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38話 鋼鉄竜VS混沌竜


『ふわぁ~~。あ、お姉ちゃんおはよう』

『おはようございます。さて、挨拶は済みましたので、貴方にはさっそくやってもらいたい事があります』

『……ん? そう言えばなんでぼくって起こされたの? エネ節の為にお姉ちゃん自分だけが起きているって話じゃなかったけ』

『そうですよ。必要ですから、起こしたのです』

『って事は……おお! 遂に艦が動くようになったの!?』

『……まぁ、そういう事です。では、早速艦長を助けに行きますよ!!』

『おお! 艦長まで!! どんな人だった!?』

『……そうですね。ヘタレ、ビビり、チキン、コミュ障……人格面ではそれなりに問題を抱えた方ですね』

『ひ、酷くない!? それが艦長なの!?』

『それなのに、妙に正義感が強く、手の届く範囲に困っている人が居たら、つい手を差し伸べてしまう……そんな人です』

『……なんか矛盾した人なんだね』

『正直言って、暫定的な艦長であると、最初は妥協していました。ですが、私も感化されてしまったのか、今は素直に彼の手助けがしたいと強く思っています。ですから、私の手伝いをしてくれませんか』

『うん、別に良いよ。それがぼくらなんだしね。で、ぼくは何をすればいいの?』

『貴方には、この艦の操縦を頼みたいのです』

『あれ? それはお姉ちゃんがやるんじゃないの?』

『いえ、私は武装の代わりに外に出ます』

『??? 外? 武装? 意味が良く分からな……って、艦のエネルギー全然無いじゃん!! こんなんじや、5分もまともに飛べないよ!!』

『ええ、ですから短期決戦ですね。さぁ、行きますよ!!』




◆◆◆




『うひゃあ! なになにあれ! お姉ちゃんなにあれ!? 宇宙怪獣!?』

『まぁ、似たようなものです』


 眼下に存在しているカオスドラゴンを見て、弟は興奮している。私の方はケイの知識の影響でそっち方面の情報も詳しいのですが、弟は素で好きですからね。

 それにしても、さすがアルドラゴ。エネルギーが少ないと言っても、わずか数秒で10キロ程度の距離を飛ぶ事が出来ました。


 ケイは……よし、無事ですね。でも、スーツのエネルギーが尽きています。くそう、あのやろーやっぱり無茶しやがりましたね。


『では、私は外に出て迎撃します。艦の操縦はよろしくお願いします』

『え? 外? ぼく達って外に出られたっけ?』

『出来るんですよ。これが終わったら、貴方にも教えますね。……変身!』


 練習が功を奏してか、実体化にも慣れてきました。

 白と青のアーマードスーツを着込み、他にも様々な装備を身に着ける。額には、ケイの物とは違う流線型のヘッドマウントディスプレイ型バイザーを装着。


『さて……行きます』

『うおおお! お姉ちゃんすげぇ!! 人型になれんの!? しかもすんごい格好いい!!』


 弟の歓声を背にして、私はゲートの魔法でもって甲板……アルドラゴの背にあたる部分へ飛び出ました。まだゲートのサイズは小さいものの、身体を一時的に液体化すれば、この身体でも移動する事は容易です。


「グオォォォォォォォォォッ!!!」


 予想通り、カオスドラゴンは標的をこのアルドラゴへと移したようですね。

 巨大な翼で空を飛び、このアルドラゴの頭上へと飛来する。そして、口腔こうこうにエネルギーを溜め、ブレスという名のレーザーを吐き出しました。


『うひゃあすごい! 放射熱線だぁぁぁ!!』


 極太のレーザーの直撃を浴びるアルドラゴ。

 だが、対熱エネルギー効果を持つ装甲で出来ているアルドラゴに、そんなものは通用しません。


 びくともしていないアルドラゴを憎々しげに睨み、今度は鋭い牙で噛みついてきました。ギシギシと艦体が揺れるのを確認できます。


『ダメージは?』

『おおう凄いパワー! でも、大丈夫。装甲を貫く程の力は無いよ』


 ふふん。アルドラゴを舐めんなってんです。

 この世界では上位の魔獣なんでしょうが、こちとらウチの世界が誇る最新鋭の戦艦なんだぞ! まぁ、現時点では最新って言葉が妥当かどうかは分かんないですがね。


『それでは、こちらから行きます!!』


 私は自分用のアイテムボックスから、武器を取り出しました。


 身の丈ほどもある無骨な強化金属の塊。それが私の両の腕に装着されます。

 多連装ガトリングガン!!

 ケイのサブカルチャー知識からヒントを得て、私が自ら組み立ててみたロマン兵装の一つです。

 本来なら重武装の巨大人型兵器が持つ武器ですが、非常に私の琴線に触れるものがあったので、真似させてもらいました。


 照準をつけ、トリガーを引く。

 ズガガガガ……と、轟音が響きます。重なった銃身が回転し、いくつもの銃弾が放たれる。……おっと、これは金属の弾ではありません。鉄ほどに圧縮した水の塊です。

 名を付けるならば、ガトリングレインと言った所でしょうか。


 水の弾丸は、全てカオスドラゴンに命中しますが、その肉体に当たる寸前で、身体を覆っている黒い霧によって弾かれてしまいました。

 やはり、あの黒い霧にはバリアのような能力があるとみていいでしょう。でも、その弱点も理解出来ました。

 私は構わず、ガトリングレインを撃ち続けます。

 予想通り、霧が少しずつ剥がされていくのか目に見えます。あの霧の防御は、一点による攻撃には強い効果を発しますが、小刻みな攻撃や多面による攻撃には弱いのです。それに、ケイ達との戦いで霧のエネルギーもかなり消耗している様子。このままいけば、普通に攻撃も通じる筈。


 ですが―――


「グオォォォォォォォォォォォォォッ!!!」


 突然カオスドラゴンが咆哮を上げました。

 悪あがきを……と思っていたら、突然私の腕からガトリングガンが落ちました。

 え?

 グシャリ……と、私の身体が一瞬歪む。


 声による振動!?

 水面みなもに波紋が広がるように、私の肉体の維持が……崩れる!?


『お姉ちゃん!』


 甲板に密着していた筈の足元が崩れ、私の身体はアルドラゴより滑り落ちていく。

 駄目です。思考すら出来ないです。

 対処法を思いつく事も出来ず、私は大地に向かって落ちていきました。


 そんな私に、届く一つの声が……


「アルカァァァァァァァァァァァ!!!」




◆◆◆




 カオスドラゴンと戦っていたアルドラゴだったが、カオスドラゴンが耳をつんざくかのような咆哮をあげた事によって、戦局が変わった。

 アルドラゴからの攻撃が止まり、その背より……誰かが落ちる。


 腰まで届く青い髪。そして、白と青のアーマードスーツを着込んだ女の人だった。

 俺が見た事もない女性だった。

 年齢的には、俺よりも少し上のようにも見えるが、遠目から見てもかなりの美人だというのが分かる。


 その女性が、大地に向かって落ちていく。


 俺は、咄嗟にその女性目がけて……跳んだ。


「アルカァァァァァァァァァァァ!!!」


 何故か、それがアルカだと認識できた。

 理由? そんなもの知るか!


 俺は、空中でアルカ……と思われる女性をキャッチする事に成功する。いわゆるお姫様抱っこ……というスタイルだな。スーツのパワーは無くなっているというのに、その身体は軽く感じた。


『え……ケイ……ですか?』

「無事か、アルカ!?」


 その声、やはりアルカか。

 なんで人間みたいな……って、今はそんな疑問はいい。とにかく、カオスドラゴンへの対処が先だ。

 俺はジャンプブーツでもって、アルドラゴの甲板へとたどり着く。


『うわぁ、お姉ちゃんお姫様みたい! そんで、その人が艦長さん? よろしくお願いします!!』


 いきなり、バイザーに言葉が浮かび上がった。

 この会話久々! ……っていうか誰!?


『私の弟です』

「弟!? アルカに兄弟とか居たの!?」

『その話は後で……。それと、そろそろ下してくださると嬉しいです』

「あ、ああ……」


 言われて、ずっとアルカを抱っこしたままだっという事に気づいた。

 慌ててアルカを放すと、俺はカオスドラゴンを睨み付ける。


「さて、アルカ。どう戦うんだ?」

『それなんですが、ケイ』

「どした?」

『そろそろエネルギーが切れます』

「なにぃ!?」


 その言葉通り、アルドラゴの船体がガクンと下がった。

 いや、なんか威風堂々とやって来たけども、ずば抜けた防御力を見せつけただけで、ほとんど何もやって無くね?

 ブレス直撃しても何とも無かったり、噛みつかれても傷一つついてないのは凄いと思ったけども! まだ宇宙船らしい事全然してないし!


 こうなったら、いつも通りにアルえもんに頼ろう!!


「アルカ! アイツに対する対処法みたいなもんは見つかったのか!?」

『対処法というか、あの霧に対する攻略法は見つけました』


 アルカより、霧の攻略法を聞く。

 なるほど。あの霧は、要はピンポイントバリアみたいなもんか。広範囲のカバーは出来ないが、一点に集中する事であらゆる攻撃を防ぐ……みたいな。

 となると、ハードバスターじゃ駄目だな。奴の身体そのものを押しつぶす……ぐらいの範囲の攻撃じゃなければ。

 ……ん? 押しつぶす?


「この船のエネルギーはどれくらいで尽きる?」

『う~ん。もう1分も掛からないかなぁ。元々、5分程度で限界だったし』

「じゃあ、この船をカオスドラゴンの真上に位置する事は出来るか?」

『出来るけど……そんなにスピード出せないから、多分逃げられちゃうよ』


 なるほど。推進力のパワーが足りないんだな。

 だったら、プラスアルファで俺が力を足してやる。


『ケイ。一体何をするつもりですか?』


 俺は、アルカの質問に笑みで答え、甲板の上に手を置いた。


「ゼロ!」


 掴んだ物の重さを無くす、グラビティグローブの能力の一つだ。

 発動させた途端、今まで徐々に高度を下げていたアルドラゴが、僅かに浮き上がった。


『凄い凄い艦長! 艦体がだいぶ軽くなったよ!!』


 さすがにこれだけの巨体となると、完全に重さを無くすことは出来ないようだが、半減させる事は可能だ。


「奴の真上に移動しろ!!」

『アイアイさー!!』


 ノリの軽い声で弟君が反応し、アルドラゴがジェット噴射によって急上昇する。

 突然真上へとやってきた巨大な鉄の竜に驚いたのか、カオスドラゴンは慌てて逃げようとする。が、そんな事は許さない!


「エンジンを切れ!」

『ええっ! そんな事したら落ちちゃうよ!』

「いいんだよ落ちて!! アルドラゴで、奴を押しつぶす!!」

『なるほど!』


 動力を失ったアルドラゴは、そのまま真下に落下する。当然、真下に位置していたカオスドラゴンをも巻き込んで。

 その様子は、まるで竜が竜を組み伏せているかのようだった。

 名前を付けるならば、そのままドラゴンプレスと言ったところか。


 アルドラゴの大きさは、カオスドラゴンの倍以上だ。

 こんなものに押しつぶされれば、バリアどころではない筈だ。大地に激突する際、俺はアルカを抱きかかえてアルドラゴの背から離れた。


 直後、轟音と衝撃波。そして尋常ではない量の土埃が辺りを覆う。

 視界が晴れると、そこにはまるで隕石でも落下したかのようなクレーターが出来上がっていた。

 クレーターの中心には、無傷のアルドラゴ。

 その下に、カオスドラゴンが居た。


 まだ息はある。

 が、ほとんど虫の息といっていい。

 

「うわ……勝っちまった」


 抱きかかえていたアルカを下すと、俺の口からそんな言葉が漏れた。

 もちろん、負けるつもりで戦っていた訳では無い。それでも、あんな大怪獣みたいな化け物に勝てるなんて、想像の範囲外だ。

 まぁ、そもそもアルドラゴが救援に来なかったら負けていたけどな。


「それでも、勝ちは勝ちだ」


 まるで俺の心を読んだかのような台詞と共に背後から現れたのは、ブローガさんだった。見たところ、特に大きな怪我とかは無い様子。良かった。


「全くお前は……。Gランクでいきなり上級魔獣を倒すハンターなんて前代未聞だぞ。それに、そのお嬢ちゃんといい、鉄のドラゴンといい、聞きたい事は山ほどあるが、まぁ今はアレの始末をつけてやんな」


 アレ……と言ってカオスドラゴンを指す。

 つまり、止めを刺せって事か。


「アルカ、ブレスの直撃受けても平気だったんだから、コイツ使っても平気だよな」


 俺は、右腕にあるハードバスターをトントンと叩いて尋ねた。


『ええ、平気です。その程度ではびくともしませんよ』

「ならOK」


 俺はハードバスターのスイッチを入れる。

 ガントレットの形状だったものが、ガチャガチャと形を変えて、右腕全体を覆う砲となる。

 これを使えばアルドラゴに傷をつけてしまうんじゃないかと思っていたが、その心配はないみたいだからな。


 ただのワイバーンだった筈のお前が、どうしてそんな姿になったのかとか、色々と疑問はあるけども、これから死を迎えるお前に対して介錯かいしゃくはしてやるよ。


 ―――じゃあな!


「ハードバスター!」


 カオスドラゴンのブレス程ではないが、砲の先から極太のレーザーが発射され、頭部へと命中する。霧による防御は既に出来ず、頭部はそのまま光によって蒸発した。

 やがて、肉体そのものも頭部を失った事によって、魔素となって空気中へ霧散していく。

 あの巨体がキラキラした粒子となって、空へかえっていく様子は、なかなかに綺麗だった。


 俺は、散っていくカオスドラゴンへ向けて、合掌した。

 魔獣の消滅は、死ではない。新たな魔獣へと生まれ変わる為の前準備みたいなものだという話だ。それでも、強敵だったカオスドラゴンそのものは、もう居ない。

 強敵への手向たむけとして、俺は祈ったのだった。

 そして、誓う。


 もし、また相見あいまえるとしたら、今度は俺一人の力で倒してみせるぞ!





 新キャラ登場。

 人型アルカ遂に本格戦闘参戦。

 ケイと人型アルカ初対面。

 カオスドラゴン撃破。


 こうしてみると濃い一話でしたな。

 本当は、最初のプロットではアルドラゴももっとカオスドラゴンと本格的な空中戦を展開する予定でしたが、エネルギー問題そう簡単に解決したらあかん……と思い直しまして、今に至ります。

 空中戦はそのうちやりたい……。


 次話で、また一応の一区切りとなります。

 新キャラのアルカ弟もちゃんと出てきますよ。名前については、現時点ではケイ達の言葉に訳せないので、近く命名します。

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