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37話 鋼鉄竜出陣




「う~ん……。それは……無理だなぁ」


 ラザムは私にそう言った。

 正直言って、その言葉が私には信じられなかった。

 今こうしている間にも、ケイは命懸けで戦っているのだ。それなのに、この男はそのケイを見捨てると言うのか?


「ああ……待て待て。俺自身は助けてやりたいと思っている。思っているんだが……」

『時間が無いのです。理由があるのなら、早く言ってください』


『ふむ。それは、ワシが手を貸してはならぬと言ったからじゃ』


 ファティマさんの声が割り込む。

 声の発生源は、ラザムの口からだった。


『ファティマさん……ですか?』

『うむ。今は遠く離れた地におるのでな。今は、こやつの口を使って交信しておる』

「まあ、魂を共有しているからこその技だな」


 いっぺんに二人分話すから、実にややこしい。

 まぁいい。ファティマさんとも話せるのなら都合が良い。


『ファティマさん。どうか、ケイ達を助けて下さい。貴方達の力ならば、あのカオスドラゴンをも打ち破れるはず』

「ああ。俺としても是非力を貸してやりたいんだが……」

『それはならぬと言ったであろう』


 賛同しようとしたラザムをファティマさんがいさめる。


『何故です!? 相手がドラゴンだからですか!?』

『むぅ。失礼な事を言う出ない。あんなもの、我々竜族はドラゴンと認めておらんわ。

 ……よいかアルカ。我々は神。……一応、コヤツにもその力の一部を与えてある。

 神が戦う事を許されるのは、それが世界の危機、もしくは己の種族の存亡が掛かった時だけなのじゃ。もし、そのカオスドラゴンがワシ等に直接危害を加えてきたら話は別じゃが、話はそういう事ではあるまい。

 ケイ達は、自らカオスドラゴンへと戦いを挑んだのであろう。それでは、ワシ等が力を貸す事は出来ん』

「……って訳だ。悪いな」


『そんな……』


 私は愕然とした。

 今、正にケイが命を懸けて戦っているというのに、私は仕事を果たせなかったというのか。

 これでは、何のために……何のためにケイから離れてこの場に来たというのだ!


『……のう、ラザム。ちょいとアレを取り出せ』

「あん? 何の事だ」

『いいからさっさと出せ。お前がアレにこっそりと力を溜めていた事はワシも知っておる』

「!! お、おいまさかアレをこいつ等にくれてやるってのか?」

『やらんわ馬鹿者。手を貸せば、ルール違反になるとさっきも言ったであろう。

 お前は、ただアレを落とした。そして、無くした……それだけの事じゃ』

「い……いや、あれって結構貴重な物なんだぜ」

『いいからさっさとやらんか。お前も、あ奴等が死んだら夢見が悪かろうて』

「そりゃそうだが……。ああ、もう!! もってけドロボーだコンチクショウ!!」


 さっきから何を言っているのだろうこの人…いや、この人達は……と思っていたが、ふと突然にラザムがふところから何かを取り出す。


 今の私と同じ、ビー玉サイズの球体の魔石。

 ……いや、魔晶ましょう!!


「いいか! 今から言うのは独り言だからな! コイツは、土の魔晶。城の宝物庫にあったのを、俺が魔法騎士団を抜ける際の退職金代わりに自主的に頂いたもんだ。生活に困ったら売ろうとは思っていたが、その必要も特になかったんでな。今では、適当に暇があったら魔力を注いで、何かに使えればいいな~~とか考えてたんだけど。……考えてたんだけどさぁ。実際にその出番が来ると惜しいな~~。勿体ねぇな~~。

 ……ああもう! 分かったっての!!」


 何やらグダグダとわめいていたが、やがてその手からポロリと魔晶が落ちる。

 そして、コロコロと転がって私の元へと辿り着いた。


「あ、落としちまった。もう何処に行ったのか分かんないな~~。惜しいけど、仕方ないな~~。無くしたと思って諦めよう!」


 やや涙目になってラザムは言うと、クルリと背を向けて、その場でふて寝してしまった。


 ……うん。わざとらしい演技だったが、言わんとする事は理解できた。

 私はその魔晶を持ち上げると、ふて寝している体勢のラザムに向かって一言、


『ありがとうございました』


「ケイの奴に後で顔だせって言っとけ。俺から言えるのはそんだけだ」


 こちらに背を向けたまま手を振っている。


『ええ、必ず。……ゲート!!』


 私は、ゲートの魔法で空間を飛び越える。




◆◆◆




「さて、どう攻めます?」

「こんなもん。まずは斬ってみるしかないだろ」

「あ、やっぱり」


 俺は、ブローガさんの構えている大剣……そして俺が持つ高周波カッターを見比べてみた。

 見た目の強さでは負けているけども、この剣で斬れない物なんて、そうそう無いだろう。

 つまり、間合いにさえ入れば、勝機はあるって事だ。


「どんな魔獣であっても、首を落とせば倒せる。とにかく、狙いは首だ」

「了解」


 そう言われると、簡単な事……のような気もしてくるから不思議だ。


「あとな、俺の防御は気にするな。お前はお前の事だけ考えていろ」

「え……でも……」

「お前は他の事に気を配りながら戦えるほど器用なのか? そうじゃないなら、出来る範囲の事だけやれ」

「……分かりました」


 とは言ったものの、もし危ないと俺が判断したら、咄嗟とっさにやってしまうんだろうなと思う。

 まぁ実際、やってみないと何とも言えないんだけどな。


「そんじゃ……行くかレイジ!」

「はい!」


 俺たちは、左右に分かれ、二方向から攻め込んだ。

 カオスドラゴンは俺たちに対してどう対処するのかと思えば、ブローガさんの方へ自らの爪を振りかざし、俺へはその巨大な尾を振り払ってきた。

 尾が迫ってくる様子は、まるで列車だ! 轟……と、特急車両がまるで鞭のように振り回されている。

 10数メートルはある尾の範囲からして、横に逃げる事は不可能だ。ならば、逃げる方向は上しかない。ジャンプブーツを発動させ、跳ぶ。

 その上空へ跳んだ俺目がけて、尾の先端部分が槍の如き勢いで突き出された。上空へ逃げたのならば、避ける事は不可能と思ったのか? コイツ、予想以上に知能が高い。

 まあ、こっちの持っているアイテムの性能は、カオスドラゴンの知能よりも数段上だったがな!

 俺は、ジャンプブーツを使って、空中で更にジャンプした。溜めている空気を圧縮して放出する事によって、多段ジャンプが可能なんだ。

 それに……!


「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 身体を反転させ、空へ向けて蹴れば、空中で加速をつけて弾丸の如き勢いで突進する事だって出来る。

 俺は剣を構え、カオスドラゴンへ向けて突進した。


 このまま、奴の胴体へ風穴を開けてやる!

 ……そう思っていたのだが、


 キィン


 何かとてつもなく硬いものに弾かれ、俺の身体はその勢いで空中へ放り出される。

 ―――なんで!?

 と、思う間もなく、空中の俺目がけて尾が振るわれる。

 今度は多段ジャンプで逃げる事も叶わず、俺の身体は大きく吹き飛ばされてしまった。

 何度もバウンドし、地面を転げまわる。スーツのショックアブソーバーのおかげで、痛みは無い。それでも衝撃は感じる。身体も僅かに痺れ、すぐには動けなかった。


「レイジ!」


 ブローガさんの声。

 見れば、倒れている俺目がけてカオスドラゴンがブレスを放とうとしている。


「くっ!」


 俺は右手を伸ばし、遠くの木目がけてフックショットを撃ち込んだ。打ち込んだフックを起点にして、ワイヤーを使用して強引に身体を移動させる。そんな俺の足先を、極太のレーザーがかすめていった。

 くそ! 冷静に考えを纏める時間が欲しい!

 どうして……どうして俺の剣は弾かれた? 高周波で超高速振動している刃だ。鋼の硬度があっても斬れるはず。それに、なんだか奴の皮膚に当たったという感じはしなかったぞ。


 チラリと視線をブローガさんへ向ける。

 既に間合いに入り込んでいるブローガさんであったが、また奴には傷を負わせる事が出来ていない様子だ。

 爪による襲撃をまるで受け流すかのように見事に逸らし、そのままジャンプしてカオスドラゴンの首筋を狙う。


 った!


 が、俺と同じように皮膚に当たる寸前にキィンと弾かれた。

 まずい。動きが止まった!

 空中のブローガさん目がけて、爪が振り下ろされる。


 それよりも早く俺はブローガさんへフックショットを撃ち込み、ぐいと引っ張って攻撃から逃がす事に成功する。


「チッ! 俺の事は気にするなと言っただろうが!」

「聞きましたけど……だからって、はいそうですか、とはいきませんよ」

「生意気な!」


 俺たちは文句を言い合いながらも息を整える。その間も、カオスドラゴンからは目を逸らさなかった。


「……攻撃、当たりましたよね」

「ああ」

「でも、弾かれた」

「ああ。あれは皮膚の硬さ……じゃない」


 やはりか。となると、攻撃が弾かれた要因は……


「あの……霧みたいなやつ……かな」

「恐らくな。俺は魔法を扱えんからよく分からんが、あれは恐らく魔力だ」

「魔力って、あの魔法の源になる力でしょ? それって見えないもんじゃないんですか?」

「見えない筈のもんが、見える程になっているから異常だという事だ」

「そういう事ですか」


 確かアルカも、魔法とは魔力を細かく組み替えたパズルのようなものだと言っていたな。つまり、あんだけ視認出来る程に魔力が濃くなり、パズルの解答すら分かるのなら、絶対防御みたいな事も出来るって訳か。


 ……ズルい。


 しかし、頼りにしていた高周波カッターによる攻撃も効かないか……。

 だったら、


「色々試してみるしかないですね」


 俺は高周波カッターを収納すると、今度は銃……トリプルブラストを取り出した。

 そして、ブローガさんの「なんだそりゃ?」の言葉を無視して、飛び出す。


 ジャンプブーツを水平に使用して一気に間合いを詰める。

 その俺目がけて爪が振り下ろされるが、それを見越して高くジャンプした。今度は、爪も牙も尾も届かない上空へ。

 そして、真上からトリプルブラストの照準をつけ、最大出力のファイヤーブラストを放つ。

 火炎放射器の数倍の炎が放たれるが、カオスドラゴンに変化は無い。あの黒い霧も健在だ。ならば……と、ウインドブラスト、サンダーブラストを次々と試す。

 風、雷といずれも大きな変化は無かった。あの霧は、全属性対応だってのか。

 ならば……と、チラリと右腕にある武器を見る。今の俺の最大武器であるハードバスターを使うべきか? いや、問題なのはあの霧だ。あの霧によって全ての攻撃が無効化されてしまう。この霧をなんとかして攻略しない限り、勝機は無いぞ。


 俺は空中でホバリングしながら、必死に頭をフル回転させていた。

 どうする!?

 どうやって攻略する!?

 今ある手持ちの武器で、何か効果のある物は無いか?


 そうしていると、今度はカオスドラゴンが飛び上がって、直接攻撃を仕掛けてきた。


「ああもう! こうなったら当たって砕けろだ!!」


 剣→×。魔法→×。

 だったら、残された攻撃方法は……殴るしかないじゃない!!


 目前に迫ってきたカオスドラゴンの顔面を、俺は思いっきり殴り飛ばす。

 100倍パワーの拳を受けて、カオスドラゴンが地面に叩き付けられた。

 効いてるかどうかは分からん! だが、こうなったら全力で殴り続けるしかないだろう!!


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 大地に叩き付けられたカオスドラゴン目がけて、俺はひたすらに拳を打ち続ける。

 体格は10倍以上なんだが、俺が上で奴が下というマウントポジションだけは譲らない。というか、今この機を逃したら負けると思う。

 やがて、シュゥゥ……という音が蒸気と共に俺のスーツから出始めた。くそ、排熱が始まった。という事は、スーツの使用限界がそろそろって事か。

 スーツの出力を上げれば上げる程、使用限界は早くなる。さすがに100%の使用時間は短かったようだ。


 それにしても、もうとっくに3分は過ぎたんじゃないか!? ウル○ラマンとか、こんなに体感時間ながーく感じながら戦っているの!?


「アルカ!! こっちもいい加減限界だ!! 早く帰ってこい!!」


 思わず声に出していた。

 とは言え、俺と奴、最早どっちが先に力が尽きるか……という勝負になっている。

 それでも、カオスドラゴンが纏っている黒い霧は消える様子が無い。

 うわ……これってマズいんじゃないか!?


 ぺし。


 すると、突然パンチの衝撃が軽くなった。

 スーツの青いラインが灰色になっていく。……完全に、エネルギーが尽きた証拠だった。


 ―――死ぬ!?


 戦場で急に丸裸にされたような……そんな恐怖が襲ってきた。

 カオスドラゴンが、まるでこちらを見てニヤリと笑ったような気さえした。


 その時だった。


 ゴオオオ……という轟音と共に、巨大な影が天を覆う。まるで、天から何か巨大な物が降って来たかのような威圧感が襲う。

 だが、俺は今まで抱いていた恐怖が霧散していくような感覚を覚えていた。


 あぁ……これは味方だ。


「こ、鋼鉄のドラゴンだと!?」


 今まで呆然と俺の戦いを見守るだけだったブローガさんが、天を見据えてそう呟いた。

 そう、俺たちの上空にあるのは、赤と黒で彩られた巨大な鋼鉄の竜。


「遅いぞ……アルカ!」


 ジャンプブーツを使用して、俺はその鉄のドラゴンへと近づく。

 見間違える筈もない。

 コイツは、俺がこの異世界で拾った宇宙船……鋼鉄の竜アルドラゴだ!!




 遂に……アルドラゴが飛びました。次回、バトルの方も決着。


 そして、仲間サイドの方も新キャラ登場です。

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