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34話 ワイバーン



 これから俺たちが退治に向かう“ワイバーン”について説明しよう。

 分かりやすく説明すると、見た目ほとんどドラゴンな魔獣だ。

 見た目での違いと言えば、せいぜい前脚……と呼ばれる部位が翼と一体化している……ぐらいの違いしかないとか言われている。

 まぁ、それはあくまで見た目のみ……普通の人間としての感覚であり、腕の立つハンターや本当のドラゴン族からすれば、その差は天と地ほどもある。

 ワイバーンは、所詮見た目がドラゴンに近いだけの魔獣でしかない。ドラゴンのようにブレスも出せず、脅威もそこまでではない。レベルで言うと、大体中の中ぐらいの魔獣である。

 尤も、さほど強敵という訳では無いが、空を飛べるというのはやはりなかなかのアドバンテージ。よって、引き受けるハンターとしてのランクもCの中でも実力者が妥当とされ、その数が多ければ、Bに設定されている。


「……大丈夫かな」

『ミナカ村の人たちの事ですね。心配はいらないと思いますよ。なにしろ、あの二人が居ますから』

「あぁ……あの二人が居れば、安心だなぁ」


 脳裏に浮かぶのは、とんでもなく強かったドラゴンの神様とその旦那さん。

 何か大きな事件があれば、あの二人が見逃すはずもない。


 それでも、こうして同行しているのは、やはりあの村が心配だからに他ならない。

 何せ、俺がこの世界に来て初めて世話になった集落だ。その恩は計り知れないものがある。


 そんな事を、馬車に揺られながら考えていた。


 その後、道中は特にこれといったイベントもなく、約一日半かけてミナカ村へと辿り着いたのだった。


 ……あー暇だった。

 自分一人なら、半日も掛からないんだけど……やっぱり、秘密を共有してない人たちとの同行は大変だなぁ。

 うん。やっぱり現地人とチームを組むと言う選択肢は無しだな。




◆◆◆




 えーと、大体1週間ぶりくらいか。

 ミナカ村にも特に変化はないようだ。別にワイバーンによって村が壊滅したとか、そういう事はなさそうでホッとした。


「これはこれは……冒険者の皆様方」


 まずは、懐かしの村長が姿を現した。

 そういや、この村はハンターではなく冒険者と呼ぶんだな。


『昔は、ハンターの事を冒険者と呼んでいたようですからね』


 なるほど。日本でもあったけど、古臭い名称を今風の格好いい呼び名にした……みたいな感じなのかな。


「Bランクハンターのブローガだ。そして、チームメンバーのユーライト、ヤンバート、ジェイド、そして新入りのレイジだ」


 リーダーであるブローガが前に進み出て自己紹介する。

 ただ、俺はチームに入ったつもりもないし、入る気も全く無いんだけどな。

 ついでに説明するが、双子のうちのユウと呼ばれているのがユーライト。ヤンと呼ばれているのがヤンバートだ。ユウ君の方は、ある程度話しかけてくるようになったが、ヤンの方とは全く話をしていない。本気で無口なのか、それともこっそりとユウ君と入れ替わっているのかどっちなんだ。


「おや? ……そのお方は」


 村長の視線が俺に向く。

 う~ん。別に正体隠すつもりも無いんだけどな。ただ、以前来た時と髪の色が違うだろう。この世界でいきなり髪の色が変わるなんて事もそうそうないだろうから、俺が以前来た奴と同一人物かどうか迷っているみたいだな。

 俺の方も、この村長さん自体には特別恩は無いし、追及されるまでは放っておこう。


「いえ、なんでもありません。それで……本日皆様方がこちらに来た理由ですが……」

「ああ、例のワイバーンの確認と退治に来た」

「やはり……」


 村長は溜息と共に深く頷いた。


「率直に言って、ワイバーンの存在は事実なのか。まずはそれを知りたいんだが」

「正直に言って、私自身は確認しておりません。ただ、村の若い者が見たと言っております。それも、複数証言ですので、間違いはないかと」

「確認されている数は?」

「……複数見たという声は聞きません。恐らくは一頭かと」

「ふむ。一頭か……」


 ブローガさんは顎に手を当てて考えている。

 地球での生物だったら、大抵番つがいの存在や親子という可能性があると思うのだが、ここはエヴォレリア。魔獣は親が居て子供が生まれる……とかそういった事では生まれないからな。

 核となる魔石に魔素と呼ばれるエネルギーが蓄積されて生み出されるものだ。まぁ、この魔素ってのが元魔族の思念ってやつなんだけどね。


「一頭だけなら、俺たちでも問題ないだろう。今日は、この村に泊まり、明日行動を開始するぞ」

「「「はい」」」


 俺を除く全員が頷く。俺としては、さっさと退治して帰りたいところなんだけどな。

 まぁ、命が掛かっている以上は仕方ないか。ブローガさんも、自分だけなら退治に向かったと思うが、あの人の場合は新人の育成も兼ねているし。


 それで俺たちは、村長の案内でまずは宿屋へと向かった。

 この村の宿屋と言ったら、あそこしかあるまい。


 途中、子供達の集団に遭遇。

 子供達は俺たちハンターの姿に目を輝かせている。悪くはない気分だが、背中がむず痒い。

 その中で……

 

「あーっ! ケイにいちゃ―――」


 ……コイツの事を忘れてた。

 俺は台詞を言い終える前にダッシュでカリムを捕まえると、そのまま物陰へと連行した。

 一応、本名がケイだというのは、なるべくなら隠しておきたいのだ。


「久しぶりだな、カリム」

「やっぱりケイにいちゃんじゃんか! なんで髪があか―――」


 ごん。

 言い終える前に、その頭部に拳を落とす。


「いちいち大声だすな。ちったぁ空気読め、アホ」

「あうぅ……ごめんなさい。なんか、兄ちゃん色々と口が悪くなった気がする」


 まあ、俺もだんだんとこの世界に染まってきているからな。いつまでも、この世界に来たばかりのヘタレでビビりでチキンな俺ではないぞ。


「とにかく、今後は俺の事はレイジと呼べ。ケイってのは禁止だ」

「なんでー?」


 俺の事をケイと呼ばれると、何故偽名を使っているのかとかいちいち説明しなくちゃいけないから、面倒なんだ。

 ……改めて考えると、めんどくさい設定にしたなと思わないでもない。まぁ、そういう設定を作っちまった以上は徹底しないと。


「とにかく禁止だ。色々理由があんだ理由が」

「ふーん。で、なんで髪の毛の色が赤いの?」

「そりゃ簡単。イメチェンだ」

「イメチェン?」

「そーだイメチェンだ」


 本当は耐熱効果のあるジェルを塗っているせいなんだが、これもいちいち説明がめんどい。


『そもそもはケイが、赤髪って格好いいじゃんとか言ったからですが』


 うっせぇ。


「ところでケイ兄ちゃん達って、やっぱりドラゴン退治に来たのか!?」

「レイジだっつの。あと、ドラゴンじゃなくてワイバーンだ」

「えー? そもそもそれって何が違うの?」

「……見た目だ」


 いや、実際一般人からしたら、そんなんもんなんだから仕方がない。

 リアルにドラゴンでいらっしゃるファティマさんには絶対に言えない言葉だけどな。


「お前は見たのか?」

「うん! 見たよ!!」

「マ、マジか!?」


 カリムは興奮した様子で目を輝かせていた。

 俺としても、まさかコイツが見ていたとは思わなかったぞ。


「どこで?」

「ラザムの爺ちゃんとこに遊びに行ったとき、その帰り道に空に飛んでた」

「ラザム!?」


 予想外な名前が出てちょっとびっくり。……ただ、その名前が出た事でちょっと嫌な予感というものが出来た。

 まさか、確認されたワイバーンってのは、ドラゴンの姿になったファティマさんとかそういうオチなんじゃなかろうか。ファティマさんのドラゴン姿は、結局見せてくれないままだったが、一般人からしたらドラゴンとワイバーンの違いなんて分からんだろうし。……俺だって、はっきり言われるまで違いが分からなかったぐらいだ。

 こりゃあ、早い目にラザムの所に行って確認すべきだな。




◆◆◆




「ワイバーンか……確かにいるぞ」


 早速ラザムの所へ向かってみたのだが、そんな返答が来た。


「って事は、ワイバーンの正体はファティマさんって事は無いんだな」

「オマエな。そんな事アイツの前で言ってみろ、ぶっとばされるぞ。アイツの竜の姿はな、白くて優雅で壮麗で……とにかくすんばらしく美しいんだ。ワイバーンなんかと比べんなアホ」


 惚気のろけが返って来た。

 とは言っても、俺はファティマさんのドラゴン体見てないし……。


「俺が見たところ、一頭だけだったな。あっちの山の方を縄張りにしているらしいぞ」


 ラザムが指したのは、ラザムの住んでいる森から西に位置する山だ。


「見かけたんなら、なんで倒さなかったんだ? アンタなら余裕だろ」

「アホ。明らかに危険な存在ならまだしも、ただ遠くから見ただけでそんな事出来るか」

「そんなもんなのか?」

「お前、人の事戦闘狂か何かと勘違いしてんだろ。もし、あっちが村や俺に対して牙を剥いて来たら対処するが、今は何もする気はないぞ」

「明日、俺たちはワイバーン退治に向かう予定なんだけどな」

「それは別に構わんぞ。むしろ、ハンターなんてその為にあるんだろうが。まあ、ほっといたどころで利がある訳でもないんだ、やっちまえやっちまえ」


 場所は分かったし、これから出向いてもいいんだが……まぁ、今は止めておくか。せっかくだし、他のハンターの戦い方という奴も見てみたい。


「ところでファティマさんは?」


 この家に来てからというもの、姿を見ていない事に気づいた。……まさか、逃げられた?


「失礼な事考えてやがるな。一応神様ってのは忙しいんだぞ。今日は、例の魔神対策の為の神様会議だって話だ」

「ああ、そう言えばそんな話し合いをするとか言ってたっけ」

「不老のせいで神様連中ってのは時間の概念が薄いからな。多分、一ヶ月近くかかるんじゃないか」

「か、会議だけで……気の長い人達なんだな」


 俺はラザムに別れを告げると、そのまま村へと戻った。

 ブローガやジェイドからは何処へ行っていたと尋ねられたが、知り合いに会いに行っていたと濁す。……まぁ、間違いではないし。

 相手はワイバーンという事もあり、戦う為の対策を練る。ブローガさんだけでやれば、恐らくはすぐに勝てるんだろうが、あくまでサポートに徹するらしい。

 俺も、本気出せばすぐに片付くんだが、ここは連携の為に力を抑えて臨むとするか。


 久しぶりのミナカ村料理に舌鼓を打ち、そのまま一夜は過ぎて行った。


 ちなみにリファリナにも会えたのだが、何故か顔を見ただけで逃げられた。

 ……俺、あの子に何か悪い事したのかな?



 こんなタイトルなのに、出てこないまま終わってしまった。

 次話、ちゃんと戦います。

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