VOCAL3 河宮采流羽
東京は品川。とある商店街。
松村菜那の父親が精肉店の店主で、仕込みはいつもながら多忙で何かと手が空かない。
菜那はクラス電子名簿帳をタブレットに登録していた。
品川にある電光スクリーンビジョンに、東京東部門の出場登録テストキャスト名簿リストが掲示されていた。
常に持ち歩いているタブレットで、電光スクリーンビジョンを見て、共通の名前に反応した。
「真刈駿弥……いつか、カモとしてコンテスト会場に送ったヤツよね。駿弥とおんなじ字じゃない?」
疑り深い菜那。自分が少年を男の娘に変身させたことなど気にもしなかった。
「菜那‼ 買い物頼まれてくれ‼」
店主である父親が新聞の折込チラシのセール品の買い物を娘の菜那にさせた。
いちいち怒鳴るから非常に煩くて近所迷惑だとぶつくさ言い飛ばして買い物にでる菜那。
電光スクリーンビジョンは、彼女の部屋から覗ける位置にあってか手間が省けるらしい。急いで精肉店出入口から外に出た。
「勝手口から出ろといつも言ってるだろうが」
「うるさいな~‼ 判ってるわよ」
買い物がてら、バーガーショッブで休憩した菜那。
そこへ、一人のアラフォー的なルックスの女性が相席を求めてきた。
「さてと……ああ、ごめんね。わたしは、こういう者です」
女性は名刺を女子中学生に渡すや、いちいち絡んできた。
「はぁ? なんなのよ、あんた」
名刺の内容は、『日本音楽産業キャスト連絡サポートリンカーコーポレーション 代表取締役 河宮采流羽 キャスト内偵調査長官(上役兼任)』。
内偵調査というのが凄く怪しい。
「ベタな肩書なことで」
「そうかしら? その調査のお陰で不正が明るみになりました。男女混成チームをあなたが結成させた事が調査結果で分析しましたので、最終確認として、あなたにコンタクトしました。男女混成登録は規定違反です」
「あたしは結成じゃなく斡旋しただけで、引っ掛かった人の判断です」
「その結果、男が女に成りすまして芸能活動じゃ、わりに会わないでしょう?」
「どんくさいのが悪いのよ」
「じゃ、警察と裁判にあなたのとった行動をわたしを通して通達しますので、では失礼します」
「ちょっと、待ってよ‼」
「何か? 松村菜那さん?」
「あたし……名前紹介してないわよ」
「内部調査室は、細部に渡り知るための機関ですので」
「判りました。でも……警察とか裁判にかけるのは嫌です」
「では、極秘で取引しましょう。中学生じゃお金の取引は無理なので、情報交換でなら」
「飽くまで口止めの情報なのね」
「ご名答でございます」
バーガーショッブ販売の100円ホットコーヒーを購入していて、かき混ぜ棒を紙容器内でかき混ぜていた。
「情報というか、今後、あの結成したチームにコンタクトしてハヤミちゃんにトークするわ。あなたの言ったことを打ち明けてね」
「つまりは拒否の自由・黙秘の自由・露見の自由は一切ないのね」
「それらの自由を遂行したかったらどうぞ。警察と裁判には混成誘導事項を報告しますので」
「ううう~」