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50話 チーム・炎獣

 気付けば50話に到達していました。

 ここまで読んでくれた方、ありがとうございます!!



 ……なんなんだ今の常識外れの戦いは?

 チーム・炎獣のメンバー……ミカは、チーム・アルドラゴの戦いを見て、素直にそう思った。


 まず、あのレイジという男の持つ武器。

 アラクネの身体を、まるでバターでも切るようにあっさりと両断してみせた。

 炎にはそれなりの知識を持つミカが見るに、あれは熱で焼き切ったのだ。レイジの持つ剣の等身部分が赤くなったのをミカは見逃さなかった。あの刀身部分に、どれだけの熱量があるというのか。

 同じような事ならばミカにもできる。実際、ミカの持つ武器……“炎蛇えんじゃ”にも、そのような特性を持たせて振るっているのだ。分裂する剣に炎を纏わせて、切れ味を倍増させている。

 だが、あれほどの切れ味を持たせるためには、刀身そのものが溶けてしまう程の高熱が必要だ。それでも剣は溶けた様子もない。それに、あの男が自分に匹敵する炎使いとも思えない。となれば、あれは魔道具……いや魔剣という事になる。

 自分に匹敵する熱量を、魔剣の力で上回っただと?


 ……ズルい。

 自分がこの力を持つに至るまで……Cランクまで上がるまで、ハンターとしてどれほどの努力と苦労を重ねて来たと思っているのだ。

 それに、あの男どれだけの魔道具を持っているというのか。

 あの敵の位置が分かるというヘッドギアに加え、炎を操る魔剣。それに、手から光の球を発射した攻撃も、魔道具によるものの筈だ。

 下手をすれば、全身が魔道具に包まれているのかもしれない。

 まるで、“魔道具使アイテムコレクターい”だ。


「失礼……レイジさん……いやくん……かな? 君達の戦い方について色々と聞きたい事があるんだけど」


 まず、戻ってきたアルドラゴチームに対してセージが切り出した。


「アラクネの鋼殻って、かなり硬い事で有名なんだけど……随分とスパスパ簡単に切り裂いてたね。その剣って斬る時に赤くなっていたけども、ひょっとして魔剣?」

「……まぁ似たようもんかな?」

「あと、手から光の球みたいなの出していたけども、魔法使ったような形跡が無かったんだよね。ひょっとして噂の魔道具?」

「そんなようなもんだ」

「あと、彼女もすんごいでかい武器持っていたような気がするけど、あれも魔道具?」

「いや、あれは少し違う」

「ち、違うんだ。でも、いつの間にか手に持ってないし、ひょっとして次元収納とかそういうすんごい魔法が使えたりとか……」

「いや、それは魔道具の一種だ。これこれ。この腰についている収納道具なんだけど、中は広い空間になっていて、ある程度の大きさのものなら、かなりの物が入る仕組みになっているんだわ」

「き、君達って、いったいどんだけ魔道具持っているの?」

「秘密」

「いや、秘密って言われても気になるし……」

「自分の切り札とかベラベラ喋る奴が居るか。命を懸けても良いと思えるほどに信頼を得るか、そうじゃなかったら力尽くでなんとかするんだな」

「うっ……」


 セージは押し黙ってしまう。さすがにこれ以上は聞けないか。

 だが今の言葉を聞いてミカは、不敵な笑みを浮かべていた。


 へぇ。

 力尽くでなんとか出来たら、秘密を明かすのか。

 逆に言えば、力尽くでこようがなんとかしてみせるぞと言っているようなものだな。ランクは同じだと言うのに、随分と大口を叩く男だ。

 これは、チャンスを見て攻撃を仕掛けてみるのもいいかもしれない。でも、ペナルティにならないように審査員の許可は得なくては。視線の端でBランクハンターのブローガを探す。


「やってみても構わんぞ」

「へ?」


 突然の声に後ろを振り返ってみると、ブローガが立っていた。

 思わず、らしくなくキャア!と叫び声が出そうになるが、必死で飲み込む。


「いや、お前さんが手を出したそうな顔してたもんでな。別にやる気があるなら構わんぞ」


 手を出したそうな顔ってなんじゃ。

 とにかく、こうなったなら都合が良いとも言える。

 こほんと咳払いをし、改めてブローガに向き直る。


「ぺ、ペナルティは?」

「俺の許可を得てなら別に構わん。これも、急遽仲間が裏切った場合なんかの予行練習にもなるだろうよ。……最も、許可すんのはお前さんだけだから、他の奴らには手を出さないように言っとけよ」

「むぅ……なんで?」

「下手に手を出して、再起不能になられても困るんだよ。お前さんなら、相手が女の子って事で、そんな酷い目にも遭わさんだろ」

「……アイツの事知っているの?」

「まぁ、奴がハンターとしてデビューしたばかりの頃からの付き合いだ」

「ふぅん。結構長い付き合いなんだ」

「いや、そうでもないぞ。まだ一ヶ月くらいかな」

「……は?」


 ん?

 今、ブローガはレイジがデビューしたばかりの頃からの付き合いだと言ったな。それで、その期間がまだ一ヶ月という事は……


「アイツって、まだハンターになって一ヶ月?」

「おお、そんぐらいだ」

「それで、もうBランクになろうとしているの?」

「そうみたいだな」


(な、何よそれ)


 カーッと、怒りのあまり身体が熱くなるのを感じる。いけないいけない、炎の制御が甘くなっている。

 急いで深呼吸して心を落ち着かせ、体内の炎を制御した。

 そして、落ち着いた心でギロッとあのレイジという男を睨み付ける。


 ミカは、ハンターになって4年。

 まだ、12歳の幼い頃からこの仕事をしているのだ。


 辺境の小さな村出身のミカだが、どうも特異な体質だったらしく、10歳の頃に炎の魔術を発現した。魔力の性質的に炎に特化しているらしく、他の魔術を扱えなかった。

 それでも、この炎を自分の武器として扱えるように、ひたすら努力し、遂にBランクにまで辿り着けるレベルになったのである。

 それを、ただ魔道具の力だけで追い抜くというのか!?


 許せん。

 絶対にその鼻っ柱を叩き折ってやる!!




◆◆◆




 ………きーこえーてまーすよー。


 内緒話している所を申し訳ないが、バイザーに備え付けられている集音マイクによって、ブローガさんとミカ嬢の会話は筒抜けである。

 勿論普段はスイッチを切ってある。だっていつも使っていたら、うるさくてしょうがないし。だけども、今回はアルカが気を利かせて聞かせてくれたのだった。


 それにしても、途中襲撃ありか。あるとしたら、他のチームが先頭になっていて、多少は気を抜いている時かな? という事は、自分達が先頭になっている時はさすがに無理だろうし、ヒャッハーチームが先頭の時か。

 はぁ……めんどくせぇな。確かに、女の子相手なら、手荒く対処する訳にもいかんし。


『私が対処しましょうか?』

「確かに、アルカの魔法なら簡単に無力化出来そうだよな」


 でも……

 俺に対して不満があるのに、それをアルカに任せていいものか。


「いや、俺が何とかしよう。幸い、無力化する武器なら俺も持っている」


 久しぶりにトリプルブラストを取り出して、常備しておくことにする。サンダーブラストで麻痺させるなら、大して問題ないだろう。

 とりあえず、あの子とは目を合わせないように気を付けよう。お前の企みはお見通しだ! と、逆にばれても困る。


 しばらく歩いて、先頭のチェンジ。

 続いて先頭に立って歩くのは、チーム・炎獣だ。


「今のを見せられた後に戦いを披露するって、どんな罰ゲームだよ……」

「情けない事言っておらんと、シャキッとせんか!」

「……ふん」


 リーダーというか、まとめ役をやっているセージがとぼとぼと先頭を歩き、巨漢のドルグさんがその背を叩き付ける。……あ、吹っ飛んだ。

 その様子をミカ嬢が何処か冷めた目で見ていた。


 以前、セージが言っていたが、炎獣は連携をあまりやらないらしい。必要があればやるようだが、基本的に各々(おのおの)が好き勝手に戦うチーム方針のようだ。


 ただ、一応敵の感知係はセージの役割のようで、風や空気の流れを読んで、この先に敵が潜んでいるかどうかを見極めるようだ。

 最も、地中に潜んでいる敵はこの方法では感知できないようだが。


 そういう方法なので、俺達が先頭に立って歩くよりも進行は遅い。いや、ハンター業界的に言えばこれでも速い方らしいんだけどね。あくまで俺たちが異常なだけで。


 ……しばらく歩いて、


「あ、居るね。なんかギシギシ言っている所からすると、虫だな。種類まではさすがに分かんない」


 風で音を集めたのか。

 しかし、虫……か。このダンジョン、ひょっとして虫系魔獣の巣窟だったりするのかな?

 やだなー。

 虫嫌だなー。


 そんな事を思いながら歩いていると、バイザーの望遠画像にてその敵を発見。

 うげ。

 本当に虫だ。

 虫の種類は詳しくないんだけど……外見的にはオケラに近いのかな? それが、人型のサイズで跋扈ばっこしている。……恐ろしい光景だ。


「クロウラーだね。組みつかれると危ない。ここはなるべく距離をとって戦おう」


 そうセージは言うのだが、


「うおおおおおおっ!!」


 ドルグさんは敵の姿を確認した途端に、戦斧を構えてクロウラーの群れへと突進するのだった。


「……ドルグさん以外は」


 はぁと溜息を吐きながらセージは剣を構えた。セージの持つ剣は、レイピアみたいにやたらと刀身が細い。

 ミカ嬢も、蛇腹剣を構える。この子の戦い方は非常に興味ある。それに、いずれこっちに飛びかかって来るんだろうから、注意しとかないと。


「どりゃあ! どりゃあ!!」


 ドルグさんはと言えば、戦斧を振り回してオケラ……もといクロウラーどもを蹴散らしている。ただ、クロウラーのスピードはかなりのものらしく、なかなか戦斧は命中しない。

 だが、ドルグさんの振り下ろした斧を避けるべく、クロウラーがさっと後ろへ飛び退いた瞬間―――


「そこっ!!」


 そのクロウラー目がけてセージが剣を振るう。

 最も、セージとクロウラーの間には距離がある。そんな距離で剣を振るった所で、命中する筈もない。

 ―――が、セージの振るった斬撃によって、クロウラーの一体が見事に両断された。

 当然、剣が伸びた訳でもない。

 ファンタジーでなくとも、漫画・小説・ゲームの世界ではよく出てくるアレだ。


「かまいたち!!」


 今言ったのは、俺です。

 セージは風魔法を利用して、斬撃を飛ばしたのだ。これも、ロマン溢れる技の一つだなぁ。俺もやってみたいぜ。

 そして、ドルグさんから逃れてセージ達へ向かってくるクロウラーが居た。

 そのクロウラーは、セージへと辿り着く前に、炎の斬撃によって切り裂かれる。

 ミカ嬢だ! 彼女の扱う蛇腹剣は連接しているワイヤー部分に炎が灯っており、まるで炎によって剣が伸びているかのようだな。

 その剣を鞭のように鮮やかに扱う姿は、さながら炎の蛇が舞い踊っているかのようだ。


 その戦いを見ていて、ふと思った事は、これって何気に連携になってんじゃね?

 まずドルグさんが先陣をきって飛び出し、群れを蹴散らす。それによって動きに隙が出来た敵をセージが狙撃……というか遠くから狙う。その中間の位置に居る敵はミカがほふる。

 それぞれが好きにやった結果、必然的にできた連携なのかもな。


 敵の数も少なってくると、乱戦のようになり、セージも普通に剣を使ってクロウラーを倒している。クロウラーはそれほど硬い魔獣でもないのか、炎獣の皆は比較的苦労した様子もなく切り裂いていく。ただ、ドルグさんによってほとんど叩き潰された形になっているクロウラーは、新聞紙とか丸めた雑誌で潰された虫を見ているようで、あまりいい気持ちがしない。


 やがて、クロウラー退治も終了した。

 三人が、魔石を回収しながらこちらへと戻ってくる。


「なんとかうまくいったかな?」

「いまいちスカッとせんかったがのぅ」

「……ふん」


 さて、次の順番はヒャッハーチーム。そして、俺が後ろからミカ嬢に襲われる時が来たのか。

 分かっていても怖いなぁ。




 出てくる魔獣に関しては、オリジナルは出さないで有名どころを出そうとしているのですが、虫系等の魔獣というのがなかなか見つからない。

 いたとしても、これを雑魚扱いで出すのはどうもなーという奴が多い。まあ、一応この小説に出てくる魔獣は、ケイ君の知識から似たような奴を検索して、名前を符号させているようなものですからね。

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