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43話 ゴゥレム



「キャーッ!! 可愛い!!」

「この子何処の子?」

「こらこら、この子泣きそうになってるじゃないの! ちょっと離れなさいよ!!」

「そう言ってアンタ独り占めしてるじゃないのよ!!」


 あ、なんかギルド職員とハンターの若い女性陣がルゥに群がりだした。

 なんとなく予想は出来たんだよなぁ。

 俺としても、子供っぽいキャラだとは思っていたが、実体化してみるとマジで子供で、こんな美少年だとは思ってもいなかった。

 それに……


『リ、りーだぁー。おねぇぢゃんー!!』


 見事に半泣きのルゥがこちらに駆け寄ってきて、アルカへと抱き着いた。


「「「「お、おおっ!」」」」


 なんか、この場に居た人間のほとんどから感嘆かんたんの声が漏れる。

 実際、美女であるアルカと美少年のルゥがセットになっている様子は、実に絵になる。

 だが、多くの視線が集中した事で、ルゥは「うわーん」とマジ泣きに移行したのだった。


 何故か……何故か、人工知能モードの時はちょっと生意気っぽい元気少年だったのに、実体化してみると正反対の弱気な赤面症少年になってしまうのだ。

 あまりにもキャラが違うので、こっちのモードの時はルークではなくルゥと呼ぶ事にしている。でも、本人いわく別に二重人格という訳でもないらしい。訳が分からん。


「まさかと思うけど、アンタ達の子供じゃないわよね」


 モニカさんが引きつった顔で尋ねて来た。


「んなわけあるか!」


 普通年齢で分かるだろう。俺は17歳で、ルゥはどう見ても小学校低学年程度だ。……あくまで見た目は。どう考えても子供作れる歳じゃないだろうに。


「そ、そうよね。そもそも顔が違いすぎるし」


 いや、そういう問題でもないだろう。それにしても、アルカとは一応姉弟の関係になるのだが、特に見た目は似ていない。これは、モデルになった人間とやらが別に血縁関係が無かったからなんだろうな。


『そうです。そもそも、私とレイでは身体の構造上子供は作れません』

「「「「え!?」」」」

「だからお前は余計な事言うなっての!!」


 もう一度スパーンとアルカの頭を叩く。


「いったー。私が何言ったって言うんですかぁ!」


 くっそ、このやり取りもう二度目だぞ。

 これはしばらくしてから発覚した事だが、実体化するとアルカの方も若干性格が変わる。いや、変わると言うか天然成分が増える。はっきり言ってしまえば、ちょっとアホになる。今までどっちかというとツッコミキャラだったというのに、ボケが多くなるのだ。しかも自覚が無いから性質たちが悪い。

 こいつ等の人工知能組の思考回路ってどうなってんだ。


「とにかく、ハンターの登録お願いします」

「いいけど……この子達、どう考えても職業選択間違えてるとしか思えないんだけど」


 モニカさんの言葉に、うんうんと多くの者が同意する。

 うん。客観的に見たら俺だってそう思うよ。

 美女のアルカは接客業やらなんやらで、十分客を集められるだろう。ルゥなんて、金稼ぐような歳にも見えない。


「そもそも、こんな子供にハンターやらせるって、どんな鬼畜よ」

「そーよ! まさか、何処かの貴族からさらってきたんじゃないでしょうね!」

「そーだ! その綺麗な人にだってもっと良い仕事があるだろう!」

「なんなら、戦わなくていいからうちのチームに入ってくれませんか?」

「抜けがけ許さねぇぞ!」

「そーよ! あの天使みたいな子はあたし達のチームが貰う!!」


 くっ! なんか話が独り歩きしてやがる。

 しかも、アルカとルゥをまるで置物か鑑賞用みたいに扱いやがって。なんか腹立つな!


「あー。お前ら、ちょっと力見せてやれ」

『え? いいのですか』

「怪我させなきゃ問題はないだろ。このまま色々舐められたままってのは、面白くない」

『分かりました。確かに今の状態は、私たちも愉快ではありませんしね。ルゥ、行きますよ』

『う……うん』


 アルカは、騒いでいる者達を見据えると、さっと手を振るった。


「「「「え?」」」」


 突然頭上から室内を照らす光が消え、何事かと上を見上げてみれば、自らの頭の上に浮かぶのは巨大なる水の塊。

 それが、いきなりドバーッと彼ら目掛けて落ちた。

 訳も分からずにびしょ濡れとなるハンター達。

 それが魔法であると気づいた者は、どれだけ居ただろう。そして、魔術を使える者は気づく。こんな水気が全く無い場所において、あれだけの水を出現させる事が、どれだけ魔力を要するかという事に。

 それを、いとも簡単にやってのけた。

 詠唱もせず、ただ手を振るっただけで。


 その呆然としているハンター達に向かって、ルゥは勇気をもって踏み出した。


『来い……ゴゥレム』


 持っていたアイテムボックスを開くと、中からいくつかの巨大なパーツが飛び出す。

 それは、ガチョンガチョンとまるでルゥを取り囲むように結合していく。

 地球のアニメの知識で言えば、合体だ。

 やがて、その合体が終わると、3メートル程の巨人がそこに立っていた。ルゥはと言えば、その巨人の内部に収まっていて、外からは全く見えない状態だ。上半身がやたらとマッチョに作られ、頭部に猛牛を思わせる二本の角があるところからすると、アレは“タウラス”だな。


 こいつは、いわゆるパワーローダーとかパワードスーツみたいなもんだ。

 元々、ルークはこういった作業用ロボットの操作がメインの人工知能だったらしい。実体化してみたら子供だった事もあってか、メインの戦闘方法をこのパワードスーツを利用しての戦闘に切り替えた。


 ゴゥレム。

 作業用パワーローダーを分解し、様々な戦闘用アイテムを組み込んだ戦闘用パワードスーツである。ゴゥレムの命名は、俺です。

 いや、ルークと一緒になってあれやこれやと考えたのだが、これが楽しくて楽しくて……。

 だって、ロボットだよ。モビルスーツ並の巨大ロボとまではいかないけど、実際に戦闘ロボット組み立てられるって、男の子にとって夢じゃない?

 とりあえず、パワー重視の“タウラス”と重武装タイプの“キャンサー”は作り上げたぜ。名前から察せられるように全部で12星座分の12体作り上げるのが夢なのさ。

 え、なんで12体も? ロマンだ! それ以外に特に意味は無い!!


 このゴゥレム。傍で見上げてみれば、まるで城壁ルークそびえ立っているみたいだ。

 ルークの名前は、ここから取った。


 もちろん、本体にアルカがラザムより受け取った土の魔晶を使用している事から、土を利用した魔法による戦闘も可能である。

 でもまあ、コイツを見せた方が圧倒的な威圧感があるもんな。


「「「「あ……あ……あ……」」」」

 

 この場に居たハンターやギルドの職員達が、言葉を失っていた。

 水の名無い場所でこんなに容易く水を操って見せたり、いきなり子供が鉄の巨人へと姿を変えたりしたのだ。

 俺としては、どうだこの野郎! とか、舐めんなよ! という感じだったが、あまりのシーンとした様子を見て、ちょっとやり過ぎたかも……と思ってしまうな。

 そして、ガタガタと震えるハンター達にタウラスを装備したルークはズシンズシンと近づき……


『ふはははは! どうだ、ぼく格好いいでしょ!!』


 と、腰に手を当てて高笑いをするのだった。

 その様子に、ポカンとする他ハンター達。


 そう実体化モードでは気弱で赤面症少年ルゥなのだが、こうしてパワードスーツを装着すると、元気少年ルークへと戻るのだった。ここまでくるとどっちが素なのか分かりやしねぇ。


『ねぇねぇ、これだったらぼくもハンターになってもいいでしょ?』


 と、モニカさんを振り返る。

 突然元気溌剌な声をした巨人に話しかけられ、モニカさんはコクコクと激しく肯定するのだった。


「はい。証明終わったから、それ脱ぎなさい」


 俺はゴゥレムに近づき、その胴体をコンコンと叩く。


『えー!? せっかくだからもうちょっと着てたい』

「ずっとそれ着てたら、ガチャガチャうるさいだろ! それに、足元見ろ! 下手したら床が抜けるぞ!」


 事実、ルーク……いやゴゥレムの足元の床は、ミシミシと悲鳴を上げていた。


『うぅ……わかったよぉ』


 と、しょんぼりしながらゴゥレムのパーツが分解されていく。そして、分解されたパーツはまるで意思でも持っているかのようにルゥのアイテムボックスへと収納されていくのだった。

 残ったのは、すっかりオドオドモードに戻ったルゥのみだ。


 そして、今度はアルカがびしょ濡れになったハンター達へと近づき、ささっと手を振るう。すると、びしょびしょだった筈のハンター達は一瞬で乾き、びしょ濡れの原因だった水分は、全てアルカの手の中に集められていた。


『驚かしてしまい、申し訳ありませんでした。私たちはこのように力は十分持っていますので、心配は無用です。それでは、今後はどうかより良い関係性を保てられるよう、お願いします』

『……よろしくおねがいします』


 アルカとルゥがペコリと頭を下げる。

 ハンター達は、慌ててペコペコと頷くしかなかったのだった。


 チラリと受付の方を見れば、受付の奥でギルドマスターが深ーく溜息をついていた。

 すいません。なんかすいません。ちょっと調子に乗ったかもしんないです。

 とりあえず、ペコリと頭は下げておいた。


「という訳で、ハンター登録お願いします。後、確かCランクになったらハンターのチームを申し込めるんだったよね」

「え……ええ。って、まさかこの二人とチーム組むつもり?」

「まさか……っていうか、その為にハンター申し込むんだけど」


 職員と、背後のハンター達がまたしてもざわざわとしている。


「GからいきなりCにランクアップした新人に、超美女の凄腕魔術師、更にいきなり巨人に変身する子供? どんなチームなんだよ」

「なんか、これから凄い事になるんじゃね?」


 なるんだろうな。

 こうしてチームを組んだ以上、もう自重とかしないつもりでいるし。まあ、他のチームとの合同任務とかがあった場合は、あまりアイテムの使用は控えるつもりだが。


チーム名:アルドラゴ

メンバー:レイジ(リーダー)

     アルカ

     ルーク


 これで、アルカとルゥのハンター登録は終了。俺の方も、チームのメンバー登録は終わった。

 とりあえず、今日は適当なCランク任務を請け負ったらそれで帰ろう。力がある事は見せたし、チームで行動すればGランク任務なんてやる必要はないしな。

 ……冷静に考えると、ちょっと前までGランクだった男のモノローグとは思えん。

 嫌だなぁ。この世界に来てからというもの、ちょっと前の事が数週間も前に感じてしまう。


 そう思いながら、ぼんやりとCランクのお仕事が貼ってある掲示板を眺めていたのだが、ふとある魔獣の名前が目に留まった。


“バジリスク”


 よくファンタジーの世界で描かれているように、巨大なトカゲだ。

 最も、伝説によくあるような睨んだだけで即死したり、石化するような特殊能力は持っていない。

 ただ、牙と爪に神経系を麻痺させる猛毒を持っている。これが、石化能力の代わりみたいなもんなんだろう。

 よって、接近戦で戦う事がかなり不利となる魔獣だ。


 この討伐依頼は、かなり前から貼ってある。それこそ、俺たちがこの王都へと来るより前から。

 何故、そんなに長い間残っているかと言えば、危険と報酬が釣り合ってない為だ。さっきも言った通り、バジリスクはかなり危険な魔獣。それに対して、10万レン(約10万円)は、どう考えても安すぎる。しかも、これは一般市民からの依頼だ。バジリスクが領域テリトリーが作っているという場所も、それほど人の往来がある場所では無い。よって、国が指定する討伐以来とはまた勝手が違うのである。

 だから、特に討伐に対するメリットも感じられない。よって、これまでの間ほったらかしにされ、ズルズルと残ってしまっているのである。


 だが、この依頼者に俺は聞き覚えがあった。

 これは、確か王都に来て以来ずっと世話になっていた宿屋の主人の名前じゃないのか?

 それに、あの夫婦は子供二人を魔獣によって殺された筈。という事は、このバジリスクが……?


 俺は、その討伐依頼書を掲示板より取ると、受付へ行って詳しい話を聞くのだった。


 聞いた結果、チーム・アルドラゴの初仕事が決定した。




 という事で、ほぼルークの紹介話でした。ゴゥレムは、物語が進むうちに様々なタイプを出していく予定ですんで、活躍をお楽しみに。

 本当に12体全部出せるまで、物語が進めばいいのですが。


 次回、バジリスク討伐編。

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