48話 Bランク認定試験開始
ハンターにおいて、Bランク認定を受ける者は多くない。
Cランクがおよそ一般的なハンターのランクと言えるなら、Bランクは更に上。言ってみれば、アマチュアとプロぐらいの差がある。まぁ、その更に上にあるAランクともなると、超一流という区分になるのだが。具体的に例を上げるなら、メダリストみたいなものだ。
よって、Bランクとなると実力の他に人格と品格が求められる。
Bランク以上になれば、国外での活動も認められるので、他国で活動しても申し分のない人格者が求められるのだ。
とは言え、元々荒くれ者が多いハンターでそんな人格者などそうそういる筈もない。
年に3回の認定試験というが、実際に合格する者はごく僅か……合格者が無い場合も多くある。
それだけ、狭き門という訳だ。
『質問です。私たちはまだCランクにも上がっていませんが、何故呼ばれたのでしょう』
アルカがまず質問した。
「チームメインで活動されている方は、そのチームも合同でという事です。それに、現状アルドラゴの実績は並のD~Cランクと比べられるものではありません。試験結果次第では、アルカさんとルーク君も一気にBランク認定という可能性もあります」
説明を聞いていた野次馬ハンター達から「おおー」という歓声が上がる。あれが、アルカのファンか……。
ついでに「キャーッ」という女性陣の歓声も。あれが、ルークのファンか……。
俺のファンとかやっぱり居ないよな。……いや、いらないし。寂しくもないし。
それで、今回Bランク認定試験を受けると言うのが、
うちらチーム・アルドラゴ。
炎姫ミカ、優男セージ、あと巨漢のチーム・炎獣。
んで、ヒャッハーABCDのチーム・バサラって訳か。
見ていると、よくあのヒャッハーチームは候補に挙がったもんだと思う。そんだけ人材不足なんだろうか。
「詳しい話は、馬車の中で説明します。それでは、ご同行お願いします」
モニカさんに続いてギルドの外へ向かうのだが、ヒャッハーチームの面々がアルカを見てニヤリと笑みを浮かべる。あぁ、なんかちょっかいかけてくんなアレ。
馬車の元へと向かうと、何やら見慣れた顔があった。
「お前らの審査を受け持つ、Bランクハンターのブローガだ」
しばらく会っていなかったが、よもやこんな所で会うとは。ブローガさんは、こちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。
まぁ、こっちの事情を知っている奴が審査員ってのはありがたい。別にBランクになる事に執着とかこだわりは無いんだけど、あったら便利ぐらいの感覚で臨むとしよう。
カオスドラゴンと戦って生き残ったとして、ブローガさんの名前は前よりも知れ渡る事になった。Aランクへのランクアップの話もあったらしいが、ブローガさんは断ったらしい。本人の弁によると、Aランクになって世界を飛び回るよりも、後方でガキどもを鍛えている方が性に合っているとの事。……結構な戦闘狂の癖に。
その人が審査員という事で、ヒャッハー組は少々恐縮しているみたいだ。
これはちょっとありがたいかも。
「さて、Bランクの審査でお前等にやってもらう事だが……」
馬車内へ移動して早々、ブローガさんが切り出した。
「スバリ、ダンジョンの攻略だ」
ダンジョン……いわゆるゲームとかで街と街を繋いでいる洞窟で、まるで迷路かと思わせる程ぐにゃぐにゃした道、更には強力なモンスターがひしめいている場所だ。
この世界のダンジョンも、言ってみればそういうもの。魔力の渦と化した洞窟内で、魔獣が異常繁殖しているとの事。
ダンジョンの最深部にはコアと呼ばれる巨大な魔石があり、これが元凶となって魔獣が生み出されるという仕組みだ。コアは大地より魔力を吸い上げて魔獣を生み出している。よって、コアを砕いたとしても、数週間も経てばまた復活する。この仕組み自体を壊す事は不可能。やるとしたら、洞窟が存在する山そのものを破壊するしかないらしい。そんな事は不可能だし、放っておけばどれだけ強力な魔獣が生まれるか分かったものでは無い。だから、このコアを定期的に砕く事が、Bランク試験の一環でもある。
『つまり、そのコアを砕くと言う事が今回の試験という訳ですね』
アルカの質問にブローガさんは頷く。
「正確には、その過程だな。別にお前らがコアを砕く必要はないぞ。無理だと判断したら、俺が代わりにやる」
そう言って、含みのある目で俺を見た。
お前等なら楽勝だろうがな……とかそういった目だなあれは。
実際には……多分本気出せばすぐに終わるんだよな。
でも、他チームとの合同だし、よっぽど危機に陥らない限り、3割程度の実力でいっかな。洞窟って事は狭いだろうし、ルークのゴゥレムも禁止しとくか。
特に、他チームの連携や戦い方を見るいい機会だとも言える。
「さて、目的のダンジョンまで半日は掛かるだろうから、寝るなり武器を整備するなり好きにしていいぞー」
そう言って、自分は御者席へと向かった。
すると、馬車内が慌ただしくなった。主に、ヒャッハーチームがアルカへと群がったのだ。
「噂通りすげぇ美人だ」
「おいおい、なんでこんな姉ちゃんがハンターなんかやってんだ」
「なぁなぁ、俺たちのチームに入れよ」
「幾ら出せば、今夜の相手―――」
ぶち……
慣れてはきたけど、こうもあからさまに舐められていると、さすがに限界だ。特に、アルカを下衆な目で見られていると思うとなんか腹立つ。
俺は立ち上がり、とりあえず一発ずつぶん殴ろうとした。
が、その前に―――
「ご……ごが……!?」
ヒャッハーチーム全員の頭に、水の球が出現した。
頭をすっぽりと水の球が覆っているので、水の中に潜っているのと同様だ。
問題は、水の中と違って水面に上がるという事が不可能であり、頭を覆っている水を全て飲まない限り脱出する手段が無いという事か。
まず間違いなくアルカの仕業か。こういう品の無い相手だと、やる事が大胆になってきたもんだ。
というか、まず間違いなくこのままだと溺れ死ぬな。
……止めた方がいいのかと悩んでいると、やがて水球が解除された。
30秒ほど続いてたよな。まぁ、さすがにそれじゃ溺死はしないか。
ヒャッハーチームはゲホゲホと水を吐き、ぜーぜーと荒い息をついている。
自分達に何が起きたのか、よく分かっていないようだ。そりゃ、いきなり水の中に潜ったような感覚だったんだろうし、理解はできないわな。
「ふん。それに懲りたら、品の無い物言いは止めるんじゃな」
様子を見ていたらしい巨漢が、ぼそりと言う。
その中、アルカはさっさとヒャッハー達の群れから脱出し、俺とルークの間にすっぽりと収まった。結構狭かったけど、無理やりに。
顔を見ると、ものすっごい不機嫌そうだ。
ヒャッハー達はアルカが何かしたという事に気づいたのか、それ以上何もいう事はせず、そそくさと自分達の席へと戻っていった。
その様子を、ミカ達チーム・炎獣が面白そうに見ている。
「ふぅん。どっかの世間知らずのお嬢様かと思っていたら、なかなかやるのねアンタ」
けらけらと笑ってミカがアルカへと近寄る。
アルカは、ちょっと顔を赤くして会釈した。そういや、こいつやたらと同性にもウケが良いんだよな。モニカさんともセルアとも比較的仲がいいみたいだし。
「ところで、同じBランクの試験を受ける身として、自己紹介でもしたらいいんじゃないかな?」
騒ぎが収まったのを見計らったのか、セージと呼ばれた青年がそんな事を言い出した。
確かに、どうやって試験を受けるのか定かではないが、名前ぐらい知っておいても問題は無いか。
「俺は構わない」
そう発言し、チラリとアルカとルークを見る。二人とも、異論は無いようだ。
「そう、じゃあ僕のチームから。
僕達のチーム名は、炎獣。と言っても、ほぼミカとドルグさんを指した異名なんだけどね。
僕は、セージ。風の魔法を扱う魔法剣士だ。
異名は風車って呼ばれているね」
と言って自己紹介しだしたが、ヒャッハーチームの意見は聞かなかったぞ。
まぁいいか。俺もあいつ等は興味ないし。
「んで、この子はミカ。炎の魔法を操る魔法剣士だ。
異名は炎姫。結構有名だから、聞いた事あるんじゃないかな」
と、ミカの分も説明する。
本人は気にした様子も無く外の風景を見ている。どうも自分で自己紹介するつもりはないみたい。
「わしはドルグ。特に魔法は使えん。怪力が自慢で、武器は戦斧じゃ。
こいつ等とは一応チームを組んでおるが、めったな事ではチーム活動はせん。ほぼ個人で動いとるな」
「あと、異名って言っていいのか分からないけど、よく猛獣のドルグって呼ばれたりしてるね」
「わしはその字名は好かん」
ドルグさんはフンっと鼻を鳴らす。
とにかく、これがチーム・炎獣らしいな。
なんとなく、まとめ役みたいな役割はセージみたいだな。ただ、他の面子の我が強いせいかリーダーというのとはちょっと違うみたいだ。
それにしても、風と炎の魔法剣士か。魔法剣士ってのも見た事無いから、戦い方を見るのが楽しみではある。
おっと、次は俺らのメンバー紹介か。
「俺達はチーム・アルドラゴ。
俺はチームリーダーのレイジだ。
メインの武装は剣。あと、魔道具をいくつか持っている。まぁ、必要があったら詳しい説明もしよう」
アルカを見ると、緊張した面持ちでコクンと頷いた。
『アルカです。
一応魔術師をやっています。水の魔法が得意です。よよよ、よろしくお願いします』
いや、自己紹介の仕方が合コンじゃねぇんだよ。……やったことないけど。
とにかく、アルカの実力は今見てもらったし、侮られる事は無いだろう。
続いてルークなんだが……。
『!!』
ふるふるふると大慌てで首を振っている。
やっぱりルゥモードじゃ無理か。
「こいつはルーク。見た目と歳の事はあまり気にしないでやってくれ。本来は魔道具を使用したパワー担当なんだが、あれは広い場所じゃないと使えないからな。まあ、土系統の魔法と治癒系の魔法も使えるから、今回は後方支援で戦わせる予定だ」
と、俺は説明したのだが、
「治癒魔法? そんな子供が治癒魔法を使えるってのかい?」
セージが食いついた。
ルークが恐る恐るコクンと頷く。
「治癒魔法なんて、かなりの高等教育を受けていないと基本すら学べないんだけど、そんな魔法を一体どこで……って、プライベートな事情を詮索するのはルール違反だね。悪かったよ」
思ったより簡単に引いた。
俺も、治癒魔法ってのがこんなに珍しいもんだと知っていたら、もうちっと披露する場を考えたんだが、ハンター活動初期にバンバン使っちまったからなぁ。隠すのも今更だから、開き直っている現状だ。
何処で覚えたとか言っても、魔力の仕組みを理解したら出来ちまったってのが真実なんだから仕方がない。
あ、なんかヒャッハーチームこと、チーム・バサラも自己紹介はしたんだが、いまいち記憶に残っていない。
その後、適当な雑談を交わしつつ、馬車は目的地へとたどり着いた。
他チームとの合同任務の場合は、この移動がしんどいんだよな。マシンや特殊アイテムでパーッと移動できないからさ。アルカ達も実体化するだけで魔力消費していくんだから、何日も経過すると色々と問題が起こりかねない。この辺も、対応策考えないとなー。
「さぁて、ここがお前たちに攻略してもらう予定のダンジョンだ」
馬車から降り立った俺達の前に広がっていたのは、山のふもとにある巨大なトンネルだ。
入り口付近はしっかり整備されているのか、よく地球で見る道路にあるトンネルに酷似した穴が存在していた。
一応、ダンジョンというだけあって柵と危険地帯と書かれた扉は存在している。
受けた説明では、ここは隣国との国境に位置しており、このダンジョンを抜ければ国境越えができるとの話だ。無論、ダンジョンの入り口はしっかり監視されているので、こっそりと潜る事は不可能であるが。
「さて、ダンジョンの攻略だが、俺は必要だと思わない限り口も手も出さん。ただ一つ言っておくか、おいレイジ。お前がこの一団の暫定的なリーダーをやれ」
ダンジョン前に並んだ俺たち……いや、俺個人に向かって、いきなり爆弾が放り投げられたのだった。
……勘弁してくれよ。
本格的な団体行動開始。
さて、ケイ君はちゃんと指揮とか出来るかな?
また、目次の頭部分に、キャラ紹介ページなんてものを作成しました。
http://ncode.syosetu.com/n9051dk/1/
ケイとアルカのイラストもあったりするので、気になる方は見てやってください。




