39話 これからの予定 其の二
アルドラゴの船体下部より、何やらうにょうにょした物体が這い出てきた。
パッと見の印象は、スライム。
あの有名RPGでお馴染みの愛らしい外見とは程遠い、ただのアメーバだ。
そのアメーバの正体は、我が相棒にして宇宙船アルドラゴの対話型インターフェイス。つまりは、人工知能……AI……好きに呼んでくれ。とにかく、俺のパートナーのアルカである。
「どうだ、見つかった?」
『はい。ありましたありました』
そう言ってアルカが取り出したのは、これまたでかく美しい宝石……じゃなくて魔石。
そう、カオスドラゴンが残した魔石である。
他の魔獣の魔石は、大体手で摘まめるサイズのものばかりだったが、こいつはさすがにでかい。それこそ、オレンジとかグレープフルーツぐらいの大きさである。
カオスドラゴンはアルドラゴで押し潰す……という倒し方をした為、奴が残した魔石は船体の下へと埋もれてしまったのだ。アルドラゴを動かそうにも、エネルギーが無いし……と困っていた所へ、何やら液体に変化出来るようになったアルカが、もぞもぞと船体の下へと潜り込んでいった。
しかし、魔法が使えるようになった……と思ったら、いつの間にか便利な事が出来るようになったのね。元から俺よりチートっぽかったけど、ますます無敵じゃないかこの子。
アルカはうにょんと人型に姿を変えて、俺の手に魔石を乗せる。
さて、問題はこの魔石をどう扱うかって事なんだが……。
「そいつを持って帰ったら、どえらい騒ぎになるぞ」
忠告してきたのはブローガさんだ。
「ただでさえ、カオスドラゴンが現れたという事で大騒ぎになるんだ。ましてそいつを倒した。それも、Gランクの新人ハンターが。更にこんな訳の分からん鉄の竜を従えて……騒ぎどころじゃねぇな。下手したら英雄だの勇者だのと祀り上げられるぜ」
……そいつは嫌だ。
煩わしい事この上ない。貴族とか王族なんかと関わりたくなんかないし、下手に関わったら手元に置こうと囲い込んでくるだろうしな。
更に下手をすれば、俺を討てば名を上げると勘違いした連中が現れたり……脅威の目を先に摘もうと、暗殺者を派遣したり……。
嫌だ嫌だ嫌だ。
別にこの世界に定住しようって気はさらさら無いんだから、地位も名誉も俺はいらんぞ。
むしろ、正体はなるべく隠しておきたいし、称賛の声なんかも、欲しくないとは言わないが、俺に直接向けられるのは恥ずかしい。
「カオスドラゴンに関しては、俺たちが倒した……という事は秘密にしておこうと思う」
『やはり、そうですね』
「だな。俺もそう思う」
アルカとブローガさんも肯定してくれた。
「と、なると……誰が倒したかって事なんだが……」
「コイツが倒した……でいいじゃねぇか」
ブローガさんが指したのは、アルドラゴだった。
「え、でもこれは……」
「お前たちの船だってんだろ? 異世界だの何だのってのは俺にはよく分からんが、俺から見たらこいつは鉄で出来たドラゴンだ」
それは……うん、分かる。
「それに、こんだけの大きさなら空でカオスドラゴンと戦っている様子も目撃されているだろう。正体不明の赤いドラゴンが、カオスドラゴンを撃退した。……それでいいんじゃねぇか?」
……確かに、嘘ではないな。アルドラゴが決め手になったのは間違いない。
俺はチラリとアルカを見た。
アルカも、コクンと頷く。
「分かりました。それで行きましょう」
「まあ、それでも……今後俺たちの周囲は忙しくなるぞ。カオスドラゴンと戦って生き残った事もそうだが、ワイバーンの進化、謎のドラゴン……と、ギルドだったり国だったりが知りたがる事が山のようにある。しばらくは穏やかな生活は送れねぇかもな」
ああ……やっぱりか。
やっぱり、そういう連中と関わる事は既定路線なのか。めんどくせぇ。その辺については、もうちょっと後で考えるか。
「とりあえず、アルドラゴはさっさと動かした方がいいかな。えっと……コイツで動かせる?」
手に入れたばかりの魔石を指す。
『問題ありません。なにせ、ゴブリンの魔石が1だとするなら、このカオスドラゴンより得た魔石は1万は魔力量があります。かなりのエネルギーを補充できるはずです』
ゴブリン1万体分か。
でも、カオスドラゴン一体ならゴブリン1万なんぞ余裕っぽく感じるけどな。あんなのブレスで一発だろ。
「よし、じゃあ動かそう。というか、ちゃんと乗ってみたい!」
さっきは、戦いの最中だった事もあってか、実際に飛ぶアルドラゴの背に乗ったというのに、ちっとも感動が無かった。ようやく飛べるレベルになったのだとしたら、ちゃんとした感動を味わいたいものだ。
「おう、俺も乗せろ! ものすんごく興味がある」
俺とアルカが「えー?」という顔を作ると、ブローガさんは偉そうに腕組みして言った。
「なんだ? 別にいいじゃねぇか。口止め料だと思えば」
まあ、色々と見られたから仕方ないと思って、全てでは無くある程度の事情を話したんだけど、考えてみたら人柄ぐらいしか信用する要素無いんだよな。
アルカは困ったような顔でこちらを見ている。……今まで表情とか分かんなかっただけに、そういうのってドキッとするな。つーか、こっちが困る。
「……仕方ないな。いいんじゃない? とりあえず、今回だけって事で」
本心としては、ちゃんとした初飛行なんだから、仲間内だけで飛びたかったよ。一応、この人って部外者な訳だし。
でも、この人のおかげで今があるし。今後も、世話になるかもだから、あくまで今回だけという名目でいこう。
が、アルカは明らかに不機嫌そうだ。
分かる。気持ちは分かるよ。
新居に土足で踏み入れられた……みたいで嫌な気分にはなるよな。このおっさん、見るからにガサツそうだし。
……あ、そうだ。良い事思いついた。
◆◆◆
「うわっはっはっ! これが空を飛ぶって感覚か! 気持ちいいもんだ!!」
「そ、そうですね」
……良かった。気づいていない。
今、俺たちが居るのは、アルドラゴの甲板……背にあたる部分だ。
この世界の人たちからすれば、まさかドラゴンの腹が開いて中に人が入れるとは思うまい。よって、アルドラゴに乗る→物理的に背に乗る……という形で誤魔化した。
ただ、普通の船等と違って、この甲板部分には特に手すりとかは置かれていない。よって、下手をすれば滑ってそのまま落下……という事にもなりかねないのだった。
しかし、そこは流石Bランクハンター。見事なバランス感覚と足元の踏ん張りによって、時速300キロ以上のスピードでも余裕な態度であった。
まぁ、こういう形に誤魔化したせいで、俺とアルカもブリッジには入れず、同じく甲板に立っている事になったのだが。きちんとブリッジの座席に腰かけてからの飛行は、またの機会にするとしよう。
ちなみに操縦は弟君に一任している。アルカと彼とは、落ち着いたらしっかり話さないとな。
そして、今までアルドラゴが置かれていた岩場まで移動する事になったのだが、その前にミナカ村を経由して移動する事にした。
アルドラゴの存在をアピールする事により、カオスドラゴンを撃破したのはコイツですよー。という説明に説得力を持たせるためだ。
ミナカ村の上空を飛んでいると、豆粒ほどの人々がざわざわ騒いでいるのが見える。
多分、「あれはなんだ!?」的な事を言っているんだろうな。見られたのを確認できたら、ささっと岩場へと移動した。噂になればいいのであって、新たな魔獣として討伐対象になっても困るのだ。
ミナカ村よりちょっと離れたところで、俺とアルカとブローガさんはアルドラゴより降りる。
アルドラゴは、弟君に任せて、元の岩場へと戻した。
ミナカ村へと戻ると、既に戻っていたジェイド達と再会する。
ジェイドは、俺たちを発見するなり涙ながらに抱き着いてきた。なんというか、意外な行動だったので慌てた慌てた。コイツ、こんなに熱い男だったのか。
ユウ君達に後で聞いたところ、村へ帰還して言われた通りに王都に伝令を頼んだ後、決死の覚悟で俺たちの所へ戻るつもりだったらしい。
熱いなぁ。最初に会った頃は馬鹿なヤンキーだと思っていたけども。ちょっと好感度上がったぞ。
無事を確認した後は、事後報告。
村長とジェイド、ユウ、ヤンの四人に、カオスドラゴンと交戦した事。戦っている最中に、正体不明の赤いドラゴンが現れ、激しい激闘の末にカオスドラゴンを倒した事。その後、赤いドラゴンは何処かへ去っていった事。
打ち合わせした通りに全て話す。
「赤いドラゴンってのは……さっきこの村の上空を通り過ぎたアイツか?」
「あの巨大なドラゴンですか、確かに……あれならばカオスドラゴンを倒しても不思議はないですね」
「まあ、何よりお二人が無事でよかったですよ」
ふふ。計画通り。
いい具合に騙されてくれて良かったよ。
『そこまで大した計画でもないですがね』
うるさいよ。
ちなみに、アルカはビー玉モードに戻って、今は俺の胸に収まっている。正直、慣れているだけに、こっちの方が落ち着く。
後は、疲れた……眠い……と言って、宿屋の自室へと引き籠った。さすがに誰も反対はしなかったね。
すいません。今回の話で一区切りと言っておいて、実際に書くと2話分くらいの文字数になりました。
ですんで、分割して投稿します。
続きは、ほぼ完成していますので、10日には公開できると思います。




