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45話 ダァト



『つけられていますね』


 宿屋を出てしばらくした所で、アルカがそんな事を言い出した。

 ちなみに、アルカとルークは現在ビー玉モードである。


「そろそろじゃないかと思っていたけど、やっぱり来たか」


 相手は情報屋とかかな。

 謎の新星チーム・アルドラゴの素性を調べるべく、こうしてつけ回しているという事か。


 だが、こうしてアルドラゴのレイジとして王都をウロウロするのは今日で最後のつもりなのだ。

 これからはプライベートでは一切レイジの恰好かっこうはしないつもりでいる。レイジの恰好をするのは、ギルドを訪れる時と、ハンターの仕事をする時だけ。

 それ以外は、一般市民ケイとして行動するつもりである。普段は冴えない一般人。でも、その正体は凄腕ハンター! ヒーローみたいで格好いいじゃない。自分で冴えないって言ってて悲しいけどさ。


 よって、これから普段着を買う為に服屋へ向かう所なのだが……。


「つけられたんじゃ意味はないよな」

『では、姿を消しましょう』

「だな」


 俺は、路地裏へと入り込み、周囲に誰も居ない事を確認する。……ちょっと離れた位置からこちらをつけて歩く奴は居るけどな。

 そして、さっと曲がり角に身を隠すと、ミラージュコートを作動させた。

 これで俺の身体は周囲と完全に同化。慌てて曲がり角の様子を確認してくる尾行者には気づけまい。

 尾行者は目立たない服装のおっさんだ。「あーくそ! かれた!!」と髪をクシャクシャにして悔しがっている。へっへっへ、いい気味じゃ。実はすぐ傍に居るんだがね。

 そんな様子の尾行者を後目しりめに、俺はさっさとその場を後にするのだった。


 さて、今日の内にやっておく事はまだあるぞ。

 とは言え、あまり足を踏み入れたくない場所なんだよ。出来る事なら、関わりたくなかったし、このまま忘れたまま生きていく事だって出来た。

 でも、俺は関わった。

 関わった以上は、なんらかの形でけじめはつけないといけない。

 それが、俺がこの世界に居る意味だと思う。



 俺が訪れたのは……獣族のダァトを専門に扱っている娼館だ。




◆◆◆




 チーム・アルドラゴのレイジがダァトの娼館を訪れた。

 なんて噂が飛び交ったら大変面倒な事になる。なるで、店に入る際はミラージュコートを使い、更には受付もコートに付属しているフードを目深まぶかに被ってやり通す。


「ここの支配人に会いたい」


 扉が開いたと思ったら、いきなり目の前に居た男に受付の男は驚愕する。

 が、すぐに我に返る所はさすがだ。娼館って事は、変な客とかも多いんだろう。……俺の勝手な想像なんだが。


「失礼ですが、ご連絡の方は……」


 アポか? アポイントメントは取ってないぞ。

 俺は首を静かに横に振る。


「……分かりました。少々お待ちを」


 思春期真っ盛りの俺……自分で分析するのは非常に嫌なんだが……にとってみれば、娼館ってのは未知の世界である。そりゃあ、男だもの。店の中がどんなになっているかとか、興味ありまっせ。

 でも、ここでキョロキョロしたりなんかしたら、キャラが崩れるどころの話では無い。

 必死で己を消して、無骨な怖い男を演じているのだ。いやまぁ、今の俺の心境がめっちゃ怖いんだけどな。


 しばらくして、俺は奥の応接室へと通される。

 その部屋に居たのは、俺が王都へと来る前に会った身なりの良いダァト商の男だ。

 どうやら隠す気も無く警戒心を露わにしている。


「ハンターの方ですかな? さて、私に一体何の用でしょうか」


 う~ん。やっぱり気づかないか。まぁ仕方ない。

 俺は、フードを取り、顔を露わにする。


「俺を覚えているか?」

「……は?」


 支配人は最初はポカンとしていたが、やがて「ああ!」と気づいたようだった。


「あの時の! いやいや、あの時は命を助けていただき、ありがとうございました!!」


 ペコペコと、分かりやすい対応を取り出した。

 うん。俺もやりやすくていいよ。


「それで、この度はどういったご用件で」

「あの時、別れ際にお前が言っていた約束を果たしてもらいたくてな」

「は?」


 あの時、アイツはこう言っていた。


『獣族の子供は愛玩用として貴族様に人気でしてね。なんでしたら、3匹ほど無料タダで差し上げても……』


 そう、ダァトを差し上げると言ったのだ。

 俺自身、正直忘れていたのだが、アルカはきっちり覚えていた。


「あ……あぁ……い、言いましたかね?」


 うん。当然こういう反応するわな。あの時は極限状態だったし、言った本人ですらよく覚えてはいないだろう。

 俺は額のバイザーを取り外すと、ポトリと目の前のテーブルに置く。そして、ピッとボタンを押す。

 すると、壁に……


『その商品ってのは、何を扱っているの?』

『ええ“ダァト”です』

『?? ダァト?』

『あれですよ。あれ』


『おや、気に入りました? 獣族の子供は愛玩用として貴族様に人気でしてね。なんでしたら、3匹ほど無料で差し上げても……』


 あの時のやり取りが、壁をスクリーンとして映し出される。


「な……」


 支配人は絶句する。

 この世界の人間はこんなの見た事も無いだろうからな。壁に自分の声と姿がいきなり映し出されたら、そらびっくりするわな。


「い、今のは……私? これは一体……」

「魔道具だ」


 俺はバイザーをテーブルから拾い上げると、再び自身の頭に装着する。

 それ以上の説明はしない。


「という訳で、こういった証拠はある。どうだ?」

「あ……はは。正直頭が混乱しているので、また後日でもよろしいでしょうか?」

「駄目だ」


 ダンッとテーブルに足を置く。

 よく強面こわもての方達がやる威嚇のポーズだな。


「俺は時間が無いんだ。さぁ、約束を守るのか、守らないのか……どっちだ」


 ずいと睨み付けるように顔を前に出すと、支配人は「しゃぃ!」と軽い悲鳴を上げる。

 が、やがてコホンと咳払いをして我を取り戻す。なかなかの強メンタル。


「さ、さすがに……あれから時間も経っておりますし、3匹も無料タダという訳には……」


 正論だな。

 あそこで話を切り上げたのは俺の方だ。俺としても、詐欺紛いの手口でとうこうしようなんて気はしない。

 アイテムボックスへ手を突っ込むと、ドンとテーブルの上へ札束を置く。

 ……札束って言っても、せいぜい20万レン程度だけどね。


「じゃあ、これで売ってほしい」


 聞いた話、ダァトの相場は一人当たり10万レン程度だそうだ。

 前にあの子が言っていた18歳以上の若い娘とかだったら、もっと値が張るところだが、俺が買うつもりなのはそういう目的の子じゃないからな。


「こ、これでしたら……なんとか。それで、どのようなダァトがお好みで」

「欲しいダァトはもう決まっている」

「へ?」




◆◆◆




 顧客が現れた。

 とうとう来たか。と、セルアは天を仰いだ。

 ぶっちゃけ、自分は獣族の中でも美人という訳でもなく、こんな体毛だらけの姿では人族も興味を持たないだろうと思っていた。

 世の中、物好きが居るものだ。自分のようなものを買ってどうするのか分からないが、来るべき時が来た……と思って諦めるしかない。

 ここへ来てからというもの、お世話になっていた同室のお姉さんは、そっとセルアの身体を抱きしめてくれた。……暖かい。

 おそらく、もう会う事は無いだろう。

 せめて、妹達にも挨拶を……と思っていたが、何故か急かされる形でセルアは顧客の元へと通されたのだった。こんなに急いで、何があると言うのか。


「え?」


 その場には、既に妹のスリとソラの姿が。

 そして、顧客……と思わしき奴は見覚えのある男だった。

 あの時、王都へ来る前に自分たちを助けてくれたハンターの男。その後、王都を歩いている時にバッタリ会ったりしていたが、まさかこんな形で再び会う事になるとは。

 ひょっとしてと思うが、よもやこの男が?


「お、お客様。こちらのダァトでお間違いは無かったでしょうか」

「ああ」


(うわ。本当にこの男が私の飼い主なのか。あの、強いくせにやたらと童貞っぽかった雰囲気の男が)


 セルアはショックなんだか安心なんだか複雑な気分だった。

 全く知らない奴に買われるよりは、人となりもそれなりに分かっているだけ安心した気分にはなる。でも、コイツはダァトを買ったりするような奴には見えなかったんだけどな。そこが残念だ。

 でも、ここにスリとソラが居る理由は何なんだろう。

 まさか、自分たち三姉妹をセットで買ったとでも言うのか。いやいや、そんな事まずメリットが……


「では、ダァト三匹をお買い上げという事ですね」


 マジだった。

 セルアは、目を見開いて二人の妹を見る。

 幼い妹二人は、きょとんとした顔をしている。自分達がこれからどういう事になるのか分からないでいる筈だ。

 いや、セルア自身ですらよく分かっていない。


「こちらがダァトの登録証となっています。押印の方をお願いできますか」


 登録証。魔力で作られたカードだ。セルア達がしている首輪と連動していて、そのカードに登録してある人物に逆らったりすると、酷い激痛が走るようになっている。

 押印というのは、印の部分に血を流して登録者が何者であるかを指定するものなのだが……


「いや、それは後で良い」

「え? いいのですか」


 セルアも不安になった。

 まさか、買ったのはこの男でも、実際の飼い主はこの男では無いというオチなのか?

 今の飼い主である娼館の支配人も、そのように感じ取ったのか、うんうんと頷いている。


「それでは、お買い上げありがとうございます。今後とも、御贔屓ごひいきによろしくお願いします!」


 と、支配人の元気な声に後押しされて、セルア達は娼館を出たのだった。




 この話も、元々一話分だった予定のやつを分割してあります。

 バトルの無い話って、大抵予定通りにいかないもんです。必然的に心情と台詞が多くなるから、その分文字数が増えるんですよね。


 次話も現時点で8割ぐらい完成していますので、明日……18日中には投稿できると思います。

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