表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/286

96話 ルークの魔法指南




 ルーク学生生活3日目。

 今日はアルカと共にルークの授業参観日。今日ばかりはこちらに同行させてもらった。

 何せ、初の課外授業というやつがあるのである。とは言え、魔獣退治をする訳では無い。街の外に出る事にはなるが、しっかりと安全なルートを通り、街から少し離れた場所にある岩場まで歩き、そこにある鉱石を取ってくると言うもの。魔獣に遭遇する可能性は低いものの、少しは存在する。よって、教師達も万全の体勢で監視をしている訳だ。

 ただしいくら安全だと言っても、一応お姫様の護衛という立場である以上、アルカ一人に任せる訳にもいかんのだ。


 ところが……


「何故、わたくし達が貴方達と一緒の班なのでしょうか」

『ご、ごめんなさい』


 ルークはとりあえず陳謝ちんしゃした。

 そう、ルークは何故か護衛対象であるフィリア姫と同じ班になってしまったのだ。

 こちらとしては、良いんだか悪いんだかという微妙な気持ちだ。


 とりあえず、どうしてこうなったか……という事であるが、


「今日は前から言っていたと思うが、このクラスでは初の課外授業だ。お前達にはチーム分けの為に、四人一組の班を作ってもらう」


 教師の言葉で、四人一組の班を作る事となった。クラスは全部で24人だから、きちんと4で割り切れる。

 当然、美少年で魔法の実力も凄いルークは取り合いに……


「ねえ、ルーク君! 良かったら私達の班員に……」

「いや、俺達の班に入ってくれ。お前が居たら心強い!」

「だめよー! ルーくんはアタシ達と一緒に行くんだから」

「いや、チームは実力の近い者同士で組むべきだ。よって、彼は僕達と組むんだ」

「馬鹿やろう! コイツと実力が近いって、どの口が言ってるんだ!!」


 と、なった事はなった。

 しかし、当のルークは……というと、


『ご、ごめんね。僕、ラグオ君と一緒の班になるって決めてるから……」


「「「「え!????」」」」


 と、こんな感じでルークは昨日友達となったラグオ君と早々に班を組んでしまった。

 ちなみにラグオ君はいわゆるクラス内でぼっち担当であり、ルークが現れるまでは誰も彼と好んで関わる者は居なかった。しかも、彼とルークが話し出すと独特の世界が発生し、誰も近寄れなくなってしまうのだ。

 よって、誰も彼等と班を組もうという者はおらず、ぼっち一組+ぼっち一組が残ってしまい、結果としてルークとフィリア姫が一緒になるという形になってしまった。


「まさか、フィリア姫もぼっちだったとは……」

『昨日一日観察してみた所、どうも下級貴族の出の方はクラスメイトの方達からやや卑下ひげされる存在のようです。フィリア姫はその下級貴族の出であると身分を偽っているようですから、そう誤解されているのではないかと』

「つまりは家の格差によるいじめか……。異世界だけど本当に人間の社会って変わんないな」


 でも、これってもしフィリア姫がお姫様だとばれたらどうなんだ。直接的にいじめている訳では無いが、この子らっていいとこの貴族の子達なんでしょ。将来的にマズイんじゃねと思うんだけど。……まぁ、俺達とは直接関係ないからいいか。復讐する気ならしておくれ。


 とまぁ、幸か不幸かルーク、フィリア姫、ラグオ君、最後の一人はフィリア姫の友達のナティア嬢の四人組となった。

 護衛する俺達からすれば、一か所に固まってくれて見張るのも楽で良いんだけどね。ただ、これがどういう結果を及ぼすか不安な所ではある。


「とにかく! なってしまった以上は仕方ありません。くれぐれも、わたくし達の足を引っ張らないでくださいね!」

「フィル、ルーク君にそんな心配いらないんじゃない? むしろ、あたし達が足を引っ張るんじゃないかと思うよ」

「いいのです! こういうのは最初にガツンと言っておくべきなんです!!」

『と、とにかくよろしくお願いします』


 ペコリとルークが頭を下げると、フンッとばかりにフィリア姫は横を向いた。

 なんか知らんけど嫌われているな。

 まあ、下手に恋心を抱かれるよりはいいかな。後々面倒になるし。


 この課外事業、地球の遠足のようにずらずらっと固まって歩く訳では無く、4ヶ所指定された場所に、時間差で出発する形になっている。

 ルーク達は最後に決まった班だけあって、ラストに出発する事になった。


 ちなみに、彼らが歩いているのはマイアの外ではあるが、砂漠では無い。マイアの西に広がっている荒野地帯だ。ここは第一都市へ向けた街道が敷かれ、砂漠に比べれば十分安全が確保されている。


 道中は、ほぼ男二人、女二人の二組に分かれていた。いっちゃなんだが、どっちも自分達の世界に入り過ぎである。でもまぁ、特に交流もない男女だったらこうなるか。

 だが、四人の中で唯一コミュ力の高いナティア嬢がルークとラグオ君に声を掛けた。


「ねぇねぇ、それって何やっているの?」


 見れば、ラグオ君は歩きながら粘土のようなものをこねていた。

 すると、女子に声を掛けられた経験がさほど無いのか、ラグオ君は顔を赤くしながら答えた。


「えーと、土魔法の勉強かな」

「土魔法?」

「地面から土の塊を拾って、魔力でもって粘土みたいに柔らかくしているんだ」

「え? それって売ってる粘土じゃないの?」

「うん。ただの土でも、魔力で包めばこんなに柔らかくなるんだって」

「へぇー凄いね!!」


 これは、どうもルークが教えた勉強法らしい。彼の目的は、土人形……いわゆるフィギュアを自在に作り出せる力を得る事だからな。


「ふん! 土魔法なんて何の役にも立たないわよ!」


 フィリア姫は何やらナティア嬢が他の事に食いついたのが気に入らないのか、ぷんと横を向いてルーク達の方を見もしない。

 しかし、土魔法が何の役にも立たないと言うのは、ルークのプライドに触ったようだ。


『そんな事無いよ。土や石は基本的に何処にでもあるから、色んな応用が効くんだよ。例えば……』


 ルークは地面に手を置くと魔力を込め、ボゴッと土の壁を出現させる。……フィリア姫の目の前に。


「ひゃい!!」

『こうやって相手の行く手を防いだり、視界を奪ったりも出来るし……』


 続いて驚いて尻餅をついたフィリア姫の周りを陥没させ、落とし穴に落とす。


「キャーッ!!」

『こうやって罠を作ったりもできるし……』


 次に土の柱を作って穴からフィリア姫を持ち上げる。

 フィリア姫と言えば、次から次へと振りかかる危機的状況に、顔面が蒼白である。


『低い場所から高い場所へ持ち上げたり……』

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! 何処まで上げるつもりよ!!」


 そのまま20メートルくらいは持ち上げたな。結構な高さだろう、あれ。フィリア姫は落ちないようにガシッと柱にしがみついているが、無情にも……


『そのまま落としたり……』

「イヤーッ!!!」


 ルークはそのまま柱を崩してフィリア姫を落下させた。鬼だなコイツ。


『クッションを作って助けたりも出来る』


 ぼふんと、ルークが作り上げた土のクッションの上へと落ちるフィリア姫。


『後は、地面を鋭いトゲにして攻撃したり……って、アレ? 寝てる?』


 いや、気絶しているんです。

 そして、その様子を唖然と見つめているラグオ君とナティア嬢。

 俺はとりあえず、姿を消したままつかつかとルークに忍び寄り、その頭を思いっきりぶん殴っておいた。


 なんでお前、好きな事や得意な事ならそんなに自信満々に出来るんじゃ。




◆◆◆




 その後、フィリア姫が目覚めるまで20分を要した。結構なタイムロスだな。

 そして当のフィリア姫は、力が抜けてしまったのか、ナティア嬢に背負われている。


「ごめんね……ナティ」

「し、仕方ないよ。さすがにあれは……」


 青い顔をしておぶられているフィリア姫を、ナティア嬢は引きつった笑みで擁護した。

 うむ。あれは仕方あるまい。


 そして、その後ろをトボトボと歩くルークの頬には、大きな手形の跡がしっかりと残っていた。

うむ。あれは見ものだった。

 やがて、気を使ったのか隣を歩いているラグオ君が尋ねてきた。


「そ、それにしてもルーク君凄いよね。一体どれだけ修練積んだのさ」

『いや、修練って言ってももののいっかげ―――(ゴン!)―――3年ぐらいかな』


 正直に言いそうだったので、ぶん殴って軌道修正させた。ここはちゃんと裏で決めた設定に合わせて返事をしましょう。


「さ、3年!? でも、ぼくらが3年鍛えても、そこまで上達できるとは思えないよ」

『そうかな? みんな鍛え方が悪いだけでもっとちゃんとやったら、上達すると思うんだけど』

「鍛え方?」

『うんうん。まず、えっと……フィル……さん』


 恐る恐る前方を歩く背中へ声を掛けるが、


「名前で呼ばないで」


 にべもなく返事が返ってきた。なので、ルークは苗字の方で呼ぶ事にした。苗字と言っても偽名なんだけどね。……正確には母方の苗字とのことだ。


『じゃあ、ミラル……さん。君って、なんで火の魔法使っているの?』


 予想外の言葉に、フィリア姫は機嫌の悪い顔で振り返った。


「何よ。わたくしが火の魔法使ったら悪いの?」

『悪くは無いけど、相性ってものがあるからさ。ミラルさんの体質的に火の魔法は向かないよ』

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。相性とか体質とかどういう事よ!」


 さすがに聞き捨てならなかったようで、キッとなって詰め寄った。


『あれ……知らないの?』

「知らないわよ! 何よそれ!」

「あたしも初めて聞きます」

「ぼくもだね」

『ええと、ちょっと待ってね』


 ルークはまた大地に手を置き、土の壁を作り上げる。そして、指を硬化させるとその土の壁にギーギーと音を立てて書き込んでいく。どうも、黒板代わりのようだ。

 再びルークの魔術指南が始まる。……せっかくだから俺も聞こう。


『魔法は大きく分けて5種類あるってのは聞いているよね』


 うむ。これは魔法を使えない俺でも知っている。

 俗にいう5大属性。


 火 水 風 土 雷


 ファンタジーゲームでもポピュラーなこの5つである。


『で、その5つ以外にも派生属性ってのはいくつか存在する』


 後は有名どころで言えば、


 氷 木 金 光 闇


 といった所か。もっと細かく分類できたりもするらしいが、比較的目にするのはこの10属性らしい。


『でも、ほとんどの人は最初の5属性に振り分けられているんだよね。要は、向いている魔法と向いてない魔法』


 ルークは黒板に5角形を書き、それぞれ角の頂点に火、水……と書き込んでいく。


『で、この向いてる向いてないってのは、生まれつきみたいなもんなんだよね。その人の体質的にその属性の魔法が習得しやすく、逆に習得しづらいという感じ』


 うんうん。この辺もゲームやなんかでよくある図式だな。

 要は、火属性が得意なキャラクターは、その反対である水属性が苦手。細かく説明すると、相克そうこくだったり相生そうしょうだったりが組み合わさって説明はややこしくなるが、要は生まれつき得手不得手があるって事だ。


「そ、そんな事……授業では……」


 ルークの説明を呆然と三人は聞いていた。

 どうも、今のルークの説明は、アカデミーの授業では一切教えていないらしい。

 ふとアルカに聞いてみる。


「そうなの?」

『昨日一昨日と、いくつかの授業を拝見しましたが、確かに説明はしていませんでしたね。私もこの世界の魔術師の方達としっかり話した事がありませんので詳しくは無いのですが、ひょっとしたら多くの人間は知らない可能性があります』

「おいおい」


 ずっと昔から魔法がある世界とちゃうんかい。

 いや、普通にヒト族以外の種族は知っている可能性が高いな。またヒト族の中でも魔術師のレベルが高い人は知っていたりするんじゃないかな。あのラザムとかは怪しいぞ。

 

「あれだね。火の魔法は生活でも役に立つし、見た目が派手で格好良いから、とりあえず火の魔法を習得しようって言う人が多いんだ」

「ちょ、ちょっとナティ……」


 顔を赤くして抗議する事から、フィリア姫の習得目的もそれだったようだ。

 まあ、火の魔法は便利だし、大抵の魔獣とか獣って火に弱いからね。

 最初にそれを選ぶ気持ちも分かる。俺もトリプルブラストのファイヤーブラストはよく使っているからな。


『んで、僕が見た限りではミラルさんは風魔法の体質っぽいよ。火の魔法も覚えられるけど、まずは風の魔法を習得して、魔力を放出する感覚を覚えた方が良いと思う』

「か、風……」


 フィリア姫はいつの間にかナティア嬢の背中から降りて、自分の掌を見つめている。


「風の魔法を使おうなんて、今まで思った事もありませんでした。アカデミーの人達は、まずは火の魔法を習得して、それから……という方達ばかりですのに」

「ファイヤーボールの魔法は基本だもんね」


 分かります分かります。

 ゲームでも最初に選ぶ魔法は、単純な火球を発射する魔法だ。次に氷と雷……と、色々選べる状況で風を選ぶ者はそれほど多くないだろう。

 実際に使ってみると、風も応用効いて便利なんだけどね。

 それにしても、兄貴のセージも得意魔法は風みたいだったから、血筋みたいなもんだろうか。

 が、やがてフィリア姫はしょんぼりしたように言う。


「でも、せっかくですがわたくしは風の魔法の詠唱が分かりません」


 詠唱?

 ……そうなのです。一応この世界の魔法は、呪文の詠唱が必要となっているのです。

 とは言え、アルカやルークはそんなもの使わないでポンポン魔法出せるし、ラザムみたいな熟練の魔術師なら無詠唱も可能らしい。

 というか、この詠唱自体は初心者がマニュアルを読みながら機械を操作する……みたいなものなので、必ずしも必要だという訳では無いらしい。


『僕も風の魔法はそんなに得意な訳じゃないんだけど、詠唱なんかなくてもちゃんと出せるよ』


 ほら……とばかりに手から風の塊を発射して、先程作った土の黒板を破壊して見せる。

 というか、お前土魔法と治癒魔法以外も使えたんかい。


『ルークが本体としているのは土の魔晶なので得意なものが土魔法というだけです。土魔法程容易くは扱えませんが、使える事は使えますよ。私も水以外使えますし』


 アルカの注釈が入る。

 確かに、アルカも氷魔法最近よく使っているもんな。要は、本体としている魔晶が体質の代わりといった所か。


『そんな訳だから、別に詠唱とか関係なく、頭にしっかりイメージして魔力を放出すれば、魔法は使えると思うな。難しかったら、適当に「風よ吹けー」って言っても良いし』

「そ、そんな簡単に……」

「試しにやってみれば? やるだけならタダなんだし」

「まぁ、やるだけなら。風よー吹けーなんちゃって」


 ふわっ


 フィリア姫が笑いながら言うと、実際にそよ風みたいなものが吹き抜けた。


「「…………」」


 まるで冗談みたいな出来事に、二人は思わず固まってしまった。

 まぁ、マジで!? という感じだろうな。

 ルークは、ほら出来るでしょ! と得意げな顔をしている。


「フィ、フィル! 今のってフィルがやったんだよね! 偶然じゃないよね!!」

「お、落ち着いてくださいナティ!! 偶然です! あんな簡単に魔法が使えるわけありません!!」


 さて、これからどうなる……とニヤニヤしながら見ていたのではあるが、


『ケイ、どうやら敵性反応アリですね。しかも魔獣では無く人間です』


 と、アルカから情報が入った。

 遂に来たか……。やはり、子供のみで街の外に出るというチャンスは見逃さなかったみたいだな。一応、教師達が各エリアの監視をしているが、付きっきりという訳でも無い。それに、アカデミーの教師程度ならなんとかなると思っているのだろう。


「盗賊とかいう可能性は?」

『人数的には3人程度ですね。盗賊ならばもっと大人数なのでは?』

「それもそうか。んじゃ、お仕事と行きますか」


 俺はルークにフィリア姫の護衛の事を頼むと、その場からジャンプブーツで跳びあがり、その敵さんが潜んでいる場所へと向かった。




 今更ですが、この世界における魔法の説明回でした。

 まぁ主人公は魔法が使えないのであまり意味は無いのですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ