VOCAL2 シルクカウンター
女性4名ユニット、古川アイリ組『シルクカウンター』は、オーディション会場の新星企画に提携する業者と契約打ち合わせにいった。
「シルク……カウンターですね。OK、OKね。契約承りました。では、会場案内します」
「素晴らしいステージの練習用アリーナですね。本番場所みたいな感じで見とれました」
「この『ラブフレンドリースペース』は一般公募しているイベント特設会場だから、他会場よりはマシなボーカルスペースだよ」
ラブフレンドリースペースのオーナー、ドレン石崎は贔屓目で彼女らを引き入れたのだった。
ボーカルユニット集結祝いをした新星ユニットたちは、東京スポーツグランドを大会場所に企業団体の籍を置いた。
そのユニット名は『カラーズレイン』。色とりどりの雨の意味で名付けた新星ユニットだ。シルクカウンター一行が受ける登竜門は『ローツ・フラットホール』という日本一の巨大会場だ。いわば、九段下にある日本武道館みたいな感じだ。
日本武道館2個分の巨大施設は、日本ネオ歌謡曲総帥の『高鍋将承』が26年前に創立させたネオステージアリーナだ。日本一大会場の日本武道館を覆した超巨大施設でアーティスト誕生の登竜門。千葉県浦安に建つイベント施設は、TDRの人気をそっちのけにさせるオーラがあるほどだ。
そもそも新星企画とは、高鍋将承がプロデュースした新星ユニットプロジェクトの草案が通過した企画物だ。
その手始めに、『関東ヴィーナスコンテストプロジェクト』が開始された。通称の関東愛女神が宇都宮・高崎・浦安・お台場の4大会場で、コンテストが開催されるというのだ。
東京スポーツグランドは、お台場にあるビッグサイト隣地に建つスポーツ興行施設。展示会場駅は、スポーツ興行イベントがあれば、ビッグサイトイベントと重なれば満員御礼状態。なるだけは重複しない指定日にしたいものだが、そうはいかないのが現実だ。
真刈家。宅内の客間にはオーナーの神林がいた。
「親御さんには大変本当に申し訳ありません。本人様のご意志あっての決断で、女装音楽芸能人の新星企画参加について許諾をよろしくお願いいたします」
深々と土下座する神林。
「頭をお挙げください。わたしは、怒ってもいないし、反対の意志もありません。芸能界が紆余曲折の世界なのだと今昔も関係なくあるわけです。そんな紆余曲折の繰返しの環境に適するかをわたしは、見極めたい。駿弥にそれが理解出来ないと判断した上で、わたし共はやむを得ない手段をいたします。故に、ご自由に我が愚息をよろしく頼みます」
父親の堅物そうなセリフだが、許しが講じただけでも嬉しいことだ。
「ご了承いたしました。それでは、簡易未成年加入者受理証明書の保護者許諾欄にサインをよろしくお願いいたします」
「なんか……不思議な気分だな。息子なのに、娘を預ける取引を交わしている感覚がするよ。なあ、母さん」
「ええ……確かにね~」
両親の理解が早くて、且つ許しが出た所で真刈家を後にした神林だった。
神林がスマホで協会本部にいる高鍋総帥に伝達した。勿論の事、真刈家の娘としての受理だ。
その日から少年は駿弥と書いて『はやみ』と読ませる芸名の名義に変更したのだった。
古川アイリ率いるシルクカウンター。彼女らのいる契約練習会場は浦安会場、ローツ・フラットホール。且つ千葉県コンテスト会場だ。ここで関東のヴィーナスの座を奪うため必死になっていた。
シノがアイリに笑い転げながら言う。
「今頃、あの『ばかミサキ組』は解散だよね‼」
「それはどうかしら? ミサキは図太い神経の持主よ。あの馬の骨の男の娘を加えるに違いないわ」
「そのうちボロが出るのを待つのも面白そうだわ」
と、ミッチがにやけた。
「男の娘ったって、いつかは声変りしてお笑い歌手に転属どころか、業界の笑い話として伝説になるかも知れないわ」
アイリは思い切ってそんな顔に似合わぬ美顔で汚ならしいセリフをこぼしたのであった。