表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/286

31話 別行動 其の二



「「助けてくれてありがとうございました」」


 せーのっと一拍置いて、ちびっ子二人が俺に向かって頭を下げる。


 くぅぅ……何の曇りも感じない、純粋な感謝の気持ち!

 お兄さん泣いちゃうよ。


 というか、なんだこの撫でまわして頬擦りしたい気持ち! うずうずと震える手を、俺は抑え込もうとした。

 言っとくが、俺は変態でもロリコンでもないぞ!

 変態とか言うヤツは実際に体験してみやがれ!! 小さい子となると、見た目は完全に猫なんだ! そんな子猫が愛らしい声で足元じゃれついてくるんだぞ! 

 そんな悪魔の誘惑にお前たちは抗えると言うのか!?


 ……え? 犬派? あ、そう。


 って、誰と会話してんだという話だが、なんとか俺は欲求に抗ったのだ。

 なんか、お姉さんっぽい子が、冷めた目でこっちを見ているしね。


「スリ、ソラ、早く帰るよ」

「えー。セルアお姉ちゃんはお礼言わないの?」

「あたしは別に、生き残って嬉しい訳じゃないからね」


 グサ!

 やっぱり、そういう意見あるよね。

 でも、やっぱり助けた相手に助けなくても良かった……とか言われると、ショックや。


「でも、妹達の命を救ってくれた事は感謝している。……ありがとう」


 頭も下げず、目も合わさないクールな感謝の仕方だけども、嬉しい事は嬉しい。

 ちょっとだけホッとしたけれども、やはり……どうしても気になってしまう。

 彼女達の今後が。


「さ、行くよ」

「「はーい」」


 三人は、重そうな荷物を抱えて去ろうとする。

 さすがに子供二人には重いのか、ふらふらしながら歩いている。

 ……駄目だ。ほっとけない。


「あ! ちょ、ちょっと待った。荷物持つよ!」


 慌てて駆け寄ろうとするが、セルアと呼ばれた少女ににべも無く断られる。


「駄目。これ、あたし達の仕事だから。見つかったら、殴られる」


 怒られる……ではなく、殴られる。

 その言葉に、自分たちはダァトなのだから、関わるな……という言葉が透けて見えた。

 本当なら、関わるべきではない。

 ただでさえ厄介な事に巻き込まれているのに、これ以上問題増やしてどうすんだって話ですよ。


 ……でも、やっぱりほっとけないな。


 エヴォレリア人としては、見て見ぬふりするのが当然なんだろう。だけど、地球人としては知り合ったばかりとはいえ、女の子に大荷物持たせて歩かせちゃいけないよ。少なくとも、今の俺はそう思う。


「せめて近くまでは持たせてよ。これは俺の我が儘だからさ、何か言われたら俺のせいにしていいから」

「……変なの。まぁ、好きにすれば」


 ありがたい……と、俺はさっさとちびっ子二人が持っている荷物を預かった。こんなもの、スーツの力を使えば余裕です。使わなかったら、五分でダウンしていたかも。


「何が入ってるんだこれ?」

「……ドレス。クリーニングが終わったから運んでいるの」

「ドレス? 誰の?」

「……あたし達の」

「へぇ。ドレスなんて着れるんだ。すごいね」

「……ショウカンなんだから、当然でしょ」


 ……? なんだ今の。なんだショウカンってのは?

 くそう意味が分からん。アルカがいれば聞けるんだが……。


「まあ、さすがにあたし達のはまだ用意されてないけど」

「そ、そうなんだ」


 意味は途中から分かってないんだけど、相槌あいづちは打っておこう。


「あたし達の歳だと、人族の対象にはならないらしくてさ。18歳超えたら、人族好みの身体になるんだって。まあ、あたし達にはよく分かんないんだけど」

「はぁ……そう……」

「だから、それまでは雑用係。まぁ、二年は何もしないでも生活が保障されるから、そこはラッキーだったかな」

「そ、そうか……ラッキーだったね」

「……アンタ、意味分かって無いでしょ」


 ばれたか。

 あまりにも適当過ぎたか、返事が。


「ショウカンってのは、女の人が男の人に……(自主規制)……」

「ゲホッゲホッゲホッ!!!」


 激しく咳き込んだ。

 そ、そっちの話だったか……。うわ駄目。そっちの話、俺駄目。ガーガーガー! 聞きませんよー。私、聞こえませんよー!!


「……アンタ、ウブなんだね」

「ほっとけ」


 俺は真っ赤になって返した。今までそういう話に縁が無かっただけじゃ。男友達も、あんましそっち方面に詳しい奴居なかったしな。……まぁ、表面上は。本当のところは知らん。

 尤も、興味無い訳じゃないっすよ。一応そこは弁護。


「女のダァトなんて、そんなもんだよ。そっちの仕事が先か、愛玩用として買われるのが先かって話さ。まぁ、あたしは歳も中途半端だから、どっちつかずなんだけど」


 なんていうか……やっぱり聞くべき話ではなかったと思う。

 今まで以上に余計な物抱えてしまったみたいで、物凄い後悔。


 愛玩用ってのは、考えたくないけど、このちびっ子たちみたいなもんかな。実際、俺も可愛いと思うし。

 でも、この子らがそうなっているのって、やっぱり嫌だな。


「アンタって……嫌いみたいだね。こういう話」

「まぁ、ね」

「あたしとしては、じゃあなんで関わって来たのさって話なんだけど」

「う……」


 突き刺さるなぁ……この子の言葉。

 そうなんだよ、俺ってばやっぱり何もかもが中途半端。

 何が出来る訳でもないのに、何だってここまで関わっているんだか。


「アンタが住んでいた所は無かったわけ? あたし等みたいなの」

「……居なかった」

「よっぽど平和な所だったんだね。それとも、アンタの目に見えてなかっただけ?」

「多分、両方かな」


 平和だったのは事実だ。

 それが、俺の生きていた世界なんだから。でも、ダァトに近い存在なら、きっと俺の世界にもあったんだろう。人身売買なんて話は、創作だったりでよく聞いたりする。……俺としては、実際にあるかもしれないけど、遠い世界の話で関係ないと思っていたけども。


「アンタって、あんだけ強いのに世間知らずなんだね」

「は……はは……」


 渇いた笑いが出た。

 本当は強くも無いんだけどね。


「じゃあさ、なんであたし達がダァトになったか……とか、理由とか知りたい?」


 いや、聞いてどうなるんですかって話なんですが、セルアは言葉を続けた。


 住んでいた村が、人族との境界近くにあった事。

 長年続く、部族同士の争い。

 結果としてセルア達の部族は破れ、力の誇示の証として、子供と若者は人族に売られ、それ以外は殺されたこと。セルアの親も……。


 獣族のしきたりとして、強い者が正しい。

 自分達の部族は、弱かった。だから、今の状況も受け入れるしかない。



 ……聞くんじゃなかったよ。本当。

 まるで、歴史の授業で習った民族間紛争だ。いや、今の時代にもあるのか。

 人間の歴史ってのは、どの世界でも変わる事が無いのかと、鬱な気分になるな……はぁ。


「そんじゃ、もうそろそろ娼館に着くし、荷物の方はいいよ」

「あ……そうなのか」

「うん? なんならお店に寄ってく? 興味あるでしょ」

「ゲホッゲホッゲホッ!!」


 興味はあるけど! あるけどねぇよ!!

 と、矛盾したことを心の中で突っ込んどく。

 少なくとも、この世界でそっちの方卒業しようとか一切考えてねェからな!!


「心配しなくとも、あたし等って18歳超えたら、体毛とか少なくなっていくからさ、それなりに人族の好みの姿になってんだって。実際、結構人族の客とか居るし」


 ガーガーガー! 聞こえない! 聞かない!!


「ま、気が向いたら寄ってよ。その時、万が一あたしか居たらサービスして……」

「そんじゃ! また、縁があったら……」


 俺は、その場からダッシュで逃げた。

 駄目だ……。頭じゃなくて顔が熱い!! さっさと宿屋戻って、シャワーでも浴びよう!

 その背に、ちびっ子たちの「「またねー」」という声が突き刺さる。


 あぁ、辛い世界だなぁ。




◆◆◆




 さて、遅くなったけども今更ながら俺が王都で借りている宿屋の説明をしよう。

 俺にとってギルドまでの距離は関係ないから、ある程度外れに位置する安宿です。ただ、宿屋自体はかなり大きい。ミナカ村の宿屋はせいぜい5~6人用の大部屋1つに個室が3つぐらいしかなかったが、さすが安宿と言っても王都の宿。大部屋3つに個室10部屋ぐらいはある。

 ただ、今はその半分程度しか客を入れていないらしい。

 理由は、対処が出来ないから……らしい。

 というのも、


「やあ、おかえりなさい」

「ただ今戻りました」


 人のよさそうなおじさんが、声をかけてきた。この宿屋の主人である。


「ところで、シャワーとか使えたりします?」

「あぁ、浴場は今妻が掃除しているから、もうしばらくしたら使えると思うよ」

「女将さん? 体調は大丈夫なんですか?」

「まぁ、今日は少し良いみたいでね」

「そう……ですか」


 この宿の女将……主人の奥さん……それが、原因の一つだ。

 奥さんに非がある訳ではない。


 彼女は……というかこの夫婦は、娘二人を魔獣に殺されたのだという。

 半年ほど前に。

 それ以来、奥さんは心を病んでしまい、一日の大半を自室にこもるようになってしまったのだとか。

 俺も何度か顔を合わせた事があるが、かなりせていた。とは言え、こちらも俺がどうする事も出来ない問題の一つだ。

 いっそ、宿を変えてしまえば……とも思うのだが、何故か変える事が躊躇ためらわれてしまう。

 ……これも、俺が中途半端なせいなんだろう。問題に巻き込まれるのは嫌だけど、関わってしまった以上はほっとけない。

 何が出来る訳でもないのに……。


 こうして、俺の一日は終わっていった。


 ただ、ちょっと気になる事がある。


「なんか、帰って来てからのアルカ、なんか不機嫌じゃね?」

『気のせいじゃないでしょうか』


 なんか言動が他人行儀というか、何処か壁があるようにも感じる。

 あぁ……明日は、ブローガさんとこのチームとCランクの魔獣退治だというのに、すっきりしない形で一日が終わってしまったなぁ。

 なんか不安だ。



 気が付けば、投稿して一か月以上の経過……。

 毎日書いていると、ストーリーの方がなかなか進まないな~と思うものですが、改めて目次を見てみると、一ヶ月でここまで来たか……という感慨深い気持ちにもなります。

 とは言え書きたいシーンなんかは山のようにあるので、ちょっずつでも前に進んでいきたいと思います。


 次話、アルカが不機嫌な理由判明。……なんとなくは分かると思いますが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ