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62話 「エメルディア王国第一王女シャルロット」




「貴方がレイジ様ですね!!」


 何やらキラキラした瞳で、こちらを見ている少女が一人。

 まるで西洋人形なような金髪碧眼で、顔立ちはどこかほわんとしていて親しみやすい。格好は煌びやかなドレス姿。

 そして、ここは王城。


 ……これって、いわゆるお姫様とかいうやつですか?


 いやいやいやいや。

 そもそも見つかる事は想定外だけども。

 しかも相手がお姫様だという事も想定外だけども。


 一番の問題は、今の俺がミラージュコートによって完全に姿を消していると言う事です。


 それなのに、何で見えるの!?


 とりあえず、頭を冷やす意味でも、ちょっとだけ過去の行動を振り返ってみよう。




◇◇◇




 脳内BGMにミッションインポッシボーなテーマをかけて俺はエメルディア城内を潜入捜査……ではなく、割と堂々と散策している。

 姿はミラージュコートで完全透明化しているから、まず大きな音さえ立てなければ気づかれません。


 ……なので、どちらかと言えば城内に観光に来たみたいな感じ。

 最初は「おおー本物の城やー!」と、興奮していたものの、異世界の生活に慣れて来た身としては、感動も次第に薄れて来た。

 だって、思っていたよりも綺麗な内装じゃないもんで。まあ、現実に城があったらこんなもんなのかね。それとも、金が無いのであまり内装に金掛けていられないか……。


 ふと、見回りなのか二人組の兵士が廊下の先に見える。さっきも言った通り、音を立てなければまず気づかれない。ただ、近寄ったら気配は察する事が出来るので、油断は禁物!

 ちょっと離れるだけでもいいんだが、念のため、サッと天井に張り付いて身を隠す。


『姿は消えているのに、何故わざわざ天井に?』

「やってみたかったから」

『……なるほど』


 至極単純な理由である。

 スーツに備え付けられている吸着機能を使えば、ニューヨークの蜘蛛男よろしく壁に張り付く事も容易なのですよ。

 その二人組の兵士だが、雑談でもしているのか会話が耳に入ってくる。より詳しく聞くため、バイザーの集音マイクを使用。


「全く……あのゴルディクスの奴等、城の中を我が物顔で歩き回りやがって」

「とは言え、俺達には手が出せないさ……。何せ、部隊長とやらがあの聖騎士様だからな」

「一体何しに来やがったんだアイツ等。アイツらが来てから、変なハンターを探せだとか、魔法騎士団の遠征準備だとか、忙しくって仕方がねぇ」

「なんか先輩達の話じゃ、でっかい敵と戦うんじゃねぇかってのがもっぱらの噂だ。なんせ、あのどでかいバリスタを引っ張り出しやがったからな」

「全く、戦わされる方の身にもなってみろってんだ」

「おいおい、ここは城の中だぞ。もう少し口を慎め」

「へっ! 誰も聞いてなんかいねぇってよ」


 きーいて、まーすよー。

 二人が居なくなった所で俺は天井から降りた。


「なるほど。でっかい敵ねぇ……そいつの相手をしろってのが原因なのかねぇ」

『でかい敵なら、散々相手してきましたからね』


 バリスタってあれだろ。コーヒー淹れる人じゃなくて、据え置き式の大型弩砲……いわゆるでっかいボウガンみたいなやつ。ゲームとかで見た事はあるな。

 って事は、空飛ぶ相手って事が濃厚だな。


「ところで、今の会話で気になったけど、ゴルディクスって何?」

『そうですね。恐らくは、エメルディアより南東に位置する大国……神聖ゴルディクス帝国の事ではないかと』

「なんか名前からしてでかそうな国だな。それってどんな国?」


 そして、怖そうな国だ。

 だって、帝国だよ。帝国!!

 大体、帝国って付いている国が、まともな平和な国だった事って俺のゲームの知識からすると無いぞ。あるかもしれないけど、俺は知らないな。


『そうですね。私もこの国で得た知識ですので、正確な所は不明ですが、文化水準が他の国に比べて100年ほど進んでいるという印象ですね。魔力エネルギーを機械の動力とする事で、発展したらしいです』

「そ、それって……」


 何か嫌な予感。

 今アルカが言った技術に近いものを俺は知っている気がする。


『はい。現状のアルドラゴや他の武器と同じ原理という事ですね』


 やっぱりか。そう言えば、魔法の力を動力に機械を動かすって、ゲームでもある事はあったよなぁ。


「これって……俺達と同じような異世界からの転移者が関わっているとか、そういう事か?」

『恐らくはそうでしょうね。ただ、それは私達よりも何十年も前の事になるかと』


 まぁ、そう簡単に技術革新なんて出来ないだろうしな。

 転移者による小っちゃい技術革新なら、昔からあった事はあったみたいだけどな。いわゆるトイレ問題だったり、布団の問題だったり。……あと、料理のレシピとか。


 それでも、機械技術の発展ってのはなかなか無かったと思う。

 今までは、そういう技術者が転移してくるって事は無かったと言う事だろうか。


「どっちの異世界か分かんないけど、自分の世界の技術をこの世界でも再現しようとしているのかな?」

『恐らくそうでしょうね。この国で調べた情報によりますと、既に車や機関車、飛行船のようなものまで帝国は開発済みだそうです』


 ファンタジーの世界観ぶち壊しだなぁ。

 むしろ、最近よくある近代ファンタジーって所か。どっちかって言うと純ファンタジーな世界の方が好きだから、最初に飛ばされたのがこの国である意味は良かったかも。


「その機械技術を提供した奴ってまだ生きているかな?」

『技術が提唱されたのがおよそ30年前になります。高齢にはなっていると思われますが、恐らくは生きているでしょうね』


 しかし、なんかまためんどくさい情報を拾ってしまったかも。

 魔神とは別に、厄介事の種的な者の存在を知ってしまった。ただ、いくらなんでもアルドラゴ並のチート戦力を持っているとは思いにくい。

 そんな野心のある者がこの力を持っていたら、それこそ魔王みたいに世界征服を企みそうだ。


『後はそうですね。人為的に体内の魔力を増幅させて、一種の強化人間を作るなどの実験を行っているようですね。先に聞いた、聖騎士とはその実験に成功した存在の呼称のようです』


 ……魔王みたいにじゃなくて、魔王だった。

 なんだよ強化人間って。人為的に魔力を強化って、つまり改造人間じゃねぇか。そんな事を悪の秘密結社みたいにこそこそじゃなく、堂々とやってやがるのか。

 聞けば聞く程、お近づきになりたくない国だこりゃ。


「ああ、もうゴルディクス帝国についてはいいよ。なるべく近寄らないようにするし」


 そもそも、これから竜王国に行くしな。多分、関わり合いになる事もないだろう。

 ……そう願いたい。


『それでどうします? もう少し情報を収集しますか?』

「そうだな。具体的に俺に何をさせようとしているのかぐらいは調べておくか。どうも、俺のアイテムを奪おうとしているとか、そういうのじゃないっぽいから」


 そうだとしても、こんな強引なやり方は許せないけどな。

 だって、指名手配よ指名手配! もし地球……というか日本でやられていたら、人生詰むぞこの野郎。まあ、俺の場合は未成年だから、実名報道とかはされないと思うけどな。


「あと、せっかくだから王様とやらの顔も拝んでおきたいな」

『例のぶん殴る……ですか?』

「その場合、どのぐらいアホかにもよるけどな。腐っても王様だし」


 噂じゃかなり短気な王様らしいしな。正直、一発ぶん殴っておいた方が国の為になるのかもしれない。……反省しなかったら意味ないけど。


「とりあえず、王の間っていうぐらいだから、もっと上目指せばいいのかな?」

「そうですね。王の間は城の最上階に位置してますね」

「ああ、やっぱりそうか。じゃあ、上目指すか」

「王……父上に用があるのですか?」

「用って言う程でもないけど、なんかアホな言いがかりをつけて俺の事を捕まえようとしているからさ、その顔ぐらい拝んでおこうかと思ってな」

「せっかくですから、王女の顔も拝んで行ってはいかがですか?」

「いや、別に用事は無いからな。そこまで興味もないし」

「えー? 王女ですよ。お姫様ですよ。すっごい可愛いですよ。殿方の憧れの存在じゃないんですか?」

「いや、そういうのはゲームの世界だけで十分。リアルに会うべきじゃないって勉強した」

『……というかケイ、さっきからどなたと会話しているんですか?』

「あん? どなたって…………………誰?」


 なんか当たり前のように言葉が返ってくるから気にしてなかったけど、本当に俺は誰と話していた?

 当然、アルカでもなく、ルークでもない。

 じゃあ、何者―――


「はい! シャルロットと申します!!」


 にこやかな笑顔が振り返った先にあった。




◇◇◇




 で、今に至る。


「えっと……君、見えているの?」

「は? 何がですか?」


 きょとんとした顔で返された。

 何がですかって、俺の姿が見えているかって事だろうに。……というか、見えているんだよね。こんなにはっきりとこっちを向いて話しているし。


 くそ、この場合どうしろってんだ。マニュアルにない行動止めてくれないすかね。


『恐らくですがケイ、彼女の目に問題があるかと』

「目?」

『彼女の目からは、通常じゃ考えられないほどの魔力を感じます。恐らく彼女の目は“魔眼まがん”です』

「魔眼!?」


 あれか、線を切ったら何でも殺せたり、絶対遵守の命令を下せたりできるあの魔眼か?

 いや、この場合は不可視のものでも見えてしまう目といった所か。


「あ、はい! そうなんです!! 私の目は魔眼だっていう話です!!」


 嬉々として食いついてきた。

 なんだってんな厄介な力が、王女様の目に宿っている訳?


 いやいやいやいや。

 その前に、王女様……お姫様ですよ。

 なんでこんな所に居るの? ……いや、城の中だから別に問題ないか。

 なんでこんな不法侵入者相手にフレンドリーに話しかけてきてるの? しかも俺の事をレイジだって認識していたよな。

 ここで聞いた方がいいのか? それともこの子の存在を無視して逃げた方が良いのか?


「あ!」


 突然、シャルロット殿下が何かに気付いたような声を上げた。


「私の侍女がもうすぐここに来ます。逃げてください!」

「へ?」


 意味が分からず間抜けな声を出すと、アルカから忠告が入った。


『ケイ、確かに人がこちらへ向かっているようですね。もう少ししたら鉢合わせするかと』


 アルカが言うなら間違いないか。

 別にこのままでも見つかる事は無いんだけど、離れておくに越した事はないだろう。

 俺は、サッと身を翻してこの場を去ろう―――


 ―――として、コートの裾を目の前の少女に掴まれる。


「いや、逃げろって言わなかった?」

「言い忘れてました。私を連れて逃げろ―――です」


 俺は、げんなりして今日何度目かの溜息を吐きそうになった。




 という事で、58話にチラっと登場したシャルロット姫が本格登場です。ファンタジー世界だったら、やっぱりお姫様は出さないとですね。

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