281話 コンビネーション
先ほどの無様な戦いの原因……。
それは、烈火と吹雪のアドバンテージ……つまり、コンビネーションを全く活かせないままに分断されてしまった事だ。
そもそも、烈火と吹雪の二人はバラバラではなく二人一組で動くことを想定されたアンドロイド。
武装に関しても、互いに補助がしやすいようにと考えられている。
『おう、お前ら……やんのか?』
≪……前同≫
前と同じ結果になるぞと言いたいらしい。
だが、そうはならない。
『んじゃ!』
再びガナードがロケットパンチを発射する体勢になる。また、烈火と吹雪の二人を分断して戦うつもりだろう。
動くならその前だ!
『愚弟!』
『おうさ!』
いきなり吹雪は自身のトンファー型の愛用武器……ストライクブラストを二本連結させ、ライフル銃のような形状に変形させる。
『ブリザードブラストォォッ!』
それは本来、冷気の塊を収束させて浴びせ、対象を凍結させると同時に撃ち砕くという兵装。
それを、吹雪は斜め上空に向けて放った。
よもや、上空に存在している見えない刃を標的としているのかと思われたが、直線状に放射されるブリザードブラストは避けることは容易い。
だが、それで終わりでは無かった。
直線状に放射したブリザードブラストを、その背後より烈火がヒートロッドの炎の鞭を、まるで風車のように高速回転させ、ブリザードブラストの冷気を周囲にまき散らしたのだった。
広範囲に拡散されたブリザードブラストは、収束された状態の時ほどの凍結力は持っていない。
だが、対象の表面を凍り付かせ、動きを鈍くする程度の力は持っていた。
それは、空中に凍結したまま浮かんでいる6本の剣を見れば明らかである。
『こ、これが……見えない刃』
ナイフよりもやや大きい柄のない剣。
浮遊するための機械こそ取り付けられているが、これが烈火を傷つけた見えない刃の正体のようだ。
『仕方ねぇ。そいつが、オペラのメインウェポン……インビジブル・ソードビットだ』
≪……無念≫
ようやく相手の武器を視認できた。
更に、ブリザードブラストの効果もあって、刀身は凍り付き、動き自体も鈍くなっている筈だ。
これならば対処も難しくない。
だが、疑問も残る。
ビットというからには、アリエスのバリア・ビットと同様に遠隔操作で動かしている筈。
それだけで、烈火のヒートロッドの鞭を避けるような、細やかな動きが出来るだろうか?
その疑問が顔に出ていたのか、ガナードはニヤリと笑う。
『ガッハッハ! まあ、こうなった以上一緒に戦うか。構わんよな、オペラ』
≪……承諾≫
改めて、二組は対峙した。
ここからは、一対一同士ではなく、二対二のバトルだ。
そっ……と、オペラがまたフルートを口に添える。
フルートより、鮮やかな旋律が流れ始める。だが、あのフルートはソードビットを操作する事を隠すための偽装では無かったのか?
フルート自体に何の機構も仕込まれていない為、烈火は単純にそう思っていた。
だが、まるでオペラの奏でる旋律に反応するかのように、凍り付いたままのソードビットが動き出したのだ。
無論、今度は視覚的に捉える事が出来る。だから、避けること自体は難しくない。
……と思われていたが、凍り付いたままのソードビットはまるで生き物のように動き、二人を攻め立てる。
この動き……確実に、オペラの奏でるあの旋律が関係している。
曲が緩やかな時はソードビットは大きな動きを見せ、激しくなると文字通り手数も激しくなる。
これだけの正確無比、機敏な動き……自動制御とは思えない。ならば遠隔操作なのかと思いきや、アンドロイドに搭載されたCPUで6本もの剣を自在に操るというのは処理スピードが追い付かないはず。
そうやって考えた末、烈火は思わず声を上げた。
『まさか……これは、音で操っているのか!?』
『あん? 音!?』
特定の音に反応して、剣の前後左右上下の動きを指定している。
要は、即席でプログラミングして剣を動かしているようなものだ。
とんでもない技術ではあるが、だからこそ弊害としてオペラは視覚も発声機能もオミットされているのだと察せられた。
下手をすれば、アンドロイドとしてのパワーも、あのフルートを持ち上げられる最低限度のものしか与えられていないのかもしれない。
『つー事はよ、懐に潜り込んじまえば勝てるって事だな!』
気の早い吹雪がそう結論を付けるが、その後頭部を烈火がヒートロッドの鞭で叩く。
『いってぇ! 殴るんなら武器考えろよ! 髪が燃えるだろう!』
『そうならんよう、出力は最弱だ。
お前な、我々が二人であるようにあっちも二人居るだろう』
烈火のその言葉に、ガナードが不敵に笑う。
『その通りだ。こっちに近づいたら、オレが相手をすることになるぜ』
ガシガシと自身のロケットパンチを叩き、存在をアピールする。
二人同時に戦う事は決定事項だ。
だが、こちらも二人。
数の上ではさっきと同じと思われるかもしれないが、烈火と吹雪……二人の意識が違う。
『俺たちは……』『二人で……』
『『一人だ』』
ガナードとオペラ、二人に向けて突進する烈火と吹雪。
その二人目掛けてオペラのソードビットが襲い掛かるが、
『ほわたぁッ!!』
それを吹雪のストライクブラスト・ツインロッドモード……つまりはヌンチャクによって叩き落されていた。
また烈火のヒートロッドで対応すると思っていたオペラは、思考をチェンジ。
吹雪の動きに注意して、ソードビットを動かし攻めるのであるが、今度は烈火によってソードビットは弾かれてしまう。
≪……間違≫
『お、おい、どうしたオペラ!?』
オペラには視覚によって状況を捉えることが出来ない。周囲の音の反響をソナーのようにして捉えているのだ。
その彼女の中では、今まで別の個体として存在していた烈火と吹雪が、一つの存在として認識されている。
まるで手足が複数存在する個体のようだ。
≪二人、合体?≫
『い、いや……元の通り二人のままだが』
それからも、ソードビットを叩き落しながら着々とこちらへ向かっている烈火と吹雪。
このままでは、懐に入られてしまう。
≪ガナ! 援護要求!≫
『お、おう!』
ガナードは慌てて二人に向けてロケットパンチを放つ。
迫りくる巨腕に対して二人は、なんと同時に飛び上がり、攻撃を躱す。
しかし、ただ飛んで避けただけでは意味はない。ロケットパンチはすぐに旋回し、空中で身動きの取れない二人を襲うだろう。
『うお……』『……りゃあッ!!』
……と思われたが、なんと烈火と吹雪の二人は、飛ぶ巨腕を真上から蹴り落したのだ。
巨腕は勢いをそのままに角度をずらされた結果、そのまま大地に陥没してしまった。
『な!?』
ただの蹴りでガナードのロケットパンチは軌道が変わる代物ではない。
実際、二人それぞれのパワーでは不可能な事だった。
だが、二人同時なら話は違う。
絶妙な箇所を絶妙なタイミングで同じパワーで蹴られ、一気にロケットパンチが戦闘不能になってしまった。
更に、ロケットパンチが無くなったガナードには迎撃手段がない。
『あ、こりゃ駄目だ』
≪同意≫
このまま勝つことは無理だと判断した。
元々、乗り気できなかった戦い。
このまま負けるのも別に構わないと二人は思っている。
だが、だからと言って戦いを止めることは出来ない。
その権限が二人にはない。
だから、戦闘不能になるまで戦い抜く必要があった。
そんな二人の前に……
『んあ?』
≪……?≫
《アリエス》のバリアビットが空から降ってきて、二人のボディを守るようにバリアを展開した。
『……お?』『なんだ……?』
ソードビットを打ち払いながら接近していた烈火と吹雪も、思わず足を止めた。
ソードビットはと言えば、まるで電池でも切れた様にプスンと音を立てて地面に墜落していく。
気が付けば、地面から這い出ようともがいていたロケットパンチも沈黙している。
『はーい、そこまででーす』
《アリエス》の内部より日輪・ナイアの声が響く。
『おいおい、日輪さんよ。どういうこった』
『そうだ。これでは、まるでお二人を守る……いや、別にいいのか。お二人は敵ではあるが、アルドラゴのAI。元々は我らの仲間であったな』
烈火も文句を言おうとしたが、そういえばそうだったと思い出す。
つまり、完全に倒してしまうのはかつての仲間を消滅させてしまう事になる。
『お二人は捕縛させていただきますね。このバリアビットは捕縛モードで使うと、身動きが取れなくなり、外部との通信が一切不可能になります。つまり、遠隔操作系の武具は一切使えないと言う事です』
身動きが取れず、遠隔操作系の武具を使えないとなると、いよいよ二人は無力化されたも同然だった。
更に、通信が使えないのでオペラは他者と会話する事すら出来ない。
『このまま《アリエス》内部にて拘束させてもらいますね。扱い……いえ処分については、艦長の判断に委ねることになります』
レイジの判断では、そのまま破壊してしまう事も出来る。
だが、そんな事はしないだろうとこの場にいるガナード、オペラ以外の三人は理解していた。
そんなホッとした様子の三人を見て、ガナードは申し訳なさそうに俯いて言う。
『……悪い。実は、負けた場合の事も考えられててさ……』
その視線が、エヴォレリアと竜王国を繋ぐゲートの付近……いつの間にか置かれていたトランクケースのようなものに向く。
『戦いが始まって20分が経過したら、自動的に作動するようになってたんだ』
パカリとトランクケースが展開し、中より千本もの糸が飛び出したのだ。
その糸は周囲の大地に突き刺さると、大地の魔力を取り込み、一つの形を作り出していく。
『おいおい、コイツは……』
『……あぁ、懐かしいな』
烈火と吹雪は、警戒しながらその様子を眺めていた。
大地より現れたのは、かつて天空島で戦ったパイプが組み合わさったような外見の急増の魔獣たちだった。
ただ、その形状は天空島で戦ったうちのどれとも違う。
言ってしまえば、恐竜。
ティラノサウルスのようなもの、トリケラトプスのようなもの、他にもラプトルのような小型の恐竜が生み出されていた。
そのどれもが細かいパイプを組み合わせたような外見のため、まるで骨格標本がそのまま魔獣になったかのようだ。
これが、大小合わせて600体。
『……数、多くね?」
『うむ。我々二人だけでは厳しいかもしれん』
二人の視線が、アリエスの内部にいる日輪へと向く。
『そんな目で見られても、私は戦いませーん。私はあくまでメディカル。戦う事はプログラムされていませんからね』
にべもなく断られ、その下にいる捕らえられた二人に向く。
『オレらは無理だぞー。お前らを倒すように命令されている今、解放されようもんなら、まずお前らを襲っちまう』
隣ではオペラがコクコクと頷いている。
という事は、この数の敵と烈火吹雪二人だけで戦わなければならない。
二人の実力から言って、かなり厳しい戦いになるだろうことは目に見えていた。
『な、なぁに、レイジの奴はよ……300人の獣族と戦って勝っちまったんだ。俺らも一人300体と考えれば、同じようなもんだろ』
獣王国での闘技場の戦いを思い出して、吹雪が強がりを見せた。
『そ、そうではあるが……先生の場合はハイ・アーマードスーツを纏っていたからな。我々には用意されていないだろう』
300人の獣族と戦ってレイジが無傷で済んだのは、本人の実力もあるが、あのオリハルコン製のスーツの力が大きい。
あれは今のところアルドラゴのメインメンバー分しか用意されていないものだ。
『……はぁ、仕方ありませんね』
思い悩んでいると、《アリエス》内部の日輪よりそんな言葉が漏れた。
『日輪殿! やはり力を貸してくださるのか!?』
パァァッと顔色を明るくして《アリエス》を見上げるのだが、その返答は期待していたものとは少し違った。
『いえいえ、こちらを解禁するだけですよっと』
離れた場所に待機させてあった《リーブラ》の側面部分が開き、中より何かが飛び出した。
飛び出したのは、水色と薄紅色でカラーリングされたひし形を二つ合わせたような物体……否、乗り物だった。
当然ながら、二人はそれに見覚えがある。
『《ジェミニ》!? こちらに持ってきているとは思わなかったぞ!?』
『しかも、色が変わってる! こ、これって……ひょっとして……』
吹雪の言葉は日輪が引き継いだ。
『はい。こちらは正式に貴方たちお二人の専用機となりました。なので、二人には内緒で《リーブラ》には搭載はしていたのですよ』
『そ、そうだったのか……でも、何故内緒に?』
先程の飛行魔獣相手の戦いでも、これがあればもっと楽に倒せたのではないだろうか?
『それは、伝えたらお二人……特に吹雪さんが調子に乗って、ポカをする可能性が高かったからです』
『ぽ、ポカ!? ちょっと日輪さん、ポカってなんだよ! ボカッてー!?』
『あー……あり得る話だ。というか、コイツは絶対に調子になる』
『の、乗らねーって……』
そうは言うが、語尾が小さくなった。やるかもという自覚はあるのだろう。
というか、過去がそれを示している。
『ですが、流石に緊急事態ですので、これを譲渡します。ナイアさんの判断で渡していい事になっていますので、どうぞご自由に使用してください』
日輪の言葉に、烈火と吹雪は顔を見合わせ、ニカッと笑みを浮かべて互いの拳をぶつけ合う。
『よっしゃ! コイツがあれば百人力だぜ!!』
『とは言え、まだ一度しか使用していないんだ。慎重に行けよ……』
と言って二人はそれぞれパーソナルカラーが描かれている《ジェミニ》の操縦席に入り込む。
そして、今にもこちらに迫ってきそうなパイプ造りの恐竜たちを睨む。
『行くぜ……《ジェミニ》……』『……バトルモード!』
その言葉と共に連結されていた二つのひし形は分かれ、ひし形の四つ角部分より何かが飛び出す。
それは、まるで腕……そして足のような形状をしていた。
その後、中央の操縦席を胴体部として、一見して人型であると分かる形状に姿を変えたのだった。
また良く見ると、烈火の乗る《ジェミニ》の両腕部にはブレードのようなものが取り付けられ、両脚部には銃のようなものが組み込まれている。
更に、吹雪の《ジェミニ》は全くの逆。両腕部には銃があり、両脚部にはブレードがある。
『おら行くぜ、パイプ恐竜ども!』
吹雪が《ジェミニ》の駆動を確かめながら吠えると、烈火も同じく声高く宣言した。
『ああ、これが今回の私たちの……』
二体の人型となった《ジェミニ》は、互いに拳をぶつけ合い、同時に叫ぶ。
『『ファイナル・ラウンドだ!!』』
すみませぬ。やっぱり、二話では終わらんかった。
というのも、一度苦戦させる描写挟みたかったせいであります。
《ジェミニ》のバトルモードも出てきたという事で、次回はちゃんと終わります。
また、このバトルモードですが、本当は天空島の魔獣相手のバトルにて披露予定でありました。
ただ、どうにも戦闘描写が難産でして、当時は裏で使って戦っていたという事にしました。
今回でやっとのお披露目。……ちなみに、ただ人型に変形するだけではありませんぜ。
詳しくは次回……。




