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69話 単眼の騎士

遅れて申し訳ありません。ちょいと病気で寝込んでいました。ある程度回復しましたので、今日から再開します。




 エメルディア王は、怒りのあまり思わずその場に卒倒しそうになった。

 何の冗談だ?

 帝国の聖騎士と竜王国から逃亡してきたドラゴンが王都内で戦っている?

 すでに街の一角は壊滅状態。

 死傷者が多数出ているとの話だ。


 ドラゴンが低空飛行で王都の真上に現れた時は、この世の終わりかと思ったものだが、それよりも更に上の終わりがあったか。……正に地獄だ。


「おのれ帝国め! 自国の民でなければ、巻き込んでも構わんと言うのか!」


 ダンッと、王の間にある玉座のひじ掛けを強く叩く。

 それを見て大臣はやや怖気づいたが、なんとか自分の義務を果たすべく声を掛ける。


「とにかく、陛下や王妃様……姫君は早々に安全な場所へ避難してください」

「安全な場所だと? 馬鹿め! この国でこの王都に勝る安全な場所など何処にあるというのだ!」

「とにかく! せめて地下へ避難してください! いつ奴等がこの王城付近に戦場を移さないとも限らないのですぞ!!」


 既に魔法騎士団等、この国の精鋭を集めてはいるが、果たしてどこまで対処できるか……。

 騎士達も、ドラゴンと聖騎士の戦いに踏み込む等死に行くと同意義である事を理解しているため、士気は低い。

 だが、このまま放置すれば国が滅ぶ。

 騎士団達には捨身で望んでもらうしかないのだ。


「あ、大丈夫ですわ」


 緊迫した空気の中、えらく呑気な声が割り込んできた。

 ほわほわした空気を纏って現れたのは、避難の為に侍女と共にこの場へやって来た第一王女のシャルロットだった。


「シャ、シャルロット姫、何が大丈夫なのですか?」

「はい。今チラッと視えたのですが……」

「み、視えた? ひょっとして未来が視えたのですか!?」


 普段はどうでもいい事ばかり視えて、ちっとも役に立たないシャルロットの魔眼。まさか、ここにきて役に立つ未来を見たと言うのか?

 王や大臣はわらにも縋る思いでシャルロットの言葉を待った。

 そして、その発せられた言葉は……


「ええ、レイジ様がなんとかしてくれるみたいです」




◆◆◆




 戦闘は約半刻にも及んだ。

 老竜ゲオルニクスにしてみれば、巨体を全く生かせない市街地での戦い。そして、一つの肉体に魂が二つある事で身体が思うように動かせないというハンデ。

 圧倒的に不利な戦いであった。


「ハァハァハァ……まさかここまで手こずるとは……」


 ルクスは、荒い息を吐きながら動かなくなったドラゴンを見据え、剣を支えにして膝をついた。


「おいおい……。ここまで派手にやらなくてもいいだろう」

「ブラットか」


 今まで遠くから戦いを眺めているだけだったブラットが、戦闘が終わったことを察知してルクスの傍までやってきたのだ。

 そう言われて、ルクスは改めて自分の周りを見渡してみた。


 辺りに広がっていたのは、廃墟。

 町の一角が、瓦礫の渦となって広がっていた。


 住民たちの悲鳴、泣き声、怒号のようなものがこの距離からでも聞こえた。

 ……これをやったのが自分か……と思うと、ルクスも少しだけばつが悪くなる。


「周りを気にしながら戦える相手では無かった」


 それは事実だが、そもそもこの場を戦場に選んだのは自分だ。

 この建物が密集した場所ならば、ドラゴンの巨体は不利だろう。そして、自分からすれば遮蔽物が多く、相手を攪乱かくらんできる好条件の場所だと思ったのだ。

 それは間違ってはいない。


「そうは言っても、ここは一国の王都だぞ。どれだけの被害額がかかるか……。あと、多分それが帝国に請求されるな」

「払う義務は無い」

「おいおい。今は戦時でもないし、ここは一応同盟国だ。その町をぶっ壊しておいて、はいそうですか……で済む話じゃねぇんだよ」

「ふん。壊したのはそこのドラゴンだ。俺はそのドラゴンを始末したに過ぎない」

「まあ、それも事実ではあるがな……」


 そんな事を言えば、じゃあ、そこのドラゴンの死骸を引き渡せとか言われてしまうだろう。

 だが、ドラゴンの肉体というのは人族からしてみれば宝の山なのだ。

 鱗、牙、爪……果ては内臓のありとあらゆるものまで利用価値がある。それは、とても金に換算できるものではない。

 ならば、やはり金で解決するのが一番か。文句は言われるだろうが、その場合は国力の違いを見せつけて黙らせるしかあるまい。そもそも、万が一戦争になったとしても、エメルディアが帝国に勝てる要素等無いのだ。


「グ……グフッ」


 やがて、倒れたままのゲオルニクスが血を吐き出す。その様子に慌てたのはブラットだ。


「お、おい! まだ生きているじゃないか!!」

「致命傷となる攻撃は何度か加えた。……だが、それでも奴は死ななかった。後やっていない攻撃と言えば、首を切り落とすぐらいだが……」

「じゃあ何故やらない?」

「……陛下から戴いた剣が欠けでもしたら嫌だからな」

「おい」


 ルクスとしても分かっている。

 どうせ、今の状態でドラゴンの死体を帝国に持ち帰る事等不可能だ。ならば、持ち運びしやすいようにバラバラにするしかあるまい。

 それが出来るのは、自分以外に居ない。


「……仕方ない。少し待っていろ」


 溜息を吐き、ルクスは剣を肩に担いでドラゴンへと足を向けた。





(……ふふ、どうやらここまでのようじゃ)

『爺ちゃん何を言っているんだ! 頑張って逃げてくれ!!』

(……無理じゃよ。身体に力が入らん。……すまんな、お前まで巻き込む形になってしまった)

『何を言っているんだ。そもそもの原因は俺のせいだ!! それに、俺の意識が邪魔をしなければ、負けはしなかった!!』

(それも含めて戦いじゃ。奴がこの場を戦場に選んだ事も、外道な行為ではあるが戦術としては間違っておらん)

『だったら……だったら、俺が……俺が爺ちゃんの代わりに戦う!!』

(……何?)

『魂が二つあるというのなら、俺がこの身体を操る事も可能なはず!!』


 今まで、口を借りて喋ったり、手だけだったり身体の一部を動かす事は出来た。

 だが、身体全てを動かそうとしたことはまだ無い。

 ゲオルニクスの意識が邪魔していたし、身体の所有権を得ると言う事は二つのデメリットがある。


(いかん! いかんぞ!! そんな事をすれば魂が完全に肉体に定着してしまう。せっかく己の身体が蘇ったと言うのに、戻れなくなってしまうぞ!)

『そんなもの! このまま二人で死ぬよりはマシだ!!』


 死に瀕していたドラゴンの瞳に、活力が戻る。


「グオォォォォォッ!!!」


 血反吐を吐きながら、ドラゴンは咆哮を上げる。

 途端に、青年の意識に凄まじいまでの激痛が伝わった来た。それは、これまでゲオルニクスが受けてきた痛みの全て。

 これが、デメリットのもう一つ。今まで情報としてしか認識していなかった、痛覚までもその身に感じる事になる。

 思わず意識が飛びそうになるほどの激痛。だが、青年は歯を食いしばり、その場へと踏ん張る。

 そして、足に力を入れて立ち上がろうとした時―――


 ドスッ……という音と共に、ドラゴンの胸から、光の刃の先端が飛び出していた。


 気が付けば、いつの間にか背の上にあの聖騎士が立ち、ちょうど翼の付け根あたりから剣を突き刺している。これは、戦闘中に聖騎士が何度も使っていた光刃剣。光の魔法によって剣の刀身を倍以上に巨大化させたり、単純に刀身を伸ばしたりできる技だ。

 その技であってもドラゴンの鱗は大抵の魔法を弾く効果があるから、通用しにくい。だが、最も弱い部分の一つである翼の付け根部分を突く事で、遂にドラゴンの身体を貫く事に成功したという訳か。


「ゴフッ」


 今までとは比べ物にならない量の血がドラゴンの口から溢れる。

 そして、足の力がスッ…と無くなり、ドラゴンはその場に再度崩れ落ちた。


「ギリギリ心臓は外れたか。……まぁ、これでもう立ち上がれまい」


 そもそも臓器の位置が人間とは異なるから、急所は狙いにくいのだ。それでも、どんな生物であっても首を落とせば死ぬ。……おっと、例外はあったな。

 こちらをハラハラした様子で見ているブラットをチラリとみて、ルクスは軽く笑った。

 ドラゴンの背を歩き、その首元へとたどり着く。そして笑みを浮かべて光刃で纏った剣を振り上げた。


「これで終わりだな! ドラゴン!!」


 それを勢いのままに振り下ろそうとした―――


 が、突如として空から飛来する殺気のようなものをルクスは感じ取った。


 慌てて身体を反転させて立ち向かおうとしたのだが、一瞬だけ遅かった。

 空から飛来した影は、ルクスの身体へ体当たりし、ドラゴンの身体から引き離す。ルクスは瓦礫の上を転がりながらも受け身を取り、すぐに剣を構えて立ち上がる。


「何者―――?」


 睨み付ける先は、飛来した何者かが着地した事で起こった土埃の中心。

 その何者かは、まるで背後のドラゴンを守るかのようにその場に立っていた。


「赤い……鎧?」


 その者は、全身が真紅の鎧に包まれていた。いや、鎧と言うには見た事も無い形状ではあるが、装甲に包まれている事は間違いない。

 特に目につくのは、土煙の中でも燦然さんぜんと輝く、瞳……目だった。

 だが、それを目と表現してもいいのだろうか? それは、顔の中心に存在する光る点だ。


 ……単眼。


 まるで、魔獣のサイクロプスを連想させる一つ目の騎士がそこに立っていた。


「おいおい。なんだありゃあ!?」


 若干怯えが混じったブラットの声が背後から聞こえる。

 ルクスは、歓喜に震える身体を押さえながらもそれに答える。


「……レイジだな」

「はぁ? 奴が例のハンターだってのか? 実は伝説の魔族だとか魔人とかだっていうオチなのか?」

「そんな事は知らんが、手足のアイテムや頭につけている額当てのようなものは奴と同じだ。どうやら、競争の決着がつきそうなので、実力勝負に来たと言う所か」


 だが、当のレイジ……と思わしき男はその問いには答えず、辺りを見回している。


「これは……お前がやったのか?」

「ほう、その声はやはりレイジだな! その殺気、俺と本格的に戦いに来たという事か! だが、俺は嬉しいぞ。やっとお前と力比べが出来る」

「……お前がやったのかと聞いている」

「チッ! どいつもこいつも……あぁ、やったのは俺だ。それの何の問題がある」

「お前、騎士だろう。騎士ってのは、一般市民を守る者なんだろう? ……一体何を考えている」


 あのドラゴンと同じような事を……苛立ちながらもルクスは答えた。


「そのドラゴンにも言ったが、俺はゴルディクス帝国の騎士だ。帝国の者ではない者なぞ、守る義理も義務も無いな!」


 レイジと思わしき男は、ルクスの言葉を聞いて数秒ほど黙り込み、やがてどこか投げやりな言葉で返した。


「あぁ、そうか。そういう腐った奴って事なのね」

「そんな事はどうでもいい! さぁ、純粋な戦いを楽しむと―――」


 気づけば、目の前にレイジが立っていた。

 光る一つ目が、ギロリとこちらを睨む。


 続いて、その頬目がけて拳が打ちこまれる。

 避ける事は叶わなかった。

 決して、ドラゴンとの戦いで消耗していたからとかそういう事ではない。ただ、相手の拳があまりにも早かっただけだ。


 ルクスの身体は殴られた衝撃で吹き飛び、瓦礫の上を何度もバウンドする。やがて、50メートルは離れた所でようやく止まった。


「は……嘘だろ?」


 目の前で起こった事が信じられず、ブラットは半笑いの表情で一撃で吹き飛ばされたルクスを振り返った。

 そのすぐ傍を単眼の騎士が通り過ぎる。そして、その声を聞いた。


「戦い……? これは腐ったクズ野郎を叩きのめすだけのただの喧嘩だ阿呆」




 という事で、フル装備のケイ君と聖騎士様との戦いの始まりとなりました。

 ケイ君の装備については次回詳しく書きます。また、単眼……バイザーのモノアイモードですが、52話にチラっと出ています。

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