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52話 「炎姫ミカ」




 さて、困った事になった。

 密室に、美少女と二人きりである。

 本当に、俺の感覚から言って十分美少女な顔立ちの子である。別にハンターでなくとも仕事あったんじゃないかと思う。……顔の傷もあるし、色々と事情があったんだろうな。


 もしこれが地球での出来事だったとしたら、吊り橋効果的に何か色事に関するイベントを期待したかもしれないが、ここ異世界である。

 異世界だからって羽目外して、ハーレム作ったりとか、R指定な事とかやろうとは思っていませんから。期待している皆さま、申し訳ございやせん。

 ……って、誰に対して言ってるんだかな。


 今の状況を整理してみよう。

 現在、手足は伸ばせる程の空間は確保してあるものの、生き埋め状態である。

 ミカ嬢はまだ意識を失っている。

 他の面子の安否が分からん。

 あと、多分このままだと空気が無くなる。


 ……まぁ、空気に関しては問題は無い。

 このスーツ、真空や深海でも活動可能な機能があります。よって、シャキーンとフェイスガードを装備すれば、簡易的な酸素マスクに早変わり。

 これと緊急用のヘルメットも備え付けられている訳だが、ヘルメットは今の所必要ないので出してません。

 一応予備の簡易マスクもあるから、ミカ嬢が目覚めたら貸しましょう。


 そう思っていると、ピピピとバイザーから音がする。

 さては……と期待すると、その期待を裏切らない相手から通信がありました。


『ケイ、無事ですね』


 アルカさん。やっぱり頼りになる方です。


「待っていたぞアルカ! それで、そっちは無事なのか?」

『私は今セージさんと一緒ですね。爆発の際近くに居たので、守りました』

『僕はブローガさんとドルグさんと一緒だよ。この二人だけちょっと離れていたから、土に埋めて守った』


 ルゥからも通信が入る。おお、という事は全員無事か。

 ……チーム・バサラの奴ら以外は。


『む? という事はミカさんはケイと一緒という事ですか?』

「そ、そうなりますね」


 何故か敬語になってしまったぞ。アルカの声からは変な圧力を感じた。


『くれぐれも、変な事をしないように気を付けてくださいね』

「変な事ってなんじゃあ! そもそもお前、俺がそんな事する奴だと思ってたんか!!」

『……それもそうですね。ヘタレのケイにそんな事出来ませんよね』

「誰がヘタレか!」

『ふんだ。この世界に来て、どれたけ一緒に居たと思ってんですか』

「うぐぐ……」

『……リーダーとお姉ちゃん、仲良くて羨ましいなぁ』


 そんな不毛な会話をしつつ、通信は終わった。バサラの連中が死んでしまったという事実に気づいた事で、ちょっと気持ちも沈みがちだったんだが、今のやり取りのおかげで少しは持ち直したか。

 あるいはそこもアルカの計算か。

 やがて、ミカ嬢が目を覚ましたようだ。


「う……うん。……く、暗い!? 何処ここ!?」


 おっと、俺はゴーグルのおかげで視界はクリアだが、彼女は普通の目だったな。

 と、思っていると、ミカ嬢が手に炎を作り出して辺りがぼやあっと明るくなる。


「「あ」」


 バイザー越しであるが、目が合った。

 途端―――


「キャアァァァァァァァァァァァッ!!!」


 甲高い絶叫が狭ーい室内に響き渡った。

 うんまぁ、バイザーとマスクで顔隠した男が闇の中で目の前に居たらそうなるよね。

 とりあえず絶叫が終わったと思ったら、俺はまずバイザーを額にあげて顔を見せた。


「落ち着け、俺だ俺」

「へ……あんた、レイジ?」


 俺と認識して一旦は正気に戻ったものの、


「お、落ち着けるか! こ、こんな暗い所で私に何するつもりだ!?」


 なんか泣きそうな顔で身体を両手で抱きしめるようにして縮こまっている。


 ああ……うん、女の子だもんね。

 そういう心配するよね。

 俺としてははなはだ心外なんだが。


「いや、別に何もする気ないし。……つーか、君が意識を失う前に最後に覚えている事って何?」

「え? た、確かアンタが斬りつけられて、でもしばらくして起き上がって……」


 ああ、インパクトが強いのはそこなのね。

 ある意味軽くホラーだもんな。


「あ……。確か、あの時爆発が起きて―――」


 ようやく思い出してくれました。


「ここは……? セージやドルグは?」

「ここは、俺が仮で作ったシェルターみたいなもんだ。まぁ、傍にいたのが君だけだったから、慌てて引き込んだけども。それで、他の奴らは全員無事。そこは安心してくれ」

「え……これって土? ひょっとして、私たち生き埋め?」


 俺の言葉には答えない。

 どうも、必死で頭を整理している状況らしいな。まあ、そう簡単に受け入れられないと思うけど。


「と、とりあえず、アンタが助けてくれたのよね。……ありがと」


 ようやく整理し終えたのか、こちらに対して礼を言ってきた。一応、こちらが助けたのだと理解はしたか。……最後のありがとはすんごい小さな声だったけども。


「それでも、どうすんのよこれ。今、私たち生き埋めなんでしょ? ……けほっけほっ」


 む。少しずつ息苦しくなってきたか。

 まぁ、狭い空間だし、しかも火を使って灯りにしているんだから、酸素の消費も激しいわな。

 俺は、アイテムボックスから口にカポッと取り付けるタイプの酸素マスクを取り出し、ミカ嬢へと差し出した。


「これを口に当てろ。呼吸が楽になるはずだ」

「けほっ。な、何よ……私に何するつもりよ。ひょっとして、この息苦しいのもアンタの……」


 どんだけ警戒心強いんだよ。

 ……うん。このままじゃらちが明かないから、ちょいとびびらせよう。

 俺は、バイザーを下して戦闘モードを展開した。

 ボンッという音共に、筋肉が多少膨れ上がり、俺から発せられる圧力が増す。それと、バイザーが上下に展開して内蔵されているカメラが見えるようになる。

 このカメラ人間のように二つではない。……モノアイである。つまり、地球連邦軍よりはジ○ン軍なのである。ザ○とは違うのですよ、○クとは!

 まぁ、サイクロプスのように単眼なので、これでギロリと見られると、かなりおっかない。

 事実、ギロリと睨んだらミカ嬢はビクッと身体を震わせた。


「いいからこれを口に当てろ。じゃないと死ぬぞ」

「わ、わかったわ」


 しぶしぶといった様子で酸素マスクを受け取り、口に当てる。横にあるスイッチを押せと言ってやると、スポっと自動的に口元が覆われる。


「!!」


 モゴモゴと言って慌てているが、やがてシュウシュウと酸素が出だしたようだ。


「な、なにこれ……。一気に楽になったわ」

「それなら何よりだ」


 今度は、バイザーに備え付けのライトを点灯。

 車のヘッドライトみたいで、辺りが一気に明るくなる。


「ひ、ひぃっ! 何それ!?」

「ライトだ。いちいち驚くな。それと、もう火は消してくれ」

「は……はぃ」


 とりあえず、強めの口調で言えば、気圧されたのか態度が弱くなる。

 どうも、強がっているだけみたいだな、この子。


 さて、とりあえずの危機は脱したけども、これからどうするんだこれ。




◆◆◆




「あ、ありがとうございました。まさか、貴方のような可憐な方に命を救ってもらうとは……」

『いえ、たまたま近くに居ただけですから、お気になさらずに』


 とはいえ、爆発の衝撃でセージさんに結構なダメージがあったようです。

 本人は治療薬ポーションがあるから大丈夫だと言っていますが、治り方が弱いですね。明らかに、私達の艦にある治療薬より質が悪いです。

 でも、私とルークはこういった治療系のアイテムって持っていても意味が無いので、持参していないのですよね。ですので、助けてあげる事はできません。

 ううむ、ちょっと心苦しいですね。


『あ、お姉ちゃん。このダンジョンの状況が分かったよ。今、マップを転送するね』

『ありがとうルーク』


 今まで、ルークには土魔法を使って今私達が取り残されているダンジョンをマッピングしてもらったところだ。

 さすが、土の魔晶を本体にしている事もあってか、ルークはこういった事は私よりも得意ですね。


 さて……マップを確認したところ、崩落しているのは私達が休憩していたドーム状の広場とその付近といった所ですか。全体が崩れていなくて助かったようですね。

 そして、私達の状況は……と言えば、

 まずケイとミカさん。

 続いて私とセージさん。

 そしてルークとブローガさん、ドルグさん。

 大体均等な距離で埋もれていますね。全員、何かしらの方法によってシェルターを作ったおかけで助かっていますが。


 ふむ……正直、私とルークだけなら何の問題も無いんです。

 このまま意識をパッとケイのバイザーに備え付けられている端末へと移動すればいいだけの問題なのですから。

 でも、セージさんをこのまま見殺しにするという訳にもいきませんし……。下手に、消えるところを見せるのも問題がありますよね。


『という事で、見捨てるのは駄目ですよね』

「ダメに決まっとるわ!! なんとかして助けなさい!!」


 相談してみたら、予想通りの返答がきました。


『むぅ……仕方ありませんね。この際、一度ダンジョンの外まで避難しますか』

「まあ、ここを脱出した所で、魔物の巣窟である事は間違いないもんな。大怪我している奴を放っておくわけにもいくまい」

『状況が状況ですから、一度帰還しても問題は無いでしょう。まずはルーク、私の所まで来てもらえますか?』

『ん? リーダーじゃなくてお姉ちゃんのとこでいいの?』

『貴方は分からないと思いますが、人間というのは酸素が無いと生きていけないのですよ。ケイには酸素マスクがあるから良いですが、私達が助けた方たちは皆そろそろ限界でしょう』

『うん。かなり苦しそう』

『ですので、まずは私と合流して、ゲートの魔法で他の方達を避難させましょう』

『え、あれって見せてもいいの?』

『こうなったら構いませんよね、ケイ』

「あぁ、しょうがないな。まあ、あれについては魔法だし、特に見られて問題があるという訳でもないしな」


 よし、ケイからも了解を得た。

 ゲートの魔法はかなりの魔力を消費するので、あまり何度も使えない。緊急用にもう一回分は残しておくとして、一度ダンジョンの外へ出るのに使用したら、後は走ってここまで駆けつけなくては。ルークの治癒魔法も、ここは節約してもらいましょう。

 まぁケイの方は今のケイでしたら、しばらく放っておいても問題ないと思いますけど。

 ……異性の方と狭い空間に二人きりというのは、なんとなく不愉快なんですけどね。えぇ、なんとなく。


『それではルーク、お願いしますね』

『わかったよー』




◆◆◆




「脱出の目途は立ったようだ。まず、セージのダメージがでかいようだから、先に避難させるらしいぞ」

「え、セージが? 大丈夫なの?」

「爆発の時、近くに居たらしいからな。まあ、アルカが一緒だから大丈夫だろ」


 俺の言葉にミカ嬢はほっとした顔を見せる。


「はあ、なんかモゴモゴ言ってるなと思っていたら、仲間の人と喋っていた訳ね。それも魔道具ってやつ?」

「まあ、そんなようなもんだ」


 遠い宇宙の彼方で作られたオーバーテクノロジーアイテムです!

 とは言えないよな。

 もう、不可思議な力で動くアイテムだと認識してもらえたらそれでいいよ。


「はぁ……なんかもう本当に規格外なのね。アンタ……いや、アンタ達か。なんか嫉妬していたのが馬鹿みたい」


 あぁ……嫉妬していたんすか。

 なんかこういうの聞くと申し訳なくなってくるな。


「……私ね、12歳でハンターになってそれなりに苦労してきたんだ。幸い、炎を操る事には長けていたから、仕事自体は比較的こなせていたけど。

 でも、アンタも知っていると思うけど、こんな性格でしょ? 他のチームに入ってたこともあるけど、大抵喧嘩して脱退。

 協調性が無いっていうから、なかなかランクも上がらなくて……」


 あ、なんか身の上話始まってしまった。

 こんな状況だし、仲間とはぐれた事もプラスしてメンタルやられてしまったか。

 しゃあない、聞き役に回りましょう。


 言葉は濁していたが、どうも結構なセクハラもあったようだ。

 まぁ、見た目は結構な美少女ではあるしな。

 戦い方を教えてやる代わりに、夜は自分の部屋に来いとか、そういった事もあったらしい。

 ……聞いてるだけで腹立つな。


「色々と自暴自棄になっていた時かなぁ、セージ達と会ったのって。

 最初は、なにこのケーハクな男? と思っていたけども、まぁ中身は結構紳士的な奴だし、あまり内側にぐいぐい入ってもこないしで、割と居心地良かったんだよね。……こんなことになって初めて実感したけれども。

 あ、言っておくけど、恋心とかとはちょっと違うからね。異性としては、アイツに惹かれる要素ないし」


 地味になんかひどい言葉。

 うん。まぁ俺もセージはもっと軽薄なナンパ野郎かな? と思っていたね。

 話してみたら普通の好青年風? ただ、なんかハンターのイメージと違うかなという気はするけど。


「自力でBランクになれば、誰も文句は言わない……言わせない。その一心で頑張って来たのに。だから……せっかくのBランクになれるチャンスだったのに。色々と台無しになっちゃったのがなんか寂しいな。それに、なんか申し訳ない」

「別に君のせいじゃないよ」

「それでも、私がアンタに対抗心とか燃やしたせいで、変な事になっちゃったでしょう。もっとちゃんとやっていれば、アイツ等の事だって見抜けたかもだし」


 いやいや。それこそ、たらればの話ですよ。

 誰が、こんな変な事態に巻き込まれるのか想像できるかってんだ。


 それにしても、Bランク試験ね……。

 このまま帰ったら、試験自体の取り消しは間違いないだろうな。

 う~ん。元々試験に対しては、乗り気という訳でも無かったんだけど、こういう話聞くとなんとかしてやりたいとか思っちまう。


 とは言え、今の状況に置いて何が出来ると言うのか。


 ……おりょ?

 ルークがくれたマップを確認した見た所、俺達が今いる場所、これをちょっと横に進めば通路に出ね? しかも、その先にあるのはこのダンジョンで一番でかい空間。


 ひょっとして……これが、コアのある場所じゃね?


 なんか、普通に行けばまだまだかかる道筋だけども、実はショートカット出来ちまうっぽいよ?


 うああ……気づかなかったら良かった。

 気づかなかったら、このままアルカ達の救出を待って、それで終わりだったじゃんよ。


 でも、なんとか試験の方もクリア出来る方法思いついちまったよ。

 思いついた結果が良い事なら、やった方が良いよな。


 仕方ない。

 やるか!


 俺は、右手のハンドバレットリングにエネルギーを溜める。

 そして、その溜めたエネルギーを、土壁へ向けて放った。


「バーンフィンガー!!」

「えっ! なに!?」


 突然の叫び声と土を破壊する音。

 ミカ嬢はすっかり少女に戻ったように、身体を縮こまらせている。


 一度では穴が貫通しないか、ならもう一度……。

 二度でも無理か。

 三度……四度……

 五度目のバーンフィンガーによって、ようやく通路の穴が貫通した。


「ふぅ……」


 まだちょいと息苦しいけども、ちゃんとした空気だ。

 俺はフェイスガードを外し、その通路へと出る。


 特に今までと大きく違うところのない薄暗いトンネルだ。

 でも、マップを確認したところ、この先にはダンジョンコアが存在する……と思う。


「え……通路? 助かったの?」


 恐る恐るといった感じでミカ嬢は顔を出す。

 さて、すっかり歳相応の少女に戻っているミカ嬢だが、果たしてどうなるかな?


「おいミカ、自由の身になってこうしてダンジョンへと戻ってきたわけだが、どうする? 救助を待って仲間の元へ戻るか? それとも、俺と二人でダンジョンを進むか?」


 あ、ミカとか呼び捨てで呼んじまった。

 まあ、こういうのは場の雰囲気とノリだな。


「え? 進む? 私達二人で?」

「戻ればBランク試験は終わりだ。だが、俺達二人だけでコア破壊すれば、昇格できる可能性もあるぞ」

「え……」

「どうする? 俺はお前の判断に従うとしよう」


 ミカ嬢……いや、ミカの目にハンターとしての輝きが戻ってくる。

 いいぞいいぞ。どうやら、やる気だな。


「行く。私は絶対にBランクになるんだ」


 あぁ、焚き付けたのは俺なんだけど、やる気なんだ。

 ちょっとした後悔はある。……後で絶対アルカに怒られるなこれ。


「よし。そんじゃ即席コンビの誕生だな」


 俺がミカへ向けて拳を向けると、ミカはそれをゴンッと拳で叩き返してきた。

 さて、覚悟を決めた以上はやるか!




 また今回も長くなった。

 もう、一話あたりの文字数を4000~7000にしようかなと思っている今日この頃。

 まぁ、ここまでの話数になったら、気にしないのが一番かな。

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