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47話 炎の少女ハンター



 鏡の向こうの自分の姿を見る。

 う~ん。この世界に来てからというもの、だいぶ変わったなぁとか自覚があったが、こうして普段着を着込んでみると、なんか昔に戻ったみたいだ。

 耐熱ジェルも塗ってないので髪は黒いままだし、簡易版ヘッドマウントディスプレイという名の黒縁眼鏡を着用すれば、学生時代の彰山慶次そのままだな。いや、眼鏡着用は中学までだったけども。

 一応説明しておくと、この眼鏡はレーダーがデータの表示機能が備わっているだけで移動用端末としての機能は無い。


『ところで、私たちまで普段着とやらを着込む必要はあったのでしょうか?』


 振り返ると、これまた何処のご令嬢かと見間違う恰好をしたアルカが立っていた。

 う~ん。こういういつもと違う服装をしていると、やはり美人だなと認識しちまうな。俺としては、アルドラゴのメンバーだとばれないように、こうしていつもと違う恰好をしている訳だが、アルカの場合はあまり意味が無い。

 なんという強烈な存在感だ。これは、俺みたいに群衆に紛れるとかそういった事は不可能である。

 それは、ルークも同様だ。

 何なの? この二人が放つ圧倒的オーラ。人工知能の癖に。


「お前ら二人は、外で歩く時はビー玉モードで頼む」


 申し訳ないけどな。なんか服着る時にキャッキャウフフしてたし。


『むぅ。別にいいですけどね。特に誰かに見てもらいたい訳でもないし』

『僕も別に……』


 ちょい不機嫌ではあるが、聞き分けがよくて助かった。

 うちの姉御あねごとか同級生みたいな性格だったらめんどくさかったな。

 俺からすれば、何だって着飾る事に金を掛けるのかが分からない。服なんて着られればそれでいいじゃないと思うのだが。……いやぁ俺もあんまりボロボロ過ぎるのはさすがにどうかとは思うけどさ。


 ちなみに、今俺が何処にいるかという事だが、なんとアルドラゴの中である。

 そう、遂に俺たちはアルドラゴを拠点として扱う事になったのである。


 今までは、王都までの移動距離とかを考えて、宿屋を使用していたのだが、アルカの空間移動魔法の発達によって、いよいよ俺たちの宇宙船を拠点として扱う事が出来るのである。

 最も、ちょっと前までスイカサイズ程度の穴しか開けなかったのだ。そう簡単に人が一人通れるまで空間の穴を広げられるはずもない。

 こうなったのは、ルークの力があったおかげだ。ルークも同じく空間移動魔法を勉強し、共に魔法を重ねがけする事によって、なんとか人間一人が通れる穴を作り上げたのだった。と言っても、結構な魔力を消費するらしいから、一日に何度も出来ないらしいけども。


 ともあれ、これでシャワーに風呂にトイレと何でも好き勝手に使える事になったのだ。

 しかも自分の部屋として使用している客室には、布団を用意! 今まであの日焼けマシーンみたいな硬いベッドしか無かったので、これでようやっと安眠できるようになりました。


 ただ……食事だけは……キッチンらしきものはあるが、食材も食器も無い!

 よって、食事だけは王都に戻ってる事にしています。自炊してもいいんだけど、俺簡単なレシピぐらいしか分からんし。そうすると、この国で手に入る食材では無理がある。

 米……米が無いんだよ。カレー粉も無いんだよな。唯一作れる凝った料理がカレーなのに。さすがに香辛料から作る方法なんて俺は知らん。

 カレー……食いたいな。どっかの国に似たような料理無いかな。そういった意味でも、早々にこの国から出るべきなんじゃないかなと思うようになった。



◆◆



 こうして日々は過ぎ、Cランクハンターに昇格してから、ひと月以上が経過した。

 アルカ達もDランクに昇格したし、アルドラゴの名前も王都中に知れ渡るようにはなって来た。ギルマスの爺さんに聞いたところ、貴族やらなんやらの接触はそこそこあるらしい。

 貴族の関心は、主に俺の扱っている魔道具。……何処で手に入れた? 買わせてほしい。寄越よこせ。買わせて……はまだ分かる。寄越せってなんだ寄越せって! 初めて聞いた時は、あまりのずうずうしさに、その貴族ぶっ飛ばしてやろうかと思ったぞ。


 続いて噂の超美女であるアルカを一目見たい。可能ならめかけにしたいという縁談。なんか妾ってのが腹立つな。初めてこの話を聞かされた時、妾の意味が分からんかったけど、意味聞いたらその貴族ぶっ飛ばしてやろうかとか思ったぞ。


 噂の美少年であるルークが、よもや自分の家から攫われた子供ではないか……と言いがかりをつけてくる。こちらは、別に本当に子供に欲しいとかじゃなく、いわゆる少年愛の性癖がある貴族らしい。それ聞いた時も、同じくぶっ飛ばしてやろうかと思ったぞ。

 いや、この三つの貴族に関しては、この国の事考えたらいっそマジでぶっ飛ばした方が良いんじゃないかと思った程だ。……ギルマスに止められたけども。


 俺個人に焦点が当たっていないというのもムカつくが、必要以上にギルドに出向かない、プライベートの姿を一切見せない、という手段が功を奏してか、誰も俺たちの行方を掴めないようだ。

 ギルドに行く時も、かなり周りが騒がしくなってきた。これは、ギルマスと相談して直接依頼を貰えるように相談すべきかな。



 そう思いつつ今日もギギーッと音を立ててギルドの扉を開く。

 本日は、ギルドマスターからの呼び出しだ。前回ギルドを訪れた際に、この日は絶対に来てくれと念を押されていたのだった。理由は不明。……一体、何の用なんだか。

 周囲の反応も、俺は数日に一回ぐらいしか顔を出さないから、顔を見れたらラッキーぐらいの扱いになっているらしい。

 最も、そいつ等の目的はアルカとルークであり、俺一人だと分かったらがっかりするらしいけど。

 いや、二人も一応一緒に居るんだけどね。必要があれば出てくるみたいな感じで待機してもらってるだけだから。

 何か、噂じゃファンクラブみたいなもんもあるらしいな。俺はまだ遭遇してないが。

 向けられる視線を流しつつ受付へと出向こうとする。あ、モニカさんがこちらに気づいて手を振っているな。

 なんかCランクになってからというもの、あの人のアプローチが激しくなってくる。一応流してはいるけども。正直、ジェイドの奴に悪いな……という気もする。まぁ、あのカオスドラゴン事件からジェイドには会ってないんだけどな。


 とりあえず、呼ばれているから行きましょう。

 と、受付を向かっている途中……


「おう、てめぇがアルドラゴってチームのリーダーだな」


 俺の行く手を遮るように、何やらガタイのいい男が絡んできた。

 そう。名が売れてくると、こういうめんどくさい奴も関わってくるようになったのだ。

 一応聞かれた事はただの確認事項だ。とりあえず、返事はしよう。ただ、なるべく表情を作らずに能面状態で対処するようにしている。


「……そうだけど?」

「なんか、仲間に綺麗な女二人連れてハーレムみたいな事やってるらしいじゃねぇか」


 ……やってねぇよ。

 大体、一人はれっきとした男じゃ。どんだけ話に尾ひれついてんだ。

 とはいえ、なんでこんな初めて会った相手にいちいち説明しなくちゃならないんだ。

 めんどくさくなって、俺は無視して受付へ向かおうとした。


「おう、シカトしてんじゃねぇよ」


 さっと、俺の前へ現れて道を塞ぐ奴出現。他に二人……計四人か。どうやら、同じチームらしいな。類は友を呼ぶというが、こいつらどう見ても世紀末ヒャッハーな世界から来たとしか思えん。

 適当にヒャッハーA、B、C、Dと呼ぼう。


「話は聞いているぜ。チーム・アルドラゴのリーダー……レイジ。GランクからいきなりCランクになった驚異の新人で、プライベートは一切謎。信憑性のある噂は、女好きって事ぐらいか。なんか、若い女のダァトを買ったとかいう噂があるらしいじゃねぇか」

「……はぁ」


 溜息が出た。

 それ、信憑性ないから。

 こちとら全く女好きととられるような行動とってないし。

 ダァト買ったのも、ある意味真実だけど、そっち目的じゃないし。それにしても、その情報どこで漏れたんだよ。かなり気を付けて行動してたってのに。

 ダァト商の場合は、守秘義務とかあるという話なので信用していたんだが、もしかしたらそっちか……。


「それ嘘よ! だって、私なんてレイジ君来る度に散々モーションかけているってのに、一回も誘いに乗ってくれた事ないし!!」


 受付の方で、話を聞いていたのかモニカさんが割り込んできた。

 ややここしいから来ないでくんない? 予想通り、モニカさんファンのハンター達がざわざわとしているし。


「ハッハッハ……。期待の新人ハンター様は年上の女性はお嫌いなのかな?」


 と、ヒャッハーAが茶々を入れ出した。モニカさんは「なんですってぇ!」と怒りの声を上げている。

 ……ちげぇし。

 女の人と関わるの得意じゃないだけですから。演じているキャラの問題もあるので、そんな事言えないけどな。


 ……でも、ここまで舐められているとあっては腹も立ってくる。いっそ一瞬でも本気出して、黙らせた方が良いかも。

 要は、俺自身に関する情報が少ないから、こういった輩に絡まれるのである。

 よし。俺と絡むと良い事は無いよ……という事を理解させてやる必要があるな。


「ところで……さっきから俺に何の用なんだ?」


 少々ドスを利かせた声でもって目の前の世紀末ヒャッハー共を睨み付ける。

 ヒャッハー共はちょっとビビったみたいだが、すぐに我に返ってこちらを睨み返す。


「ハッ! し、新人が急に出てきて、俺たちの生活の場を荒らしているみたいって話だからな。ここはいっちょ挨拶しておくのが筋ってもんだろ」

「生活の場? この王都周辺はお前たちの物なのか?」

「そ、そうだ! 俺たちはこの王都周辺で何年も活動してきているんだ! それを勝手に荒らされちゃ迷惑なんだよ!!」


 筋は通っているようで通ってないな。

 確かに長年この王都周辺で狩りをしている者達にとっては、俺みたいにポッと出の新人はうとましい対象だろう。

 だが、そもそもギルドに所属していてその言い草はなんなんだ。魔獣を誰が狩ろうが、所詮は早い者勝ちだろうに。


 やっぱり、実力を見せつけてやるべきか……。

 こちとら、この世界に来たばっかりの頃の高校生の俺じゃねぇんだぞ。

 と、俺が拳を握りしめた時―――


「相手にしなくていいよ。そいつ等、自分達がいつまでもランクアップ出来ないからってひがんでるだけだから」


 背後から声がした。

 聞く限り、若い女の声だ。


「て、てめぇはミカ!!」


 ヒャッハー達の声が飛ぶ。

 そこで俺はようやく後ろを振り返った。


 そこに立っていたのは、俺とほぼ同年代の少女だ。

 とはいえ、雰囲気は高校生なんかと全く違う。髪の色は赤だが、俺と違って炎を連想させるオレンジっぽい色だ。頬には鋭い爪で引っかかれたかのような傷が残っており、なんだか痛々しい。

 衣装はなかなか露出が大きく、スレンダーな体型で結構色っぽい。ただ、顔つきも立ち振る舞いも、まるで豹とかジャガー等のネコ科の猛獣を思わせる雰囲気で、綺麗や可愛いというよりは格好いいという感じだ。


「やっほー。もう10年以上活動しているのにずーっと万年Cランク止まりのおじさん達。若い奴がどんどん自分のランク追い抜いてくって、時は本当に残酷だよね。

 いっそ引退して畑を耕していた方がいいんじゃない? その方が自慢の筋肉も活かせるでしょ」


 やっほーと言う割にはやたらとやる気のない馬鹿にした声だな。

 その言葉に、周りのヒャッハー君達は身体をわなわなと震わせている。


「ミカてめぇ……どうやらヒィヒイ言わせてもらいたいらしいな」


 俺をほっといて、ヒャッハー達は標的をミカとい名の女性に改めたらしい。

 なんだろう? この場合って俺はどうするべきなのかな?


「やる気? いいよ。同じCランクでも、実力はレベルが違うって事を理解させてやる」


 そう言ってミカと呼ばれたCランクハンターは、まるで鞭と剣が一体化したような武器……蛇腹剣を取り出す。すげぇ、ロマン武器の一つだ!! でも、実際に使えんのかなあんな武器。

 それに触発されてか、ヒャッハー達も武器を取り出した。

 ……って、ギルド内で刃傷沙汰はさすがにマズイんじゃなかったか?


「おいおい“炎姫えんき”が武器抜いたぞ」

「さすがに止めた方がいいんじゃね?」


 野次馬のハンター達から、そんな声が漏れる。

 炎姫……それがあの子の異名なのか。確かに炎っぽい髪の色は、その名に相応しい感じがするな。

 ともあれ、そろそろマジで止めた方が良いかな。喧嘩に発展したのはあの子の責任だが、そもそものきっかけは俺が絡まれていたせいだからな。


「いい加減せんか!」


 一喝。

 そして、ドシンドシンと大地を踏み鳴らして巨人が現れた。

 さすがにゴゥレム程でかくはないが、それでも2メートル以上はある巨漢だ。


「ギルドでは武器の抜刀はご法度じゃと子供でも知っとるじゃろが! おんし等幾つじゃ!!」


 なんか、昔の漫画に出てくる番長とかそんな印象の男だ。

 なんだろう。俺の中のイメージの問題なんだろうか。アルカによって翻訳された言葉がどっかの方言っぽく聞こえるんだけど……なんか違うようにも聞こえるのは、あくまで俺の知識のせいなのか?

 とりあえず、30代前半ぐらいと思われる巨漢男の一喝によって、ヒャッハー共は縮こまってしまった。

 これはもうほっといても大丈夫かな?


「はいはい。だからミカも武器を収めようね」


 もう一人別の声が聞こえたと思ったら、ミカと呼ばれた少女の傍に、なんだかチャラそうな外見の男が立っていた。

 金色の長髪の下に、にこやかな笑みを浮かべた優男。服装は緑を基調とした装飾が激しい服。まるで、どこぞの貴族か王族か……という感じの男だな。


「アンタは関係ないんだけどセージ」

「関係ないって、同じチームじゃないか。僕は悲しいよ……」

「ふん。まともなチーム活動はしておらんがな!」


 赤髪少女、優男、巨漢はどうも同じチームらしい。

 見た感じ、まとまりがあるのか無いのかという印象だな。


「おほん!」


 その咳払いに気づいて振り返ってみると、何やら書類を抱えたモニカさんが立っていた。


「それでは、チーム・炎獣、チーム・バサラ、チーム・アルドラゴのメンバーが集まりましたね……って、レイジ君、他のメンバーは?」

「あん? アイツ等にも用があったのか。今日来てくれとしか言われてないぞ」

「あ、あのジジ……ギルドマスター! ちゃんと伝えてくれって言ったのに!」


 どうも、俺だけじゃなくてアルカとルークにも用があったらしいな。


『仕方ない。行きますか』

『よーし、へんし……』


 待てアホ! こんな所で姿出すな!!


「すまない。すぐに呼んでくるから、少し待っていてくれ」

「はぁ……すぐですか? 本当にすぐですよ。じゃあ、早く行ってきてください」

「悪いな」


 俺は急いでギルドの外に出た。

 その背には「やれやれ」だの「新人チームめ」だの「いつまで待てばいいのかしら」みたいな声が飛ぶ。いや、ほんとすぐなんで。

 俺はギルドの裏側へと回り込むと、急いでアルカとルークを実体化させる。


『一体何の用件なんでしょうね?』

『知らない人がいっぱい居るよ……』

「なんでもいいから、さっさとギルドへ戻るぞ」


 と、一分も掛からないうちにギルドへと戻る。

 さすがにそれには全員驚いたようだ。


「って早いじゃないですか!!」

「アンタが早くって言うからだろ」

「それにしても、一分も掛からないで戻ってくるってどういう事ですか!?」


「何でもいいけど、早く用件伝えてくれないかしら」


 俺とモニカさんが口論していると、ミカが冷めた口調で口を挟んできた。

 それもそうだな。


「おほん。ええと、皆さんにここに集まってもらったのは、毎年3度行われる、Bランクへのランクアップ試験を受けてもらう為です」


 どうも、ゲームで言うところの新たなイベントとやらに突入したようだ。

 俺たちは、顔を合わせて頷きあった。




 という事で、新イベント突入です。

 物語内でも、何気に一ヶ月以上経過。チャンスがあれば、その間に起こった事とか書きたいもんですが、今は本筋の方を優先します。


 新キャラであるチーム・炎獣の皆さんも活躍する予定です。

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