32話 アルカ変身! 再挑戦
今回、久しぶりにアルカ視点のお話。
宇宙戦艦アルドラゴ搭載対話型インターフェイス:人格モジュールコード……通称アルカちゃんは見た!
「ま、気が向いたら寄ってよ。その時、万が一あたしか居たらサービスして……」
「そんじゃ! また、縁があったら……」
な……何なんですか。今の光景は。
◇◇◇
時間はちょい前……。
ふぅ……思っていた以上の情報を搾取させていただきました。
特に、魔法に関する情報は大変ありがたかったです。
なんと、この国で確認された数々の魔法のリストを発見したのです。尤も、そんなものは閲覧禁止の棚にありましたけどね。魔法の力で完全に本が開かないようにと厳重にロックされていましたが、私には関係ありません。
紙媒体の情報なんて、閉じられたままだってスキャンしてしまえば一緒です。
こちらは、後々じっくりと読ませてもらいます。
ふははは……。
お宝は頂戴したぞ! さらばっ!
と、ケイの知識にある怪盗さんの台詞と共に、私は王立図書館を後にしました。
さぁて、今頃は宿屋さんでへたばっているケイをからかいにでも行きましょうか。
と、思ってふよふよと姿を消しながら浮いて移動していたのですが……私は、衝撃的な光景を目にしてしまったのです。
ケ、ケイが……異性の方と肩を並べて歩いているのです!!
しかも、それなりに親しげに!
あのコミュ障男が!!
え、何が衝撃的ですって?
……私にもわかりません。
ただ、私にはそれが衝撃的な光景に見えたのです。
正に、ずががーんっと雷鳴が落ちました。
私の中に。
えっと……これってさりげなく近づいて、話を盗み聞きするべきなんでしょうか。
それとも、何事も無いようにケイの胸へとすっぽり収まるべきなんでしょうか。
わ、私はどうしたらいいんですかー!?
だ、ダメです。
このパターンに対応するマニュアルが見当たりません。
プリーズ! マニュアルプリーズ! 私の創造主よ!!
結局、私は何もする事の出来ないまま、二人が別れるまでまでこっそりと同行する羽目になったのです。
◇◇◇
「あ、アルカ帰ってたんだ」
シャワーから戻ったらしきケイが、私に気付きました。
「どした? 何か黄昏ているように見えるけども」
『そう見えますか?』
「窓際でただ夕日を眺めていたら、そう見えるぞ」
実際にはビー玉が窓際にポツンと置いてあるだけなんですけどね。
『ケイは……その……』
さっきの事を聞こうとして、私は途中で口ごもりました。
一体私は何を聞こうとしていたんでしょう。
私の知らない人と知り合いになっていた事? 私と別れた後に何をしていたか……という事?
そんな事を聞いてどうするというのか。
私は、自身の持ち主であるケイをサポートする為に此処に居るのです。
それを肝に銘じましょう。……肝は無いですけども。
「どした? 途中で止めるなんて珍しい」
『ひゃいっ!?』
おっと! そう言えば質問を途中で止めたんでした。
とは言え、ここで『別にいいです』なんて言えません。
『今日は……楽しかったですか?』
すると、ケイは眉根を寄せて答えました。
「んー? 微妙。なんか色々とめんどくさい事になったかなーって」
『めんどくさい……ですか』
「あ、そうだった。アルカは居なかったから知らないんだったな。明日、ブローガさんとこのチームとCランクの魔獣退治を本当にやるんだと」
『明日ですか。急……とも言えないですね。私たちの場合』
「まぁ、時間無いしな」
Gランクハンターのお試し期間は、ケイの時間間隔で1週間。正確に言うと、もうちょっとややこしいんですが、ケイが分かりやすいようにそう設定しています。
既に3日が経過していますから、残りは4日……ですか。ブローガさんとこのチームは、私たちとは移動手段が違うでしょうから、下手をすれば移動に何日も掛ける可能性があります。その辺の事をブローガさんは考えてくれると良いのですが……。
ちなみにですが、この世界……時計があったりします。ケイの知識にある時計と、ほぼ同じもの。これは、恐らく過去の異世界人が持ち込んだ物なんでしょうね。
ただ、かなり携帯式のものは高価なものであり、あまり一般人には浸透していないようですね。
ただ、一日の時間がケイの世界のように24時間という訳ではないので、一日の時間はおよそ27時間。
ケイの感覚よりも、夜の時間が長いみたいですね。ケイ本人は、長く寝れるからいいじゃんと言っていましたが。
「武器の方も、何処まで見せるかな。下手に食いつかれると面倒だ」
『でしたら、なるべく徒手空拳と高周波カッターのみで切り抜けるしかないですね』
「やっぱ、そうなるか……」
今後は、見られてもいいような普通の剣でも持つべきでしょうか。
ケイの知識にあるチャンバラ映画のデータを使えば、ケイでもそこそこ剣を扱えるはずです。
まあ、とりあえず明日一日で様子を見ましょうか。
「……なんか、帰って来てからのアルカ、なんか不機嫌じゃね?」
ぼそりと言われた言葉に、私は何故か激しく動揺したのでした。
不機嫌ですと!?
私にそのような感情はありませんのことよ。
……なんか言語機能におかしなバグがありますね。
『……気のせいじゃないでしょうか』
落ち着き払った言葉を、なんとか絞り出す。
ケイは、ならいいんだけど……とこれで会話は終了になった。
その後、ケイにが眠りにつくのまでの間、どうでもいいことを語り会う私たち。
まあ、主にケイの知識にあるサブカルチャーの話題だ。
正直言って、巨大兵器を駆使して宇宙や地球で戦争を繰り広げる物語は、私も大変興味がある。でも、今日は何故か会話にも身が入らず、上の空な感じで終わってしまった。
……ごめんなさい。
◆◆◆
夜になり、ケイが寝ている事を確認した私は、指定席である枕の下からもぞもぞと抜け出す。
何というか、最早あまり猶予はない……というか、いい加減アレと再び向き合う時が来たのだろう。
それでも、ここでは駄目だ。
また、前回のような目に遭うのはゴメンですし、どうせやるならば誰も決して邪魔してこない場所でやるべき……私はそう思ったのです。
ですので、
『ゲート!』
今日手に入れた魔法リスト。それに書かれていた空間魔法の亜種……ゲートの魔法です。
これは、空間と空間を繋ぐ魔法で、早い話が何処でもテレポート出来るドアなのです!
科学では再現できなかったものが、魔法だと再現できるなんて……世の中何が起きるか分かりませんね。
これは私たちが切望していた空間魔法の一種ですが、あくまでも同じ次元の空間を繋ぐ魔法……。この力で亜空間へと辿り着く事は出来ません。
でも、きっかけにはなるでしょう。これを研究していけば、ゆくゆくは私自身で空間魔法を編み出す事が出来るかも……。
おっと、今はそれが目的ではありません。
それに、このゲートの魔法だって今の私では不完全な物しか作れないのです。ゲートによって作り出した扉は、およそ直径10センチ程度の大きさ。これでは、ケイも扉をくぐる事は出来ません。
でも、私は通れたり。
せいぜいビー玉サイズの私でしたら、スーッとこの扉をくぐれるのでした。
さぁ、私が扉をくぐった先にあるのは、ケイが命名した宇宙戦艦……アルドラゴ。
それが、でーんと存在していました。まあ、今は擬態モードなのですが。
さて、これからはこの魔法の研究も続けないとですね。これが自由自在に使えれば、アルドラゴを本格的な拠点として扱えるのです。
そうすれば、宿屋に泊って金銭を消費する事も無くなるでしょう。
さぁて、夜明けまでさほど時間もありません。やれる事はちゃっちゃっとやってしまいましょう。
私はまず武器庫へ向かうと、必要な物を念動の魔法でポイポイと取り出しました。
さて、物は揃いましたが何処で実験するべきか……まあ、広い場所ならばいいか……とトレーニングルームへと向かいます。
『ふぅ……』
息も吐けない身体も関わらず、私はそれっぽい事をして精神統一します。
ケイでは無いですが、何事も形から……というやつですね。
さて、行きますか。
『変身!』
リベンジです!
前回では散々な目に遭ったというのに、何故か実体化を諦めきれないのです。
以前と同じように、水の塊から徐々にヒトの形へと変化していく私。
そして今回は、人型を長時間保つ為の秘密兵器をいくつか用意してあります。
まず、アーマードスーツ(女性用)を着用。
この中で身体を作れば、いちいち体型維持に集中しなくてよろしいのです。ついでに肌の着色面積を少なくできますし。
『とうっ!』
右手を高らかに掲げ、私は変身を完了しました。
よし、前回よりも短時間で変身出来た。それに、水の量もケチってないから、ちょっとやそっとの衝撃では水に戻らないぞ。
『さぁて、特訓開始です!』
トレーニングルームに並べられた数々の武器を眺め、私は笑みを浮かべるのでした。
………
……
…
その後、明け方に何事も無かったかのように帰還する私。
指定席である枕の下へと潜り込むと、
『あぁ……疲れた』
と、思わず溜息が漏れました。
果たして実体化アルカが本筋に登場するのはいつなのか……。
登場シーンを書くのが、今から楽しみです。
次話、魔獣ハントがやっと再開します。
物語もちょっとは動きがある……かも。




