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30話 別行動 其の一



「おいジジイ。いきなり割り込むたぁどういうこった」


 興奮しているのか、ギルドマスターへ食って掛かるブローガさん。

 結構な迫力なんだが、ギルドマスターは……というと、


 ポカッ


 持っていた杖でもってブローガさんの頭を叩いた。


「いってぇ!!」


 ブローガさんは頭を押さえてうずくまる。

 え?

 あれ痛いの?


『ふむ。あれは重力の魔法のようですね。あの杖の先だけ、何倍もの重力がかけられています。恐らくは、数百キロぐらいの鉄球で殴られたぐらいの衝撃があったかと』


 なんと重力魔法!?

 穏やかそうな爺さんかと思っていたが、相当な腕前の魔術師らしい。……まぁギルドマスターだもんな。

 しかし、数百キロの鉄球で殴られたというのに、痛い……だけで済んでいるあのおっさんの頭は何で出来ているんだ。

 本当にこの世界の人間っておかしいと思うの。


「この訓練場をここまで派手に散らかしておいて、どの口が言うのかのう……」

「あ……」


 俺も、ようやくそこでこの訓練場の惨状に気づいた。

 俺がパンチで地面をえぐったり、ブローガさんが足跡を食い込ませたり、キン○ドライバーモドキでクレーター作ったりしたわな。

 改めてみるとひでぇな、これ。


「ドガンドガンと派手な音がするので、他のハンター達が気になっておったぞ。ブローガが暴れているとは伝えておいたがの」

「す、すいません……」


 その張本人でもある俺は、とりあえず頭を下げておいた。

 どうすんだろこれ。

 弁償もんかな?


「心配はいらん。補修費用はこの馬鹿が払う」


 杖の先でコツコツとブローガさんの頭を小突くギルドマスター。


「この馬鹿って……俺が払うのかよ爺さん!!」

「当たり前じゃ馬鹿もん。お前はハンターになりたての新米に払わせるつもりか!」

「ぐっ!!」


 ちょっとホッとしたけども、なんか申し訳ない気分になる。

 だって、ほとんど俺がぶっ壊したようなもんだし。


「だから心配はいらん。この馬鹿、金だけはしっかり持っておるからの」


 まぁ、その歳でBランクハンターなら、しっかり稼いでいるだろうな。よっぽどの浪費家じゃなければ。


「戦いの方は後ろの方だけ見とったが……勝敗はブローガ、お前の勝ちじゃな」

「ケッ」


 途中で中断させられたせいか、勝ちと言われてもブローガさんは不満そうだ。まぁこの人は勝ち負けよりも戦いそのものが楽しいんだろうよ。


 俺としては、まぁそうだろうな……と思うよ。

 最後の方は、俺ヘロヘロだったし。逆にブローガさんはまだまだ元気だし。

 ちなみに再戦……とか言われたら、全力で拒否する。あんなおっかない戦いもう嫌だし。


 何はともあれ、これでようやく帰れるのかな?

 今日はさすがに仕事する気ないぞ。

 と、思って帰り支度をしていたのだが……


「武器の使用は認めても良いが、二人がかりはいかんのぅ」

『「え??」』


 俺の傍を通り過ぎた時に、ギルドマスターはぼそっとささやいたのだった。

 ……これ、アルカの存在……バレてる?




◆◆◆




 その後、特に何事も無く、俺はギルドを出る事が出来た。

 あぁ……疲れた。

 身体じゃなくて、集中力的な問題で。


 いや、身体の方も痛い。かなり無理な動きを強制したせいで、体のあちこちが悲鳴を上げている。

 とりあえず、アルカ印の治療薬を飲んで、応急的な処置をする。

 痛みの方はスッと消えたが、なんだか身体がだるい。

 こりゃ、今日は宿で休眠モードかな。


『でしたら、私は別行動でもいいでしょうか?』

「なぬっ!?」


 まさかの発言に、ドッキリした。


「べ、別行動って……どちらへ……?」

『いえ、ちょっと王立図書館の方へ』

「図書館? そ、それならまだいいかな」


 ふぅ……なんかホッとした。

 何が安心したのかまだ分からんのだけど。

 だが、ちょい待ち。


「ひょっとして……それで行くの? そのビー玉で?」

『ビー玉言うな!』


 スポンと俺の胸に取り付けられた逆三角形のプレート……通称リミットタイマーから抜け出し、ぺしと俺の頭を小突く。


『ふふん。私は魔法を研究中だと言ったでしょう。見てください。こんな事も出来ちゃうのです』


 すると、ふわーっとビー玉アルカの姿が空気の中へと溶けていく。

 はっきり言えば、透明になった。


「おお!」


 一応言ったものの、ミラージュコートと同じ能力じゃん。と、思ってしまった事は内緒だ。

 でもまあ、それなら見つからないか。


「で、図書館で何調べるの?」

『そうですね……。魔法についてと、後はこの国の歴史についてですね』

「なるほど。本当なら、俺も行くべきなんだけど……」


 俺は、この世界の文字が読めない!

 元々図書館自体は好きなのだ。本を読むのだって割と好きだし。

 だけど、意味不明の文字を長時間見続けていると、さすがに目が回る。この世界の図書館は、俺には行けない場所の一つだった。


『いいですよ。私だって、本格的に読むわけではありません。適当に文書をスキャンしたら、後々ゆっくりと解読する予定です』

「違法コピーいけないんだぞ」


 地球だったら許されない行為だな。

 まあ、いいか。こっちじゃそんな法律がある訳じゃない。盗むわけじゃなくて、コピーだし。と、自己弁護してみる。


「それじゃ、先に宿に戻っているからな」

『はいはい。では、帰り道気を付けて……。知らない人に付いてっちゃダメですからね』

「行くか! アルカこそ、危なくなったらすぐに逃げろよ」

『最悪、私は意識を艦に戻せばいいので、安心してください』


 それじゃ……という事で、俺たちは別行動となった。

 三日ほど既に過ごしたとしても、ここは知らない街だ。……知らない人達が歩き、知らない人達が暮らしている街。

 いやぁ、そもそもが知らない世界なんだけどな。

 で、何が言いたいかと言うと、


 ……心細い。

 ……寂しい。


 あぁ、俺はひとりぼっちなんだな……と再実感した。


 アルカ依存症の克服のために、こうやって別行動も受け入れたのだが、想像以上に寂しいなこれ。

 もっと、この街でも気軽に喋れる相手が出来ればいいんだよな。


「……レイジさん」


 あの魔石屋へ寄ってみようか……。

 いや、予定では明日アクセサリーが仕上がるんだった。今日行ったんじゃ、催促と思われちまう。無料でやってもらってんだから、それはマズイよな。


「あの……レイジさん」


 やっぱり帰るかな。

 せめて、携帯ゲームてせもあれば暇が潰せるんだが。後はインターネット。色んな新しいニュースが飛び交ってんだろうな……。

 あ。そういや、来月欲しかったゲームの発売日じゃん! うおお、帰れるかな……来月まで。


「レイジさん!」

「うわぁっ!!!」


 耳元で怒鳴られ、俺は慌てて距離を取って構える。

 すると、俺の目の前に立っていたのは、ブローガさんのチームメンバーである双子……のどっちかだった。ユウかヤンかどっちか分からん。


「失礼しました。何度か声を掛けたのでしたが、気づかれなかったようですので」


 ぺこりと頭を下げる双子のどっちか。


「ご、ごめん。ちょっと考え事していたさ」


 正確には、レイジってのが自分の名前だと認識出来ていなかったのだ。これって、偽名を使っていることの弊害だなぁ。俺としては偽名というよりはハンドルネームのつもりなんだが。


「君ってブローガさんとこの人だよね。何か用?」

「はい。自分の名前は、ユーライト。チームからは、ユウと呼ばれています。以後、お見知りおきを」


 なるほど。ユウ君の方なのね。ただ、教えてもらったはいいけど、二人でぐるぐる回って「どーっちだ?」ってやったら、分かんなくなる可能性大。

 せめて、髪型か服のどっちか変えてくれりゃいいのに。


「用件なのですが、明日の事で詳しい打ち合わせをしてない事に気づきました。ですので、伝言を伝えに参りました」

「明日……? ああ、任務に同行ってやつか。あれ、本当に連れて行ってくれるんだ」

「勝っても負けても連れて行くと約束していましたので。男に二言は無い! ……との事です」

「律儀だなぁ。まぁいいや。わざわざありがとう」

「では、伝えます。……明日の朝、ギルドに来い! ……以上です」


 ……はい?


「え、終わり? 朝って、具体的な時間とかは?」

「聞いていません。あの人って、かなりその辺アバウトですから」


 まぁ、外見とキャラ通りか。

 とりあえず、早いうちにギルドに行っとけばいいかな。


「……ところで、やけに丁寧な喋り方だね」


 この双子は一切喋っている所を見なかったから、新鮮ではある。


「はい。アニキに対して敬意を払うのは当然です」

「………はい?」


 コイツなんて言った? アニキ? 俺の耳がおかしくなったか?


「自分達の兄弟分であったジェイドを瞬殺し、ブローガのおやっさんとあれほどまでに戦えたのですから、アニキとして応対するのは間違いではないかと」


 ……どこまで極道な世界観なんだ、ブローガさんとこのチーム。

 ただ、極道の世界が舞台のアドベンチャーゲームをやったことがあるせいで、ある程度理解できてしまう自分が悲しい。


「俺、ブローガさんとこのチームに入る気は無いよ」


 今のところ、チーム……まぁRPGで言うところのパーティを組む気は今のところない。

 俺の力は、アルドラゴの装備に頼るところが大きいし、必要以上に俺たちの秘密を明かすのはマズイ気がするな。万が一装備が奪われたらどえらい事になる。


「それは理解しています。自分達も、今はおやっさんに鍛えてもらっている最中ですから。Cランク入り出来て、ハンターとして一人前になったと自覚出来たら、改めてチームを組みましょう」


 どっちにしろ誘う気なんかい。

 でも、ブローガさんと渡り合った……っていう情報って出回ったりすんのかな。そうすっと、こういう勧誘とか増えるんだろうな。あぁ、めんどくせぇ。


 まぁ、こんな感じで大通りからちょっと離れた裏道で話していたのだけど、そこへ……


「あ! あの時の人だ!!」

「本当だ!!」


 幼年期特有の可愛らしい声が響く。

 振り向くとそこには、大きな荷物を抱えた三人の女の子が立っていた。

 一人は、十代半ばぐらいの女の子かな?

 二人は、10歳前後と思われる。はっきりしないけど。


 ……なんではっきりしないかって?

 人族じゃなくて、獣族だからです。

 猫が人型になって服着て歩いている……それが獣族。


 ちなみに、俺の知り合いの獣族なんて居ません。

 ちょっとだけ知り合った獣族なら居る。

 王都に来る前に、ちょっとだけ関わった獣族なら……。


「獣族に知り合いが?」


 ユウ君が尋ねてきた。

 果たして、その時の俺の表情ってどんなだったんだろう。


「まぁ……王都に来る前に、魔獣に襲われていた所を助けたんだ」

「そうなんですか! さすがアニキ!」


 アニキって呼ぶな!

 やはり、あの時の獣族の子たちか。

 その証拠に、彼女たちの首元には、首輪らしき物が見え隠れしている。服で隠そうとはしているが、完全には隠せて無いようだ。

 ……ダァトであるという証拠の首輪が。


「では、積もる話もあるでしょうから、自分はここで……明日の任務は楽しみにしています」


 じゃ! とばかりに、ユウ君は去って行った。

 お、俺にこの場でどうしろと……。




 予定ではもうちょっと獣族の子たちと絡むつもりだったのですが。


 次話、ちゃんと絡みます。果たして、アルカなしでコミュ力低いケイ君が、どこまでやれるのか……。

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