創世
◇
そして世界は始まった
◇
「神は生き物であってはならない」
男は独り呟いた。
飾り気のない殺風景な小部屋。部屋の床には文字のビッシリと書かれた原稿用紙が無数に散らばっており、その中心に男は立っていた。
「僕は人間から脱さなくてはならない」
男の手には大ぶりのナイフが握られている。ギラギラと怪しい輝きを放つソレを、男は自身の頭上に掲げる。
男の名はキャロル。彼は世界を創造せし者……それと同時にただのつまらない人間でもあったのだ。
「世界の創り手は、人間なんてつまらない愚かな存在であってはならない。そう、僕は神にならねばならないんだ。僕は死ぬことでワンダーランドは完成するのだから」
この狂気ともいえる思い込みが彼を死に向かわせる。
自分が死なねば世界は大成しない。そう考えた創造主は妖しげな光を瞳に宿らせて独白を続ける。
「僕は世界を創った。しかし世界はまだ生きてはいない。僕はまだ、世界の外郭を創ったにすぎないのだから。世界に命を与えねばならない……」
そして彼は手にした大ぶりのナイフで自身の心臓を貫いた。
どくどくと絶え間なく流れ出るキャロルの生命が、床に散らばった原稿用紙を赤く染めてゆく。
ドウと地に伏した彼は満面の笑みを浮かべていた。
創世主の存在を断ち切ったそのナイフは、彼の血を吸い、その存在を先の次元へと高める。
≪ヴォ―パルの剣≫
創世主を殺した刃は、世界をその概念ごと断ち切る存在としてワンダーランドで昇華された。
死によって生まれたこの世界。ワンダーランドは生まれながらんいして死の呪いにかけられる。
―――ああ、今日も世界は死ぬだろう




