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51話 襲撃


 あの頭の悪そうなチーム……なんだっけ……ええと、チーム・バカラ(注:正解はバサラ)だったか。

 そのチームが先頭に立って小一時間が経過した。

 あのチームは、アルドラゴや自分達チーム・炎獣のように特殊な方法で敵の感知が出来ないから、ダンジョン内の進み方が非常に遅い。

 ちょっと進む度に、アルドラゴのリーダーであるレイジに、そのヘッドギアを貸してくれとか言っているが、貸すわけがないだろう。自分の命を預ける商売道具を、簡単に貸す馬鹿がどの世界に居る。当然断られ、しぶしぶダンジョンの探索に戻るのだ。

 それにしても、一般的なハンターの探索方法が、こんなに面倒だとは思わなかった。今まで戦いに関係ない事はセージ頼りだった訳だが、少しは感謝した方が良いのかもしれない。


 それにしても、最初こそ全く隙が無かったレイジであるが、こうやって探索が長引くにあたってだんだんと疲れた様子を見せるようになった。

 そろそろチャンス到来と言えるのかもしれない。……さて、どうやって襲い掛かるか。さっきからずっとシュミレーションしているのだが、殺さずにそこそこな怪我で済ませるという制約があるせいで、なかなか難しい。

 やっぱり、後ろから素直に切りかかるか。あっちも素人じゃないんだから、即座に防御するなりなんなりするだろ。


「なぁレイジ君。もう少し進むと、少し開けた場所に出るみたいなんだよね。少しそこで休憩とかどうだろう」


 風魔法で感知したのか、セージがチーム・バカラの面々に聞こえないようにそんな事を提案した。


「そうだな。そこでいったん休憩にするか」


 ナイス、セージ!

 休憩時間なら、気も緩みまくっているだろうし、絶好のチャンスとも言える。

 さぁて、どうやって鼻っ柱を叩き折ってやろうかしら。


 ぐふふとミカは含み笑いをすると、今か今かとその時を待ったのだった。


「それじゃ、ここで10分ほど休憩でもしようか」


 しばらく歩くと、セージの言う通りドーム状に開けた場所へと出た。

 レイジのその言葉に、チーム・バカラの男たちが以前来た道へとささっと戻っていく。どうしたのか? と疑問に思っていたら、


「小便じゃろ」


 と、納得のいく答えが返って来た。

 さて、レイジは?

 見ると、キョロキョロとあたりを見渡して、自分もチーム・バカラの後を追って歩き出した。

 チャンス到来!

 ミカは、殺気を消してレイジの後ろへと忍び寄っていた。他のメンバーには通告済み。アルドラゴのメンバーには、この位置からは見えない。

 さぁ、傲慢な自分を恥じるがいい!!


 剣モードの蛇腹剣……炎蛇を構え、レイジ目掛けて振り下ろす。


 サッ


 後ろを向いたまま、レイジは僅かに身体を横に移動させて避けたのだった。


(―――え?)


 今の光景が信じられないミカは、ただの錯覚だと思い込み、もう一度今度は横一文字に剣を振るった。

 それを、レイジはおじぎをする形で身体を屈め、避ける。


「くっ!!」


 慌てたミカは後ろへと飛び退き、今度は炎蛇を分裂させ、乱れ打ちを放つ。

 不規則な動きで放たれる炎蛇だが、レイジはそれを後ろを向いたまま両の腕に取り付けたガントレットだけで全て受けきったのだった。剣が弾かれるたびに、キィンキィンと甲高い金属音が響く。


「嘘……でしょ」

「もういいかな?」


 呆然とするミカに、どこか憮然ぶぜんとした口調のレイジが尋ねた。


「一応、素手で対処しておけば、魔道具ありきの実力だ……とか言われる事も無いかなと思って」

「……気づいてたの?」

「まぁね」


 何処か気まずげに目をそらし、ポリポリと頭を掻くレイジ。


(何なのよそのオチは? 結局、魔道具に頼らなくても素で強かったって話?)


 勝手に勘違いして、怒って、八つ当たりして……これじゃただの醜い嫉妬じゃないか。

 ミカは自己嫌悪で涙が出そうになった。


「ええと、気は済んだかな?」


 レイジの言葉に、ミカは黙ったまま背を向けて、場を去ろうとした。

 その時……


「いいや、済んで無いね!!」


 この場に居なかった筈の男の声が響く。

 声と共にボゴッと地面から飛び出てきたのは、チーム・バカラ……いやバサラの男の一人だった。男は飛び出した勢いで、手に持っていた剣でもってレイジの身体を斬りつける。


「ぐあっ!?」


 レイジの身体は吹き飛び、そのままうつ伏せになって倒れる。


「なんじゃと!?」

「レイジ君!?」


 ドルグとセージの声が背後より聞こえる。


 え―――?

 一体何が起こったの?


 ミカの頭の整理がついていない状況の中、男は倒れたままのレイジへと駆け寄り、傍に落ちていたレイジの魔剣を手に取る。


「ふははは。やった……コイツさえあれば、俺は無敵だ!」


 魔剣を掲げ、男は高笑いをした。

 呆然としているミカの前へ、ブローガが進み出る。


「チーム・バサラの一人、フィアードだったか。お前、自分が今何やったか分かってんのか?」


 ドスの利いた声で、一歩……また一歩とフィアードとの距離を詰めていく。


「ははは。もうアンタなんか怖くないね。こっちには、何でも斬れる魔剣があるんだ!」


 剣先をブローガへ向け、血走った目で睨み付ける。

 つまり、この魔剣を手に入れる為にこんな行動を起こしたと言うのか? 意味不明だ。その魔剣を手にしたとして、実力だけで言えばAランクに届くブローガに敵う筈もないだろう。それとも、そんな事も分からないほどの馬鹿なのか?


「聞きたいことは山ほどある。まず、その穴はどうやって開けた?」

「へへ。魔道具を持っているのはコイツだけだと思うなよ。俺にも魔術の心得はあってな。少しだけなら土魔法を扱えるのよ。それを、この魔力を増幅させる指輪を使えば地面をこっそり掘り進むくらい出来るんだぜ!」

「他のメンバーはどうした?」

「はぁぁ? あんな奴等もうどうでもいいさ。俺はこの剣の力で一人でAランクになってやるんだ!」

「その指輪、一体何処で手に入れた?」

「はぁぁ? そんなの何処でもいいだろう。コイツは……あれ? 俺、何処で手に入れたんだっけかな? ……んがあっ! そんな事どうでもいい! 消えろ!!」


 フィアードは、自分の言葉に混乱してしばし頭を抱えていたが、やがて開き直ったように叫び、ブローガ目掛けて魔剣を振り下ろした。

 が、その振り下ろした魔剣は、ブローガの腕にある手甲によって受け止められた。


「……あれ?」


 この現実が信じられないかのように、フィアードは目を点にして唖然としている。

 あのアラクネの鋼殻を切り裂いたのだ。鋼で出来た手甲など、切り裂けぬ筈がない。なのに、実際に切り裂けはしなかった。

 ミカは、その刀身に何の熱も感じ無い事に気づいていた。どういう事だ? あの赤い刀身になる為には、何か必要な事があるのか?


「……んん。こりゃ駄目だな。レイジ、もういいぞ」

「あいよ」


 バリリ……


 そんな音が響いたかと思ったら、突然今まで喋っていたフィアードの身体がビクビクッと痙攣し、その場に倒れ伏した。

 そして、今まで倒れたまま動かなかったレイジが起き上がる。


「―――え????」


 ポンポンと身体についた土を払う様子からは、ちっとも怪我を負っているようには見えない。

 それに、レイジの手には奇妙な筒のような物が握られている。


 ……どういう事?




◆◆◆




 ブローガさんとうちのチーム以外の奴等は見事引っかかってくれたみたいだ。

 オーケーオーケー。

 俺の演技力って、実は捨てたもんじゃなかったり?


『ただ倒れていただけじゃないですか』

『うん。あの…ぐあっ!…っていうのはちょっと安っぽかったかな』


 うるさいよ。

 とりあえず、チーム・炎獣の皆さんはポカンとしてこっちを見ている。それだけでも良かったさ。


 さてさて、種明かしの時間でございます。


 時間はちょっと巻き戻って、ヒャッハーチーム……いや、チーム・バサラが先頭に立って、俺がミカ嬢の襲撃がいつ来るのか怯えていた頃……。


「で、いつ決行するんだよ」

「焦るな。先に調べた情報によると、しばらく歩いた所に開けた場所に出る。そこで休憩でもとらないか提案してみよう」


 バイザーに備え付けられている集音マイクが、そんな会話を拾ったのだった。

 声の主は、前方を歩くチーム・バサラ。

 かなり小声で喋っているが、俺の耳には筒抜けであった。


 決行とか、なんじゃらほい。

 気になって、ちょいと意識を集中してみた。


「俺としては、あの魔剣が欲しい。あれさえあれば無敵だろ」

「まあ、ブローガ対策として、確保はしておきたいな」

「元々の目的を忘れるなよ。俺達のするべき事は、“奴”の確保なんだ」


 おいおい。随分と物騒な話してんな。

 魔剣を確保って、俺のヒートブレードの事かよ。う~ん、これって万が一誰かに奪われた時対策で、俺の生体認証が無いとまともに動かない機能になってんだけどな。


 それにしても、気になるのは“奴”ってのは誰かってことか。

 他にも言葉を注意して聞いていたが、具体的な名前は出さなかった。


 ……こりゃあ、ブローガさんに相談物件だな。




「マジか。こりゃあ、面倒な仕事引き受けちまったな」


 雑談している風を装って、早速相談してみた。


「ギルドの方でも、なんであの馬鹿どもがBランクの認定試験を受ける許可が出たのか気になっていたんだと。どー考えても器じゃねぇだろ」

「え? ギルドが決めたんじゃないの?」

「決めたのはギルドだが、ここ最近の奴等の戦績がやたらよくなっていたらしい。後、奴等に依頼をした貴族からの後押しがあったりな。

 ……こりゃあ、下手したらそっちがらみか」


 貴族がらみ?

 うわーめんどくせぇ。今すぐにほっぽりだして逃げたい気分。


「気になっているのは、やっぱり“奴”って表現だな。順当に考えれば、お前らのチームか炎獣のチームの誰かか」

「貴族っていうと、俺達に変なちょっかいかけてくる奴はいるって話だからな。やっぱり俺たちかな?」

「ただなー。それにしちゃリスクがでかい。あの馬鹿どもはハンター資格は剥奪だろうし、その貴族だってギルドを敵に回す事になる。今のお前たちに、そこまでの価値あるかね?」

「アルドラゴの事とかいろいろバレていたら、分かんないけどな」


 俺が異世界から来た事や、カオスドラゴンを倒した事を知っていたとしたら、それだけのリスクを冒す価値もあるかもしれない。

 ただ、これまで慎重に動いてきたし、バレているとも思えないんだよな。


『ケイ……もしかしたらですが、ファティマさんが話していた、例の魔神に関係がある可能性は?』


 アルカの言葉に、俺はこの世界に来たばかりの時の事を思い出す。

 そうか、すっかり忘れていたけど、そっち方面の事情という可能性もあるのか。

 俺達が異世界に来る羽目になった原因の一つ、魔神の存在。そいつがもし暗躍しているとしたら……


「アイツ等を尋問とかしたり出来ないかな?」


 ブローガさんにそう提案してみた。


「尋問……か。今のところ、お前さんが盗み聞きしたってだけだろ? それだけじゃさすがに弱いな」

「じゃあ……とりあえず奴等の計画通りに進めてみようか」

「計画通りって、お前が襲われる確率が高いぞ―――って、まぁお前なら大丈夫か」


 よく分かってらっしゃる。

 いち地球の高校生としてはおっかないけども、この世界で結構な死線を潜り抜けた男としてなら、そこそこな自信はあるのだ。

 人間、変わるもんだなぁと他人事のように実感した。




 そして、今に至る。

 ミカ嬢に関しては、事情を話す訳にもいかんから、ちょいと利用させてもらった。俺の意識がそっちに向いていると思われれば、その隙を狙ってくるだろうと思ったからな。

 ちなみにだが、いくら俺でも後ろから狙われたらどうしようもありません。なので、避けるタイミングはアルカ任せでありました。ミカ嬢申し訳ない。なんか泣きそうな顔になった時は、ものすっごく心が痛みました。すいません、ごめんなさい。

 その後、フィアードに剣で斬られたのはガチですが、スーツの力もあって全く痛みとかはありません。


「さて、捕まえたはいいが、こりゃあ洗脳系の魔法か? 頭けっこうやられてるぞ」

「なんか言葉が支離滅裂しりめつれつだったもんな」


 フィアードであるが、現在はルゥの土魔法によって四肢を拘束されている。こいつも土魔法が使えるって話だったから、逃げられるんじゃないかと思ったけども、アルカの話によるとコイツは魔力がほとんど残ってないらしい。

 どうも魔力増強の魔道具の副作用で、一度使ったらしばらくは魔力が枯渇するんだとか。便利なんだか不便なんだか。


「あ、あの……ブローガさん。一体どういう事なのか教えてほしいんですけど」


 セージが恐る恐るといった感じで尋ねて来た。


「ああ、説明するのはいいんだが、その前に他の奴らがどうなったのかを調べなきゃな」

『その事なのですが、ブローガさん』

「あん?」

『チーム・バサラの他のメンバーでしたら、既にルゥが捕獲してあります』


 アルカの言葉に、ルゥがえへへ……と笑みを浮かべる。

 マジか!? 指示していないというのに、やるなルゥ!


「はぁぁ~!! やるな嬢ちゃん達。出来る仲間を持ってんなぁ、レイジ!」


 バシバシと俺の肩を叩く。痛みは無いけども、力が強いな……。


「さて、心配事も無くなった訳だから、改めてお前らに説明するぞ。

 今回、どうもチーム・バサラの奴らが、王国内の貴族に何事かを頼まれて―――」


『危険です!! 皆さん急いでこの場から離れてください!!』


 アルカが突然大声で叫び、土の魔法で拘束されているフィアードを水によって包み込んだ。

 水で包まれている筈のフィアードの肉体が、赤く光っているのが確認できる。

 これは―――


『体内に別の魔道具が埋め込まれています! 恐らくは……爆弾です!!』

「なにぃ!?」


 体内に爆弾?

 それってつまり……自爆?


『時間がありません。私は少しでも被害を防ぎます。だから、ちょっとでも遠くへ逃げて!!』

「そ、そんな……貴方はどうするんですか。女性一人を残していくなんて、できませんよ」


 セージがアルカへと駆け寄るのが見える。

 その瞬間だった。

 フィアードの肉体が、ピカッと稲光のように激しくまたたいたのだ。


 これが爆発の瞬間なのだと、俺は悟った。

 その瞬間がやけに長く感じた。

 どうしようもない。今の俺に出来るのは、最も近くに位置する者を救う事だけだった。


 轟音が聞こえたような気がした。

 が、その時の事は俺もよく覚えていない。


 キィンという耳鳴りと共に、俺は意識を覚醒させた。どうやら、数秒間だけ意識を失っていたらしい。すぐに意識を取り戻せたのは、スーツの非常用機能のおかげだろうな。多分、薬とか電気の刺激によって意識を覚醒させたのだ。

 辺りを見回すが、そこは闇。

 ダンジョンという名の洞窟内であれだけ激しい爆発があったのだ。岩盤が崩れてくるのも当然か。トンネル工事とかでよくある生き埋めというやつだな。


 俺自身はバリアガントレットの機能によって、なんとか手足を伸ばせる程度の空間は維持出来ているが、他の皆はどうなったのか。

 アルカ達の心配はいらんと思うが、生身の人間はあの場に結構いたからな。


「う……うん……」


 うめき声のようなものが聞こえて、俺は思い出した。

 そうだった。あの瞬間、とりあえず一番近くに居る人間を抱え込んで助けたのだった。


 その人物とは、ミカ嬢。

 よりによってこの子か……と思わなくもないが、今はこの空間において二人きりになってしまった。


 さて、どうしたもんかね。





 この話も、予定よりはかなり長くなってしまった。

 一話分を3000~5000文字以内にしっかり収めるってのは難しいですね。


 さて、自分に対して敵対心満々の女の子と二人きりになってしまったケイは、果たしてどうなるのか……。

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