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280話 烈火&吹雪VS拳聖ガナード&剣聖オペラ





 ヴィオの言葉に、ゲイルは流石に驚きを隠せなかった。


「む、娘!? 娘という事は、ヴィオ殿の子ども……そういう事でござるか?」


 いやいやいや。

 先ほどの女性……若く見たとしてもレイジよりは少し上……という事は10代後半から20代前半くらい。

 対してヴィオは、正確な年齢は聞いていないが20代後半から30代前半ほどの見た目。

 どうしても計算が合わない。


 と混乱していると、本人から注釈が入る。


「アタシはアンタと同じく長命種。正確な年齢は言わんが、これでも見た目の倍以上は歳いってるよ」


「そ、そうだったのでござるか!?」


 ヴィオは吸血種と呼ばれる人間とは少し違う種族。

 エルフである自分同様、寿命の長さも外見の変化の度合いも違うのだと思い出した。

 尤も、そもそもの話として親族もおらず、実年齢と外見年齢にさほど差が無い現在のゲイルとしては、長命種としての自覚が薄かったりする。

 という事は、かの女性が娘だと言う事も、決してあり得ない話ではないという事になるのか。


「まぁ、あの子はアタシの腹から生まれた子じゃあ無いんだけども」


 ずっこけた。


「複雑な事情ってやつさ。あの子とは、元の世界で離ればなれになっちまってね。まさか、こっちの世界で会えるとは思ってなかったよ」


 陣営として敵味方に分かれた事は複雑な気持ちではあるが、二度と会えないと思っていた相手に再会できたことは素直に嬉しい。


「うし! 是が非でもあの仮面野郎をぶっ飛ばさなきゃならない理由が出来た」


 複雑な事情ではあるが、ヴィオにとって戦うべきモチベーションが上がった事は素直に良いことであると思った。


 さて、この戦場において一つの大きな戦いは終わったが、終わったのはあくまで一つ。


 他の戦いは、まだ続いていた。





◆◆◆





 戦場は、竜王国サイドへと一旦戻る。


 竜王国とエヴォレリアと繋ぐゲートの前でも、戦いは繰り広げられていた。


 その中心に位置している巨大な亀のようなロボットは戦闘に参加していないが、そのロボットを挟むようにして二組の戦いが行われていた。



 チーム・アルドラゴ=エクストラチームの切り込み隊長……を自称する吹雪と対峙するのは、同じく拳を武器とする十聖者の一人……新たな拳聖にして、元アルドラゴのサポートAIの一人……ガナード。


『雷撃ッ!』


 ガナードの右腕に装着されていた巨大なガントレット。

 その拳部分が外れ、拳そのものがロケットのように飛んで行った。


『ぐっ!』


 放たれたロケットパンチを吹雪は手にしていたトンファー型武器……ストライクブラストを交差させてガードしようとする。

 だが、その一撃はあまりにも大きかった。


 ガードで受け止めきる事が出来ず、身体が吹き飛ばされてしまった。


『くそっ!』


 ガードしていたのでダメージそのものは少ないが、パワーではっきりと負けている事が分かってしまった。

 吹雪としてはかなりショックだ。


 それでも、今が勝機には違いない。


 ロケットパンチの弱点は、一度撃ってしまうと、自身の腕そのものが無くなってしまうという、考えたら当たり前だろというものだ。


 だから、右腕が無くなって戦力が半減している今こそ、勝機!


 そう思ってガナードに向けて突撃したのであるが、疾走の途中……背後より打撃を受け、吹雪はその場に倒れこんだ。


『いだぁ!?』


 背中を抑えて振り返ると、さっき放出されたガナードのロケットパンチが、ふよふよと浮かんでいた。

 どうも、背後よりこれでド突かれたらしい。


『あほか。そんな分かりやすい弱点をそのままにしておくかっての』


 ガナードが呆れた様に言う。


 う……それもそうかと納得する吹雪。


 どうも、放出した後のロケットパンチは自由自在に動かせるらしい。

 という事は、実際は取り外しができて空中戦も可能な腕と言う事か。


『ほらほら後輩。ぼーっとしていると、まだまだ追撃が来るぞー』


 ふよふよ浮いていたロケットパンチは、宙を飛ぶスピードを速め、吹雪に向かって攻撃を再開してきた。


 吹雪もストライクブラストを振るって迎撃しようとするも、反応速度もパワーも、このロケットパンチの方が上だ。


 AIとしては先輩であるガナードに対して、吹雪は劣勢を強いられていた。





◆◆◆





 一方の烈火は、十聖者において新たな剣聖として選ばれ、元アルドラゴのサポートAIの一人、オペラと戦いを繰り広げていた。


『ぐ、ぐあぁぁぁぁっ!!』


 ザシュザシュッという音ともに、一瞬にして烈火の身体に複数の切り傷が生まれ、その傷口からアンドロイド用の人工血液が飛び散った。

 これがもし、烈火のボディがアンドロイドでなかったとしたら、一瞬で肉体がバラバラになっていた事だろう。


 想定以上のダメージに、その場に崩れ落ちる烈火であるが、対峙するオペラは、特に剣を構えるわけでもなく、少し離れた場所で立っているだけだった。

 ただ、その手には剣ではなく、フルートと呼ばれる楽器が握られているだけである。


(み、見えなかった……)


 そう、烈火にはオペラが剣を振るう瞬間は全く見えなかった。


 対峙してしばらく睨みあった後、いい加減仕掛けるかと武器を構えた時、オペラが動いたのだ。

 取り出したフルートを口に添え、旋律を奏でる。


 奇怪な行動に警戒していると、いつの間にか斬られていた……そういう事だ。


 烈火は決して気を抜いていた訳ではなく、警戒していた。

 なのに一瞬で斬られた。


 ただ、分かったこともある。

 これは、魔法等の攻撃ではない。

 しっかりと実体のある攻撃……剣による斬撃だった。


『み、見えない……刃』


 ダメージは決して小さくは無い。

 だが、動けないレベルでもない。

 烈火は両足に力を込めて立ち上がり、愛用の武器……ヒートロッドを構えた。


 ともあれ、相手の攻撃方法は理解は出来ないが、知ることが出来た。一歩前進には違いない。


 それに、オペラが手にしているあのフルート。

 あれ自体に斬撃機構が備わっているわけではない。

 フルートが何かのきっかけになってるかもしれないが、あれが刃を出現させているわけではない。


 だが、攻撃方法が分かったからと言って、何が出来るのか……。


 烈火に備わっている熱感知機能であっても、見えない刃がどこに存在して、どうやって飛んでくるのか分からない。



≪―――次、行≫


 無線を通じてオペラの声が響く。


 オペラは、目も見えない声も出せないというAIとしては不可思議な存在ではあるが、こうして無線を通して会話そのものは出来る。

 ただ、可能な限り……というか必要以上に無駄を省く性格なのか、言葉も異常に少ない。


 本来の役割はオペレーターとの事だが、こんな感じでどうやってこなしていたのか気になるところだ。


 だが、彼女たちも命令されて嫌々戦っている立場。

 本来ならば無言のまま追撃を加えるところ、こうして忠告してくれるのは、せめてもの配慮なのだろう。

 本当なら、この見えない刃の正体も教えてほしいものなのだが、それはそれで烈火自身のプライドに触る。


『……これでも、私は戦闘の経験値を買われてアルドラゴのクルーに選ばれたんだ! いくら先輩だろうと、負けられないッ!!』


 他のAI組と違い、自分と吹雪がクルーに抜擢された理由の一つ、他のAIには無い生身の戦闘を経験したことがあるという点だ。

 正確には、経験したことがあるのは人格の元になったオリジナルであるが、その経験値はしっかりと烈火の中に刻まれている。


 烈火は奮起して立ち上がり、手にしていた愛用の武器……ヒートロッドを天に掲げ、大きく振り払う。


『ファイヤーラインウォール!』


 ヒートロッドは、杖の先より炎の鞭を精製し、敵を打ち据えたり捕縛したりする武器だ。

 それの炎の鞭を何重もの円状に展開し、自分を包む。


 これは完全に防御の陣。

 ヒートロッドの炎は、単なる炎ではなく実体を持つ特殊な炎だ。

 つまり、物理攻撃であっても防ぐことは可能。


 さぁ……どうなる?


 その結果は、炎の帯の壁によって守られている筈の烈火の身体が斬りつけられた事で証明された。


『ぐあっ!?』


 傷は決して深くない。

 だが、防御の陣を築いているにも関わらず、それを無視して斬りつけられた。


 まさか、防御を無視できる斬撃だとでも言うのか!?


 いや、そんなものはアルドラゴにも存在しないし、あったとしても、ただのサポートAIの戦力に渡せる技術力とも思えない。


 何か……何かきっと絡繰りが存在するはずだ。


 そう判断したが、視覚でも熱感知でも、オペラが操る見えない刃の正体は分からない。

 だから、ただガムシャラに鞭を振るって、刃を撃ち落とす……もしくは接触を避けようとしたのだが、それでも見えない刃は烈火の身体を切り裂いていく。


(こうなったら、破れかぶれで最接近して……)


 とにかく、見えない刃を操っているオペラはすぐそこに居るのだ。

 オペラ自体を行動不能にしてしまえば、この戦いは終わる。


(……やるしかない!)


 と、決意して行動に移そうとした烈火であるが―――


 走り出した瞬間、目の前に《アリエス》に搭載されているバリア・ビットが出現して、動きを止めざるを得なかった。


『何を―――』


 何をすると文句を言いかけた所、目の前に出現したビットが展開するバリアに、キィンキィンと何かが命中する音が響く。


 それが、オペラが操る見えない刃である事にすぐ気づく。

 また、もしあのまま走っていたら、正面からあの刃を受け、今度こそバラバラになっていたかもしれないという事にも気づいた。


 見れば、吹雪の方もガナードとの間にバリアが出現していて、戦いを中断させられていた。


『おいおいなんだこりゃ。メディカル……今はナイアっつったか。お前も参戦するって意味か、これは』


 ガナードが怒りをにじませてほぼ置物と化していた《アリエス》を操縦するナイアに問う。

 確かに、なし崩し的に一対一の戦いが二組生まれてしまったが、そういうルールがある訳ではない。

 戦いにナイアがフォローを入れようと、別に何ら問題は無いのだ。


 だが、戦いの当時者たちは、水を差されたようで面白くは無い。

 それは、こちらも向こうも同じようだ。


『はいはーい。烈火さんと吹雪さん、それとガナードさんとオペラさん。戦いを中断させてしまって申し訳ありませーん。ちょっと一時中断タイムでーす』


 戦いの場に、アリエスを操る日輪の声が響き渡る。


『タイム? そういうのアリなのか!?』


≪……不服≫


『ごめんなさーい。ただ、タイムはこれで最後でーす。ナイアさんは、基本的に戦いには加わらないので、ご安心をー。

 烈火さん吹雪さん、ちょっと集まってくださいー』


 言われた通り、《アリエス》の元へと集まる烈火と吹雪。


『おいおいどういう事だよ日輪さんよ。これからって時に水を差しやが―――いてぇ!?』


 不満をぶつける吹雪の頭に、バリア・ビットが高速で振り下ろされた。


『まず最初に言う事がそれなんですかー? あのまま戦っていたら、どうなるか分からないお馬鹿さんだったんですかー?』


 声は朗らかではあるが、その中に異様な圧を感じ取り、吹雪は後頭部を抑えて後ずさりした。


『少なくとも私は、あのまま続けていたら戦闘続行不能となっていただろう。

 助けていただき、感謝しています』


 素直に烈火が謝ると、吹雪もおずおずと頭を下げた。


『すんませんっす』


 実は、吹雪もガナードの使うロケットパンチに翻弄され、埒が明かない状況となっていた。

 だから、大技を使って打開を図ろうとしたのだが、それを狙っていたガナードにカウンターをくらう直前だったのだ。

 

 だが、一時中断したところで今の自分たちの力では、あの二人には勝てない。

 そう思わされてしまった。

 ならば、どうすれば良いのか……。


『こういう事をナイアさんが言うのもアレなんですけど……そもそもなんで一対一にこだわっているんですか?』


『え?』

『あん?』


 二人は思わず首を傾げた。


 まず、最初に飛び出してきたのが、あのガナードだった。

 その相手を吹雪がしているうちに、オペラも烈火に対して攻撃を加え、次第に分断されて、じわじわと一対一の構図になってしまった。


 そうだった。

 この構図は、こちらが意図したものではない。


 自分たちはレイジたちアルドラゴのメインメンバーに比べると、まだまだ弱い。それははっきりと自覚している事だ。

 だから、エクストラ・チームの一員となってからは、自分たちの長所を活かせるべく特訓を重ねたのでは無かったか。


 それをすっかりと忘れ、相手のペースにすっかりはまってしまった。

 全く、情けない。


『『日輪さん、ありがとうございましたッ!』』


 二人は深々と目の前の《アリエス》に向かって頭を下げた。


『わかればよろしい。

 ナイアさんはもう手を出しませんからね。後は、お二人がどう戦うかですよ』


『うし、姉貴!』

『おう、愚弟!』


 顔を上げ、二人は互いに拳をぶつけ合う。

 同時に、脳内のデータ共有を行った。

 ガナードとオペラ、二人の戦術が共有される。


『なるほど……』

『ああ、となると……』


 まず、どうするべきか……それが分かった。


 

『おおい。相談タイムは終わったかー?』


≪―――待疲≫


 と、挑発的な事を言ったものの、ガナードとオペラの二人は、烈火と吹雪……二人の顔つきを見て、こりゃ駄目かも……と思い始めた。




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