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53話 先生




 ミカとの即席コンビを組んで、しばらくが経ちました。

 あれだけ敵対心剥き出しだったミカさん。

 それが、どうなったかというと……



「チャンスだ! 仕留めろ!!」

「了解だ、先生!!」


 迫りくるアラクネとクロウラーの群れ。

 ダンジョンコアが近いのか、衛兵の数も大盤振る舞いである。


 まぁ、本気を出せば一掃するぐらい容易たやすかったりするのだが、せっかくだからと俺はミカの動きの方を見ながら戦闘をしていた。その際、色々と口を出し、その指示がなまじ的確だったもんだから、感銘かんめいを受けたのか以後ミカは俺の事を先生と呼ぶようになりました。

 嘘だろおい……という感じです。


 一応「先生って止めてくんない?」と言ってみたんだけど「先生は先生だっ!」と、頬を紅潮させて言い切ったのである。

 なんかね今まで師に恵まれなかった事もあってか、損得無しにこうやって教えてくれる存在が出来た事が嬉しいらしい。

 だけども、先生は止めてくれ。

 こちとら、戦闘経験で言えばミカの十分の一も経験していないぺーぺーなんすよ。アイテムだったり戦闘技能のインストールだったり、色々とズルしてチートじみた力持っているだけなんすよ。

 なんか、キラキラした憧れに近い目で見られていると、俺の心にグサグサ刺さるんす。

 ヤメテ―ミナイデー。


 とまぁ、苦悩に満ちた時間を過ごしていたのだが、今は多少は割り切っている。

 というのも、多分この子との交流も今日までだと思うし。基本的にレイジとしてはプライベートは完全ステルスだから、王都でばったりと……なんて事は無いだろう。

 こう考えると、なんか騙しているみたいで余計に申し訳ない。

 

 さて、この通路を抜ければいよいよダンジョンコアがある空間か。予想しているだけで、本当にあるかは不明なんだけども。

 あるか……といえば、あれからアルカからは予想通りに大変怒られました。


『え? 先に進んだ? 何考えてんですかあんた!?』

「すいません。いや、ショートカット出来そうな道筋を見て、ついやっちゃったというか……」

『どうせ、ミカさんの身の上話でも聞いて、同情したとかでしょ』

「なぬぅ!? ……お前、ひょっとして聞いてた?」

『こないだセルアさん達の時もそうだったじゃないですか! 大体ケイが得にならない事をする時は、そういう事なんです!』

「すいません」

『まったくもう……どうせなら、私達がそちらに帰還するまで、待っていてくれればいいのに』

「たびたびすいません」

『とにかく、でしたらゲートを使ってすぐにでも……』

「いや、ゲートは使うな。残りの魔力を考えると、あと一回だろ? だったら、帰る時に使いたい」

『むぅ。大丈夫ですか? 今の私達の足ですと、走ったら30分は掛かりますけど』

『意識だけの移動なら、すぐなんだけどね』

「万が一の時の為に、お前らの本体は必要だろうよ。とにかく、ゆっくり前進してるから、早い所合流頼むよ」

『はぁ……本当はじっとしていろと言いたいんですけどね』

「う~ん、隣がね。やる気満々なもんで……」

『焚き付けたのあんたでしょうに』

「重ね重ねすいません」


 とまぁ、こんなやり取りがありました。


 アルカ達がこっちに合流するまで、大体15分って所か。

 万全を期すなら、ここで待つべきだけど……。


「先生! 全て倒したぞっ!!」


 キラキラした目でこっちを見ている。

 ……駄目だ。少し待とうなんて言えねぇよ。


「この先に広い空間がありそうだ。ひょっとしたら、そこがコアのある部屋かもな」

「すごいな先生! やっぱり流れる空気とかで分かるもんなのか?」

「ま、まぁ……そんなようなもんだ」


 マップが見えるから……とか言えねぇ。……俺には言えねぇよ。

 その後も、なんか俺の事を色々と聞いてくるミカだった。なんだ? 俺の個人情報でも調べようというのか? 魔獣を倒した数や、交友関係やら、家族関係。果ては、今付き合っている女の存在だと!?

 居るかぁ!

 いや、この世界でそういうの作るつもりないだけだけどね! 負け惜しみじゃねぇからな!


「で、では、あの仲間の女性とはどういう関係なのだ?」

「あん? どういう関係? ……仲間は仲間だけど」

「い、いや……さすがにあれほどの美人なのだから、そういった関係であったりなかったりとか……」


 そういう関係? どういうこった。だって、アイツ見た目アレだけど人工知能だし。やたらと人間っぽいけど、人工知能だし。時々ドキッとする事はあるけども、人工知能だし。


「あいつは一番古くからの付き合いのある相棒だ。頼りになるし、居なくなると困る」


 そういうと、ミカはガーンといったような表情になった。

 え? 何かショックな事言った?


「居ないと困るか……私にとっての先生のようなものか」

「いや、俺居なくてもお前は困らないだろ」


 逆にアイツ居なくなると困るなぁ。ルークのやつもそうだけど、あいつ等に見捨てられたらどうやって生きて行けばいいか分かんないぞ。

 この世界に来て、9割がたあいつ等に依存して生きてんだからな。


「そんな……私は今先生が居なくなったら……」

「無駄話はその辺にしよう。着いたぞ」


 その空間に入ると、周りが一気に明るくなった。

 明らかに通路とは別の空間だなこりゃ。

 先ほど休憩した広場の倍近く広い。……ちょっとした体育館ぐらいあるんじゃないか?


 そして、その空間の中心に、それはあった。


 巨大な赤い魔石。……それが、ふよふよと浮いていた。

 聞いた話だが、魔力というのは本来無色透明。それが、魔石という塊となると、薄い青色……または緑色になる。それが黄色になり、更に赤くなると魔力が危険域に達しているとみなされるらしい。


 確かに、真っ赤な魔石なんて初めて見たな。

 俺のスーツもラインが赤くなると暴走するから、これもある意味暴走状態なのかね?


「これがコア……で間違いないよな」

「多分……。私も見るのは初めてだけど」


 まぁ、それ以外にないという存在感だ。

 しかも、なんかどどよんとした波動みたいなもんが出ている。これって、身体に悪そうだよな。地球だったら下手すると放射能とか感知できるんじゃねぇか?


「ぶっ壊す……でいいんだよな?」

「そういう試験……だからいいんじゃないの?」


 ブローガさんに聞ければいいんだけど、今居ないしな……あの人。

 なんか壊す前にやる事があるんだったら困るぞ。


「……まぁいいか。壊そう」

「わ、わかった」


 今更悩んでも仕方あるまい。壊す為にこのダンジョンに来たんだし。

 一応、ミカにやらせて何かあったら困るから、俺がやるとしよう。壊していきなり爆発とかしても、スーツがあれば大丈夫だろ。


「俺が壊す。危ないかもしれないから、部屋の入り口付近まで避難してろ」

「い、いや私が壊す! 先生におんぶにだっこのままじゃ駄目なんだ!」

「壊したらどうなるのか分かんないんだって。いきなり爆発とかしたらまずいだろう」

「ま、まずい……私に何かあったら先生は困るのか?」

「あん? そりゃそうだろ」


 誰だって怪我なんかしてほしくないに決まっている。

 特に、ついさっき犠牲者が出ているんだからな。


「だ、だったら一緒に―――」

「あ、別に剣で壊さなくても、離れた場所から壊せばいいのか」


 なんとなく、こういうのって剣で壊すっていうイメージがあるから当たり前みたいに考えていたけども、ここはゲームっぽいけどもゲームじゃないんだ。そんなセオリーなんて無かったな。


 という訳で、十分距離を取ってハンドバレットで……いや、これはさっきのバーンフィンガーの連続使用のせいでオーバーヒート気味だったな。しばらくは冷やさないと駄目だ。

 という事で、今日は活躍の場が多いトリプルブラストの出番だ。


「あ! それはあの時の魔道具!」

「ええと、ミカって炎の魔法使えるよな。それって普通に遠くから撃ったりとかも出来るの?」

「え? ああ、射撃の方はあまり得意じゃないけど、出来る事は出来るよ」

「んじゃ、せっかくだから一緒にやるか」

「い……いいいい、一緒に!!? な、なにを!?」


 なんか、やたらと声が裏返ったぞ。

 この子は一体何を想像したんだ?


「だから、少し離れた場所から、一緒に魔法撃つぞって話だ。これなら、二人でコアを壊したって事になるだろ」

「そ、そういう事か。そ、それでも、初めての共同作業って奴なんだな!?」


 ケーキ入刀みたいに言うんじゃねぇよ。

 さっきから思っていたけども、この子意外と頭がお花畑? なんか、こっちにやたらと突っかかってきた頃が懐かしいんですけど。……あれってちょっと前の話だろ?


「おい、一応ここは戦場なんだ。ちょっと真面目にやりなさい」

「わ、私は十分真面目なつもりなんだが……」


 こっちのキャラになってからというもの、やりづらい事この上ない。

 うちのルークほどじゃないけど、あまりにもキャラが変わりすぎだろう。……一体、どっちが素なんだか。


「いや……壊されたら困るなぁ」

「「!!!」」


 声がした。

 今まで、この場には誰も居なかった筈だ。


 俺は、ミカをかばうようにしてトリプルブラストを構えて前に出た。


 声の主は、ダンジョンコアから発せられていた。

 コアに、人の顔が浮かび上がっている。


 それは、見た事のある顔だった。


「お前は……フィアード?」


 確かそんな名前だった筈。

 ついさっき、俺達を裏切った男。そして、あの時体内の魔道具が発動した事で、自爆して死んだ筈の男だった。


「ど、どうなっているの? アイツ死んだ筈でしょ?」

「はっきりと死んだ所は見てないが、その筈だ」


 爆弾で死んだんだ。死体は残らないし、絶命する瞬間を見たという訳ではない。


 じゃあ、生きて……いた?

 いや、問題はそういう事じゃない。


 何故、コアに奴の顔が浮かび上がっているんだ?


「うひひひ。もう、お前たちに俺を殺す事は不可能だ。俺は、この強大な魔力と一つになったのだ!! 俺は無敵だ!! 最強なのだ!!」


 死ぬ間際と同じように、支離滅裂しりめつれつな事を叫んでいる。

 やっぱり本人なのか?

 それとも、幻影か?


「ど、どうする先生!? 戦うのか!?」


 どうするってこっちが聞きたいわ。

 くっそ。なんで、こんなイレギュラーな事ばっかり起こるんだ。

 こないだは、ただのワイバーン退治がカオスドラゴン退治になったし、今回はBランク試験がこの有様だぞ。確実に誰かの悪意を感じるな。


 それにしても、あいつは何だ?

 コアにフィアードの顔……。まるで、奴の意識がコアへと入り込んだみたいだ。

 アルカ達が魔晶へと意識を移して、それを本体としたような……。そんな事が人間にも可能だってのか?


 ―――ん?


 ふと、一つの仮説が思い浮かぶ。


 魔獣とは、魔力の塊である魔石、それと魔族の残留思念によって生み出される。

 だが、人間が魔獣となる場合もある。グールやスケルトン等のアンデッドがそれだ。


 ひょっとして、これもその一種なのか?

 死んだ人間の残留思念が、魔石と重なり合って魔獣と化した。


 問題は、その魔石がダンジョンコアというとんでもない代物だったという事だが。

 ダンジョンコアがフィアードの残留思念を吸収したことで生まれた魔獣……それが目の前の存在?

 って、そんな事あり得るのかよ!?


「うひひひひ。死ね死ね死ね。俺の邪魔をする奴等、全員死ね死ね死ね死ね……」


 コアが爆風と共に一気に膨れ上がる。

 まるで赤いゼリーのように半透明なそれは、室内の三分の一程を覆いつくす。


 たゆんたゆんと波打つ身体。

 それをあえて魔獣の名前で現すならば、スライム。

 ただ、あまりにもでかすぎる。ここまで巨大なスライム等、ゲームでもなかなかお目に掛かったこと無いぞ!

 しかも、巨大な目みたいなものがいくつもついてやがる。言っておくけど、あの国民的ゲームに出てくるスライムみたいな愛らしい目じゃないよ。リアルなバッチリとした瞳だ。しかも、赤い色のせいか、なんか血走って見える。……気持ち悪い。


 ええと……マジで俺らだけで戦わなくちゃダメ?


 なんで、あの時アルカを待たなかったのかと、俺は心底後悔するのだった。




 今回のイベントボスは、ヒュージスライム。

 ケイは、今の装備で果たして太刀打ちできるのか……。


 そして、心を開いたミカはちょろインだった? こちらもケイはどうやって立ち向かうのか……。

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