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41話 新星チーム躍進



 彼等Cランクチーム・竜の爪が、そのチームと出会ったきっかけは、ハンターギルドの掲示板に貼られていた、あるCランク任務だった。


 王都近隣の川辺に発生した、リザードマンの群れの討伐。

 リザードマンは名前そのままのトカゲ人間。ちょうど、下級と中級の境目あたりに位置するレベルの魔獣だ。知能はそこそこあり、ハンターから奪った剣や槍等の武器を扱う事もある。

 それが、20体以上の群れとなると、推奨チーム数は3チーム。


 だが、ちょうどこの時期は大型の魔物が出現しやすい。よって、名のあるハンターチームは、国内の各地へと散らばっていた。結果として、その任務に応募したのは彼等“竜の爪”を含めて2チームだけだった。


 もう一つのチームは、3人しか居ない少数チームだった。

 名前は、“アルドラゴ”。少なくとも竜の爪の誰もが聞いた事もない弱小チームだ。

 しかも、Cランクが一人に、残り二人はハンターになりたてのGランクだというからお笑いだ。

 そのチームメンバーも、明らかに戦闘を舐めているとしか思えない人選である。


 チームリーダーとおぼしき一人は、まだまだ人生経験も戦闘経験も浅そうなガキ。顔立ちも15歳程度の成人したてにしか見えない。

 髪も服も真っ赤で、明らかに見栄え重視。ちっとも防御力がありそうにみえない。これが、Cランクだというから、ギルドのハンター選定というのはちゃんと機能しているのか疑問に思う。


 一人は目を疑う程の美女だった。

 赤いガキとは反対に、髪も服装も青だ。なんでこんな美女がハンターに? 他にいくらでも安全な仕事があると思うのだが。

 赤いガキとは恋人同士なのか、やたらと距離が近い。よって、赤いガキにはうちのチームの男衆から憎悪に近い嫉妬の視線が向けられている。……気持ちは分かる。


 最後の一人は、どう見ても子供だ。

 それも、10歳程度。金髪で、雰囲気は貴族のお坊ちゃん。顔立ちはやたら可愛らしく、服装は男物っぽいが、パッと見は女の子のようにも見える。

 こちらもどう考えても仕事を間違えているとしか思えない。たたずまいと、話しかけた際の天使の如き微笑みによってチームの女性陣はノックアウトされた。……いや、男すらも。


 当然、任務が始まってすぐの馬車内では、猛烈なるチームの引き抜き行為が始まった。

 対象は当然美女と美少年。


「あ、あの、アルカさん。良かったらウチのチームに入りません?」

「そうだぜ。ウチのチームなら他に女性は居るし、収入もいい。何なら戦わなくてもいい」


「ねぇルゥくーん! ウチのチームに入っちゃいなよ」

「そうそう、ウチのチームならお金には困らないし、戦う必要なんか無いんだから」


 言っている事同じじゃねぇか!!

 それを見たリーダーは頭を抱えた。

 チーム・竜の爪は、剣士のリーダーに、戦士の男が二人。女性陣は魔術師が一人に、弓使いが一人だ。

 確かに、3人しかいない弱小チームに居るよりはマシだろう。……結果がどうあれ、こうしてあからさまに勧誘行為をしているとあっては、こちらもリーダーに話しておかねばなるまい。


「悪いな。こんな堂々と勧誘しちまって」

「いや、別に構わないよ」


 おっと思っていたよりも礼儀正しい男だ。こんな見た目だから、もっと粗暴なキャラかと思っていたが。


「まぁ、正直言って気持ちのいいものでは無いけどね。最も、俺たちは名前も知られていないし、仕方がないさ」

「仲間が取られるかも……っていう心配はないのか?」

「あぁ、そこは大丈夫。別に心配はしてない」

「ふぅん。いっちょまえに信頼しているってのか」

「信頼もあるけど……あいつ等が他のチームに入っても意味が無いというか……」


 よく分からんが、自分たちには分からない信頼関係みたいなもんがあるらしい。

 見れば、それぞれの勧誘も見事玉砕したらしいな。男衆の方は、ぶん殴られた形跡すらある。

 勧誘された二人は、何やら憤慨した顔つきでつかつかとリーダーの元へ戻り、その左右に座り込む。


「あのさ、あんまりピタっとくっ付かないでくんない?」

「やだあの人たち怖い」

「そうですね。他の人間との交流がこんなに面倒だとは思いませんでした。全く、ペタペタと触りやがって」

「……だったらいつものビー玉にもど……る訳にもいかんか。はぁ、めんどくせぇ」


 再び恨みのこもった視線で睨まれるアルドラゴのリーダーだった。

 片っぽは男だと思うが、見た目は両手に華状態だからな。特に同情はしないぞ。


「あと、一応聞いておくか。お前らが倒した魔獣を教えろ」


 とは言え、Cランクに成り立てと、Gランク二人なら大した魔獣も討伐していないだろう。

 と、思っていたら……


「えーと、デビューはゴブリンだったよな」

「はい、そうですね」

「その後、オーク……ヘルハウンド……グール……スケルトン……」


 ふむ。低級どころのオンパレードか。


「ワイバーン……カオスドラゴン」

「ちょっと待て!」


 なんだ今の二つは!?

 明らかに前の奴らとレベルが違うじゃないか。しかもカオスドラゴンだと!?

 背後の他のメンバーも、ざわざわとしている。


「まさかとは思うが、ちょっと前にあったカオスドラゴンの目撃騒ぎ……」

「ああ、はい。それ俺たち当事者」

「で、でも、カオスドラゴン倒したのって、謎の赤いドラゴンじゃなかったか?」

「ええ、だから倒したわけじゃないですね。なんとかしのいでいたら、いつの間にか助かった……みたいな?」


 おい、カオスドラゴンの攻撃凌ぐって、並大抵のもんじゃねぇぞ。

 いやいや落ち着け。所詮はガキ、話をっているに過ぎない。


「それはその二人も当事者なのか?」

「ええと……その時は二人ともハンターじゃなかったけど、一緒に戦ったよな」

「はい。確かガトリングをぶっぱなしましたね」

「ぼくは上から思いっきり押し潰したかなぁ」


 ……訳が分からん。

 盛っているだけ。盛っているだけだよな。この話。でも、なんか言葉に真実味を感じるのは何故なんだ。

 とにかく、竜の爪のリーダーは以後このチームと話す事を放棄し、自分の武器を磨く事にした。




◆◆◆




 あまりリザードマンの発生地に近づきすぎると、竜馬がパニックになってしまう。よって、少し離れた場所で降り、以降は歩きで現場まで向かう事に。


 発生地となっている川辺に辿り着くと、居る居る。身の丈二メートル以上はあるリザードマンの群れ。

 ……これ、30体以上は居るんじゃないか?

 そうなると、このチーム編成は不味かったな……と思うな。せめて、経験豊富なチームがもう一組欲しかった。

 そこへ、アルドラゴのリーダーから提案があった。


「ええと、会ったばかりでチームプレイも出来ないと思いますから、あの木を境にして右側は俺たちのチーム、左側は竜の爪で分担しませんか?」


 リーダーは、その木を境にして双方のリザードマンの数を数えてみる。

 右側は12体。左側は17体か。チームの人数差から考えると、妥当なところか。


「分かった。だが、厳しくなったらすぐに離脱しろよ。正直、子供が死ぬところは見たくない」

「ありがとうございます。それじゃ、チーム・アルドラゴ……行くぞ!」

「「はい」」


 と、若手特有の純粋な元気感に心が洗われるようだ。

 さて、俺たちも……と自分のチームを振り返ろうとしたら、


 バシュン!


 という音と共に、アルドラゴのリーダーが二人を両脇に抱えて、跳んだ。

 それも、ただのジャンプではなく、一瞬で50メートルは跳んだぞ。……嘘だろおい。


 着地の寸前に二人を地面に落とし、自らは何処からともなく奇妙な形の剣を取り出す。

 そして、そのまま剣を頭上に構え、真下に位置するリザードマンの一体目掛けて、振り下ろした。

 硬い外皮を持つリザードマンを、剣で両断する事は難しいはずなのに、その剣はいともたやすくリザードマンを縦一文字に切り裂いたのだった。


 次に地面に降り立った美女目掛けて、三体のリザードマンが襲い掛かる。

 が、美女がさっと手を振ると、空中に水で出来た槍のようなものが出現し、それら全てが自らへ襲い掛かって来たリザードマンへ突き刺さった。


 子供の方はと言えば、さっさっと素早い動きでリザードマンを翻弄し、全ての攻撃を躱す。やがて、リザードマン達の背後へと移動すると、さっと地面へ両手を置いた。

 すると、大地より巨大なトゲのようなものが出現し、その一帯に居たリザードマン全てを串刺しにしてみせた。


 これで既に奴らの担当分の半数が消滅したぞ。

 このまま放っておいたら、全てのリザードマンが倒されそうだ。

 リーダーは慌てて号令を掛ける。


「新人共に負けんな! 俺たちも行くぞ!!」

「「「「おう!!」」」」


 チーム・竜の爪も川辺へと降り立ち、乱戦が始まった。

 実際戦ってみても、このリザードマンが特別弱いとは感じない。こんなものが、剣の一振りや魔法の一撃で倒せるか!? 仲間を振り返ってみても、やはり苦労しているようだ。

 チーム・アルドラゴがあんなにもあっさりと倒して見せた事から、焦燥感も生まれている。このままではマズイな。


 やがて、チームの魔術師の女性が自然と川の渕へと誘導され、川に潜んでいたリザードマン5体が出現し、川の中へと引きずり込まれた。


「イヤァァァッ!!」


 魔術師の絶叫が響く。助けようにも、こちらもリザードマンに囲まれて思うように動けない。

 ―――無念。

 そのまま、断末魔の叫びが轟くかと思われたが、川の上を一陣の風が駆け抜ける。


 アルドラゴのリーダーは、なんと川の上を走り、今死を迎えようとしている魔術師の元へと辿り着いた。

 行く手を邪魔するリザードマンは全て手にした剣で切り伏せ、川の中の魔術師を救い出す。そのまま魔術師を抱きかかえ、またしても高くジャンプした。

 戦場から少し離れた位置へ着地すると、抱きかかえた魔術師をゆっくりと下す。

 そして、また戦場へ帰還。

 男から見ても、惚れぼれする救出劇だ。


 おかげでリザードマンの数も減り、その後はなんとか誰一人ピンチになる事もなく、殲滅し終えた。

 お、終わった……。

 竜の爪のメンバー達は、その事実を確認した途端に全員ぐったりとして、地面へと座り込む。中には、怪我もあってすぐには立ち上がれない者もいるようだ。

 そんなメンバーの元へ、アルドラゴのメンバーの子供が駆け寄っている。


「えーと、痛むのは何処ですか? はい、わかりました。今から治療します」


 両手を体に当て、パッと光が照らす。そんな事をメンバー全員に繰り返している。

 実際にリーダーもやってもらったが、嘘みたいに傷が治っていた。……おいおい、治療術ってのはよっど高度な知識が無いと出来ないもんなんだぞ。ハンターのチーム内に治療魔術師が居るなんて、Aランクチームの一部ぐらいしか聞いた事ねぇ。

 凄腕の剣士に、凄腕の魔術師、そして治療魔術師……か。これは、この先とんでもねぇ事になりそうだな。


 竜の爪のチームメンバーは、エヴォレリアに新たな伝説を作るであろう者達が現れた事を感じ取った。

 そして、その者達と関われた事が、果たして幸運か不運であったかは、今の彼らには判断が出来なかった。




 新章突入です。

 まずは前章同様に、他人から見たチーム・アルドラゴの姿。

 何気にアルカ弟君の人型モード出ています。色々とすっ飛ばしているので、次話でちゃんと説明と紹介やりますのでご安心を。

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