04話 トレーニング
さぁ、いざ武装の数々を使ってみようと息巻いていたのだが、武器庫から出たところで俺は突然意識を失って崩れ落ちたのだった。
理由は、過労……と言えば聞こえはいいが、要は単なる体力が限界に来ただけ。
考えてみれば、ちょっと前まで俺の身体は氷漬けだった訳だ。それを72時間かけて解凍して、ようやく意識が回復したレベルにまでなった。
精神が緊張によって張りつめていたせいもあるが、よくもまぁあれだけうろうろ動き回れたもんだと思う。
「これって、原材料何なの?」
目が覚めたら例のベッドの上だった。
そして、枕元(枕なんて無いが)にコップらしき物に奇妙な液体が注がれていた。
ゴーグルの話によると、栄養ドリンクらしい。
試しにひと口含んでみると、なんとも言えない味が口の中に広がった。
ほんのり苦いが、なんとなく甘辛い味というか……端的に言うと不味い。酷く不味い。まあ、飲めないレベルではないのが幸いなのだが。
『貴方の言葉で訳せませんので、知らないままでいる方がよろしいかと思われます』
という事は、あまり知りたくない物が含まれているという事か。
まぁ、こちらの世界の主食がこれじゃないというだけマシか。
ふと、頭によぎった事を聞いてみる。
「ところで、誰がここまで運んだの? 誰も居ないんでしょ、この船」
『それは、私に決まっています。そもそも、誰が亜空間に漂っている貴方をこの艦に運び込んだと思っているんですか。ただ、かなりエネルギーを消費するので、めったな事では使わない手ですけどね』
そういやそうだったな。
あれか。マジックアームとかそういうのがあるのかな? それとも専用のロボットとか?
まあ、めったな事では使わない手を使わせてしまった事は申し訳ないと思う。
「こうして落ち着いてみると、腹が減って来た」
『健康な証拠ですね。……と言っても、この艦には食料と呼べる物は備蓄されていないみたいなのですが』
「じゃあ、これは何処から?」
自分がいま飲んでいる物を指して言う。
『ですから、知らないままでいる方がよろしいかと』
気になるんだけど。
でも、やっぱり知らない方が良かったと思えそうだから、無理には聞かないでおこう。
「とりあえず人並みの体力は戻したいんだけど」
『その辺はトレーニングあるのみ……としか言えませんね』
「だよなぁ。めんどくさいけど」
よっこらせとばかりに、俺はベッドから降りて立ち上がってみる。
……とりあえず自分の足は言う事を聞いてくれそうだ。
「じゃあ、まずはスーツと武器の性能確認かな。そんで、大体把握できたら外に出てみるか」
『そうですね。いつまでもここに引きこもっている訳にはいきませんし』
「いい加減、肉とか食いたいし」
『まず食欲ですか』
「お前ね。機械にゃ分からんだろうけど、食欲ってのは大事なんだぞ!! 丸一日何も食ってないだけで、腹の中がすげぇ自己主張してんだ!」
『食事ならしたじゃないですか』
「原材料も教えてくれないお前が、あれを食事と呼ぶのか」
『人間が栄養補給の為に体内に異物を収める行為を食事と呼ぶのなら、あれは食事です』
「ぐぐ……お前に味覚というものがどういうもんか教えてやりたい」
『失礼な。味覚ぐらい知っていますよ』
「うっせ! どうせ味覚の意味っていう意味だろうが。まぁ、いいや。とにかく今はトレーニングだ」
そう言って俺は話題を打ち切り、艦の一番下にある広い部屋へとやってきた。
『艦の動力が戻れば、模擬戦用のシュミレーションが出来たりしたのですが、今は無理なので我慢してください』
「とりあえず広い所で身体を動かせればいいよ」
今はコートやらガントレットやらは外して、アーマードスーツオンリーの状態だ。
「パワー補助を起動する場合は、襟元のスイッチを入れてください」
「襟元……ってこれか」
学生服の校章とかがある襟元の位置に、それはあった。
スイッチと言っても、ガスの元栓みたいなコルクを押し込んで捻るみたいなタイプのスイッチだ。まあ、これなら誤ってスイッチ入れるとか無いだろうよ。
かち。
ぶーんと起動音が聞こえる。
そして、赤と黒のツートンだったスーツに、光る青色のラインが全身に浮かび上がって来た。
「おおっ」
あ、なんか筋肉が圧迫されているのを感じる。そんでもって、今まで感じていた身体の重さが消えた。身体の重さがちっとも感じないのに、しっかりと両足は地面にあるという感覚はある。
精神が高揚していた。
なんというか、今はただひたすらに走ってみたい。
「よーいドンッ!!」
思わずその場から駆け出してしまう。
が、駆け出したと思ったのも束の間、前面に壁が出現したのだった。
「わわわわっ!!!」
『腕を前に出してガード!!』
言われるままに咄嗟に腕を前に出す。
ガードなんて格好いいもんじゃなく「うわーっ来ないでーっ!」みたいな情けない感じのアレだが。
ぼふっ!
どがんって感じじゃなく、壁じゃなくて空気にぶつかったみたいか感じだった。
その後俺の身体は吹き飛び、ゴロゴロと床の上を転がる。
……多分、客観的に見たらすげぇ格好悪いだろうな。
『実際かなり格好悪いかと思います』
「いや、心読まないで」
『なんとなく理解できました』
くそぅ。機械の癖に芸が細かい。
『ショックアブソーバーの機能も問題ないようですね。ちなみにですが、スーツのパワーは、左手首にあるダイヤルによって変更する事が出来ます。今の状態は最高値になっていますね』
「そういうの先に言ってくんない。いきなりMAXでやってたのかよ俺は」
確かに、スーツの左手首にダイヤルらしきものがある。
文字らしき物が書かれているけど、全く読めないな。まぁ、今がMAX値だというなら、その反対側……一番低出力で試してみよう。
かちかちとダイヤルをいじる。
すると、スーツの光るラインが若干薄まったように見えた。
そして、身体の方の重さも感じるようになってくる。それでも、かなり軽く感じるが。
「おおーっ」
ジャンプしてみると、普段の倍以上跳べた。
軽い軽い。
やっと実感できる感じだ。
適当にシャドウボクシングしてみると、拳のスピードが目に捉える事が出来ない。
ゆっくりとランニングしてみると、普段の全力疾走並のスピードが出た。全力で走るとどうなるのか気になるが、さっきの恐怖が残っているから、もっと広い場所に出てからにしよう。
「確か、オートバランサーってのがあったよな」
試しに片足立ちしてみると、身体がほとんど揺れなかった。片足のままちょっと無茶なポーズとかしてみるが、微動だにしない。すげぇなハイテク。
「とりあえずスーツはこんな所か」
襟元のスイッチを切る。
すると、ズンとばかりに身体に重さが戻って来た。
うわ、なんかすげぇだるく感じる。
軽く宇宙飛行士の気分を味わったみたいだ。
普段の生活では、なるべく多用しないように気を付けよう。慣れすぎるとまともに動けなくなっちまう。
「次、防具」
バリアガントレットを左腕に付けてみる。
で、どうやってバリア出すの?
えーと、マニュアルマニュアル。
『掌にあるボタンを押してください。誤作動防止の為に、強く押し込まないと反応しないようになっています』
「ありがとうマニュアル!」
『誰がマニュアルですか!』
しかし掌か……。
片手でやった方が格好いいよな。でも、そうすっと自然と中指と薬指を折り曲げる感じになるから、某蜘蛛男と同じポージングになるわな。
かち。
「おおっ」
目の前に、半透明の壁が出現した。大きさは、大体自分の身体が全部隠れるぐらいか。こちらは設定次第で規模の変更は出来るらしい。当然ながら、規模がでかい程にエネルギーの消費が激しい。
「これって触れるもんなの?」
『実体、炎、電撃等、あらゆる物を通さない障壁なので、触れる事は可能です』
触って大丈夫という事で、つんつんとバリアを突いてみる。
なんとなく、アクリル製のガラスみたいな印象だ。
一回のボタン押しで、三秒間出現するらしい。押し続ければずっと出現するが、その間エネルギーはずっと消費しているという形になる。
続いて、グラビティグローブ。
スーツのグローブの上から更にグローブをはめるので、多少ごわごわした感じになるのだが、これも慣れか。物を掴んだりするのに支障が出る訳じゃないし。
こちらも、使い方は掌にあるボタンだ。
ボタンの位置は、人差し指と小指の付け根にあり、それを親指で操作する感じ。人差し指のボタンで斥力発生で、小指の方で引力発生か。
そんで、物を軽くして掴む場合は、二つとも押せばいいと。
そうして改めて思ったのは、
「ボタン操作がめんどい……っていうか、咄嗟に出来るもんなのかこれ。音声入力とかそういうの出来ないの?」
ボタン一回押せばいいだけなんだから、慣れればどうって事ないと思うのだが、慣れていない内に急な事態となったら、パニクって押せないような気がしてならない。
『出来ますよ。音声入力』
「出来るのかよ!!」
だったら早く言ってほしかった。
『ただ、入力する言語が我々の世界の言葉ですので、発音そのものが難しいと思われます』
「ああ、そうか。そういった問題あるか」
『何でしたら、私が代わりに入力するという方法もありますが』
「おおっ! それいいな。よし、じゃあ俺がキーワードを言ったら、それに対応する音声を入力してほしい」
『はい、分かりました』
という事で、言葉を発するだけでバリアや重力操作は可能となった。
バリアの場合は「シールド」
斥力の場合は「プラス」
引力の場合は「マイナス」
無重力を発生させる場合は「ゼロ」
……と言っても、最後のは言う機会あんまし無さそうだけど。物掴んだら、自動的にボタンは押す形になるわけだし。
あと、ゴーグル自身の判断で発生させる事も許可した。
俺が気付かない場合とか、声が出せない状況もあり得るしね。……主にびびって。
「んじゃ次は武器かー」
まずは高周波カッターを手に取る。
試し切りできるような物が手元に無いから、とりあえず振り回すだけか。
軽いから、振り回す事に難は無い。むしろ、軽すぎて困る……って思っていたら、グラビティ・グローブ発動させたままだった。物を掴んだら自動的に無重力になるんだから、当然ちゃあ当然か。
ひとまず、ゴーグルに頼んでスイッチは切っておく。
「ふぅむ」
改めて持ってみると、やはり軽く感じる。恐らくは、材質そのものが地球の鉄とかと違うんだな。
感じとしては、よく玩具の剣とかがあるが、それを持った感じと似たようなもんだ。
レーザーナイフの方も似たような感じ。こちらも外に出たら切ったり撃ったりしてみよう。
「んじゃ次は銃だな」
トリプルブラストを構えてみる。使い方は、地球の銃と大きな違いは無い。
形としてはリボルバータイプの拳銃と言えよう。
「おお、弾込めは中折れ式か!」
ある意味ロマンだな。
そして、弾倉は三発分しか無かった。
「ふぅむ。これってひょっとして……」
銃口と弾倉の大きさが合わない。
俺はなんとなーく理解した。まぁ、地球よりも科学技術の発展した星の銃が、一発一発弾を込めるタイプの筈があるまい。
実際に使用してみると、予想通りでもあり予想以上でもあった。なるほど、銃口が三つある理由はそれか。しかし、スーツといい武器といい、昔の特撮番組でも観ているようでワクワクするな。やっぱり、俺も所詮男の子か。
差し迫っている問題が解決した後は、まだまだある装備を一個一個試してみたいもんだ。
その為にも、まずは惑星内の探索を頑張るとしよう。
ようやく宇宙船から出られる!
こうやって書いてみると、思っていた以上に長かった。
振り返ってみたら、登場人物もほとんど出てないじゃないか! まあ、こちらはゆっくりと増えていく予定です。




