01話 探索
悪夢からハッと目覚める事がある。
まあ、ほとんどの人が経験があると思うのだが、夢の中で酷い目に遭うとする。恥ずかしい目だったり、痛い目だったりもするが、とにかくとんでもない事に遭う。
それがどんなに現実離れした事であっても、夢の中の俺はそれが夢だとは気づけない。
夢の中でもがき苦しむ事になる訳だが、やがて……
目が覚める。
「夢か!? あ~~夢で良かった!!」
と、心底ホッとする訳だ。
これがもし物語で使われてしまったら、今のご時世炎上必至。興醒めもいいとこなのだが、現実ならば嬉しい事この上ない。
どんなにとんでもない目に遭っても、結果夢ならば許せるだろう。
……いや、許せなくとも夢ならば安心できる。
リアルな自分は、きっと自分の部屋のベッドでこの悪夢から目覚める事を待っている筈なのだ。
さぁ、夢オチよ!
夢オチカモン!!
……なんだけど。
どんなに切望しても、俺の最悪な夢は覚めてくれないのだった……。
◆◆◆
気が付いたら、暗い部屋に居ました。
目をごしごし擦っても、視界には何も映りません。
日の光は全く入らない、完全なる闇の部屋です。
ふと頭によぎる予測。
……やべぇ。誘拐された?
しばらく呆然とした後に、まず最初にそう思ったのはそれだ。
こんな場所に居る意味が全く思いつかない。
慌てて自分の身体を確認してみるけど、なんと素っ裸だった。
それを確認した途端、背筋を冷たいものが駆け抜ける。
怖くなってきた怖くなってきた。
おぉぉ……なんで俺裸なの?
パンツも靴下も履いてないし。
大丈夫? 大丈夫だよね俺の身体!? こう……尊厳とか、そういうもの奪われてないよね?
動揺した俺は、思わず自分が寝かされていた場所から落っこちる。
頭と膝を強打。
めちゃくちゃ痛ぇ。
痛みと焦りを誤魔化す為に、俺は頭を掻き毟った。あ、良かった髪の毛はある。
焦るな俺よ。
ひとまずは深呼吸だ。
吸って……吐いて……吸って……吐いて……。
深呼吸を10回した後、ようやっと頭も冷えたのか落ち着いてきた。
とりあえず、ある程度暗闇に目が慣れてきた。
服とか部屋の中に無いか調べてみましょう。
ペタペタと室内を触診してみた結果、どうもこの部屋は大体四メートル四方の狭い部屋のようだ。
そして、俺はその部屋の中央にある……なんかカプセルタイプ日焼けマシーンみたいな形のベッドに寝かされていたらしい。
いや、ベッドと言えるのか怪しいけども。
誘拐でこんなベッドに寝かせる意味分かんないよな。
……下手したら、なんかの人体実験の為に攫われたってのか?
それなら、裸なのも納得はいく。
それと、室内に服らしき物は見つからなかった。
くそぅ。しばらく素っ裸で過ごせってか。誰が見ている訳でもないが、別にまっぱで生活する習慣は無いので、どうにも落ち着かないのだ。
室内触診の結果、どうも扉らしき窪みを発見。
さて、これをどうするか。
当然、鍵がかかっているだろうが、暗闇の中素っ裸でただ待っているだけというのはなんか嫌だ。
ここは、いくつもの物語の登場人物よろしく、無駄な足掻きというものをしてみようじゃないか。
取っ手らしき箇所に手を掛け、思いっきり引いてみる。
ズガガガ……という音を立てて、扉は開いたのだった。
―――なんで開いたの? 鍵掛かってないの? 誘拐犯馬鹿なの?
扉を開いた先に待っていたのは、光に満ちた世界―――ではなく、これまた闇の世界だった。
明かりはねぇのかよ。
闇の中で目を凝らしていると、どうも扉の向こうは廊下らしい。
しかし、なんなんだこの建物は?
触った感じからして、コンクリートとも鉄とも違うっぽい。
強いて言うならば、触感で近いのはプラスチックか? プラモデルとか昔作った事あったけども、記憶にある中ではそれに近い気がする。
まあ、プラスチックはこんなに建物になるほど硬いとは思えないけど。
試しにコンコンと叩いてみると、やはり硬い。
まぁ、今は壁の材質なんぞ気に掛けても仕方ない。
とりあえず、先に進む道があるんだから、勇気を出して踏み出してみるとしましょう。
まあ、チキンな性格の俺は心臓バックバクなんだけどな。
慎重に……慎重に一歩ずつ進む。
まさか、落とし穴とか無いよな。とか、慎重すぎる程に歩を進める。
廊下の幅は、2メートルあるか無いかという感じか。
進めども進めども相変わらずの暗闇なので、内装がどうなっているかとかさっぱり分からん。
最初は慎重すぎるほどに行動していたが、それもかなりの時間が経過すると、次第に大胆になってくる。
もう落とし穴なんか気にしないでズンズン歩いているし、扉を見つけたら遠慮せずに開いている。
ちなみに、扉と呼べるものはかなりたくさんあった。
なんだけど、中に誰か居るという気配は無く、暗闇なので中がどんな状態なのかさっぱり分からん状態です。
あぁ……明かりと服。
服と明かりプリーズ。
とりあえず、一番に欲しいのはそれだ。
「おっ」
思わず声が出た。
そこは、今までの部屋と違ってかなり広かった。
広いと言っても、見える訳ではないからなんとなくの雰囲気だ。実際、手探りで歩いてみた結果結構広い。
椅子みたいなもんがいくつかあったり、ちょっとした段差もあるな。
う~む。何かしら秘密がありそうな部屋の雰囲気がするぞ。
重要な物とかが眠っていそうだ……と予想し、他の部屋よりも入念に触診してみる。
その結果、室内のセンターらしき場所にある椅子の上に、とある物体を見つけた。
よく見えないので具体的な形は不明だが、この建物と同材質らしい触感。
手で持てるサイズの物は初めてだったが、驚くほどに重さを感じない。
触ってよく調べてみた結果、自分の知識にある中で一番近いのは、ゴーグル……なのかな?
どうも、頭に填める形状らしく、後ろのバンドをいじる事によってある程度のサイズ調整が出来るようだ。
「これは罠か? なんか、填めたら外れない呪いとかあるんじゃ……」
でも、もしかしたら暗視ゴーグルとかそういう機能があるんじゃないか……とか、そういう期待があったので、とりあえず付けてみる事にしたのだった。
「何も見えない」
付けてみたところ、闇しか見えない。むしろ、視界を遮られている感じか。
予想以上にごつく、耳元も完全に隠れてしまうな。
なんだか、最近発売されたVR型のゲーム機がこんな感じだったような気がする。
目元を覆っているバイザーの部分は上下に移動でき、額へと動かす事が出来るみたいだ。
見えなかったら意味無いんだけどな。
それとも、ゴーグルじゃなくてアイマスクだったとか?
結果、それは暗視ゴーグルではなかった。
「わっ!!」
適当に側面にあるボタンらしき突起をいじっていたら、突然視界がクリアになった。
暗視ゴーグルどころの騒ぎではない。
室内が、まるで日の光に照らされたの如く鮮明に映し出されたのだ。
びっくりして、尻餅をついた。
数時間ぶりの明かりに、目の処理が追い付かない! 視界は白一色で、何も見えやしない。
あ、なんかまぶしさで涙すら出てきやがった。
咄嗟にバイザーを上げ、目を閉じて荒い息を吐く。
試しに今の状態で周りを見てみると、やはり世界は闇。
一呼吸置いた後にバイザーを下してみると、そこには光溢れる世界が満ちていた。
これは、どうもとんでもない代物を手に入れてしまったようだ。
久方ぶりにみる明るい世界にひとしきり興奮した後、俺は改めて室内を見渡してみる。
「なんだこれ」
一言で言い表すならば、SF。
目の前には巨大なモニターと思われる壁。
室内のセンターには、操縦桿らしき物が付いた座席、それを囲むようにいくつかの座席。
映画とかアニメで見たような、宇宙船のブリッジを連想させる部屋だった。
そんで、このゴーグルのあった場所は、ちょっと高い位置にある座席にあった。
これって、艦長とか船長とか偉い人が座る席だよな。
って事は、これは偉い人の持ち物?
と言っても、今更手放せる訳も無く、しばらく……少なくとも明かりが見つかるまでは借りておこうと思う。
怒られたら謝ろう。
それにしても、こんなハイテクっぽい光景……現実感が無いよな。
下手したら、誘拐は誘拐でも、宇宙人に拉致されたとかそういうやつの可能性が高い。
……それはそれで怖くなってきた。
宇宙人ってどんなのだ?
タコみたいなのか?
いや、座席があって操縦桿があるって事は、ちゃんとした手足がありそうだ。
このゴーグルも、俺の頭にフィットしたって事は、少なくとも人の形はしているのだと思う。
あぁ……せめて親しみのもてる外観だといいんだけど……。
ア○ターみたいなのならまだしも、エイ○アンみたいなのだったら、友好的に接せられる自信ねぇぞ。
裸にゴーグルのみという変態チックな装いの中、俺は今まで見て来た部屋を再調査するのだった。
とにかく服プリーズ!!
どうも、今まで見て来た小さな部屋は客室……なのか、机らしき物とベッドらしき物しか置いていなかった。
しかし、あの日焼けマシーンみたいなのがベッドなのか? 地球人としては出来れば布団にくるまりたいもんなんだけど。
色々と見た結果、俺が着ていた服は見つからなかった。
既に捨てられたのか、それとも俺が見つけられない場所にでも保管されているのか……。
出来れば後者がいいなぁ。
それでも、最後に調べた部屋は思わず目を奪われた。
そこは、恐らく武器庫。
重火器と思わしき物や、剣やナイフ等の近接用の武器。それらが棚に収められていた。
武器の他には、移動用のマシンらしき物もある。
車……バイク……後はどうやって乗るのか意味不明の物もあったりする。
ただ、どのマシンにもタイヤは無かった。って事は、空を飛ぶのか、それともホバーで移動するのか……。
やはり、こういうのを見るとワクワクしてしまう。探したら、ロボットとかもありそうだな。
そして色々と見ていたら、遂に待望の物を発見した。
服である。
この場合、宇宙服と言えるのかもしれないが、これでようやっとマッパから卒業だ。
うん。手も足も二本ずつある。特に尻尾を入れる場所も無いし、標準的な人間体型だ。
ただ、これを着ていた奴はかなり大柄な奴なのか、実際に着用したみたら随分とぶかぶかだ。
無いよりはマシだし、贅沢は言ってらんないな……と思って、首のホックらしき物をカチンとはめてみると、だぶだぶだった服がいきなり圧縮されて身体にフィットしたのだった。
オートフィット機能付きとは、さすがハイテク。
改めて俺の身体を見てみると……おおぅデザインは赤と黒で派手だ。
そして、印象的には宇宙服というよりはライダースーツに近い。
身体にピッタリとフィットしているので、やや窮屈には感じるが、特に動く事に不自由さは無い。
ところで、これなんか特殊な機能とかあんのかな……と思っていたら、なんかこめかみのあたりにピリッと刺激が走った。
「おおうっ!!」
思わず声が出る。
ゴーグルのバイザーの内側部分に、突然文字が浮かび上がってきたのだ。
しかも、その文字は日本語だ。
なんで?
なんで日本語?
これって日本で作られたもの!?
疑問は尽きないが、とりあえず文字を読むとしよう。
また、このバイザーに浮かび上がった文字は、文字を理解しようとするとスーッと頭の中に入り込んでくるのだ。
まるで、コピーアンドペーストで、頭の中に情報をインストールしたかのような感じだ。
その情報によると、
名前は《アーマードスーツ》
真空や深海での活動は当然のこと、放射線の除去。
更に耐圧、耐熱、耐寒、耐衝撃に優れている。
また、人工筋肉内臓によって短時間ならば最大レベルで普段の100倍程のパワーを出す事が可能。
超ハイテクスーツだった。
耐圧って事は、防弾チョッキみたいな役割も持ってんのかな? それでいてパワーもアップしますって、これヒーローのスーツじゃん。
完全防備にする為には、ヘルメットだったりオプションのアーマーを付ける必要があるみたいだけど、いきなりやってしまう訳にもいかん。
まずは、これ着てしばらくは様子見だな。……凄くフルアーマーやってみたいけど。
とりあえず、服着てようやく落ち着く事が出来た。
これまでの情報を整理すると、どうも俺は何者かに拉致されたかして、ここに運び込まれたらしい。
ここが何処だかは不明。完全なる闇に包まれているが、下手したら異星の宇宙船じゃないかという可能性高し。
乗組員は現時点では不明。本当に居ないのか、何処かでこっちを観察でもしているのか。
何か事故があって、死滅した。
それならばそれでいいのだが、そうなると本当にこれからどうすんだ……という話になる。
「ここが何処だかはっきりさせるか」
宇宙なのか地球なのか。はたまた、それ以外の何処かなのか。
誰も教えてくれる奴が居ない以上、自分で突き止めるほかあるまいて。
武器とか色々触りたい衝動を堪えつつ、俺はこのゴーグルを発見したブリッジらしき場所へと向かう。
う~ん。やっぱり誰も居ないな。
改めてブリッジ内を見渡してみる。
艦長席に操縦席。後は、攻撃担当らしき席と、補助担当の席かな? あくまでアニメとか映画のイメージだけど、雰囲気はそれっぽいな。
ここに来た時は、どうなってもいいからボタンでもなんでも押してやろう……と思っていたのだが、座席にはボタンらしき物は一切ない。
何これ?
タッチパネル?
さすがに電源が入ってない以上、いくら触っても意味は無い。
そもそも、電源が落ちている理由は何だ? まさかこんなハイテクな宇宙船で、ブレーカーが落ちたとかそういう事がある訳も無い。
……多分。
一番重要そうなブリッジがこんな状態なのだ。
とりあえず、全部の部屋を確認して、情報を集めるしかあるまい。
さてさて調べた結果、どうもこの宇宙船は三層構造になっているらしい。
上層に客室と言えるのか、同じタイプの個室がいくつも。
他に食堂なんじゃなかろうかと思われる広い部屋。
残念ながら食料らしき物は見つからなかった。
中層に、ブリッジと武器庫。
後は大事そうな機械が敷き詰められた部屋がいくつかあった。
こればっかりはさっぱり分からん。
そして下層だが、とんでもなく広い部屋があった。
円形の部屋だったんだが、直径が大体100メートルくらいあったんじゃなかろうか。
恐らくはトレーニングルームなんじゃなかろうかと思うが、あれがすっぽり入るなんて、この宇宙船ってどんだけでかいんだ。
……結果、特に分かった事はありません。
うががが。
せめて、ここが一体何処なのか知りたい。
宇宙空間なの?
地球なの?
それとも全然違うどっかの惑星なの?
「あぁーーーーもう!! 宇宙人でも何でもいいから誰か教えてくれ!!」
『はい。お答えします』
返事がありやがった。
今思うと、一話にしては長すぎたか。
本当は早く出会いイベントやりたかったんだけど、船内の説明がどうしても長くなっちゃって。
次話以降、少しずつ短くなります。