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55話 チーム・アルドラゴVSヒュージスライム




 俺の両隣に立ち並ぶアルカ……そしてゴゥレムに乗り込んだルーク。

 溢れるばかりの頼もしさで、俺の頬は緩みっぱなしだ。


『まず、状況説明を』

「簡潔に言うぞ。

 ミカと共にダンジョンコアを発見。

 そのダンジョンコアに、死んだはずのヒャッハーチーム……フィアードが憑依。

 その結果、あのどでかいスライムになった」


 ルークは『え? それで終わり?』と言ってきたが、アルカはふんふんと頷く。


『……なるほど、分かりました』

『え? 今ので分かったの!?』

『つまり、ケイにもよく分かっていないという事ですね』


 その通り。さすが短いけど濃い付き合いのアルカだ。俺の事をよく分かっていらっしゃる。

 ノリの良いルークは、わざわざゴゥレムを傾けて『ずっこー!』と言っている。


「やる事は変わんないさ。いつも通り、魔獣をぶっ倒すだけだ。質問は?」

『う~ん……。あれって倒せるもの?』

「一応ダメージは受けている。現時点で判明している弱点は熱。他には?」


 ルークはうーんうーんと言っていたが、やがて……


『じゃあ、大丈夫かな。よーし……いっくぞぉー!!』


 いい返答だ。俺はニヤリと笑ってコンッとゴゥレムの装甲を叩く。


「ルークはミカを守りながら、援護射撃。アルカは俺と一緒に近接戦闘だ」


 俺は、左腕のブレイズアームを外し、アルカへ手渡す。

 アルカの魔法は水が主体だから、目の前のスライムとは相性が悪い。攻撃は俺と同じアイテムでやってもらおう。


『了解です。でも、いいのですか? この武装は翌日酷い筋肉痛に襲われるからと敬遠していたのでは?』


 うぐ……嫌な記憶を……。

 こいつは普段使わない部分の筋肉を酷使するせいか、その反動が凄いんだ。初めて使った日は、マジで肩が上がらなかった。


「仕方ないだろ。ここが野外なら、もっと派手な武装も使えるんだが、室内だからな」

『また崩落する可能性が高いですね』

「とにかく、アイツの撃破だ。アイツさえ倒せば、Bランク認定試験の方は、とりあえずのクリアになる」

『ですが、ダンジョンコアが魔獣になるなんて聞いた事もありません。また、事情聴取やなんかで色々聞かれるのでは?』

「ああ……くそ、めんどくせぇ」


 これから頑張るぞって時に嫌な事言わないでよ。

 ああくそ。Bランクになったら早々に国外脱出する事をマジで考えるか。


「いいから行くぞ、こんちくしょう!」

『やけっぱちですね』


 俺たちは、互いに二体に分裂したスライムへ向けて跳ぶ。

 そんな俺たち目掛けて牽制けんせいするように触手が飛ぶが、それは全てルークの射撃によって撃ち落とされた。

 ちなみにルークの撃ち出す銃弾や砲弾も、ちゃんとした金属の弾では無い。ルークは土の魔晶を本体としているので、その身体も土人形なのだ。よって、魔法も土魔法を基本としており、この砲弾も土をコンクリートの如く固めてあるものだ。

 撃ち出す際も火薬を使わず、空気を圧縮させてその勢いで放出しているらしいが……その辺は詳しい事は分からん。


『「ブレイジングナックルッ!!」』


 二人同時に二体の巨大スライム目掛けてブレイジングナックルを放つ。

 ボンボンッと爆発が起き、スライムの身体が少しずつ小さくなっていくのが分かる。


 よし、問題ない。勝てるぞ!


 と、思っていると、スライムの身体がぐにょんと変化し、また一つの塊となる。

 バラバラになっていると被害もでかいと判断したか? だが、こっちからしてみれば的が大きくなっただけだ。

 それでも、変化は止まらなかった。

 半透明だったゼリー状の身体は、どこか金属めいた硬質的なものとなり、体型もただの不確定な塊ではなくなっていく。

 まず、手が生え、足が生えた。続いてどこかぼてっとした形の胴体となり、最後に頭が完成する。


 ……大仏?


 なんかリアルでは見た事無いけど、歴史の教科書とかでみる有名などでかい大仏がパッと頭に浮かんだ。

 いや、大仏ってここまでメタボな体型だったかどうか知らないけども。


「うひ……うひひひ……」


 大仏の顔の部分に、またしてもフィアードの顔が浮かび上がる。


『むぅ。確かにフィアード氏の顔ですね。……なんか不愉快です』

『きもちわるいよー』


 初めて見た二人は、素直に感想を漏らす。

 表情も何処かイッちゃってる感じの笑みを浮かべているから、確かに気持ち悪い。


『意思の疎通は可能でしょうか?』

「無理じゃないかな。話してみたけど、なんかまともに通じてなかった」


 大体、今の表情からしても話が通じる可能性は低いと思う。

 まぁ、一応話してはみようか。


「おーい。俺が誰だか分かるか―?」


「うひひひ……ケイジ(・・・)……」


 ぞわ……と悪寒がはしった。


「は?」


 おい、今なんて言った?


「うひひ……アキヤマ……ケイジ……」


『ケイ! まさか!?』


 ああ、間違いない。

 コイツは、俺の本名を知っている!!


「お前! 何処でそれを知った!?」

「うひ……うひひひ……」

「笑ってんじゃねェ!! 誰だ!? 誰からその名前を聞いた!?」


 俺の背筋に冷たいものが走った。

 なんだろう。

 なんだか現実へと引き戻されたかのような感覚だ。

 これまでの事を現実として認識していなかった訳じゃないのに、なんなんだこの恐怖は?


 コイツは一体、俺の何を知っている?


『ケイ! 落ち着いてください!!』

「うるせぇ! 答えろ!! お前は一体何を知っている!?」

『リ、リーダーどうしたの?』


 気ばかりが焦る。

 アルカ達の声が耳に入らない。


『ケイ!!』


 ボガンと、フェイスガードに覆われた頬の部分が、とてつもない力で殴られた。

 気が付けば、目の前にアルカが立っていた。

 今、俺を殴ったのはアルカか?


「アルカ……?」

『艦長である貴方を、正気に戻すという理由があったとは言え、殴りました。大変申し訳ありません』


 感情を無くした目でこちらを見つめ、ぺこりと頭を下げる。


「!!」


 その目を見た時、俺の中で違った恐怖が生まれた。

 いや、恐怖というよりは不安―――?

 かつて、デパートで親とはぐれた時を思い出した。何処か、遠い場所に置いて行かれたかのような不安と恐怖が俺の中を奔る。


「ア……アルカ、悪かった」

『む? ちゃんと正気に戻りましたか?』


 むくっと顔を上げたアルカは、いつものアルカだった。

 違う……さっき見たアルカは、わざとアルカが見せたものだ。アルカは機械じゃないんだ。いや、機械だけども、きちんと感情はある。

 アルカはここに居る。


「ああ、大丈夫だ。ありがとう、アルカ。ルークもすまないな」

『う……うん』


 なんだろう。

 敵に名前を知られたというよりも、アルカ達が離れて行ってしまうという恐怖が勝ったのか?

 何はともあれ、頭が冷えて少しだけ考えが回るようになってきた。


 すーはー。


 久しぶりの深呼吸。

 そしてフェイスガードを外し、両手で頬をパァンと叩いて気合を入れた。……痛ぇ。


「アルカ。コイツを生かして捕獲する事は可能か?」

『……難しいですが、やるだけやってみましょう』

「どうしても聞きたい事がある。正気を失っているなら、記憶を呼び覚ますまでだ。行くぞ、二人とも」

『『了解』』


 大仏……いや巨大フィアードはと言えば、ズシンズシンと大地を揺らしながら、こちらへ歩を進めている。

 姿を変えた時からもしや……とは思っていたが、今のアイツの身体はスライムのように軟体では無い。

 試しにファイヤーブラストを一発撃ってみたが、今までと違って効いた様子が無かった。


『やはり私と同じですか。身体の表面部分を硬質化しています』


 今の様子を見て、冷静にアルカが分析する。


「でも、熱に弱いっていう弱点まで克服してるってのはどういう事?」

『克服という訳ではありません。魔法によって、身体の表面を耐熱コーティングしているだけです』


 耐熱コーティングって……そんな魔力をどこから……と思ったが、アイツはコアを取り込んでいる。魔力の塊みたいなもんだったか。

 カオスドラゴンが黒い霧によって強固な防御力を持っていたのと同様に、アイツも反則的な魔法が使えるって事ね。

 ……相変わらずズルい。


 それでも俺たちは、室内を跳び回って様々な攻撃を試してみる。

 奴は見た目通りに動きは鈍重だが、瞬間的に身体の形を変える事で不規則な戦いを仕掛けてくる。逆に言えばその形を変えた瞬間が身体が脆くなる時でもあるのだが、本当に一瞬の為なかなか隙を突けない。


 ……仕方ない。

 まだ作ったきりで、テストとかしてないんだけど、アレを試すか。


「ルーク! キャンサービーストモードだ!!」

『えぇーっ!? だってアレ試してもいないんだよ?』


 無理難題を言いつけているのは分かる。

 それに、操縦するのはルークだもんな。


『ルーク頼みます。今必要なのは、貫通力です。表面に穴さえ開けば、後は私達がなんとかします』

『うー! 分かったよう!! キャンサー……ビーストモードッ!!』


 ガ●タンク状態だったキャンサーが、一瞬でいくつものパーツに分解。そして、空中で一瞬で組み替えられる。

 パーツを組み替えられた姿は、正しく蟹。

 シオマネキをモデルにしている為、右のハサミの形をした武器が巨大なのである。


 そう、この巨大なハサミに大きな特徴がある。


 ハサミの部分がグルグルと回転し出す。

 最初はゆっくりだが、次第に目で捉えきれない程の回転数となっていく。


 ドリルである。


 またしてもロマン武器の一つ。

 本格的なドリル武器はそのうち作りたいと思っているが、今はキャンサーにその用途を持たせた。


 キャンサーの動きを察知したのか、巨大フィアードは距離を取ろうとする。が、させない!

 100倍パワー全開でぶん殴る。無論、相手にダメージはほとんど無いが、動きを止める事には成功した。


「行けルークッ!!」

『おおう! キャンサードリルアターック!!!』


 巨大蟹がジャンプし、体勢を崩したままになっている巨人へと組み付いた。

 そして、超高速回転するドリルを、その胸へと突き立てる。

 キュイーン……ガガガガガガガガ……と、耳をつんざくような破壊音が轟く。

 とは言え、あれほどの硬度をもった巨人の体表は、なかなか貫けない。普通の金属ドリルだったとしたら、既にドリル自体が駄目になっているのではないだろうか?

 だが、残念ながらこちとら地球の金属で作られたドリルでは無い! アルドラゴの装甲と同様に、よく分からん謎の金属で作られた恐ろしいほどに強固な金属だ! この程度でダメになるドリルでは無いわ!!


 攻防は約一分。

 その間俺とアルカは、なんとか自分の胸からキャンサーを引きはがそうとする巨人の邪魔をしていたのだった。

 そして遂にその時が来る。

 今までガガガガガガと何かを削るような音だったものが、バキンと何かを砕くような音へと変わったのだ。

 ついに貫通したか!


『よっしゃー!!』


 ルークからも歓声が上がる。


『ケイ!』

「ああ、同時に行くぞ!!」


 俺たちは互いの右腕と左腕に取り付けたブレイズアームを近づけ、互いに同方向に炎を放出して火球を作り出す。

 本来は片手で作り出すものだが、両の腕で作り出す事で、精製スピードが速い。

 ものの数秒で巨大な火球が出来上がり、俺たちはそれを頭上へと掲げた。


「ルーク離れろ!!」

『あいよっ!』


 俺の言葉で、巨人に組み付いていた巨大蟹がバッと飛び退く。

 今だ!


『「プロミネンス……フレア!!」』


 俺とアルカは息の合ったタイミングで、火球をルークがドリルで砕いた巨人の穴めがけて放る。

 火球を傷口に直接押し込まれた巨人は、硬い体表の内部で大爆発を起こした。その衝撃に体表はピキピキとひび割れ、遂に完全に崩れ去ってしまった。


 ―――やり過ぎたか?


 と思って舌打ちしたが、全てが崩れ去った後、申し訳程度に残された小さな赤いスライムを見て、俺は心底ホッとしたのだった。




 スライムって何気に戦いを表現しづらい……。結構な難産でした今回の話。


 このイベントが終わったら、アルドラゴチームへと焦点を戻します。最近バトルばっかだったので、日常話を書きたくなった。

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