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60話 指名手配



 ギルドマスターは、机の上に置かれた書類を見て、深く溜息をついた。

 そこに書かれている言葉は、要約するとこうだ。


『ある貴族から、魔道具が盗まれたとの報告あり。本日中に、容疑者と思わしきCランクハンターにしてチーム・アルドラゴのリーダーレイジを、王城に出頭させよ。さもなくば、窃盗容疑にて指名手配し、強制連行する事となる』


 ……いよいよこの手を使ってきたか。

 窃盗など、レイジがする筈もない。これに関しては完全に虚偽であろう事はギルドマスターも理解している。

 元々それとなくレイジを城へ寄越すようにという要求はあった。ただ、レイジ本人と連絡を取る方法が無いという事から、全て断ってきたのだった。実際、レイジ本人からもそのようにしてほしいと言われていた。


 それが、虚偽の罪を被せて強制連行ときたか。

 こんな事をしたところで、レイジ本人の信頼を得る事は出来ないだろうに。それに、ギルドとの関係も悪化するだろうことはあっちも理解している筈。

 という事は、なりふり構っていられないという事件が起きたと言う事か……。


 とは言え、ろくに捜査もせずにいきなり強制連行だなんて方法があまりにも酷過ぎる。ギルドとしては、受け入れる訳にはいかない。

 幸い、レイジ本人が何処に住んでいるかだとか、プライベートの姿を知っている者はほとんどいない。このまま放っておいたところで彼が捕まる事は無いだろう。

 その隙に、ハンターギルド協会本部に連絡して、断固抗議を―――


「大変ですギルドマスター! 今、王都にレイジ君達アルドラゴのメンバーが素の姿で出歩いているとか!!」


 モニカが息を切らせてギルドマスターの部屋へ飛び込んできた。


 ―――何と言うタイミングの悪さ。

 マズイ。これはマズイ。

 一刻も早く、レイジ本人と連絡を取らなくては……


「手の空いているハンターに、今すぐレイジ君達をギルドに連れてくるように伝えてもらうようにしてもらいたい! 大至急だ!!」


 もし城の連中に見つかったとして、レイジが大人しく捕まるとも思えない。ならば、早く説得して王都から離れてもらうしかあるまい。

 とにかく、早く見つけてくれ!!




◆◆◆




 まず俺達が訪れたのは、この王都に来て最初に足を踏み入れた店……魔石屋だ。

 扉を開くと、いつもの眼鏡をかけた禿げたおっさんが新聞なんぞを読んでいた。


「おう、兄ちゃんか。随分と久しぶりだな」


 そういや、ここの所金に余裕が出来たせいで、あまり換金には来てなかったな。

 そして、おっさんは俺の後ろに立つアルカとルークに気づく。


「ん? 見慣れない顔が二人……ほほう、それが噂の兄ちゃんの仲間か」

『は、はい! ケイ……じゃなかったレイがお世話になっております』


 急いで頭をペコリと下げる二人。

 実際は、魔晶状態で何度も会っては居るんだけどな。


「想像以上にべっぴんさんだなぁ。やっぱり、兄ちゃんの女なのかい?」

「まぁ……そんなところだ」

『ケ、ケイ!!?』


 いや、本人がそんなにびっくりしないでよ。それに、今はケイじゃなくてレイジだっての。

 アルカが彼女……実際はそんな関係じゃないんだが、なんかいちいち否定するがめんどくさくなったのと、ちょっとだけ悲しくなったと言うのが理由だ。

 そもそも、若い男女が同じチームに居るのだ。勘ぐられるのは当然である。

 ならば、開き直って彼女だとか女房だとかと言ってしまえば、ちょっかいかけてくる奴らも減るんじゃないかと思ったのだ。

 まぁ、咄嗟に思い付いた事だったので、事前に打ち合わせも何もしていなかったのだが。


「そりゃあ良かったなぁ。ここに来たばかりの頃は、田舎もん丸出しみたいな顔だったってのに、とうとう女を作るまでになったか」

「あはは……」


 果たして地球から来たってのは田舎もんと言えるのかは分からんのだが、とりあえず笑って誤魔化しておいた。


「そんで? 今日はまた換金か?」

「ああ、それもあるけど……今日で王都を離れる事になったんだ。だから、挨拶回りに」

「ほう? そりゃわざわざありがたいこった。で、隣の国にでも行くのかい?」

「まぁそんな所」


 実際には、竜の国だけどね。

 地理関係がよく分からんから、エメルディアからどれぐらい離れているか分からんし。


『あのーリーダー……』


 ふと、俺のコートの袖をルーク……いや今はルゥか。ルゥが引っ張っている。


「どした?」

『なんかお姉ちゃんがまたバグってる』

「あん?」

『恋人は、自らが恋愛関係にある者に対して用いる呼称で。恋愛関係にある者同士を恋人同士などと呼ぶ場合もある。恋人の呼称は恋愛関係が前提となる。すでに婚約関係にある場合には、通常恋人とは呼ばず……』


 辞書で調べたかのような説明文の羅列……。

 確かにバグってる。

 俺は、すぱこんとアルカの頭を叩いた。


『いったー。何するんですかぁ!』

「いや、調子の悪い機械はこうやって叩くのが基本だろうに」

『いつの時代の直し方なんですか! 精密機械に衝撃を与えたら駄目って習わなかったんですか!?』

「とは言え、いい加減イラッときたらやるだろ。最終手段ではあるが」

『だったら、最終手段の前に優しく撫でるとかして下さいよ!』

「絶対に嫌だ」


 よし、なんとか戻ったな。

 やはり、叩いて直すのが正解だ。


「今後、男女関係聞かれたらこれで通すぞ。いちいち否定すんのもめんどくさいし。ちょっかいかけてくる奴らも減るだろう」


 おっさんに聞こえないように小さな声でアルカに説明。

 アルカも「あぁ…」と納得したような顔になった。


『でも、ケイはそれでいいので?』

「別に構わないよ。それとも、お前は他の異性とイチャつきたいとか願望があるわけ?」

『あ、ある訳ないですよ! 何言ってんですか!?』

「だろ? 俺も無いから、それでオッケーという事だ」

『は……はぁ……ところで、何処まで恋人とやらの演技はするので?』

「あん?」


 恋人の演技だと?

 そりゃあ……経験は無いが、数少ない見た事のある恋愛ドラマ、漫画等の知識をプレイバックしてみる。


 ……無理だ。

 そんなもの出来るか。


 というか、別に無理に演技する必要なくね? その場その場で誤魔化すだけなんだから。


「演技は特にしない方向で。というか、可能な限りいつも通りでいこう」

『よ、良かった。ケイの知識にある恋愛ドラマ、漫画等の知識を参照してみたところ、とても実践できる勇気がありません』


 どうやら、同じ事を考えていたようだ。アルカも心底ホッとした様子。そして、これでこの問題は解決だな。


「んじゃ、せっかくだから好きなもん買っていいぞ。金ならあるし」

『おお、太っ腹ですね。……ただ、私達昨日も言いましたが、物欲が無くて美的感覚が人間と違いますから、欲しいものと言っても……』

「気にするな。なんか、ピンときたものを買えばいいさ」


 俺も宝石とかアクセサリの価値とか分からんからな。こういうのはフィーリングだ。

 その言葉を受けてか、二人は店内を見回り始めた。


 俺も展示されているアクセサリの数々を見るが、相変わらず見事な細工だ。

 これ、買い占めて地球で売ったら大儲けできるだろうな……とか、アホな事考えてしまう。


『ケイ、こちらはどうでしょう?』


 アルカとルークが手招きしている。

 そこにあったのは、指輪、腕輪、髪飾り、ペンダント、イヤリング。

 全て装飾のデザインは同じだが、魔石の色が異なっていた。


「どれだ?」

『いえ、デザインは共通しているのですから、これをチームの全員で着けてみてはどうかと』

「ほぅ、なるほど」


 いわゆるチームのシンボル的なものか。

 惜しむべきは、ハンターを辞める事を決意する前に欲しかったものだが、それでも記念にはなるか。


『それでは、ケイはこの指輪ですね』

「え? 決まっているの?」

『魔石の色を見てください』


 見ると、指輪の色は赤色に輝いていた。

 続いて、髪飾りは青色。腕輪は黄色。ペンダントは緑。イヤリングは銀色だ。

 どうも、魔石の色というものは簡単に着色できるみたいだな。


『ケイのパーソナルカラーは赤ですから、この指輪という事で』


 パーソナルカラーというか……スーツの色と髪の色か。

 俺は頷いて、指輪を受け取る。一般的な結婚指輪とかそういうのとは違って、装飾部分がでかい。薬指に嵌めるのはなんか違うだろうから、左腕の中指に嵌める事にした。


『私は髪飾りですね』

『じゃあ、僕は腕輪だね』


 残りはペンダントとイヤリングか。緑と銀……。この銀色が残っているってのが、なにかを暗示していると言うか、物語なら伏線っていうのかね?

 明らかにあの子……フェイのパーソナルカラーだよなぁ。

 うん、ここは伏線に従っておくとしましょう。


「残りも買ってしまおう」

『え? ……いいのですか?』

「ついでだついで。それに、今後何があるか分からんしな」

『……わかりました』


 アルカは意味をみ取ったのか、小さく「ありがとうございます」と答えた。

 なんか照れるな。


「それじゃ、今度エメルディアに寄った際は、また来てくれよな」


 アクセサリ一式を購入し、店を出ようとする俺達に、店主のおっさんはそんな言葉を投げ掛けてくれた。

 本当は、もう来れない……。なんて事は言える筈もない。俺は、なんとか作った笑顔で振り返り、


「ああ、またよろしく」


 と答えたのだった。




◆◆◆




 さて、次は宿屋かな……と、指輪を見つめながら意気揚々と歩き出す。

 それにしても、なるべく大通りは避けて歩いているのだが、それでも周りがざわざわとしてきているのが気になってきた。

 後ろを振り返ってみると、きょとんとした顔のアルカとルゥ。

 ……そりゃあ目立つよなぁ。

 なんというか、オーラがばんばんに出まくっているお忍びの芸能人という感じだ。小さく「誰だあの美人?」とか「いやあ、あの子可愛い」みたいな声が聞こえる聞こえる。……俺の噂は全く聞かないけどな!

 でも、今更魔晶状態に戻ってもらうのも申し訳ないし、今日一日の我慢だと思って頑張ろう……。

 と、思って歩を進めていると……何やら前方がより騒がしい。


「交通事故とかあったのかな?」


 当然、地球のような車同士がぶつかった! みたいな事故が起こる筈もないが、竜馬りゅうばの馬車が誤って民家や店に突っ込んだ……という事故ならば、王都ではたまに起こるのだ。


『む。ケイ、前方の方で敵性の反応がします』


 アルカの忠告が入る。

 敵性反応? 街道やダンジョンならまだしも、こんな道の往来で? ひったくりとかゴロツキか? と思っていると、ガチャガチャと鎧がこすれる音と共に兵士の一団が姿を現した。


 何気に、普通の鎧兵士がここまで集団になっている所は初めて見るかも。いかにも中世ファンタジーだなぁと呑気に構えていると……。

 周りとはちょっと鎧が違う兵士が一人前に出てきた。そして、俺に向けて何やら書類のようなものを突きつける。……あれ? この一団の標的って俺?


「Cランクハンターレイジだな! 貴様に、窃盗の容疑が掛かっている! 大人しく連行されよ!!」

「……………………………………………は?」


 発せられた言葉の意味が分からず、呆けたような声が出た。


「えーと? 何言ってんのコイツ?」

『すいません。私にもよく意味が……』

『窃盗って悪い事でしょ? リーダーがそんな事した所なんて、ぼく見てないけどな』


 とりあえず二人を振り返って相談タイム。


『ひとまず詳しい話でも聞いてみては?』

「それもそうか。ええと、窃盗って何が盗まれたの?」


 いきなり聞き返された事に驚いたのか、兵士長さんは身体をビクッとさせた。

 やがて、コホンと咳払いをし、


「く、詳しい説明は受けておらんが、何やらとある貴族の屋敷から、魔道具が奪われた……とかいう話のようだ」

「えー?」


 げんなりした。

 確実にこれは、冤罪えんざいだ。俺のアイテムを欲しがっている貴族が、無理やり手に入れようとして罪をでっち上げてきたか。ギルドマスターから、もしかしたらあるかも……と忠告はされていたが、よりによって今日じゃなくても……。

 ああ、こりゃめんどくせぇ。


「どうしたもんかな?」

『ううむ、とりあえず……逃げますか?』

「そうすっか」


 ここで暴れるのは簡単だが、変な余罪を付けられたら面倒だ。

 どうせ、元々長く王都に滞在するつもりも無かったんだ。時間が早まっただけと思って、諦めよう。


 20人ばかりの兵士達に囲まれている状況ではあるが、全く怖くない。一応、これでももっと強い魔獣どもと戦ってきた身だぞ。舐めんなよ。

 兵士達も、こんな状況で平然としている俺達を不穏な顔つきで見ているようだ。


「何を堂々と話している! この状況で逃げられると思うのか!?」


 兵士長がこちらに剣の切っ先を突きつける。

 が、やはり怖くは無い。


「悪いが、逃げさせてもらうな」


 俺は、アルカのルークの腕を掴むと、久々発動のジャンプブーツでもって軽く10メートル以上の高さを跳躍し、そのまま付近の民家の屋根へと着地する。


「や、屋根の上だ! 上がれ! 登れ!!」


 下から兵士長の絶叫が響く。


「さぁて、ひとまずギルドマスターに声を掛けてから帰るかな? 何か事情知ってるかもしれないし」

『……む。ケイ、あそこに……』


 ふと、アルカが前方のある民家を指差す。

 その民家の二階部分の窓から、何者かが手を振っていた。声は出していないが、必死に手を振ってアピールしている。

 あれは……


『セルアさん達ですね』


 アルカの言うとおり、ひと月ほど前に色々と面倒を見る形になった、獣族の少女達がそこに居た。

 とにかく、アピールしているみたいだから、会って話をしてみるか。


 それにしても、せっかくの最後の王都散策が随分と面倒な事になっちまったなぁ。

 自分の運の悪さを憎むのだった。




 遅れました。ちょっと連休に実家に戻ったりしていたもので、執筆の出来る環境ではありませんでした。

 次話はもっと短い間隔で投稿できるように頑張ります。

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