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56話 銀狼


 ミカが目を覚ました時、全ては終わった後だった。

 ダンジョンコアの撃破も、自身の傷の治療も、自分をダンジョンの外へ運ぶ事も、全てレイジ達……アルドラゴの者達がやってのけたらしい。


「やれやれ……変なトラブルに巻き込まれたとは言え、あんな規格外な人達と一緒に試験を受けたってのは、果たして良かったのか悪かったのか」

「修行不足じゃな。世の中、上には上が居るっちゅう事か」


 セージとドルグが溜息と共にそんな言葉を吐いた。

 確かに、無事に任務は終了したが、自分達がBランクに上がれる可能性は0に等しい。あそこで、ダンジョンコアを撃破する事に協力出来ていれば少しは可能性もあったのだろうが、結果としては負傷しての退場だ。

 自身が受けた傷は、身体に穴が空いていたにしては信じられない程に修復されているが、完全に治っていないのか身体を動かす度に痛みが走る。


 ここは、王都へと帰還する馬車の中。

 ガタンガタンと車内に振動が伝わるたびに鈍い痛みが走るが、今はそれどころではない。

 車内を見渡してみても、そこにレイジの姿は無かった。いや、レイジどころかアルカもルークも居ない。

 なんでも、ミカをセージ達に預けた後、何処かへ文字通り消えてしまったらしい。


 ……置いて行かれた。


(あぁ……先生……)


 彼を想うと、頬を涙が伝う。

 いや、先生と呼ぶ事すら烏滸おこががましい。自分はなんと愚かな生徒だったのか。結局、足を引っ張ってばかりで、自分は何もできなかった。


 せめて、あと少し役に立ちたかった。


 せめて、あと少し何かを教えてほしかった。


 せめて、あと少し話がしたかった。


 せめて……あと少しだけ一緒に居たかった。


 そこまで考えて、ミカは気づく。


(……あぁ、私は彼に恋をしたのか)


 初めて感じたこの感覚に、胸が痛む。これがこの感覚だというのか。今まで、ただバカバカしいとしか思っていなかったが、ここまで胸が痛いものなのか。

 しばしの間そんな一人だけの世界に浸っていたが、ふとした声によってミカは現実へと戻される。


「―――なあ、ミカはどう思う?」

「―――は?」


 何かセージがドルクと話していたらしい。よく分からないが、ドルグがやけに憮然とした顔になっている。とは言え、いきなりどう? と言われても困る。


「何がどう?」

「だから、レイジ君とアルカさんの事。あの二人ってどういう関係なのか聞いた? やっぱり恋人なのか、それとももう夫婦だったりするのか……」

「……あ」


 そのセージの言葉によって、重大な問題に気付く。

 そうだった。聞いた事は聞いたが、結果としてあの二人の関係とやらは謎のままだったのだ。

 というか、それをドルグと話していたのか。それは、憮然とした顔になるというものだろう。


「ええと、聞いた事は聞いたけど……なんかはぐらかされたというか……一応、信頼する相棒とは言っていた」

「ううむ相棒か。微妙なラインだな……とりあえず夫婦という訳じゃないっぽいけど」


 そうだ。

 勝手に恋したわけだが、あっちがこっちを何と思っているかは不明なのだ。何より、あのアルカという女性が隣に居る以上、自分は完全に不利。……というか、もし恋人だったとしたら既に負けている。


「なんでそんな事を?」

「ん? そんなもの、恋をしたからに決まっている」


 ゲホッゲホッ!!

 ミカはセージのあっけらかんとした言葉に激しく咳きこんだのだった。……お腹がすごく痛い。これは傷の痛みだ。


「アンタ……そんなキャラだったっけ?」

「当たり前じゃないか。恋人候補はいつ何時なんどきでも探しているさ。そもそも君に声を掛けたのだって、それが理由なんだし」


 ……引いた。


「アンタ、私がナンパ目的? とかって聞いたら、そんな訳ないだろー……とか言ってなかったっけ?」

「そんなもの嘘に決まっているじゃないか。まあ、ミカに関しては脈が無いなって悟ってからは、ただの仲間として思っているから、もう心配しなくていいよ」

「………はぁ」


 くそ。軟派な野郎だとは思っていたけど、本当にそんな奴だったか。

 異性として見た事は無かったから、まあ良いと言えばいいんだけど。……どうでもいいと言う意味でだけど。


 ―――ん?

 コイツ、確かあのアルカって女性を好きになったんだよね?

 んで、自分はレイジを好きになった。


 これって、もしかして協力出来るんじゃね?


 と、ミカは気づいた。


「セージ、話し合いたいことがある」


 以後、戦いとは別に二人は共同戦線を張る事になるのだが、この二人がレイジとアルカと再会するのは、実は数日後と意外に早かったりする。




◇◇◇




 時はちょっと遡り、俺達チーム・アルドラゴが、ヒュージスライムを撃破した時の事だ。


「さて、こいつどうするかな。このままアイテムボックスに入れるのは……さすがに問題あるか」


 既にカブトムシ程度のサイズになっている赤いスライムを指す。

 スライムの身体の表面に、目らしきものが一つだけある。……実に気持ち悪い。


『そもそも、生物をボックスに収納する事は出来ませんよ』

「え? じゃあ、入れたらどうなるの?」

『入れる事自体は出来ますが、蓋を閉じようとすると弾かれますね。生物が内部に居る間は、空間を密閉できないという事です』

「なるほどなるほど。入れるっていう行為がNGなら、中に手を突っ込む事も出来ないもんな」


 じゃあ、どうするか。なんかの容器にでも入れるしか無い訳だが……。


『えーと、プラスチックの容器みたいなもんだったら、ぼく作れるけど』


 ルークが挙手する。

 そうだった。うちにはチートがもう一人居たな。

 ただでさえチートの癖に、魔法まで使える規格外が二人も。


『では、私はそれが余計な事をしないように凍らせましょう』


 次に別のチートがそんな事を言い出した。


「お前……とうとう水以外の魔法まで使えるようになったか」

『ふふん。冷気魔法は水魔法と近いものがありますからね。ただ、まだ完全に扱いきれる自信がないので、戦闘では使いませんでした。でも見ていてください! 苦手な属性もあったりしますが、そのうち全魔法を使いこなして見せますとも』

『おおー』


 拳を高らかに上げて宣言する。それにノリのいいルークが拍手して対応する。

 多分、アルカなら出来るんだろうな。

 いいなぁ、魔法。俺も使えるなら使ってみたいが、魔力って奴が無いから使えないんだよな。身体の構造からしてこの世界の人間と違うんだから仕方ない。


 まぁ、愚痴っても仕方ない。

 その代り、スーパーヒーローみたいな装備でチート紛いな事が出来るんだから十分恵まれていると言える。


『リーダー、はいこれ』


 今まで何やら粘土をこねくるように手を動かしていたルークが、出来上がったプラスチックっぽい容器を俺に手渡してきた。

 うむ。よく母さんが夕食の残りとかをしまっておくタッパーそのものが俺の手の中にあった。

 俺の記憶を利用して作ったんだろうが、凄いなぁ魔法って。


「とにかく、外に出たらコイツをアルドラゴへ持って帰って解析だ。どこで俺の名前を知ったのか、とことん調べてやる」


 スライムを掴むべく、腰を屈めようとした。

 その時だった。


『ケイ!』


 突然、アルカが俺に抱きつき……いや、タックルして俺の身体を突き飛ばした。

 何事―――!?

 と思っていると、俺の視線の先を炎の弾が通り抜けていく。


 アルカの反応が少しでも遅ければ、その炎は俺の頭部へと命中していた筈だ。頭部はスーツに覆われていない。もし、直撃していたらと思うと背筋が凍りつく。


 そして、ドサッと尻餅をついた時、俺の前を一陣の風が通り抜ける。


『グルルルル!!』


 喉を鳴らして通り抜けたそれは、銀色の獣だった。

 人間とほぼ変わらない大きさのその獣は、凄まじいスピードで俺達の傍を通り抜けると、俺が掴もうとしていたスライムをその口に咥える。

 そして、10メートル程の距離を走った所で動きを止めた。


「――――――あ」


 突然の出来事に、俺は言葉を失った。

 何が……起こった?


『何者!?』


 アルカとルークが、俺を守るようにして立ちふさがる。


 立ちふさがる二人の隙間から、獣の姿が確認できた。

 よく見ると、その姿は俺の知る一般的な獣とは違った。……魔獣とも少し違う。姿として一番近いのは、狼だと思う。ただ、俺の知る狼とは明らかに違う部分がある。

 ……その獣に毛皮は無かった。いや、言い方が悪いな。その獣の身体は、金属で出来ていた。

 はっきり言ってしまえば、狼のロボットがそこにたたずんでいたのだ。


 三人でジッと睨み付けていると、狼は口に咥えたスライムを、ゴクリと飲み込んでみせる。


「!!?」


 食った?

 いや、それともロボットなのだとしたら、腹の中へ収納したという事なのか?


 その後……しばしの間、俺達と狼の睨み合いが続いた。

 狼はその場に佇むだけで、こちらへと近寄ろうとはしない。アルカ達も、相手の出方が分からず、動けないでいる。


 やがて、動いたのは狼の方だった。

 狼の身体の起伏が突然薄くなり、銀色の金属の塊となる。そして、1秒もかからないうちにそれは人の形に変化する。まるで、CGのモーフィングだ。

 昔、自在に姿を変える液体金属のサイボーグが出てくる映画を見た事があったが、あれにそっくりだ。


 狼が人の形に姿を変えた時、アルカとルークがその姿を見て、ビクッと衝撃を受けた事も感じ取った。


 その人物を、俺も視認する。

 だが、俺は知らない人物だった。


 意外な事に、それは女の子だった。

 歳は、14歳ぐらいの中学生っぽい雰囲気。髪型は短く切り揃えられた短髪で、髪の色は銀色。肌の色は褐色だ。

 何処か冷たい眼差しをしているが、俺から見ても、十分な美少女と呼べる姿だった。

 ただ、目についたものはその顔ではない。

 その少女が着ている衣服だ。


 アルカのものによく似た、女性用のアーマードスーツ。色は黒とグレー。全身に走るラインは、白色だ。

 そして、その手に持っているのは、トリプルブラスト。

 俺の持つ武器と一緒だった。


『久しぶりですね……姉さん』


 その少女はアルカを見据えてそう言った。




 仕事が忙しくて全然書く暇無かったですが、いざ時間が出来て書き始めたら、スラスラ書けました。


 そして、新キャラも登場。

 名前と詳しい背景については、次回です。

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