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54話 ヒュージスライム


「せ、先生……こんなもの、どうすれば……」


 学校の体育館程の室内のほとんどを覆い尽くす巨大なスライム。その光景に、唖然とした様子でミカが呟く。

 そう思うのも当然だわな。俺だって、こんなのどうやって対処したらいいか分からんぞ。


 えーと、スライムに対する有効な攻撃方法ってなんだ?

 例の国民的RPGのスライムはよく知っているが、あれっていわゆる雑魚的で、特殊な手段が無くとも倒せるもんだろ?


 とりあえず剣で斬ってみようか……とも思ったが、アイツ自身に近づくのは危ないぞこれ。なんというか、近づいたら取り込まれて終わりという感じがプンプンするぞ。

 この世界のスライムは、体内の水が強烈な酸で出来ていて、取り込まれたら溶かされて死ぬんだったか。さすがにそれはこのスーツがあっても、挑戦してみたいとは思えない。


 なら、定石どおりに遠距離攻撃だな。


「ファイヤーブラスト!」


 トリプルブラストを炎にセットして、火炎放射を放つ。ゴォゴォという炎に焼かれ、スライムが嫌がっているのが分かる。

 おお、弱点は炎か!?

 と、思ったものの、いかんせん範囲が広すぎた。炎であぶったところで、相手がぐにょんと身体を変形させて、その炙られている箇所を避けてしまえば終わりなのである。

 せめて室内全体を炎で包むようなアイテムや魔法が使えれば勝機はあるかもだが、現時点でそのようなアイテムは無いし、炎の魔法剣士であるミカもそこまでの魔法は使えなかった。


「こりゃあ逃げた方がいいかな」


 ようやくその判断に達する。

 こりゃあ、現時点じゃ高難易度の敵だ。でも、ゲームと違って別に無理して戦う必要はないのだという事にやっとこさ気付いたのだった。


「ミカ、出口を確保。そして、合図したらそのまま逃げろ」

「え? でも先生は……?」

「お前が出口を確保するまで、このまま注意を引き付けておく。で、お前が逃げたら、俺もすぐ逃げる」

「え? ま、まさか……一人で残る気じゃ……」


 あ……なんか勘違いしていらっしゃる。

 まあ、よくある場面ではあるよな。いわゆる「ここは俺に任せて先に行け!」の死亡フラグパターンか。

 ……そんなつもりは全然ないんだけど。


「いいから早く行け! でないと俺も逃げられない!!」


 そう言うと、ミカも観念したのか出口へ向かって走り出した。

 やった。これで俺も逃げられる―――


 と思った矢先、ポンポンッとスライムが、出口へ走るミカの前へと身体から何かを飛ばす。

 それは、自分の分体だった。

 出口の前に落ちた分体は、まるで人のような形となり、ミカ目掛けてうにょうにょと迫る。


 ミカはその分体に対して臆する事なく蛇腹剣で対応しようとするが、剣が伸びるよりも、分体の腕が槍のように伸びる方が早かった。


「え?」


 その槍は、ミカの脇腹を貫いていた。

 しかも、スライムの分体なだけあって、酸の効果もあるのか傷口が焼かれてシュウシュウと音と煙がしている。

 ミカを擁護するならば、あの程度の分体等、倒す事は容易かった。だが、このスライムはミカが今まで対峙してきたスライムとは根本的なものが異なっており、スライムがこのような攻撃をする等、全く想像すらしていなかったのだ。


「ミカっ!!」


 その様子を見ていた俺は、ジャンプブーツで加速してミカに駆け寄り、倒れかけたミカを抱きとめる。

 そして、分体をファイヤーブラストで焼き払った。

 すぐに傷口を確認。

 うげ……脇腹に丸い穴が空き、傷口はドロっと溶けている。ミカには申し訳ないが、なかなか直視するにはきつい光景だ。


「せん……せい……」


 ごぼっと血を吐き出した。

 もはや息も絶え絶えといった様子。くそ、俺のせいだ。俺が先に進もう等と言わなければこんな事には……。

 そこまで考えて、首を振る。

 そんな事今更考えてどうする。今は、ミカの命を救わなければ。


 俺はアイテムボックスから治療薬を取り出すと、半分を傷口に振りかけ、もう半分は口に含ませて強引に飲み込ませる。


「あ……あぁ……あああああ!!!」


 ミカの口から絶叫がほとばしる。

 アルドラゴに常備してあった治療薬はかなりでたらめに効果がある。なにせ、瀕死の状態であっても死んでいなければ息を吹き返すという代物だ。また、傷口に直接振りかける事で、急速的に傷口の修復を行う。身体の部位が欠損したというレベルの怪我でなければ、たちまち治してしまう。

 最も、傷の自動修復はかなりの痛みを伴う物らしいので、本来なら麻酔と併用しなくてはならない。

 だが、この場においては我慢してもらおう。死なないだけマシと思ってもらうほかない。


 さて、これで逃げるという手段もなかなか難しくなった。

 ミカはしばらく安静にしておいた方がいいだろうし、今抱えて逃げたりしたら傷口とか大変な事になりそうだな。

 で、今の俺のやる事なんだが……


「戦うしかないんだよな……」


 仕方ない。アルカ達が来るまであと数分。なんとか粘ってみるとしよう。


 俺は、ミカを出口付近に横たわらせると、うにょうにょうごめ巨大ヒュージスライムを睨み付ける。

 弱点は熱だという事が分かった。

 だったら、やってやろうじゃんかよ。まだ、使いこなせているとは言えないけど、新装備を見せてやる。


 俺がアイテムボックスから取り出したのは、全身を包み隠せるほどの巨大な盾だ。

 無論、盾として扱う事も出来るが、コイツの本来の用途はそれではない。


 俺は、その盾を二つに割る。

 それを両の腕に持つと、盾はガチャガチャと形状を変えて、腕そのものを包み込むガントレット……いや、アームへと変形する。


 傍目から見ると、両腕が倍の大きさになったようなアンバランスな姿に見えるだろう。

 でも、へんてこな見た目だと舐めるなよ。


《ブレイズアーム》


 その名の通り、火力に特化した武器だ。

 まずは、ヒートナックルモード。

 巨大な指の関節部分から、炎が噴き出していく。それを握れば、炎に包まれた拳の完成だ。


「まずは小手調べ……ブレイジングナックル!!」


 肩と肘にあるブースターからロケットエンジンが噴射し、その勢いを付けて俺の身体は弾丸の如きスピードで巨大スライムへと突進する。

 似たような技はタウラスに乗り込んだルークもやっている。……というか、ほぼ同じ技である。

 違いは……と言うと、こっちの技は当たった瞬間にその対象の表面へとエネルギーを付着させ、数秒後……俺が離れたと当時に―――


 ドゴォン


 と、大爆発を起こす。

 こちらも、特撮ヒーローからヒントをいただいた技です。あれです、ライ●ーパンチ。あれって殴った瞬間じゃなくて、殴って相手が倒れた所で大爆発するでしょ。

 殴った瞬間に爆発だったら、こっちが危ないからね。


「おお!」


 今の一撃で、スライムの身体が大きく抉れた。

 うし、これを連発すれば倒せるんじゃ―――


 と思っていたら、スライムの身体から槍のように尖った触手が次々と放たれる。

 咄嗟にアームを盾の形にして防ぐと、そのまま壁へと叩き付けられた。壁にめり込んだ俺目がけて、触手がガンガンと打ちこまれる。盾はびくともしないが、このままでは動けない。

 くそ、今のを連発させない為に数で攻めてきたか。

 でも……


「俺を……舐めんなよ!」


 ジャンプブーツを発動させて、俺は上へ逃げた。

 壁に沿って上へジャンプする俺目がけて、ズドンズドンと杭のように触手が打ちこまれていく。


 俺は、集中する時間を稼ぐため、壁を蹴って室内を縦横無尽に駆け回る。その俺目がけて打ちだされる触手だが、一度に出せる量には限りがあるのか、使っても4本同時までしか打ちこんでこない。でも、少ないとはいえ4本を避け続けるってのも結構大変だったけどな。

 その間、俺は手に炎のエネルギーを溜め、約一分後には直径5メートルはある巨大な炎の玉を作り上げていた。……元ネタは元●玉だ。


「プロミネンスフレア!!」


 タイミングを見計らって炎の玉を投げつける。

 これが当たれば、大ダメージは避けられまい!!


 が、次の瞬間俺は目を疑う事になる。

 炎の玉が命中する寸前、巨大スライムは真っ二つに分裂し、炎の玉を避けたのだ。


 え―――? そんなのアリか!?

 いや、スライムならアリなのか。


 避けたものの、炎の玉はそのまま壁へと直撃。爆風と熱によってスライムにも多少にダメージは与えられた。

 そして、俺が呆然としていた一瞬の隙だった。

 ロープのように細い触手が俺の足首に巻き付いた。


「何?」


 と思ったのもつかの間、俺の身体はビタンビタンと何度も壁へと叩き付けられる。

 痛みは無いが、衝撃は感じる。その間俺は身体を全く動かせず、まるでどこぞの遊園地のアトラクションに乗っているかのような感覚だった。……言っとくけど、俺は絶叫系は嫌いだから、全然楽しくない。

 最後に地面へとズドンと叩き付けられる。


「ちっくしょう、人を玩具みたいに……」


 それでもようやく終わりか……と思いつつ目を開いた。


「!!」


 地面に身体を埋め込んだまま天井を見上げていた俺の目に飛び込んできたものは、二つに分かれたスライムの一体が、俺に向かってボディプレスを仕掛ける姿だった。


「おいおいおいおい!!」


 避ける事は叶わない。

 俺はキッと目を閉じ、その衝撃に備えた。


 が、その瞬間はこなかった。


 ドドトォンという砲撃音によって、空中のスライムは攻撃を受け、その衝撃によって落下地点がそれたのだ。

 俺は、ちょっと横にスライムが落下した事を感じ取りながら、頬が緩むのを隠せなかった。


 くはは……粘った甲斐があったか。


 しっかし、前のカオスドラゴンの時といい、いっつもいいタイミングでアイツは!!


「おっそいぞアルカ!!」

『うっさいです! というか、この状況は一体どういう事なんですか!?』


 現れたのは、アルカ。

 そして、その隣に立つのは、巨大な二つの砲を肩に装備し、両腕にガトリングガン、そして足はキャタピラとまるでガ●タンクのような出で立ちの存在。ルークの持つもう一つのゴゥレムだ。

 名前は“キャンサー”


 はは。こいつ等が来たからには、今までのようにはいかないぜ。

 俺は床の中から這い出て、立ち上がった。


「そんじゃ、チーム・アルドラゴ……ゲーム、リスタートだ!!」




 今回ちょっと遅くなりました。

 先週仕事が忙しくて、その疲れが溜まっていたのか、展開はがっつり決まっているんだけど、しっかりとした文章が浮かばんのですよ。

 で、駄目だ! 休もう! とすっぱり諦め、土日はほとんど執筆出来ませんでした。今後も全然書けない日が出てくるかと思いますが、なんとか執筆は続けていきます。


 次話、バトルの方も決着です。

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