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35話 ワイバーン・ハント



 ワイバーンが縄張りにしているという魔の山。

 そこへ、俺たち五人は足を踏み入れた。


「チッ、見晴らしは良い……か。あまりいい条件じゃねぇな」


 さほど木々が生い茂っていない山の様子を見て、ブローガさんは舌打ちする。

 確かに、遮蔽物も特になく、身を隠す場所が無い。

 制空権を取られたら、一方的に狙い放題って訳か。


「おいお前ら。昨日言ったことは覚えているな」

「は……はいっ!」

「う、うす」

「「………」」


 三者三様の返事をして、ブローガさんは己の武器を取り出した。


 ……大剣だ。


 ロマン武器の一つ。こういった武器は、アルドラゴには無いから初めて見た時はかなりワクワクした。普通の人間なら、まともに振り回す事も出来ないが、ブローガさん程の腕力の持ち主ならば、普通の剣並みに扱えるだろう。

 俺も試しに持たせてもらったのだが、やはりなかなかの重さ。

 振り回して見せたら、ジェイドは唖然としていたが。ユウ君はさすが……とか言ってやがった。


「お、おいレイジ! てめぇ足引っ張んなよ!!」


 と強がっているが、完全に彼……ジェイドの方が緊張で今にも卒倒しそうだ。

 彼の武器は、徒手空拳とナイフ。つまり、ワイバーンに直接攻撃を加える立場。巨大な魔獣に尤も近づかなくてはならないのだ。

 まあ、俺もそうなんだが、俺の場合はそんなに緊張していない。

 なんていうか、やっぱ冒険初日に生きるか死ぬか……ってのを経験したのがきっかけなのかな? 怖い事は怖いが、足がすくんだりすることは無いな。まぁ、平常通りなんとかやれそうだ。


『ケイ、敵性反応有りです。大きさから言ってワイバーン……来ます』


 ああ、分かってる。

 俺は高周波カッターを取り出すと、キッと空を睨み付けた。


「来たみたいです」


 俺の言葉に、ブローガさん以外の三人に緊張が走る。


 バッ―――と、空に影が映り込む。


 体長10メートルくらいか。

 翼を広げると30メートルになるかな。


 緑色のゴツゴツした皮膚を持つ魔獣……ワイバーンの襲来だ。




◇◇◇




 時は、昨夜の作戦会議へとさかのぼる。


「さて、お前ら……ワイバーンとどう戦う? お前らの意見を聞かせろ」


 さすがは新人育成のエキスパート。かなり堂の入った教官っぷりだ。


「相手は空に居るんすよね……。さすがに拳は届かねっすよね」

「弓矢……でしょうか?」

「魔法しかないでしょう」


 最初はジェイド。後半は双子の意見だ。どうも、ユウ君のメインウェポンは弓矢で、双子の兄……か弟かは知らないが、兄弟のヤン君は魔法がメインウェポンらしい。

 というか、何気にヤン君の言葉を初めて聞いた。別に無口キャラという訳でもないみたい。


「ふむ……。まぁ、間違いでもないが、俺たちみたいな少数のチームとなるとこの戦法は正しくない。レイジ、お前はどう考える?」


 ふふん。

 俺には正解がなんとなく分かるぞ。これでも、今みたいな世界観のファンタジー系アクションRPGゲームはやった事があるんだ。

 まぁ、オンラインではやった事無いんだが、キャラメイクとか巨大モンスターの討伐とかは楽しかった記憶がある。


「弓矢も魔法も、大人数で迎え撃つ場合は有効だと思う。大量に撃って、空中に敵の居場所を無くしてしまえばいい。ただ、俺たちみたいに弓使い一人、魔術師一人しか居ない場合はこの方法は使えないだろう」


 ブローガさんはうんと頷く。どうやら、間違いではないみたいだ。

 それがちょっと気に食わないのか、ジェイドが絡んできた。


「じゃあ、どうすれってんだ。今更、チームメンバーは増やせないぞ」

「問題は無いさ。相手はワイバーン……空中からの攻撃方法は無い。つまり、こっちに攻撃してくる時は、地上スレスレに降りてくる必要がある」


 もっと細かく考えるなら、足に石を掴んで落としてくる……という攻撃方法も考えられるが、ワイバーンにそこまでの知能はないらしい。それは良かった。

 俺は、適当な紙を取り出して、さささっと簡単な絵を描いてみる。

 空に浮かぶワイバーンと、地上で迎え撃つ俺たち三人という構図だ。


「まずは、ユウ君とヤン君でワイバーンを矢と魔法で挑発。当てても当らなくても、この場合はどっちでも構わない。要は、怒らせればいい。

 すると、次はどうするか……。

 ワイバーンは怒って、こちらに急降下。空からの攻撃手段がない以上、直接攻撃しか考えられない。

 そこで、俺たち二人の出番」


 俺は、俺自身とジェイドを指す。


「地上スレスレに降りてきたワイバーン目がけて、攻撃開始。その際、狙うべき箇所は……翼」

「つ、翼!?」

「左右どちらかの翼を飛行に支障が出るくらい傷つければいい。そしたら、ワイバーンは飛べずに墜落。そっから先は、ただのでかいトカゲだ。空を飛ぶと言うアドバンテージが無くなった以上、そんなに苦労せずに倒せるはずだぞ」

「く、苦労せずに……って、ワイバーンをか」


 ブローガさんはというと、ニヤッと笑ってパンパンと手を叩いた。


「正解だな。この人数でやるなら、それしかないだろう。しかし、お前本当にワイバーンは初めてか?」

「ええ、実際に遭遇するのは初めてです」


 ゲームでは散々倒したけどね。

 あと、言ってない倒す方法として、地面スレスレに降りてきたところでその身体にしがみついて剣で滅多刺しにするっていう方法もあるが……これは俺以外には無理だな。高所からワイバーンが墜落したら、多分死ぬ。


「つ、翼……。俺の剣で、切り裂けるか?」


 ジェイドは己のナイフを取り出して呟いた。

 確かに、ジェイドの戦法は主に打撃中心だ。ナイフはあくまで付属にすぎない。


「自信が無いなら、俺だけでやるぞ」

「ふ、ふざけんな! やるさ! やりゃあいいんだろ!!」


 挑発してやったら、分かりやすく乗ってきた。

 扱いやすいな~~コイツ。とっても年上っていう感じがしない。


「フォーメーションは今、レイジが言った通りだ。言っとくが、俺はお前らがもう限界だと思うまでは手を出さんからな。なるべく俺の手をわずらわせるなよ」




◇◇◇




「ユウ君! ヤン君! 頼む!!」


 俺の言葉に、二人はハッとする。そして、それぞれ武器を構えた。

 ユウ君は弓矢を、ヤン君は杖を。


「行け!」

「ファイヤーアロー!!」


 鋼の矢と、炎の矢が上空のワイバーン目がけて飛んでいく。

 この世界の魔法に詠唱は必要ないが、発動のきっかけとして名前を叫ぶ事はポピュラーな事らしい。


 当然、それらの矢はワイバーンに命中する事は無い。

 尤も、これは計算のうち。ワイバーンを地上へ下すために、二人は次々に鋼と炎の矢を射続ける。


 やがて、待望の瞬間が訪れた。

 ワイバーンが空中で急旋回し、そのまま地上目がけて急降下。地面スレスレで翼を広げると、滑空する形でこちらへ突っ込んできた。


「グアァァァァァァァァッ!!!」


 大気を震わす咆哮が響き渡る。

 こちらに迫り来る様子はまるで、トラック……いや、小型の飛行機か。あの勢いで体当たりされたら、人間の肉体なんぞ、即ミンチだ。


「来たぞジェイド!」


 俺は隣に立つジェイドへ声をかける。

 が―――


「あ……あ……あ……」


 こちらへと突っ込んでくるワイバーンの姿を見て、ジェイドは腰が抜けたのか地面にへたり込んでいる。恐怖に負けたか……。俺もそうだったんだ、非難はしないよ。

 アルカの助けが無かったら、俺だってここには居ないんだ。

 後は俺がやるだけだ。


 このままジェイドがここに居るとミンチになるな。俺はジェイドの身体を掴むと、勢いよくブローガさんの方へ放り投げる。

 そして、ジャンプブーツを発動させて跳び上がった。

 地面スレスレを飛ぶワイバーンの、その更に上へ跳ぶ。

 空中で高周波カッターを構えると、身体を回転させるように剣を振り下ろす。


「おおおおッ!!!」


 ザシュ―――


 カッターの刃先に、硬いものを切り裂いた感覚が伝わる。

 通り過ぎたワイバーンの身体を振り返ると、その胴体から右側の翼が切り落とされていた。

 どうやら、一撃でやれたみたいだ。


 片翼を失ったワイバーンは、そのまま勢いを失って地面へと墜落する。

 巨体が落ちた事による轟音と震動。土埃が辺りを舞う。


 俺は地面に着地すると、再びジャンプ。落ちたワイバーンとの距離を詰め、もう一方の翼目がけて刃を振り下ろす。

 残っていた翼が切り裂かれ、これでワイバーンは完全に飛び立てなくなった。このまま首まで落とす事は簡単だ。

 だが、そうしない。俺はあくまでこのチームに臨時参加している身。とどめを刺すのは、ブローガさんのチームメンバーでなくては。

 視線をブローガさんの所へ放ったジェイドに向ける。


「ジェイド! お前、チームメンバーじゃないレイジに全部押し付ける気か!!」


 ブローガさんの叱責が聞こえる。


「で、でも……俺……」

「馬鹿野郎! 最初は誰でも怖いもんなんだ! でも、皆それを乗り越えて立ち上がっている。お前は、立てないままそこに座ったままでいる気か!」

「う……!!」

「一発ぶん殴ってこい! 殴り返されたらもう一発殴れ!! 座り込むのはお前が殴れなくなるまで踏ん張り続けた時だけだ! 行け!!」


 今度はブローガさんが、ジェイドの身体をこちらに向けて放り投げる。

 到底ここまで届かない飛距離で、ジェイドの身体は地面に叩き付けられる。

 それでも、


「う、うおおぉぉぉぉっ!!!」


 起き上がったジェイドは、ナイフを両手に構えて雄叫びを上げながらこちらへ突進した。

 そして、両翼を失って立ち上がれずにいるワイバーンの頭部目がけて、拳を振るう。


 ドガン! という打撃音と共に、ワイバーンの身体が僅かに浮き上がる。

 なんだ。当たれば結構な威力なんじゃないか!


「やったなヤンキー!」

「うるせぇ糞ガキ!!」


 浮き上がったワイバーン目がけて、もう一発!

 その腹部へ矢と炎が命中する。


「おらあああぁぁぁぁっ!!」


 ジェイドは、まるで吹っ切れたようにワイバーンを殴り続ける。

 ユウ&ヤンの二人も、矢と魔法を撃ち続けた。


 このまま行けば、ワイバーンの殲滅は時間の問題だと思われた。


 当然、俺もアルカもそう思ったし、ブローガさんですらそう思っていた。


 そんな中、異変を最初に察知したのは、アルカだった。


『ケイ! 離れて!!』


 アルカが叫んだ途端、突然ワイバーンの身体から黒い衝撃波が放たれる。

 全く予期していなかった事に、俺を含めたメンバーたちは衝撃波に吹き飛ばされる。


 吹き飛ばされながら、俺は見た。


 ワイバーンの肉体が、黒い霧のようなものに包まれ、俺が切り払った筈の翼が一瞬にして生え変わった所を。しかも、生え変わったんじゃない。ワイバーンは前脚と翼が一体化しているものだ。

 だが、新しく生え変わった翼は、翼のみ。それとは別に、前脚のようなものが生まれている。

 これでは、まるで―――


「ドラゴン!?」


 俺たちの目の前で、ワイバーンだった筈の存在が、黒い鱗を持つドラゴンへと進化したのだった。


 


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