトして記憶喪失させないでっ、あともうちょいでアイドルになるんだからっ」
「またスマホのアイドル育成ゲームゥゥゥゥ?! ミミ子ちゃんより麻里ちゃんのほが可愛ぃぃぃぃぃでしょ! 付き合ってよぉぉぉぉ!」
……話についていけません。
「あぁぁぁぁれ? きみきみきみきみ、新人くん?」
あ、話の矛先が僕になったようです。
「……は、初めまして。雨野柳です」
「可愛いぃぃぃ好きぃ! キスしてい? い? 良ぃぃぃぃぃ?!」
「ダメだよ、佐野先輩。柳くんが困ってるだろう?」
「嫌ぁ嫌ぁぁ! 好き! 好き好き好き好き、愛してる、困るダメェェェェ!」
……こ、これはまさか、情緒不安定っていうやつでしょうか。
情緒不安定って、僕みたいな社会最底辺にしか使わないのかと思ってました……いえ、もしかすると、本当は社会最底辺の僕になんて勿体無すぎる言葉なのでしょうか。
「あうううう、自己紹介する忘れてたぁぁぁぁ! さののののまりだよよろしくぅぅぅぅぅ!」
なんだか恐い人で……いえ、そんなことは言ってはいけませんよね。
有徳さんが『先輩』と呼ぶからには、僕にとっても先輩に違いありません。
先輩に対して恐い人だなんて、絶対に言ってはならない、思ってもいけないことです。
他ならぬ、僕なんかが……
「おーい、柳くん?」
「やなやなやなやなぎくぅぅぅん、っていうののの? やなぎくぅん好きぃぃ! 付きあってぇぇぇぇ!」
……きょ、強烈な印象を持つ先輩ですね。
「やなやなやなやなぎくぅ」
スチャッッ!
鷹野先輩が、その先輩の背後に回り、素早くアイマスクをかけました。
すると、途端に先輩が静かになりました。
「……えと、麻里姉さまが、ごめんなさいの。わたしは、佐野愛李であるの」
……麻里姉さま?
「柳さま、ごめんなさいの。びっくりしてるの、なんだか可愛いのけど。えとえと、二重人格て、分かるなの?」
「……二重、人格?」
なんだか、聞いたことはあるような気がしますが。
「わたしと、麻里姉さまは、俗に言う、それなの。1つの体に、2つの人格があるなの。わたしたちは、ほんとはどっちも生まれるはずだったのけど、どっちか死んじゃって、こうなったの」
実質、2人なの、と、愛李さんは言いました。
「まぁそれは良いなの。これから、恐怖の絶食タイムを始めるなの。ただし水分補給は大事なのから、お茶とか持って来たなの?」
「愛李さん、それは大丈夫だよ」
有徳さんが、ヒョイと、床に置いてあった段ボール箱を掲げました。
「水やらお茶やら、10リットルくらいはあると思うからさ」
よ、用意周到です。さすがイケメンです……。
「それでわ、始めるなの……あう、麻里姉さまも参加したいって言ってるなの」
「それだけはマジでやめてぇぇぇぇ?!」
「……冗談なの」
そか、良かったぁぁ、と小日向先輩が崩れ落ちるようにしゃがみこみました。
そして瞬時に立ち上がった小日向先輩は、キリリとその表情を引き締めました。
「さて。んじゃ、始めよっか」




