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25話 ギルドに登録


「ほう……面白い客が来たな。まぁ、入んな」


 魔石屋。

 中心街から少し離れた場所に、その店はあった。

 通行人の話によると、中心街にはもっと大きな店があるとの事だったが、俺はあえて評判がさほど良くもない店を紹介してもらったのだ。


 理由は……この外見なので浮くのが怖かったからです。


 そういう店には、これから金をゲットして、一般人に溶け込める服装をゲットしてから望むべきだと思っとります。

 入ってみると店には、眼鏡をかけた禿げたおっさんが一人いるだけだった。

 これはこれで度胸がいるな。


 魔石屋とは、魔石を加工し、魔道具へと変える魔術師の武器屋のようなもの。他には、単純に宝石の代わりにアクセサリーの一部へと加工される事もある。

 貴族や王族からは、こちらの依頼が多いとの話だ。強力な魔獣の魔石を扱った指輪なんか、下手な宝石よりも箔がつくという事だ。魔術師からしたら勿体ない事この上ないらしいが。


 しかし、こちとら初めての魔石屋である。

 店に至る所に飾ってある魔道具の数々に、俺は目を奪われた。

 杖、腕輪、指輪……というポピュラーなものから、剣の柄や鍔部分に魔石が埋め込まれているものもある。

 ……所詮ファンタジーなんて無い世界からやってきた異世界人。

 ファンタジー全開のこの店が楽しくて仕方がないのです。


「はっはっは……。田舎からやってきたおのぼりさんって訳か。魔道具がそんなに珍しいかい」


 ぬぅ。それはそれで馬鹿にされた気がするが、事実なので仕方あるまい。

 いいや。さっさと売っぱらってこの店を出よう。


「魔石を売りたいんだが」

「ほう……。魔石たぁ意外だ」

「意外?」

「おれぁてっきり、そいつを売ってくれんのかと。……アンタの胸に輝いている“魔晶ましょう”をさ」


「!!」

『!!』


 思わずトリプルブラストに手が伸びた。

 が、そんな俺の様子を見てオヤジは……


「ガッハッハッ! いやいや悪かったな。あんたがそんなに無防備にしているもんでな。ちょいとからかってみたくなった」


 ……これは思っていたよりもいい人だったって事だろうか。

 さっきまでの胡乱うろんげな表情と違い、何処かほがらかな表情だ。


「わかるもんなのか?」

「ああ。その筋の奴ならすぐに分かるね。だから、あんたも街を歩く時は気をつけな。……尤も、兄ちゃんなら大抵の奴は大丈夫だろうがな」

「それも分かるのか」

「ああ。店に入ってくる時の様子といい、今の様子といい、なかなかの身のこなしだったぜ。……ただ、兄ちゃんの場合はまだ身体に技術が染まってないっつうか、チグハグな印象だな」


 大正解。

 このおっさんすげぇ。


『なかなかの観察眼ですね。ケイ、少なくとも目利きだけは信用できそうです』

「ああ、俺もそう思う」


 まぁいいや。アドバイスももらった事だし、今後は胸元はなるべく隠しておこう。

 まずは、魔石の換金だ。

 俺はレジ前……いや、レジは無いんだけど、おっさんの所まで近づくと、魔石を取り出した。


「とにかく、コイツをお願いする」

「あいよ。ほほう……なかなか形のいい魔石だな」


 険しい目つきで、手にした魔石を眺めている。


「違いなんて出るもんなのか?」


 そういや、ミナカ村の村長にも言われた気がする。


「お前さん。この魔獣かなりあっさりと倒したな。ぼんくらなハンターだと、とにかく剣でめった刺しで相当弱らせないと魔石に変化しねぇからな。中にある魔力も弱くなるわ、形もいびつになるわで厄介なんだぜ」


 なるほど。確かに、今まではほとんど一発で倒していたからな。

 反対に苦労して倒すと、そういう事になるわけか。


「それでいて、こんなに苦労して手に入れた魔石なんだからと、もっと金を出せと言いやがる。全く、てめぇの腕の無さのせいだろっての」


 大変なんだなぁ。売る方も買う方も。


「とにかく、オークとヘルハウンドとゴブリンだな。まぁ、大体2万レンって所だな」


 レンは、この世界の通貨となるんだが、ややこしいのでアルカに頼んで日本円と同程度の通貨額にしてもらっている。

 2万レン=2万円だと思ってくれてよろしい。

 ちなみに、これも大昔に来た異世界人が広めたのか、紙幣と硬貨に分かれている。製紙技術も、かなり大きくこの世界では広まっているみたいだな。

 俺としては楽でいいけど。


 とにかく、2万もあれば当座の金として文句は無い。

 これから本格的に稼ぐんだし。


「ありがとう。とにかく、これからどんどん魔石を持ち込む事になると思うけど、その際はよろしく」

「おいおい。売るだけで買わないつもりかよ」

「はは。俺には魔道具は使えないからね」


 俺は金を受け取ると、店を出ようとした。


「待ちな」

「何か用でも?」


 振り返ると、おっさんは何故か俺と目を合わせようとしなかった。


「お前さんが初めて手に入れた魔石ってのはあるのかい?」


 予想外の言葉に、俺は面食らった。


「あるにはあるけど……その中には無いよ」


 コイツは記念に取っておこうと思っているからな。さすがに売らないよ。


「だったら、ご新規様のサービスで、無料でアクセサリーにしてやるが、どうだ?」

「え……いいのか?」

「ふん。先行投資だよ。お前さん、見たところ相当でかい事やらかしそうだからな」

「そ、そうかな? っていうか、よくそんな物持っているって分かったな」

「お前さんみたいな新人ハンターは、最初に手に入れた魔石はお守り代わりに持っているヤツが多いんだよ。それにこれでも、目利きは自信あんだ俺は。で、どうすんだい」


 あ、やべ。この人良い奴だ。

 なんというか、ささくれ立っていた気持ちがほんの少し浄化された気がする。

 俺はアイテムボックスから最初に撃破したゴブリンの魔石を取り出すと、ポイとおっさんへ向けて放る。


「んで、何にするんだい?」

「じゃあ、髪飾りで」


 三日後に来いという言葉を背に、扉を閉める。

 俺はさらりと髪飾りと言ったのだが、特に深い理由があったわけでもない。なんとなく、店に並んだ魔道具とは別のアクセサリーコーナーで、髪飾りが目に留まったのだ。

 すると、魔石屋を出た途端に食い気味でせっつく奴がいた。


『か、髪飾りってどうするつもりなんです! まさか、自分で……』

「しねぇよ。まあ、いつか帰れたら、誰かに渡せればいっかな~って」

『誰かって誰です?』

「しつけぇな。誰でもいいだろ」

『以前言っていた、柳さんですか?』

「ゲホッゲホッゲホッ!!」


 予想外の名前に、激しく咳き込んだ。

 つーか、なんであの子の名前が……


「あ、そうか。お前に言った事あったか」

『で……で、どうなんですか?』

「いや……多分無いんじゃないかな」


 というか、一体どんな顔で会えばいいってんだか。

 勢いで……とはいえ、振った女の子に。


「つーか、思い出させんな」

『むぅ。私は詳しく聞きたいんですけどー』

「あーもう! この話無し!! さっさとギルド行くぞ!!」

『けちー』




◆◆◆




 ドキドキ……

 遂に……遂にギルドに到着である。

 この世界の文字を俺はまだ認識する事が出来ないが、アルカによれば確かに“ハンター協会 エメルディア王国 王都オールンド支局”との看板が掲げられているとのこと。

 ハンター協会……世間的にはハンターギルドで通っている。

 俺は遂に、その門を開こうと言うのだ。


「ようし……行くぞ」

『行きましょう! ケイなら出来ます!』


 ギィ……と、音を立てて扉を開いた。


「!」


 中は予想外!

 俺としては、なんとなくウェスタン的な酒場のイメージだったのだが、雰囲気はまんま役所である。

 後はドラマとかで見る職業案内所とか……そんな感じ。

 当然酒場なんて無い。……というか、なんでそんなイメージが定着したんだか。


 もちろん、ロビー内に居るハンターと思わしき人達はパソコンでカタカタ仕事を探すわけもなく、壁に貼られた依頼書やテーブルに置かれたバインダーみたいな書類束から仕事を探しているようである。


 ともあれ、バタンと扉が閉まると同時に、人々の視線がパッとこちらへ向く。

 うぅ……怖ぇぇ。

 今の俺は、赤髪でゴツイ額当て、そしてこの世界で言ったら外套みたいなもんを着込んだガキなのである。ちょっとした注目を集める事も仕方ない。

 頑張れ俺。今はポーカーフェイスだポーカーフェイス。

 俺は緊張をなるべく隠して、空いている受付へと歩を進める。


「すいません、ハンターの登録をしたいんだけど」

「は、はい!」


 奇妙な子供が来た……と思ったらハンター登録だったので少し驚いたのか、受付の20歳前後のお姉さんは、慌てて書類を取り出した。

 ちなみに、ちょっとした少年漫画の主人公……みたいな感じのキャラづくりを心掛けている。よっぽど目上の人以外には敬語は使わないという方針だ。


「こちらに名前と出身地、後は特技を書いてほしいのですが」

「わかった」


 俺はペンを受け取り、いざ書類に名前を――――――

 書けなかった。

 この世界の文字、俺知らねぇじゃん。


『私が代わりに書きますので大丈夫です』


 ありがてぇ。相変わらず、アルカが居ないと何にもできない奴です。

 アルカが、俺の身体を使ってささっと書類へ書き込んでいく。


 名前:レイジ

 出身地:不明 王都に来る前はミナカ村に滞在

 特技:格闘・剣技


 まぁ、メインは銃撃だけども、ここでそう書くわけにもいかんわな。


「レイジ……さんですね。分かりました。……この出身地が不明というのは?」

「本当はもっと遠くの国から来たんだが、乗っていた船が事故で難破したんだ。で、色々あってこの国に漂着したって訳」


 何事も解釈次第。嘘は言ってませんよ。

 難破したと言っても、海じゃなくて亜空間でって話だし。


「こちらとしては、その色々を聞きたいのですがね。それで、遠くの国って何処から来たんですか?」

「……こっちでは何て呼ばれているか知らないけど、俺たちは日本って呼んでいたよ」

「聞いた事無いですね。……本当ですか?」

「だから、こっちでは何て呼ばれているか知らないってば」


 自国では日本だが、世界で見ればジャパンだし、昔だったらジパング。こっちの世界からしたら、異世界だ。

 はい、嘘は言ってません。


「まあ、こちらとしては逃亡ダァトでなければ問題はありませんが……」


 そう小さな声で言った所で、受付嬢さんはヒッと声を漏らした。

 どうした?


『ケイ……受付のテーブルを見てください』


 アルカの言うとおり、テーブルに視線を移せば、木の板に俺の指がめり込んでいた。

 ……無意識にイラっとしたらしい。


「悪い。後で修理代は払おう」

「い、いえ。私こそ申し訳ありません」


 ぺこりと頭を下げる受付嬢さん。

 こっちもちょっと嫌な事思い出しちまったな。


「と、登録に関しては問題ありません。では、具体的な説明をさせていただきます……」


 説明を要約すると、ハンターはAからGのランク形式になっている。

 最初の一週間はGランクとして過ごす。いわゆるお試し期間だ。

 ここでこなした仕事の量と質によって、正式にハンターとなり、ランク付けされる。

 この期間でも、魔獣退治等の危険な仕事は出来るが、当然Cランク以上ハンターの協力が必要になる。


 Fランクは、まぁギリギリライン。普通のアルバイト等と合わせれば、なんとか食べていけるランクだ。

 Eランクは、危険な仕事は選ぶ事が出来ないが、なんとかそれだけで食べていけるランク。

 Dランクは、将来性あり。危険な仕事もそれなりに選ぶ事が出来る。


 Gランク期間が終わったら、このいずれかになる訳だな。

 そこから先は、本人のやる気次第という事か。

 ランクの昇進試験なんかも当然あるらしい。


 Cランクは、いわゆる一般的なハンター。大体の基準がこれだな。実力的には、結構なバラつきあり。

 Bランクは、ベテラン的なハンター。一流と呼んでも差し支えは無い。

 Aランクは、超一流。支局に一人居るか居ないか……という感じらしい。全ての人数を合わせても、20人に満たないとの話だ。


 理解した。

 まずは一週間、Gランクで底辺仕事か。

 薬草採取から街の人からの雑務仕事まで色々あるみたいだな。


 受付さんから「Gランクハンター」のカードを受け取った。一応、発行額が300レン。

 こいつが身分証明書代わりにもなるらしい。

 問題を起こしたら、罰金。酷い場合は、ギルドから除名。今後一切の加盟を認めない、ブラックリスト入りになる訳だ。もっと酷いのは、そのまま逮捕なんだが。


 さて、まずは最初の仕事探し!

 どんな仕事があるのかな~~と、十数名ほどが集まっているロビーへ向かった。


 なんだかんだ言って、楽しみだ。



 よくあるギルドの説明回です。

 しかし、この辺は設定書いていて楽しいですな。


 次話より、新米ハンター開始です。

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