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33話 ミナカ村へ再び



 ……遅い。

 一体いつ来るんだあのおっさん……。


 翌日、朝にギルド集合という約束を律儀に守り、ギルドが始まる9時には到着していたというのに……。かれこれ2時間、ちっとも来やしねぇ。

 ……こんな事なら、普通に依頼受けとけば良かったんじゃねぇか。来たばっかりの時はGランクの仕事もいっぱいあったんだし。


「あ、レイジ君」


 ぼんやりとロビーで待っていたら、モニカさんが近寄って来た。俺は、どうも…と会釈えしゃくする。

 それにしてもモニカさん、昨日の一件以来距離が近くなったな。まぁ、綺麗な人ではあるし、親しくなれた事は素直に嬉しい。『チッ』……あれ、今なんか、アルカの舌打ちが聞こえたような聞こえなかったような?


「もうGランクのお仕事は無くなっちゃったけど―――ああ、ブローガさんとの約束ね」

「その通りです」

「気の毒ねぇ。あの人、キャラクター通り時間にルーズだから」

「キャラ通りなんすね」


 とは言え、2時間というのはルーズどころの騒ぎでは無い。

 ととっと来いや! この野郎! と怒鳴りたい気分である。


「ところでレイジ君、試験期間が終了したらランクは何になりそう?」


 むぅ?

 いきなり変な質問だな。何になりそう……というか、自分で決められるものでもないでしょう。

 話によると、Gランク期間が終了すると、仕事の評価によってD、E、Fに選別されるらしい。当然Dが上で、Fが一番下だ。


「さぁ……嬉しいのは当然Dランクなんですが、今の所まともな仕事は薬草採取しかやってませんからね」

「そ、そうなんだ……意外だね」


 実際は、アンデッドの群れを一掃したりしていたのだが、それは報告してないからな。風の噂によると、討伐隊が例の場所に向かった時には、アンデッドは発見できなかったらしい。

うん……まあ、殲滅したつもりだからなぁ。

 とは言え、誰も目撃者が居ないので、俺だとばれる事も無いだろう。


「じゃあ、今回の仕事が重要という訳ね!」


 何故かモニカさんが張り切った様子で言う。


「そうなりますね」

「じゃあ、こんなのはどう? 南の草原に、コカトリスが出たっていうのよ!」


 コカトリスって、あれだろ。石化の魔法を使うっていうニワトリみたいな魔獣。

 あれって、立派な中級魔獣じゃねぇか。


「……それ、確実にBランク任務じゃないですか」

「ブローガさんが一緒なら受けられるわ! いっそ、一気にランクアップして、Cランカーになっちゃいなさい」


 ぐぐいと、俺へ向けて依頼書を突きつけてくる。そこには、立派にBに相当するこの世界の文字が描かれている。

 あまりの勢いに、俺はちょっと引いた。


『……ギルド職員の話を盗み聞きしたところ、ケイが本格的にハンターとしてデビューするランクを予想する事が流行っているようですね。……お金を賭けて』

「賭けの対象なのか俺はっ!!」


 思わず声に出すと、モニカさんがひっ!と顔を引きつらせる。

 そして、他のギルド職員もさっ!と顔を逸らしている。


 暇なのかギルドって。


「まさかモニカさん。……ブローガさんと俺の稽古の事、話しました?」


 いや、あれって稽古じゃなくて本格的なバトルだったけどね。あくまで俺の主観では。

 モニカさんはと言うと、慌てて首を横に振る。


「え? い、いいえ! 話してないわよ!!」


 ふむ……ひょっとして……


「さっきCランクって言ってたのは、自分だけが俺の実力知っているからですか?」


 ギク!

 そんな顔をしやがった。


「さては、モニカさんは俺がCランクになるって賭けましたね」

「あ……はは……。何を言っているのかな~君は……」


 完全に目が泳いでる。これは図星か。

 全く……困った人だ。


「あ! て、てめぇっ!!」


 背後で、聞き覚えのある声が響いた。

 う~ん一日ぶりか。

 その人物……ヤンキー君ことジェイド君は、ダッシュでこちらまで駆けてきて、俺とモニカさんの間に入る。


「モニカに何してやがる!」


 いきなり殴りかからないってのは、勉強したのか成長したのか。

 まぁ、殴りかかれていたら、今後こそ本気でカウンターで反撃していたかもだが。

 俺たちは、顔を見合わせて、


「……雑談?」

「……そうね」


 と、答える。

 言われたジェイド君は、ぐぬぬと歯噛みし、出そうになる拳を抑え込んだ。手を出したらどうなるか分かっているのだろう。どうやら、そこまで馬鹿でもなかったみたい。

 それにしても、相変わらず恋に一直線な男だ。しかし、よくよく考えてみると一日で回復したというのは凄いな。それに、よく見てみると顔が腫れ上がっている。あの後、予告通りにブローガさんにボコられたのか。南無……。


「と、とにかく! 俺の許可なくモニカに近づくんじゃねえ!」


 しかし、あんだけ力の差見せてもこんだけ突っかかって来るんだから、モニカさんへの想いも相当なもんだ。

 ……だけども、絡まれている側からしたらウザい事この上ない。

 ビビりな俺だったけども、一度ぶっとばした+この世界に染まってきた事もあって、今はコイツの事は怖いと感じないぞ。


「……そもそも、俺からは全く近づいてないんだが。大体、なんでアンタの許可が必要なんだ」

「そーよそーよ。大体、あたしとしてはEランク降格になった男よりも、強くて若くて将来性のあるレイジ君の方がいいもん」


 いきなり、腕を組んできた。

 ついでに、わざとじゃないかと思うが、腕に胸らしき物を押し付けてくる。ぐにょっとしたいい感触だった。


「モ、モニカーッ!!」


 ジェイドの絶叫に、更に他の男ギルド職員と男ハンター達の視線がこちらへ向く。

 しかも、なんか怨念がこもった目だ。どうも、モニカさん美人なだけに相当な人気があるらしい。

 ……こっちとしては勘弁してほしい。


 それにしても、ちょっとモニカさんの言葉に気になる箇所があった。


「Eランクに降格って……コイツ?」

「そーそー。昨日の一件で、さすがに表沙汰にはならなかったけど、ペナルティに降格処分になったの。全く、もうちょっとCランクとか言われてたのに、情けない話ね」

「ぐぐっ!!」


 そんな話題をすると、ジェイドは悔しげに呻いた。

 まあ、表沙汰にならなかっただけでも良いと思うけどね。


『ところでケイ、そろそろ離れては?』


 ん?

 とアルカに言われて、未だにモニカさんが俺の腕にくっ付いている事に気づいた。


「あの……モニカさん。そろそろ離れて……クダサイ」

「えー? なんでーいいじゃないー」


 顔も近い。止めてくれ。


「いえ、いい加減こっちに向けられる視線が凄い事になっているので」


 最早、視線だけで人が死ぬんじゃないかと言う程、怨念が溜まっている。

 早いところ除霊してくれ!


「ふふ。もしCランクになったら、お姉さん色々とサービスしてあげても……」

『サービスッ!?』


 耳元でささやかれた言葉に、俺よりもアルカが反応した。

 しかも、声出しやがったぞ。


「あれ? 今、女の子みたいな声しなかった?」

「そ、空耳だと思いますよ」

「ふ~ん。……精霊かな? ま、頑張って来てね!」


 ポンと肩を叩かれて、俺はようやく解放された。

 呪い殺されるんじゃないかと思う視線からは解放されないけど。

 そこへ……


「おーおー。なんだこの空気は」


 場違いな感じで現れたのは、待望のブローガさん。このおっさんの登場がこんなに嬉しく感じるとは……人生分からんもんだ。

 視線の主たちも、さすがにブローガさん相手に呪いをぶつける訳にもいかんのか、さっと怨念が消えていった。

 ふぅ……浄化されたか。


『いえ、根本的な問題は解決できてないと思いますがね』


 うるせぇ。

 別に俺はモニカさんに対して何とも思ってないから別にいいんだよ。


『そうですか? 心拍数の方は上がってましたけど』


 勝手に計るな!

 まぁ、その辺は役得だと思うさ。どうせ、あの人は俺をからかっただけだし。


『ふぅむ……そうですかね……』


「で、こいつはなんで泣いてんだ?」


 ブローガさんがジェイドを指して言う。

 見れば、確かにジェイドは泣いていた。かなり本気で……ボロボロと。


「ちくしょう! 絶対いつかぶっとばしてやるからな!」


 涙声で言われた。

 なんか、可哀想になってきた。……モニカさん、アンタ鬼やな。


「まぁいい。とにかく約束は約束だ。行くぞ」


 それ、2時間も待たせた男の言葉か?

 まぁ、いい。最早突っ込むのもメンドクサイ。


「何処へ?」

「んー。ここから北へ一日半程度の距離だ」


 俺はガックリと首を落とした。

 移動だけで一日半とか、海外旅行じゃねぇんだよ。それに、こっちにゃそんな余裕はないっての。


「おう、なんて言ったっけな、そこの村の名前」

「……確か“ミナカ村”だったと思います」


 同行を断ろうと思っていた俺は、その名前に首を上げた。


「ミナカ村?」


 そこって……俺がこの世界に来て一番最初に訪れた村の名前じゃないのか?


『はい。確かに、ミナカ村で合っています』

「!! そこで、何があったんだ?」


 俺は思わず名称を答えたユウ君へ詰め寄っていた。


「は、はい。何でも、その村の付近に“ワイバーン”が出現したとか」




◆◆◆




 俺は、まずは宿屋の主人に3~4日程王都を離れる旨を告げた。俺としては、荷物を置いて行く必要もないので、そのまま一週間の連泊を解除しても良かったのだが、主人はお金はいらないから、部屋を取っておいてあげると言ってきた。

 ぐぅぅ……弱いんだよ、この手のサービス。

 王都に戻ってきたら、また使いましょう。俺はそう約束して、宿屋を離れた。


 続いて訪れたのは、王都に来た初日に初訪問した魔石屋さん。


「こんちわー」

「おう、お前さんか」


 相変わらず、店の中は暇そうだ。なんだか安心してしまった。


「ほぅ……」


 店主のおっさんは、なんか俺の顔を見て意味深に笑みを浮かべた。


「なんすか」

「お前さん……随分とこの街に染まってきたじゃないか」

「うっ!」


 それなりに気にしていた事を突っ込まれてびっくりした。

 まぁ、正確にはこの街……じゃなくて、この世界に……なんだけど。


「たった3日だが、田舎の純朴そうなガキが、それなりのハンターになったように見えるもんだな」

「………ありがとう」


 髪をポリポリと掻きながら、俺はそう答えた。

 なんか恥ずかしいな。


「ほらよ。未来のハンター様に先行投資分だ」

「ああ、すみません」


 俺は、布にくるまれて出された魔石を加工して作られた髪飾りを手に取る。

 何処となく、昼間に更に浮かぶ青い月を連想させるような美しい髪飾りだった。

 こりゃあ、誰かにあげるの勿体ないかもな。


『だったら、あげなければいいじゃないですか』

「……お前、この話題になると突っかかるな」

『キノセイデスヨ』


 アルカのよく分からん態度を無視しつつ、俺はおっさんに向き直った。


「あと、これの換金を頼む」


 アイテムボックスから、ジャラジャラとアンデッドを倒した際に手に入れた魔石の欠片を取り出していく。

 おっさんは、次々に出される魔石を見ながら、ふぅんと顎鬚あごひげを撫で、


「噂のアンデッドの群れを殲滅したハンターってのはやっぱり坊主か」


「げ」


 こんな感じでバレました。

 俺は必死でこの事を黙っているように頼んだ。元々、おっさんも言いふらすつもりは無かったようだが、まさかこんな所でバレるとは……。ちょっと気が緩んでいたな。反省っす。



 ギルド前へと戻ると、既にブローガさんチームは準備完了のようだ。

 そして俺は、ブローガさんの隣に立つ物体に目を奪われた。


「おおー」


 竜馬の馬車。

 Bランクハンターであるブローガさんが個人的に所有しているものだ。

 ちなみに、馬車には二頭の竜馬が繋がれている。見た目は、完全に恐竜! ラプトルタイプだよ! しかも、赤色と黒色。映画の影響で緑色とかの印象強かったけど、この世界じゃかなりカラフルみたい。

 

「触っても大丈夫ですか?」

「おお。まぁ、一応気をつけろよ」


 俺は恐る恐る赤色のラプトルへと近づいた。


「グゥ?」


 そんな声を発して、こちらへ顔を近づける。

 うおお。俺は感激していた。恐竜だー! なんか、ドラゴンとか伝説の生物に会うよりも嬉しいかもしれない。

 顔は、なんか可愛い。つぶらな瞳をしているし、いきなりべろんと伸ばした手を舐めてきた。

 いい子や! 映画のおっそろしいイメージとは違うぞ!


「はっはっは。気にいられたか!」


 ブローガさんが陽気に笑う。ジェイドはケッとそっぽを向いた。ユウ&ヤンは平然と立っている。

 一日半の移動は正直苦痛だと思っていたけど、この子等と一緒に行けるなら、それなりに楽しいかも。


『……違ったタイプのライバル出現ですね』


 最後のアルカの言葉は意味が分からんかったけどな。




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