29話 「Bランクハンターブローガ」
サブタイトル変更しました。
「「「「…………」」」」
ふふふ。
俺を除いた全員が、鳩が豆鉄砲を食ったかのような顔してるな。
なかなかこういう機会無かったから、なんか気持ちいいな。これがかの有名な「俺TUEEE」とかいうやつか。
「んじゃ、後の始末はよろしくお願いします」
俺はペコリと一礼すると、コートと剣とゴーグルを持って、この場を去ろうとした。
……が、
「ちょっと待った」
俺を止めたのは、ブローガさんだった。
え……何?
仲間の復讐とか、そういう事考える人じゃないでしょ。
「悪いな。ついでだと思って、ちょっと俺とも戦わないか?」
その瞳は、爛々と光り輝いていた。
し、しまったー!!!
……ヤバい。
あれは、戦闘狂の顔……じゃないのか?
俺は、余計な事をして戦闘狂の興味を引いてしまった。
Bランクだよ!?
いくらチートな力を持っている俺でも、どこまで渡り合えるか分かったもんじゃない。
嫌だ嫌だ。
絶対に戦いたくない。
「勿論、報酬は払おう」
「報酬?」
「勝負の結果に関係なく、明日俺のCランク任務に同行させてやろう。それで、Gランクの仕事のノルマ分はクリア出来るだろ」
「ちょっとブローガさん! それって……」
モニカさんは途中で言葉を失ったが、ブローガさんの任務……つまりはハンターの仕事に同行するという事は、魔獣討伐の依頼に連れていくという事。
確かに、それをこなせばノルマは十分だろう。
ハンターは自分のランク以上の依頼を受ける事は出来ないし、勝手にやったとしても報酬は払われない。
が、格上のハンターの協力があれば別だ。無論、ギルド内で信用があり、虚偽の申告をしないという信頼のおけるハンターの数は限られている。
ブローガは、その数少ないハンターの一人だった。
「さぁ……どうする?」
まるでこちらを試すかのような顔と声色。
彰山慶次としては、
……冗談では無い。
そんなおっかない事やってられっか。今すぐ帰ります。ありがとうございました!
という感じなのだが、
このエヴォレリアで約一週間程生き延びる事が出来た新米ハンターのレイジとしては、
今の自分が何処まで戦えるのか、試してみたい。
この世界において、一流と呼ばれる力を持つ者相手に、自分の力が何処まで通用するのか、戦ってみたい……だった。
こんな事、一週間前の俺では考えられなかった事だぜ。
それも含めて、この世界に自分が染まってしまった……という事なんだろうか。
「……分かりました」
そう、答えてしまった。
ブローガさんはより一層顔を輝かせ、モニカさんはより一層オロオロし始める。双子は……分からん。
『大丈夫なんですか?』
アルカも心配そうに尋ねてきた。
そうだよな。自分でも、これはどうかと思っている。
「仕方ない。あの人の目の前で力を出したのは、俺の責任だ。まあ、やるだけやってみるさ」
俺はスーツのスイッチを入れ、ブローガさんに対して正面から構えた。
「武器の使用は無しか?」
「できれば無しの方が有難いです」
「分かった。……よし、サービスだ。俺は動かないから、自由にかかってこい!」
要は、先手はくれてやるって事だろ。
よーし。こうなったらやってやろうじゃん。
「ふぅー……」
深く息を吐き、精神を統一。
これも、今の俺がやっていても意味はないが、何事も形からというのは大事だ。
さぁ、いざ勝負!!
スーツの出力はさっきよりも少し大きく、30%。
初動もさっきと同じく、ダッシュで間合いを詰める。ただ、さっきよりも速く!
しかし、動きそのものはブローガさんには見られている。だから、俺は意表を突いた。
ブローガさんの間合いに突入する寸前で、少し横に移動。そのままブローガさんを通り抜け、背後へと回り込んだ。
これならどうだ!
背後より、その背目掛けて拳を打ち込もうとする。
―――が、
それよりも早くブローガさんが後ろを振り向きもせずに拳を打ち込んできた。
裏拳!
俺はそれを左手でガードし、右腕でそのまま攻撃しようとした。が、その手はブローガさんに到達する前に掴まれる。
そして、ぐいと身体を前方に引っ張られ、その勢いと共に腹部へと強烈な肘打ちを受けた。
スーツの耐衝撃機能によって、痛みは無い。
だが、攻撃を受けたという事実が、俺の中の恐怖心を呼び戻す。
かつて、ラザムとの戦いで受けた一撃を―――
「!!」
俺はジャンプブーツを発動させ、急いでその場から抜け出し、ブローガさんと距離を取った。
一瞬で十数メートルの距離を跳んだ俺を見て、周りはまたも呆気にとられたようだが、俺としても今はそれどころではない。
焦るな馬鹿野郎。
いくらチートなスーツを着ていると言っても、技術では圧倒的に相手の方が格上なんだ。
戦闘のデータだって、俺の身体に完全に馴染んでいる訳じゃない。ガチで強い人と戦えば、そりゃ攻撃だって食らうさ。
「ちょっと待って、ブローガさん」
「あん。なんだ?」
「武装の方を追加してもいいかな?」
「武器の追加か? まぁ構わないぞ」
「ふぅ……。良かった」
このままやったら確実に負けていたな。
いや、負けているのは理解していたけど、大怪我までする可能性が高い。
俺は、ゴーグルとネックガードを取り出し、装着する。
バイザーを下ろし、シャキーンとフェイスガードも飛び出す。
よし、これで生身の部分は無くなったな。ブローガさんの一撃を頭に受けたら、そのまま即死だという事を、すっかり忘れていたのだ。
「アルカ……協力を頼む」
『そうくると思っていました』
「ブローガさんの動きは見ていたな」
『ええ』
「んじゃ……カバーをよろしく頼む」
動きは、頭で考えるのではない。ろくな戦いの知識がない俺では、頭で身体の動きを考えたところで意味が無い。
だから、戦いは身体そのものに任せる。
考えるな、感じろ……というやつだな。
「それじゃ……もう一度、行きます!」
「本気モードって訳だな。……来い!」
スーツのパワーは、今の俺がギリギリで扱える限界……50%起動で勝負!
これ以上は凄まじいパワーに振り回されて、まともに動けやしない。尤も、50%起動もまともに扱えているとは言えないけどな。
行動は、以前と同じ。全力ダッシュで間合いを詰める。
尤も、そのまま突っ込みもしないし、背後に回り込みもしない。
俺が狙ったのは……
大地だ。
50%パワーで地面を殴り、凄まじい轟音と共に大地を陥没させる。ブローガさんは、突然足場が崩れた事で、体勢が崩れた。
今だ。
周囲は大地を抉った事で生じた土煙に覆われているが、俺はゴーグルの霧や粉塵を除去する機能によって、視界は良好に保たれている。
俺はジャンプブーツで飛び上がると、ブローガさん目掛けて落下した。右足を槍のように突き出し、日曜朝の仮面のヒーローよろしく、必殺のキックを放つ。……いや殺さないけど。
50%パワーの全身全霊キックだ。
当たれば、勝利は間違いなしだっただろう。
……当たれば。
「そこかっ!」
キックが目前に迫ったところで、ブローガさんは頭上の俺の足目掛けて回し蹴りを放った。
正面からの攻撃だったならば、そのまま叩き潰せたのだが、これは横からの攻撃。結果的に、攻撃の軌道を逸らされた形となってしまった。
戦闘の勘なのか、気配を察知したのかは不明。これはさすがと言わざる得ない。
俺は体勢を崩して、そのまま地面へと転がる。が、すぐに立ち上がり、俺の頭部目掛けて振り下ろされた蹴りをなんとか躱す。躱した後には地面に陥没した足跡が残された。……スーツも使わずここまでのパワーを持てるなんて、やっぱりこの世界の人間はおかしいのか。
『ブローガさんの身体からは、獣族の因子が確認されています。恐らく、それが尋常ならざるパワーの秘密かと』
「獣族!? まさか、ハーフなのか?」
『いえ、彼はれっきとした人族ですね。ですが、恐らくは以前ファティマさんが言っていたように、彼のご先祖様が獣族と交配した際の遺伝子が残り、彼の代になって覚醒したのではないかと』
くっそ。本当に過去の異世界人、見境無しかこの野郎!!
『ケイ、正面!』
「ぐっ!」
土煙を突き抜けて、ブローガさんの拳が俺の胸へ直撃した。
スーツの恩恵で痛みは感じない。だが、衝撃は伝わる。踏ん張り切れず、僅かに後ろへ仰け反った所へ、追撃が放たれた。
胸……腹……顔……次々に拳の乱打が放たれる。
全て痛くは無いが、身体がぐわんぐわんと大きく揺れた。そのまま俺の身体は吹き飛び、またしても大地に転がる羽目になる。
「ふむ……不思議な感覚だ。まるでとんでもなく柔らかいものを殴っているみたいで、いまいち手応えを感じない。恐らくはお前が着ている服に関係があるのか?」
ゲェ! ばれた!!
やっべぇ。これって何か問題になったりするんだろうか。
「心配するな。武器有りOKと言った以上、魔道具の使用も含まれる。問題は、それを使いこなせる技量がお前にあるかという所だが……」
痛い所を突いてくる。
技量が足らないのは百も承知。
俺は、膝に力を入れ、なんとか立ち上がる事が出来た。……痛みは無い。体力もそこまで減っていない。
問題なのは、俺の精神力。
痛みは無いと言っても、殴られて平気な顔をしていられる程、俺はマゾでもない。殴られれば、やっぱり怖いさ。
『不安ですか。……大丈夫です。今は私が一緒に居ます。ケイが足らない部分は、私が請け負います。ですから、安心してください』
「あぁ……大丈夫だよ。もう、あの時みたいにはならないさ」
今はアルカが一緒に居るんだ。
アルカが奪われ、壊された時のような絶望感は無い。
「よし、一緒に戦うぞ!」
『はい!』
俺は体勢を整えると、深く息を吐き、
『「はぁぁぁぁぁっ!!」』
気合を入れて中国拳法の構えをとる。
そして、右手で来い来いと挑発するようなポーズをとった。俺が好きな映画のワンシーンの一つだ。
「面白い!!」
今度はブローガさんが突撃してくる。
俺の腹部目がけての正拳突き! だが、俺は右手でさっと横に薙ぎ、腕を掴んでぐいと自らの身体を回転させる。
そのまま背中へと回り込んで、相手を地面に押さえつけようとしたのだが、ブローガさんは大地に踏ん張って防ぐ。
ならばと、俺は腕を掴んだまま関節を極めた。
「ぐっ! 何だこの技は!」
どうやら、関節技の概念はこの世界には無いみたいだな。まぁ、人対人というよりは魔獣と戦う事の方が多い世界みたいだものな。
ドカドカと無事な腕で俺の身体を叩くが、残念ながら痛みは感じないもんね。
このまま折っちまうぞ! と思っていたが、
「ぬおおおっ!!」
俺の身体を関節を極められたまま持ち上げ、大地へと叩き付ける。
くっ! その衝撃で関節を極めていた腕が抜ける。
しまった!
ブローガさんはそのまま俺の身体へと圧し掛かり、マウントポジションで俺を殴り続けた。
俺は、頭部だけを両腕でガードして、打開策を練る。
どうするどうする!?
『ジャンプブーツを!』
「!!」
俺は膝を折って大地に足を付けると、ジャンプブーツを発動させる。
ボンッ!! という破裂音と共に、俺とブローガさんの身体は宙へと投げ出された。
そして、投げ出されたブローガさんの足首を掴むと、そのままパイルドライバーのような形で地面に落下する。超人プロレスリング漫画から得たデータの一つだ!
ブローガさんは両腕をクッションにして頭部の直撃を防いだらしいが、ダメージは与えたぞ! なんか叩き付けた地面は結構なクレーターみたいになっているが、今は無視!
「面白い! 面白いぞ!!」
ブローガさんが叫ぶ。俺たちは距離を取り、再び体勢を整えた。
俺にも、おっかないと思う気持ちがある一方、この戦いが楽しいと思えるようになってきた。
でも、長くは続かない。
50%のパワーアップは、こっちの集中力が長く持たないんだよ。持ってあと数分だ。
つーか、あの人本当に化けもんだな。
あ……やべ。ちょっと視界がぼやけてきた。
『ケイ! しっかりしてください。来ます!!』
「おおおおおっ!!!」
この叱咤に、俺も拳を構え―――
「この勝負そこまでじゃな」
―――ようとして、手を止めた。
俺たちの間に、割り込んできた人物が現れたからだ。
「チッ! ギルドマスターかよ!!」
ブローガさんも、しぶしぶ拳を下した。
その通り。俺たちの間に割って入ったのは、一昨日会った老人……ギルドマスターだった。
あぁ……終わっていいのか。
そう思ったら、俺の身体は膝からガックリと崩れ落ちた。
こ、怖かった……。
緊張が解けたら、一気に疲れと恐怖が襲ってきたのだった。
予告では26日になりそう……って言ってましたが、なんとかギリギリ25日中に完成しました。
しかし剣とか魔法を使わない格闘シーン……書いていて結構楽しかったり。まぁ、そのせいで思っていた以上に長くなりましたが。
次話では、王都編冒頭に出てきた獣族の女の子も、やっとこさ本筋に絡んできます。




