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66話 老竜とエルフの青年




 場所はギルドの屋根の上。

 さぁ、いざドラゴン探しをしてみよう……となったら、意外な事に居場所はすんなりと判明した。

 情報源はアルカだった。


『あの……ケイ、そのドラゴンの居場所でしたら、分かったかもしれません』

「え? そんなに早く!?」

『はい。情報提供がありました』

「情報提供?」

『はい。……そうですね。ケイにも視認出来るようにバイザーの設定を変更しましょう』


 バイザー?

 疑問はあるものの、言われるままに最近は額に置きっぱなしのバイザーを下してみる。

 すると―――


 何やら、ふわふわした綿毛のような物体が俺の視界いっぱいに広がっていた。


「わぎゃあぁぁぁっ!!」

『『『ぎゃぁぁぁっ!!』』』


 突然の事態に俺は驚いて尻餅をついてしまったぞ。

 そして、綿毛の方も驚きの声みたいなものを上げて俺からさっと離れていく。


 え―――?

 綿毛が今喋った?


『ケイ、落ち着いてください。紹介します、これがこの世界の精霊……シルフちゃん達です』

「せ、精霊!?」


 そう言えばそんなの居たな。……なんか作者ですら忘れていたような設定だ。

 確か、人間には見えないんだっけか。


『うわーん人間に気づかれたー!』

『怖いよー。魔力取られるよー!』

『アルカちゃん助けてー』


 俺から離れた綿毛……シルフ達は、実体化したアルカへと、もさっと集まった。

 うん。まるで巨大なわた菓子だな。


『だ、大丈夫ですよ。ケイはこの世界の人間のように、貴方達に悪い事はしませんから』

『ほんとに?』

『本当に?』

『ホントニー?』


 アルカがあやす様に言うと、ふよふよとおっかなびっくりこちらに近づく綿毛たち。怖がってはいるものの、言われてすぐに実行するとかどんだけ聞き分けが良いんだ。むしろ、それだけアルカを信用しているのか。

 俺としては、いつの間に精霊と仲良くなったんだと問い正したいところだが、今は黙っておこう。


『むむー。確かに、他の人間よりも邪気を感じないかもー』

『でも、ちょっとはあるよね』

『でも我慢できるかなー』


 あ、ちょっとはあるんすか。

 己は聖人みたいな人間ではないと自覚はしているが、無邪気の塊と言われる精霊さんに言われるとショックではあるな。


「で、話を戻すけども、ドラゴンの居場所が分かるって?」

『居場所というか、そのドラゴンの辿った軌跡が分かるといった方が正しいようですね』

『うん! でっかい魔力の塊が通った後がはっきり残っているよ』

『ドラゴンさん久しぶりだよねー』

『でも、なんか傷とかあって大丈夫かなー』

『うん。ちょっと弱ってたよね』


 あ、そんな事まで分かるんすか。

 さすが精霊だ。


『ですので、シルフちゃん達の言葉を参考にして、ドラゴンが通ったルートを測定。そして、現在位置を算出しました』


 さすがである。

 最近はあまりチートぶりを発揮していなかったが、アルカさんは凄いという事を再認識しました。

 アルカの言葉通り、バイザー裏のモニターに地図が表示され、ドラゴンの移動ルート、そして現在位置と思わしき場所が映し出された。


「ここから大体100キロ程度の場所か……」

『どうします?』

「まあ、とりあえず会って話をしておくか。魔獣とかと違って、存在するだけで害意がある訳じゃないだろ?」

『問答無用で攻撃を仕掛けて来た場合は?』

「それなら倒すだけさ。まあ、話し合いの余地がある相手であることを願うばかりだ」


 まぁ倒せるかどうかは別の話なんだけど。まぁ大丈夫なんじゃないかなーとか思うのは、一度カオスドラゴンを撃破したおかげなんだろうな。あれのせいでヒュージスライムが大した脅威に感じなかった。


『それとケイ、遠くから私達を監視している存在がありますね』

「やっぱりか」


 それはあるだろうなとは思っていた。

 望遠画像で確認してみる。恐らくは、ゴルディクスの騎士団とやらか。あの聖騎士様の手助けをする為に俺の動きを見張っているって所か。……これって騎士としての権限は使わないって規約違反になるんじゃないかと思うが。


『そう言った所で、その騎士が独断でやった事だと言われればそれまでですね』

「だな」


 どの道姿を消してしまえば俺を追う事も出来まい。

 とは言え、移動用ビークルを使うのは王都より少し離れてからにすべきかな。俺がどっちに行ったとか判明されると面倒だ。


「しばらくはジャンプブーツを利用しての移動。ある程度王都から距離を取ったら、タウラスでの移動に切り替える。ルーク、タウラスの準備は頼むぞ」

『アイアイさー』


 ルークの返事を聞いたところで、俺とアルカは王都にあるハンターギルドの屋根の上から飛び降りる。降下しながらミラージュコートのスイッチを入れ、アルカは魔晶モードとなって俺の胸元へと収まった。

 よし、これで俺達の姿は視認出来ない筈。


『それでは、シルフちゃん達また会いましょうね!』

『またねー』

『またねー』

『またねー』


 綿毛達との別れも済み、俺は城壁を通り越すべくジャンプブーツを使って跳ぶ。

 さて、さっさとそのドラゴンさんと会って話を付けるとしよう。




◆◆◆




 と、息巻いていたのだが、実際にこの目にしてみると色んな衝撃でぶっ飛んだ。


 カオスドラゴンみたいな脅威しか感じない魔獣では無い。

 現実に凄まじいほどに存在感を放っているドラゴンが目の前にでーんと君臨しているのである。

 その迫力たるや、異世界に来て良かった! と、嬉し泣きしそうになったぞおい。


 そして、ひとしきり感動した後、そのドラゴンの足元にある存在に気が付く。

 人が倒れていた。

 まさか、ドラゴンに襲われたのか……と思うも、その人間らしき存在に傷が見当たらない。加えて言えばその肌に生気すら感じられない。深く眠っているだけか、それとも既に死体なのか……。


 おや?

 よくよく見てみるとその人物は俺の知っている人間とちょっと違うな。


 いや、頭胴体手足があって人間の形はしてはいる。その胴体から伸びたスラッとした背丈と手足。遠目から見ても分かる端正な顔の作りはまぁいい。

 問題は耳だ。

 煌びやかな金色の長髪。その髪に掛かる程に長く尖った耳。この特徴的な耳を、俺は良く知っていた。

 いや、あくまでも地球の知識で……という意味でだが、その長い耳を持つ者は地球ではこう呼ばれている。


「―――エルフ」


 俺は思わず口に出していた。

 勿論、伝説や神話にしか存在しない種族だ。

 森の民と呼ばれ、大体美男美女であり、長寿と優れた弓の使い手というのが定番になっている。

 そのエルフが目の前に存在していた。


 だが、おかしい。

 この世界にはエルフと呼ばれる種族は存在していない筈。それとも、俺がまだ会った事のない翼族とか海族やなんかかエルフの特徴を持っているというのか?


『いえ、調べた限りではそのような特徴を持つ種族は存在しない筈です』


 ええと、じゃあただトンガリ耳に生まれた人族って事?

 それもまたあり得ない話ではないが、奇妙ではある。


『お前! 何故、その言葉を知っている?』


 くわっ! と、ドラゴンが息も荒く俺に向かって迫って来た。

 な、なんかマズイ事言った!?

 全長30メートルはある巨体が迫ってくる様は、なかなかにおっかない。


 するとすぐにアルカとルークが実体化して、俺を守るように前に立つ。

 ううん頼もしいが、俺は二人の肩を軽く叩き、後ろに下がるように指示する。アルカは不安そうに顔を歪めたが、俺としてもこのドラゴンさんには聞きたい事がある。


「俺からも聞きたいんだが、そこに横たわっている彼は、エルフで間違いないのか?」

『ああ。少なくとも、俺はエルフだと認識している。それではこちらの質問に答えてもらいたい』


 まだ息は荒いが、ドラゴンはきちんと答えてくれた。

 さて、どう答えたもんかな。

 このドラゴンに異世界うんぬんの話をしてもいいものか……。

 しかし、エルフについては気になる。魔力を持たない人間である俺と、人工知能であるアルカとルーク、そしてエルフ。共通点は、この世界の者ではないという事。

 エルフの彼の詳細が分かれば、何かしら帰る為の手がかりになるかもしれない。


「俺はこの世界の人間では無く、異世界からやってきた。その世界では、エルフは伝説の中だけでだが、存在している。それが、俺がエルフを知っている理由だ」


 そう答えると、ドラゴンは小さな……人間にしてみれば巨大だが……の目を見開いた。


『異世界……君は異世界からの来訪者という事か?』

「来訪者っていうか、迷い人に近いと思うけどな。意図せずに、この世界にやって来た。ちなみに、ここに居るアルカとルークもそうだ」


 俺がそう言うと、何か考え込んでいる様子だったドラゴンが、やがて「はぁ……」とため息を吐いた。


『よもや、俺以外にも同じ立場の者が居たなんて……』

「ん? 俺以外?」


 意味がよく分からん。俺はエルフの彼について聞いたんだが、何故にドラゴンが異世界から? それとも実はこのドラゴンも異世界から来たとかそういう事情があるのか?


「坊主。こやつには、きちんと我らについて説明した方が良さそうだぞ」

「わあっ!?」


 突然、ドラゴンから違った者の声が出た。不意打ちだったから、誰か他の奴が乱入したのかと思ったじゃないか。


『しかし、いいのか?』

「お前の故郷について詳しい事が分かるチャンスなのだぞ」

『俺の……故郷か……』


 何やら、ドラゴンの口から歳とった声と若々しい声の別々の声が出て、相談が始まった。実に気持ち悪い光景だが、似たような光景を昨日見たなこれ。


「例の魂の共有化って奴か?」

『でしょうね』

「ほう? 魂の共有化について知っておるのか」


 俺とアルカの会話に、歳とった方が食いついてきた。


「まぁ、知り合いの竜族がそれやっているの見た事あるんで」

「むぅ!? 儂にとってはそっちの情報が気になるな! 念のため聞いておくが、その知り合いの竜族というのは……」


 これも言っていいのか判断が難しいんだけど、このドラゴン達とは聖騎士との競争うんぬんの前に聞きたい事が山ほどあるからな。ここは話せる情報は話しておこう。


「ファティマさん。……一応竜族の神とか言っていたな」

「よぉし!! 意外な所であのじゃじゃ馬との接点が出来た!!」


 歳とった声の方が嬉しそうにカッカッカッと笑う。


「じゃじゃ馬って、ひょっとしてファティマさん?」

「うむうむ。あの娘とは、200年来の付き合いじゃからな。これでも、あの娘が幼子の頃から知っておるわ」


 あぁ、確かファティマさん200年以上生きているって言ってたっけ。それにしても、本当に長寿なのね竜族って。幼い頃のファティマさんとか想像もできないけど。


「……もしかして、ファティマさんに会う為にこのエメルディアまで来たとか?」

「カッカッカッ! 察しが良いの小僧!! さて、そのじゃじゃ馬の住処を教えてもらおうかの」

「あぁ……」


 俺は頭を抱えそうになった。

 何と言う間の悪さ。よりによってこの時期に逃げてこないでもいいだろうに。


「ぬ? なんか嫌な予感がするの」


 俺の態度を見て何か察したのか、歳とった方の声が曇る。


「お察しの通り、あの人……今この国に居ないです」

「な! なんじゃとぉぉ!!!」


 雷の如き大音量が辺りに響き渡る。

 あ、ピヨピヨと鳥たちが慌てて森から逃げてくのが確認できる。


「な……なんとぉ、儂は何の為にこんな所まで……」


 目に見えて落ち込んだ様子のドラゴンさん。頭部を地面につけて、土下座みたいな体勢になっとるな。


「ええと、お二人……って言っていいのかな? 二人はどういった理由でこの国に? いや、ファティマさんに会う為ってのは分かったけど、なんでまたファティマさんに会いに来たんですか?」


『ふむ……爺ちゃん、こうなったらこっちの事情を話して協力を仰ごう。こっちも、彼には色々と聞きたいことがある』

「はぁ……もうお前の好きにするがよい。儂は少々気が抜けた」


 身体はぐったりとしているのに、片腕はキビキビと動くという奇妙な状態になっているドラゴンさん。

 そもそも、こちらは話を聞くためにやって来たのだ。魔獣と違ってちゃんと話のできる相手と分かった今、話を聞かない理由は無い。


 そういった事で、俺はドラゴンさんとエルフの人の身の上話を聞く事になったのだ。


 ……聞いた後で、これってどういう決着つければいいんじゃ……と、頭を悩ませる事になってしまったが。




 さぁてどう決着がつくんた今回の話!?

 ぶっちゃけ話自体も最初のプロットから違った話になっていたり。

 なんとか纏まるように頑張るとします。



 話は変わりますが、私の住んでいる地域……北海道では、大雪が降ったりして最早冬の気温になったりしています。そのせいで体調をちょいと崩しまして、現在風邪っぽい状態です。ですんで、土日は療養します。なんとか体調が戻れば来週中には投稿できるかと思います。

 次話までちょっと間が空く事になるかと思われますが、今後ともどうかよろしくお願いします。

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