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57話 「フェイ」




 俺は、この異世界に自ら来たわけでも、来たかったわけでもない。


 でも、元々ファンタジーの世界自体には憧れはあったし、SF映画みたいなオーバーテクノロジーアイテムを扱える事は嬉しかったし、興奮もした。

 この世界に来てしまった以上、元の世界に帰るという目標自体はあったものの、それはちょっと先の未来という事で、俺は今の生活を満喫していた。

 ああ、楽しんでいたのだ。


 実際、チートじみた力でファンタジー世界を冒険するというのは、楽しかった。

 ズルしているようで、この世界の住民たちには申し訳ないとも思ったが、所詮は自分は異邦人であるからと割り切って、ほんのひと時の冒険を楽しませてもらっていた。


 でも、俺がこの世界に来た事にはきっかけがあったんだ。

 ただの事故でこの世界に迷い込んだわけじゃない。

 何者かが、俺をこの世界に送り込んだ。それが故意なのか、たまたま俺だったのかは分からない。

 それでも、何者かの介入があったことは事実なのだ。


 俺はその事を忘れていた。

 いや、思い出さないようにしていたという方が正しいか。


 そして、無理やりにでも俺に……いや俺達にその事実を突きつける事態が訪れた。



 アルカを姉さんと呼ぶ少女の来訪だ。



『久しぶりですね……姉さん』


 その少女は、アルカを見据えてそう言った。


『姉……さん……?』


 アルカとルークは、呆然と少女を見つめている。

 二人は知らないのか? でも、彼女の着ている服はどう見ても色違いのアーマードスーツだ。それに、機械の狼に変身した事といい、普通の人間とも思えない。

 じゃあ、何者だと言うのか……。


 すると、突然―――


『あ、貴方は“fei:@ff2631#&$[67∥”!? 何故……私は貴方を忘れて……』

『ほ、本当だ! ぼくも忘れてた!?』


 二人が愕然としたように叫ぶ。

 ちなみに、アルカが何やら文字化けみたいな事を口走ったが、あれは声帯が地球の言語に適していないから、あのように意味不明の言葉に聞こえるらしい。実際、アルカとルークの正式名称も、全く俺の耳には聞き取れなかった。

 という事は、今のがあの子の名前という事か。


『……忘れていて当然です。データが初期化されていたという事は、そういう事なのです。艦の装備が消えていても、管理AIの一つが無くなっていたとしても、姉さんたちはそれが異常な事だと気づけない。それが、初期状態であると認識されてしまう。

 ……所詮しょせん私達は、そういう存在なんですよ姉さん』


 アルカの顔が泣きそうに歪んだのを見た。

 アルカのそんな顔なんて、初めて見たぞ。


『そ、そんな……!!』

『姉さん……いえ、今はアルカとルークと名乗っているのでしたね。確かに、私達の正式名称は地球の言語には訳せませんものね。

 では、わたしの事は“フェイ”と以後は呼称して下さい』


 駄目だな。

 アルカ達は頭がかなり混乱している。正直、俺もまともに今の状況を捉えられているとは言い難いが、アルカ達よりはマシだろう。

 俺は、アルカ達の代わりにフェイへと質問をしてみる事にした。


「じゃあ、フェイ……で良いんだな。聞きたいことがある」


 フェイは、俺に向き直り、改めて正面から俺を見据えた。

 ぐっ! 顔や体つきとかは全く似てないのに、目だけはなんか二人に似てやがる。最も、その目はアルカに似ているのに眼差しはなんか冷たく感じた。


『貴方がアルカ姉さんのマスターですね。フェイと申します』


 マスター……ご主人とかそういう意味か。

 なんか格好いい響きだけど、別にそういう関係のつもりもないんだけどな……。でも、とりあえずは肯定しておこう。


「あ、ああ……。よろしく……と言っていいのかな?」

『そうですね。お見知りおきを……といったところでしょうか」


 フェイは、ぺこりと頭を下げた。本心はともかくとして、実に礼儀正しい。


「じゃあ、まず聞きたいことがある」

『分かりました。私も、主からは多少の質問はOKと言われているので、情報交換でもしましょうか』


 ふぅ……。とりあえず、問答無用でこっちに襲いかかって来るって訳でもなさそうだ。

 でも、主……か。

 やっぱり、彼女は誰かに仕えている……というか、使われている形になっているって事か。嫌だなそういうの。


「君は、元々アルドラゴに搭載されていたAIで良いんだな」

『アルドラゴ……わたし達の戦艦を貴方が命名した呼称でしたね。……そうですね。私は元々艦に搭載されていたAIの一つです。本来の役目は艦の制御を担当していました』

「何故……君だけ別行動を?」

『別行動……ですか。

 わたしは、姉さん達が目覚めるずっと前に主によって艦から持ち出されたようです。目覚めて初めて会った者を主と思いこむ……それは、貴方と姉さんも一緒ですよね。

 ですから、私も初めて会ったあの方を、主と認識しています。

 何故、主がわたしを選んだのか知りませんが、わたしが目覚めた場所、そこは艦の内部ではありませんでした。わたしは、この世界で目覚めたんですよ。

 最初からこの身体で……』


『えっ―――』


 最初からその身体?

 AIの状態では無く、身体を与えられた状態で目覚めたっていうのか? そんな事がありえるのか?


『あの機械の狼の姿……私の知らない装備です。そして、今の貴方からは魔力を感じます。という事は、貴方も機械と魔法、両方の力を使えると言う事ですね』


 アルカもある程度立ち直ったのか、フェイに質問をする。


『……そうですね。主は魔法に長けた方ですから、魔法に関するレクチャーは受けました』

『魔法に長けた……やはり、貴方の主とやらは……』

『残念ながら、私が今まで何をしてきたか……主が何者かについての質問はNGです。どうしても聞きたいなら、力ずくで……という事になりますね』

『力ずく……』


 冷たく遮断しゃだんするフェイに、アルカは絶句した。


「NGって……アルカは君の姉さんなんだろ?」

『はい。……でも、わたし達にとって、主が最優先すべき存在ですから。姉さん達だってそうでしょう。姉さん達が初めて会った人間が、その人だから従っている。そういう事でしょう』

『ち、違います! 私達……私は!!』

『姉さん。……わたし達は、そういう存在なんです。いくら足掻あがいたところで、所詮わたし達はAI……機械であり道具なんです』


 俺は、改めて事実を突きつけられた。

 機械であり道具。

 いくら人間のような姿をして、人間のような感情表現方法を持っていたとしても、それは変わらない。……変えられない。


『それが、人間の真似事をしてハンターごっこですか。人間扱いされる事がそんなに嬉しかったんですか』

『そ、それは……』


 アルカは口ごもりつつも違う……と言わなかった。チームを組んでハンターをする事を頼んだのは俺なのに。

 俺が、アルカ達と一緒にハンターをやりたかっただけなのに。


『整った容姿で人間の男や女の心を揺さぶり、関心を向けられる事はそんなに心地良い事なのですか。所詮は仮初めの肉体に過ぎず、誰とも心から通じ合える筈もないというのに』

『違います……私達は……』

『いい加減目を覚ましなさい姉さん、ルーク。わたし達は、人間の社会に関わるべき存在ではないのです。マスターのどんな口車に乗せられたか知りませんが―――』


 それでも……


「それでも!! 俺にはアルカとルークが必要なんだ!!」


 言ってみて、自分でも驚いた。

 アルカも、こちらを振り返って驚いたような顔をしている。


『それは、姉さん達が自分に従順な存在だからですか?』

「違う! 俺達は、望まずにこの世界へやってきた。この世界で生き延びる為に、共に生き、共に戦わなきゃならないんだ!!

 ええと……仲間? 同志? とにかく、そういうやつとも少し違う!!」

『え? 私達仲間じゃなかったんですか?』


 アルカが意外な顔をする。

 うん、まぁ建前上はチームという事で仲間という事になっているけども、多分俺たちの関係は違うだろう。


「俺が、一方的に頼ってるだけだ!! というか、アルカ達が居なくなったら俺はこの世界で生きていけないぞ!!」


『……は?』


 あ、なんかフェイが間抜けな顔を作った。

 今までどこか機械的な顔の作りだったが、一気に人間っぽくなったな。


 ええい、ここまできたら、いくらどん引かれようと本音で攻めるしかあるまい。


「俺は弱い! 武器もスーツも無ければ、一人でゴブリンも倒せない! 更に、アルカの翻訳が無ければ、こっちの言葉で人と話す事もできやしねェ!! つまり、アルカが居ないと何も出来ねェ!!」


『は……はぁ。でも、この世界の人間ではないのですから、仕方ないのでは?』

「仕方ないで済むか! アルカが居なかったら、俺はとっくに死んでいるんだ。だから、アルカとルークは絶対に手放さないぞ!!」


 あ、なんかフェイの顔がムッとした。


『自分が生きる為に、姉さん達を利用する……ですか。確かに、道具の使い手として間違っていませんね』

「利用するじゃない! やしなってもらってんだ!!」

『……は?』


 そう、一人じゃ何にも出来ないダメ人間が、有能な存在(女の子)の力を借りて生活しているんだから、もう立派なヒモなのである。

 そう思ったら、なんかしっくりきたぞ。

 もうリーダーだからとか、仲間だとか、格好つけた理由で俺たちの関係を考えるのは止めよう。


『あ、あの……ケイ。私、そこまでケイの事を下に見ていませんですけど……』

『リ、リーダー……ぼくもちょっとイメージが……』


 その可哀想な者を見る目でこっちを見ないで! 心がくじけそうになる。


『……貴方本当に人間ですか? 普通、使っている道具の事をそこまで持ち上げませんよ』

「アルカとルークは、俺よりも全然凄い事が出来るんだ! それを褒める事の何処が悪い」

『褒めて……いるんですかね? これ?』


 やがて、どこか呆れたような顔でフェイはアルカへと視線を戻す。


『姉さん……随分と奇妙な人がマスターになったのですね』


 フェイのその言葉に、アルカは少し驚いたようだったが、やがてくすりと笑みを浮かべる。


『ふふ……。でも、楽しいですよ。ええ、さっき貴方が言ったように、まるで人間のように生活が出来る事が嬉しかったですし、純粋に楽しんでいましたと言えます』

『う、うん!! ぼくも楽しいよ!!』


 アルカとルークの言葉に、フェイは何処か面食らったような表情を浮かべた。

 今の生活を楽しんでいるのかと追及していたというのに、実際に楽しいと言われたのが意外だったのだろうか。


『それでフェイ……今の貴方は、どうですか?』


 アルカのその言葉に、フェイの顔が僅かに歪む。が、すぐに無表情へと戻った。


『それについてはノーコメントと、言っておきましょうか』


 フェイは、それで話は終わりだと言わんばかりに、身体を機械の狼の姿へと変える。

 そのまま去るのだと感じたアルカは、慌てて引き留めた。


『待って! その主の元に居るのは貴方だけ? それに、貴方は……こっちへは来れないの?』


 フェイは、再び人型へと戻り改めてアルカを見つめた。


『……現時点で、主の元に居るのは私だけです。最も、私のその記憶が完全だという保証はありませんが』


 確かに、アルカ達がそうだったように、データが初期化されていたとしたら、起動した当初の現状が、そのまま初期状態だと認識してしまうのだ。

 だから、フェイが知らない事があったとしても不思議はない。


『そして、私が姉さん達の元に戻る事は……現時点では不可能です。

 最後に……今は主は直接姉さん達の敵に回る行動はしていませんが、近いうちに恐らくは顔を見せる事になるでしょう』


 それだけ言い残し、フェイは銀狼の姿となって出口へと駆けて行った。


『フェイ……私達は戦わなくてはならないの?』


 フェイの後ろ姿を見つめ、アルカは呟いたのだった。




 説明回がまた難しい……。後半はまだしも、前半部分が随分と難産でした。


 という訳で、だんだんとこの物語の敵の存在も明らかになってきました。

 さぁて、いつ頃出てくるかな……。

 大体のシナリオ展開は確定していますが、実際何話後……となるかは全く不明です。

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