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59話 潮時



『ううむ、そうか……。いよいよ接触してきたか……』

「例の魔神って奴だな。で、どんな奴だった?」

「いや、本人には会ってないし」

「なんだつまんねぇ」


 フェイとの事があったその日、俺たちはラザム……より正確に言えばファティマさんの元へと急いだ。

 ちなみにファティマさんはまだ神様会議より帰還しておらず、家にはラザムだけだったのだが、遠く離れていてもラザムを通じて会話が出来ると言う能力によって、こうして会話は出来ている。


 実年齢70代だが、見た目40代程度のおっさんであるラザムから、女性のファティマさんの声が響く様子は、なかなかシュールである。

 ……違和感ありすぎてちょっと気持ち悪い。

 というか、交互に男の声女の声で喋られるから、実にややこしい。


『それならば仕方ない。お前たちは、竜王国で保護しよう』


 しばらく悩んでいた様子だったが、やがてファティマさんはそんな事を言い出した。


「竜王国?」

『竜族が住まう国ですね。調べた限り、通常の方法ではいけない場所にあるとか』


 アルカが説明してくれる。

 しかし、竜族……つまりドラゴンが住む国か。なんか想像した限りだとガラパゴス島とかそのあたりがほわんと頭に浮かぶんだが、絶対違うよな。……大体、あれイグアナだし。


『ふむ……。なんだか不愉快な想像をされた気がするのぅ』

「気のせいです気のせいです。それにしても、竜の国自体には興味がありますが、なんでいきなり保護なんて話に?」

『そんなもの、遂に魔神めが、ちょっかいを掛けて来たからに決まっておるわ。……いや、ちょっかい自体は話を聞く限り前からかけておったらしいの』


 確かに、ワイバーンがいきなりカオスドラゴンに進化した事は、間違いなくフェイのあるじって奴の仕業だな。

 ただ……


「別にフェイはその主ってのが魔神だなんて言わなかったけどな」

『そんなもの、状況を考えるに魔神が主に決まっておろう』

「そうなんですがね……」


 魔法が使えるとか言ってたしなぁ。

 多分魔神なんだろうけど、何か嫌な予感もするんだよな。理由は、多分俺がその魔神ってのに会った事が無いからだろうな。ファティマさんからの話だけでしかその魔神ってのを知らないから、実感が湧かないんだ。まぁだからと言って、対処のしようも無いんだけど。


「で、話し戻るけど、なんで竜王国に? そのまま地球に帰してくれるの?」


 確か、時空間を操る魔法が伝わっているのは、樹の国じゃなかったけ?


『帰したいのは山々じゃが、この世界の問題として、まずは魔神めをなんとかせねばならん。奴が本当にこの世界へやってきていると分かった今は、奴の対処が最優先じゃ』

「……最優先? 魔神を倒すのか? それともまた封印?」

『それを今お主等に伝える訳にはいかん。とにかく、すぐに竜王国から使いの者を送る。お主等はその竜族に従って竜王国まで来てもらおう』


 何やら凄い勢いで話が進むな。しかし竜王国からの使い……やっぱりドラゴンなのかな?


『……ちょっと待ってください。まさかとは思いますが、ケイ……及び私達を囮にして魔神を誘い出すつもりですか?』

『……端的たんてきに言えばそうじゃな』


 ファティマさんはあっさりと言い切った。


 あぁ、そうじゃないかと薄々思っていたけど、やっぱりか。

 カオスドラゴンをぶつけたり、ダンジョンコアをスライムにしたりと、俺たちに対して何かしようとしているのは間違いないもんな。

 つまり、今後もハンターをしていくなら、何らかの妨害があるって事だ。


 だが、逆に言えば、俺達を見張っていれば魔神の尻尾がつかめるという事だ。

 だから竜王国か……。そこでなら、万全の体勢で迎え撃てると言う事だ。まぁ、ドラゴンの軍勢が居る場所なら、随分と安心だ。


 って事は、いよいよ時が来たって事なんだろうな。

 俺は覚悟を決めた。


「……分かったよ。ハンター業はこれで終わり。後は、ファティマさん達に従うよ」


 しばし考えて、俺はそう結論を出した。


『ケイ! それでいいのですか!?』


 意外にもアルカが焦ったような声で訴えてきた。

 まあ、心残りはあるよな。やって来た事だって随分と中途半端だし、結局Bランクになれるのかどうかもよく分からんし。

 なんか、ここで終わったら、ただこのエメルディア王国を騒がしただけな気がする。

 でも……


「……もう潮時だって事だよ。十分異世界の生活は満喫できたし、魔神との事が片付いたら、帰る手段もなんとかしてくれるだろ?」

『うむ。それはなんとかしよう』

「って事だ。悪い話じゃない」


 そう、これでやっと帰れるんだ。いや、ちゃんと地球に帰れるかどうかは分かんないけど、今まで俺達の事をほったらかしていた神様達がなんとかしてくれるって約束してくれたんだ。

 これに頷かない手は無いだろう。


『……ケイがそういうのなら……分かりました』

『うん……ぼくも分かった』


 最終的にはアルカとルークも受け入れてくれた。


 ……ごめんなぁ。こんな奴が艦長でさ。


「それにしても、お前達の妹が魔神の側にねぇ。で、お前らは大丈夫なのか?」

『『………』』


 ラザムのその言葉にアルカ達は答える事は出来なかった。

 そう、あのダンジョンを抜けてからというもの、アルカ達の落ち込み様は酷いものだった。

 何か質問しても、ぼんやりとした答えが返ってくるもんだから、こっちとしてはものすっごい不安になったもんだぜ。


 そして、一度アルドラゴへと帰還すると、すぐに管理AIと装備のチェックに入った。

 管理AIは、やはり誰が居なくなっているか……それは把握出来なかった。ただ、フェイの事を思い出せたので、彼女が居たであろうデータの空領域は発見できた。

 でも、それ以外はもし存在したとしても認識できない。データの初期化とは、そういうものなのだという話だ。


「しかし、あの時お前が使っていた魔道具を魔神がねぇ……。こりゃあ、確かに厄介ではあるな」


 装備の方も、無くなっている物は把握できないが、やはり複数ある武器の場合、その数に違和感を感じるとのこと。これも、実際にいくつ不明分があるのかも分からない。


 ……なんだか、自分達以外にもアルドラゴの装備を持っている者が居ると考えると、外の世界がなんだか恐ろしく感じてくる。

 本当に情けないよな。


「でもまぁ、心配はするな。俺でもなんとか渡り合えたんだ。ドラゴンの軍勢相手なら、あれぐらいどうって事ないな」

「え? ドラゴンってそんなに強いの?」

「そりゃあ、お前カオスドラゴンと戦った事あるんだろ? 100年以上生きた熟練のドラゴンだったら、あれと戦っても十分勝てる。しかも、一対一サシで」

「……マジか」


 あいつの強さは十分身に染みて理解しているぞ。

 それに、俺一人だったらアレには勝てなかったんだ。チーム全員と、アルドラゴの力があってようやく勝てたレベルだぞ。

 それを一人でって……ドラゴン舐めてたな。


『よし、お前達の意見は理解した。恐らく、数日……3日以内には使いの者がそこへ訪れる筈だ。……所で、アルドラゴとやらはちゃんと飛べるようになったんだったな』

『は、はい。でも、世界の反対側まで飛べるほどエネルギーは溜まっていませんよ』

『心配はいらん。竜王国……ディアナスティ王国はエメルディアからそこまで遠くには存在せん。一応、万が一の為に魔晶を持たせる予定だ』

『む。魔晶ですか……それならば問題はありませんね』


 これで、アルドラゴも最初で最後の飛行になるのかね。

 欲を言えば、もっとがっつり飛んでみたかったけど……まぁこれは竜王国とやらへ行ってからでもなんとかなるか。

 それに、下手したらアルドラゴも魔神との戦いに参戦って事になりそうだな。

 

 でも、そうなるとアルカの妹であり、ルークの姉でもあるフェイと、戦う事になってしまうのではないだろうか。

 それに、うまく魔神だけ倒せればいいが、もしフェイも一緒に倒されてしまう結果になってしまったら……。


 ……やっぱり嫌だよな。




◆◆◆




「エメルディアに滞在するのもこれで最後だ。だから、せめて一日ぐらい堂々と王都を散策しないか?」


 アルドラゴへと帰還した俺は、アルカとルークにそう提案した。


『散策……というと、変装しないで……という事ですか?』

「まぁ、服装くらいは戦闘服を脱いでもいいかもしれないけど、とにかくチーム・アルドラゴとして堂々と歩いてみようという事だ」


 王都に来たばかりの頃と違ってだいぶ名前も売れたと思うけど、実際にはハンター連中ぐらいしか顔知らないと思うしな。

 予想ではそこまで大騒ぎにはならないんじゃないかと思う。


『う~ん。大丈夫でしょうかねぇ』

『ぼくはちょっと歩いてみたいかなぁ。魔晶ごしじゃなくて、ちゃんと目で見たらどんな感じなのか興味ある』


 その言葉に俺はおや?と思う。


「魔晶ごしだと、なんか違うのか?」

『それはそうですよ。だって、魔晶に眼球機能は無いでしょう。そうですね……ケイに分かりやすく例えるなら、視覚の情報が文字になってずらーっと表示されているような感じでしょうか』


 ええと、それは……あれか、ちょっと前の映画だけどマト●ックスみたいなもんか? あれも、仮想空間で実際はデータの羅列だった筈。

 それが本当なら、全然面白くない。というか、なんか申し訳ないぞ。


「うわぁ。それならもっと出歩かせてやるべきだったな」

『構いませんよ。私達には生まれた時からの習慣みたいなものです』

「じゃあ、人型になったらちゃんと人間みたいに物が見えるって事なのか?」

『機能の方も人間に近づけて身体を作っていますので、多分ですが同じに見えるかと』

「じゃあ、初めて目で物を見た時ってどんな感じだったんだ?」

『……思っていた以上にごちゃごちゃしている……でしょうか?』

『あ、それぼくも思った。なんていうか、色って情報としては理解していたけど、あんなに種類があるもんなんだね』

「……そんなもんなのか」


 予想外な言葉だ。

 なんというか、人間としてはもうちょっと感動とかしてほしかったな。


『仕方ありません。私達には、人間の美的感覚というものがあまり理解出来ませんから』

『うんうん。人間でいう綺麗とか、可愛いとかそういうのってよく分かんないよね』


 人間の姿になると、綺麗で可愛い外見の二人に言われるとなんか腹立つな。


「わかったわかった。とにかく、明日は人間の姿で堂々と出歩くぞ。ギルドや世話になった人にも挨拶とかしないといけないしな」


 えーと、まずはハンターギルド関係者はギルドマスター、ブローガさん、後はモニカさん、ジェイド達、チーム・炎獣……会えればだけど。

 続いて王都で世話になったと言えば、魔石屋のおっさんと、あれからほとんど行ってないけど、宿屋の夫婦がどうなったのかも気になるしな。セルア達はちゃんとやっているかな?


『……ケイは、本当に良いのですね』


 アルカが念を押す。


「まあ、一ヶ月……十分異世界生活を堪能させてもらったさ。それに、いい加減地球が懐かしいしな」


 これは本当だ。

 一ヶ月異世界で暮らしてみたが、やはりここに永住しようという気は起きなかった。今でも、夢に地球での出来事が浮かぶ事がある。


『そうですか。では、私からは何も言いません』

『う~ん。ぼくはゴゥレムが結局二体までしか出来なかったのが心残りかな』

「安心しろ。実際に戦闘で生かす機会はあまりないかもしれないが、作るだけなら作るぞ」

『えー本当!? よぅし、頑張るぞぉ!!』

「それに、そもそもお前達も地球に来るんだろ。だったら別に寂しくも無いさ」

『え? お姉ちゃんそうなの!?』

『へ? あ、ああ! そう言えばそんな事を言いましたね』


 忘れてたのかよ! 人工知能の癖に、物忘れとかあんのかい。

 まあ、実際一緒に帰るとしても、アルドラゴをどうすんだって話にもなるんだが。あんなもの、地球の何処に置けば良いと言うのだろう。

 なんか政府とか偉い人が出てきて、没収されたりするんじゃねぇのかな? 下手したら俺も捕まるかも……。


『まあ、具体的な方法については今後考えましょう』


 アルカも同じ事を考えていたらしいな。

 まあ、確かにまだ完全に帰る方法が見つかった訳でも無いんだ。今頭を悩ませても仕方ないか。


 その後、俺達はいつものように他愛も無い話をして、やがて時と共に眠りについた。





 まあ、この変装しないで堂々と王都を歩こうというプランが、まさかあんな事態を招くなんて、この時も俺もアルカも想像だにしていなかったのだ。




 前話の展開から予想は付くと思いますが、トラブルに巻き込まれます。

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