274話 VS十聖者
「なんだあの乗り物は!?」
「ボートか!?」
「あんなに速く動くボートなんぞ見たことがない!」
「ええいとにかく撃て! 撃ちまくるんだ!」
どうも、帝国ではまだ水上バイクのような乗り物は開発されていないらしい。
だが、奴らが持つ銃剣型の武器は知っている。
聖鍵
かつて聖騎士ルクスが持っていた聖剣の大幅劣化版だ。形状としては、ライフル銃の側面部に刀身がついたものを連想してくれればよい。
聖剣は、所持者の魔力を刀身に溜め、まるでかまいたちのように発射することが可能だった。
それの劣化版という事で、所持者の魔力をまるで弾丸のようにして剣の先端から撃ち出すことが出来る。
威力は所持者の魔力次第ではあるが、弱い魔力を持つ者であっても、鉄は無理でもコンクリートに穴を開ける程度の威力はあるのだ。
まぁその程度では《カプリコーン》に穴を開けるどころか装甲を凹ませる事も出来ないだろうが、生身の部分に当たると流石に痛いし、弾が雨あられのように降り注ぐと、正直ウザったい。
なので、ヴィオは反撃に出ることにした。
波が来たのを見計らって《カプリコーン》ごと高くジャンプする。
そして、《カプリコーン》に内蔵された武装の一つを披露する。
「雷龍落とし!」
《カプリコーン》の側面部に取り付けられた牙の如き二本の槍。その先端部にバチバチと電流が走り、その0.5秒後には大きな雷の雨となって周囲に降り注いだ。
兵士たち全員に雷が命中したが、威力を絞っていたせいもあって全員死んではいない。
その威力というのも、スタンガンを浴びせたレベルの力だ。
だから、また意識は残っている者はかなり存在している。
「ば、馬鹿な……こんな場所で雷が降る……だと……」
「魔法だよ。珍しかないだろ」
「馬鹿を言うな。これほどの魔法……聖術士卿でなくては……」
「あぁそうかい。この世界じゃ魔法すらも発展途上って訳かい」
痺れて動けないでいる兵士たちを無視して、ヴィオは《カプリコーン》を発進させた。
ヴィオ自身、今のような放出タイプの魔法は不得手であり、《カプリコーン》の武装を利用してやっと使用出来るのだ。
それであっても、今の魔法がアルカたちの使用する魔法に比べて大したことがない事は理解出来る。
「まぁいい。アタシの役目はこいつ等を引き付ける事だ!」
とはいえ、あの無限のように湧いて出る魔獣どもをなんとかしないと、アルカやゲイルの負担が大きすぎる。
注意深く見ていると、人が搭乗した中~大型魔獣は空艦から放出されているが、最もウザい小型魔獣の群れは海上から出現している。
……何処だ?
艦上から発射される魔力の弾丸を躱しながら、ヴィオは見定めていた。
(あそこだ!)
魔獣の群れが、ある特定の戦艦の上から出現している事に気づく。
なのだが、此処からその目的地までは無数の戦艦が行く手を塞いでいる。
これほどの防備……やはりあの戦艦に秘密があるのは間違いない。
だが、やはり前を塞ぐ戦艦の群れが邪魔だ。
「なら、突破するのみ」
ヴィオはニヤリと笑みを浮かべ、《カプリコーン》に魔力を流し込む。
また《カプリコーン》に取り付けられた槍……いや牙に電流がバチバチと走り、《カプリコーン》そのものを包み込む。
「雷牙!」
ヴィオは電流……いや雷に包まれた《カプリコーン》をそのまま目の前の戦艦に向けて突進した。
そのスピードは最高速に達し、一つの弾丸……いや砲弾と化す。
「回避! 回避しろ!」
そのようなものがこちらに突進してくる事を知った戦艦の乗組員たちは、必死に逃げようとするが当然ながらすぐに避けられるものではない。
その雷の砲弾は戦艦の装甲を易々と貫き、巨大な風穴を開ける。
無論、ヴィオの行く手を阻む戦艦は一つではない。
次から次に、魔獣を放出する戦艦を守るべく、別の戦艦が盾となるのであるが、ヴィオの放った雷牙は一度の突進では終わらない。
一直線にその原因となる戦艦目掛けて突き進んだ。
道を塞いだ戦艦には、等しくヴィオが突き進んだ証拠である風穴が開き、浸水によって沈没していく定めとなる。
そして目的地である戦艦に辿り着いたヴィオは、目前地に達すると《カプリコーン》ごと大きくジャンプをして、戦艦の甲板の上に着地する。
「し、侵入者! 撃て! 撃てぇ!」
甲板の上にいた兵士たちが慌てて聖鍵を構えるも、
「ウザい!」
ヴィオが一喝して雷を落とし、甲板の上は一気に静かになった。
この場所で立っているのは、二人だけだ。
すると、甲板の上で優雅に椅子にふんぞり返っていた女は、気だるそうに顔を上げた。
「なぁにー。新種の魔獣?」
神聖ゴルディクス帝国十聖者の一人……聖獣士ビスク。
この者こそが、まるで無限のように湧いて出る魔獣の原因……。
それを示すかのように、ビスクの足元には使い捨ての魔獣が封じられた石……帝国が言う所の聖石が散らばっている。
「よう。ふんぞり返ってるところ悪いが、おめぇが魔獣を出現させてる元凶だろう。止めさせてもらうぜ」
「んー。半分正解? ほら見て」
ビスクがそう言うと、背後に設置されていた巨大な大砲から、中空に向けて何かが発射される。
何か……あれは、魔獣が封じ込められた石……聖石だ。
それらは空中でまるで花火のように光り輝くと、小型の飛行魔獣と姿を変えて飛び去って行った。
「アタシがやっているのは、聖獣ちゃんたちの本能の制御。つまり、ゴルディクス帝国軍以外の者を襲えと指示しているの」
ぼーっと空を眺めていたビスクは視線を元に戻すと、新たな聖石をまた取り出す。
「つまり、アタシを倒しても聖獣は減らないわ。むしろ、制御の利かなくなった魔獣が野に放たれる分厄介になるだけだと思うな」
コロコロと指の中で聖石を転がしているビスクに、ヴィオは首を傾げながら言った。
「それって……お前を倒した後にこの艦沈めればそれでオッケーじゃないか?」
ヴィオのその言葉にビスクは少しだけ目を大きく開き、ぱちぱちと軽く手を叩いた。
「へえ、すっごーい。おばさんってば、こんなでっかい船を沈める力があるんだぁ」
と、心底馬鹿にしたような顔で嘲笑うのだが、おばさんと揶揄されたヴィオはチラリと辺りを振り返った。
周囲には、たった今ヴィオによって沈没させられた戦艦が5隻ほど……文字通り海の藻屑となって消えていくところだった。
……認識していないのか?
「まぁいいや。とにかく、お前をぶっ飛ばせば良いんだな」
「ふぅん。やれるもんならやってみればぁ」
そう言って、ビスクはその場にポイと聖石を二つ放り投げる。
「……おいおい。こりゃあ……」
聖石から出現したのは、当然ながら魔獣……いや聖獣である。
それも、巨大なゴリラのような体躯に虎の頭部を持つワータイガー。
それと、二つの頭部を持つ大蛇……ウロボロス。
虎と蛇……自分のハイ・アーマードスーツの意匠と同じタイプの魔獣。
偶然なのか意図的なのか……ビスクの表情に変化が全くないから、本気で偶然の可能性もある。
だが、ヴィオは獰猛な笑みを浮かべていた。
「いいねいいね。久しぶりに血が滾るってもんだよ」
その顔を見て、ビスクはどん引いた。
「うわ。アンタ、マジで魔獣じゃん」
「魔獣で結構! こちとら元の世界じゃ化け物と呼ばれた種族でね!」
ヴィオは《カプリコーン》を飛び降りると、こちらに迫る2体の巨大な魔獣に飛び掛かった。
ヴィオVS聖獣士ビスク……開始!
◆◆◆
一方、竜王国側に残った日輪、烈火、吹雪組はどうしているかというと……
『ほらほらー。頑張ってくださいー。左側が手薄になってますよー。あ、ほら、また新しい敵が侵入してきた。
へーいへーい。こっちですよー。私は戦えませんからねー。向かうなら、足元で戦っている方たちに向かってくださいよー』
緊張感に欠けた声がスピーカーを通して響く中、その周囲では激しい戦闘が繰り広げられていた。
『うるさいッ! 戦えないなら黙っていてください!』
『えー。戦えないから、せめて応援でもと思っていたんですけど』
『そういうのは応援じゃねぇ! 野次ってんだー!』
正確には野次とも違う。
ともあれ、バリアを展開したまま動けないでいるアリエスin日輪を守るべく、烈火&吹雪は奮闘していた。
竜王国とエヴォレリアを繋ぐゲートの向こう側からは、少なくない数の飛行魔獣の群れがどんどん飛び込んでくるのだ。
外ではゲイルやアルカも頑張ってはいるが、やはり圧倒的に数が多い。
どちらかと言えば近接戦闘メインの二人の武器では、空を自在に飛ぶ魔獣の相手は厳しいと言わざるを得ない。
実際、今も一匹の魔獣が二人の隙をついて集落部の方角へ飛び出していった。
が、その魔獣はしばらく飛んだところでまるで見えない壁に激突したかのように動きを止める。
『はいはーい。また一匹捕まえましたよー』
見れば、その飛行魔獣を囲うようにしてバリアビットが展開している。
日輪とて、ただ黙ってバリアを展開しているだけではない。巨大なバリアフィールドとは別に小さなバリアビットも動かし、二人が取りこぼした飛行魔獣を捕まえるという役割があった。
『すまない日輪ッ!』
ジャンプブーツで宙を蹴った烈火は、日輪が捕らえている魔獣にヒートロッドを巻き付け、それをまるでハンマーのように振り回した。
『おらぁ! ヒィート……フレェイル!!』
拘束した魔獣を鉄球の代わりとし、竜王国サイドへと侵入を続ける飛行魔獣にぶつけていく。
無論、鉄球代わりとなる魔獣の肉体も同程度の硬さではあるので、数度の激突でその肉体は崩れ去っていく。
一方の吹雪はと言えば、トンファーモードの二本のストライクブラストを連結させ、一本のロッドモードへと変形させる。
そして、まるで投擲するように構えると、
『アイス……ジャベリンッ!』
実際に投擲した。
空に投げ出されたロッドは空中で冷気を放出し、一本の氷の槍となる。
投擲された氷の槍は、今まさにこちらの世界に飛び込んできた飛行魔獣の腹部を貫き、消失させる。
とは言え、魔獣を倒すためとは言え、愛用の武器を投げだしてしまった。
それをわざわざ拾いに走るというのは、どうも格好悪い。
と思われたが、投擲されたストライクブラストは、空中で弧を描き、スポンと吹雪の手持ちに帰ってきたのだった。
所持者の手元から離れた装備は、任意で所持者の手に戻るように設定されている。
これは、アルドラゴのアイテムや武器が敵対者の手に渡らぬようにするための策だ。
さらに言えば、アイテムの機能を使うには認証が必要という二重のセキュリティロックが施されている。
そうして一息ついた(アンドロイドなので実際にはついてないが)ところで、烈火吹雪の二人は竜王国とエヴォレリアを繋ぐ光のゲートを見上げる。
……魔獣の侵入が途絶えた。
よもや、エヴォレリア側でレイジたちが全ての魔獣を倒したのか?
と期待を抱いていたら、ゲートを飛び越えてくる影が二つ!
咄嗟に迎撃に向かう二人であるが、その影の正体を見て、足を止めてしまった。
『……え?』
『……まさか……』
『おう、ウィーっス。初めましてだな、後輩ども』
『………』
小柄な二人の人間だった。
一人は短い髪を逆立てた勝気な顔つきの少女。
もう一人は、アイマスクとヘッドホンで目と耳を塞いだ少女。
二人とも似た顔立ちであり、双子のような印象を受けるがそれ以上の情報を烈火と吹雪の二人……いや日輪を含めた三人は得ていた。
『フェイ様と同じ情報データ?』
『いや、そんな筈はない! という事は、お前たちが話に聞く白フェイか!?』
『んー。半分くらい正解?
確かに、このボディは量産型フェイ様のものを使用している。
あ! そうだ。言っておかねば!
オレがこのボディを使っているのは、あくまでもエギル様の意向だかんな!
オレの人格設定上の性別は、しっかり男! そこは間違えんなよ!』
髪を逆立てた少女の方の言葉を聞き、日輪・ナイアは理解した。
『なるほど。という事は、貴方たちは元々は我らアルドラゴに搭載されていたサポートAIという訳ですか。
お名前を伺っても?』
二人の侵入者は肯定するように頷き、意気揚々と名乗った。
『おう。オレは砲撃手のAI、今はガナードの名前を与えられている。
んでもって、こっちは……』
《……通信手。固有名称……オペラ》
『うお!』
『なんか急に頭ん中に声が響いたぞ!?』
ガナードと名乗った少女(中身は男)は烈火と吹雪を見てケラケラ笑いながら、隣に立つオペラの頭をポンポンと叩く。
『おう。コイツは声帯の接続が上手くいってなくてな。えーと……なんだっけ、骨伝導を利用して話したい相手に直接声を響かせるんだったか』
《……宜》
『ああコイツ、喋るのすっごい苦手だから。だから、他者とのやり取りは、オレがいっつも代弁してんだ』
おいおい。通信手がそんなことで良いのかよというツッコミが入りそうになる。
『砲撃手に通信手……。今、記録が繋がりました。
なるほど、設計者同様に奪われたAIがまだ居たのですね』
日輪の言葉にガナードは頷き、今やビーストモードとなっている《アリエス》の巨体に向けて手を掲げる。
『ういっす、医療者の姐さん。いや、今はナイアだったか。解剖大好きなのは変わらず?』
『このボディを使用しているときは、日輪・ナイアです。それと、私は解剖が好きなのではなく、肉体の神秘を解き明かすために―――』
日輪がうんたらかんたらと始めたので、ガナードは無視して話を進めることにした。
『えーと、俺たちが此処にやってきた意味、姐さんたちなら理解していると思うんだわ』
未だ《アリエス》のスピーカーからは日輪のうんたらかんたらが続いているが、吹雪烈火の二人も無視してガナードの言葉に答えることにした。
『……まぁ、雰囲気からして先輩後輩の挨拶をしに来たわけじゃねぇよな』
『ちなみに、お二人の着ている制服……それはゴルディクス帝国のものという事で良いか?』
『おう。甚だ不服ではあるが、これ言ったらオレらの立場も目的も一発で分かんだろ。
俺の肩書は、神聖ゴルディクス帝国……十聖者が一人、拳聖ガナードだ』
《……剣聖オペラ》
『……あぁ、なるほど』
『確かに、すぐ理解できた』
敵方に奪われたAIであり、更にはゴルディクス帝国の10強である十聖者に組み込まれたのだ。
完全に敵であり、その目的は帝国にとって益になる事。
つまりは、このゲートそのものを塞いでいるバリアの消失。そして自分たちの排除という事だろう。
『そんじゃ先輩たち、戦るって事でいいんすね?』
『心苦しいが、先輩たちが逆らえないという事は理解している。私たちは全力で対抗するだけだ』
自分たちAIは、最初に起動した者を主とする。そして、その命令に逆らうことは出来ない。
それは良く分かっていることだった。
自分たちの主……レイジは、決して自分たちが好まない指令は与えないが、彼らの場合は違う。
かつての仲間と戦えと言われれば、従うほかないのだ。
ガナードも二人の言葉に満足げに頷いた。
『ん。それで構わないぜ。オレたちもこの世界で新たに生まれた後輩の戦いにゃあ興味あるからな!』
《……同文》
バリアを展開したまま仁王立ちとなっているアリエスを挟むようにして、二組は対峙していた。
それぞれの間には憎しみはない。
ただ、立場の違いによる純粋な力比べだ。
『そんじゃ!』
『行きますか!』
二組は同時に相棒とゴツンと拳をぶつけ合い、バトルをスタートさせた。
烈火&吹雪VS拳聖ガナード&剣聖オペラ……開始!
◆◆◆
また視点はエヴォレリアの海に戻る。
「本気で信じちゃあいなかったけど、マジでドラゴンジェッターじゃねぇかアレ」
戦艦の甲板の上より戦況を見守っていた槍聖クロウは、戦場を飛び回るドラゴン型の飛行メカを見て、呆然と呟いていた。
こう見えて、クロウこと烏丸涼虎は、アニメや特撮ドラマを見るのが好きだった。
そんな彼女がアルドラゴを見てまず思い出した事は、幼いころに見たロボアニメに出てきた飛行メカだった。
細かくは覚えていないが、確か三体のマシンが登場するアニメで、そのうちの一機があんな感じだったはずだ。
とは言え、アニメで見たドラゴンジェッターは、あそこまででかくなかったと思う。
ただ、あのアニメは他にも、車やら戦闘機やら列車やらが出てきて、サイズ比もあってないようなもんだった気がするから、気にしてもしょうがないかもしれない。
しかし、ファンタジーな世界に飛行船やらこんな戦艦やらで、自分の所属している国も異質な感じがしていたが、あの空飛ぶ鋼のドラゴンは文明レベルが段違いだ。
見た目がドラゴンなのがギリギリファンタジーではあるが、地球にすら無いレベルのものがこの世界にあったら拙いでしょう。
「とはいえ、アレは流石にアタシじゃあどうしようもない」
普通の人間よりは強靭な肉体を持っていて、普通の人間を圧倒するような力は持っていても、空は飛べない。
これでも身の程は弁えているのである。
それに、彼女には一応与えられた役目というものがある。
旗艦である帝国の戦艦ブローダー。それを守るための最初の防衛ラインが彼女の役目だ。
とは言え、流石にあんな空飛ぶメカドラゴンは相手しようもない。それこそブローダーの主砲クラスじゃないと対処できないんじゃなかろうか。
それ以外の奴の相手をしようと思っていたらば、いくら待てども敵は登場しない。
あれ? 自分らって竜王国とやらに住んでいるドラゴンたち相手に戦争仕掛けているんじゃなかったっけ?
いくら待てども現れない敵に不安になるクロウ。
こうしている間にも、遥か上空では鋼鉄のドラゴンが空を飛び回り、小型の飛行魔獣を蹴散らしている。
自分たちが一体何と戦っているの疑問に思っていると……
「んん?」
視界の端で気になるものが映った。
巨大な水しぶきを上げて、何かがこちらに向かってやってくる。
「!」
目を凝らしてよく見てみると、どうもそれは人だ。
なんと人が、海の上を猛スピードで走ってやってくるではないか。
もう一度言おう。
その人物は、海の上を走ってやってくるのだ。
どうもピンク色の髪にピンク色の服を着こんだ女性らしい。
最初は見間違いか、実はボートか何かに乗って移動しているのではと思っていたが、マジで走っている。
クロウ自身、片方の足が沈む前にもう片方の足を水面に上げれば水の上を走れる理論は聞いたことがあったが、それを実践しているのは初めて見た。
というか、出来るものなんだ。
「まぁいいか」
とは言え、この戦場において帝国軍以外の存在は敵である。
あの水面走り女が何者であろうと、クロウにとっては敵なのである。
クロウは甲板に突き刺してあった愛用の槍……形状的には薙刀……を手に取り、思わず笑みを浮かべていた。
何はともあれ、久しぶりの戦闘である。
相手があの変な忍者女というのは残念であるが、ここは楽しませてもらうとしよう。
「我が名は神聖ゴルディクス帝国……十聖者が一人、槍聖クロウなり! いざ、尋常に―――」
「悪いが、急いでいるんだ」
薙刀を構え、口上を述べていたところだったが、気が付いたら目前に当の女性が居た。
続いてパチンと、まるで進行に邪魔なものを退けるかのようにクロウの身体を蹴り飛ばす。
クロウの身体は何度もバウンドして甲板を転がり、そのまま勢い余って海へと落ちたのだった。
そして、海を走るピンクの女性ことロゼは、チラリとクロウがどうなったのかを見届けると、進行を再開するのだった。
ロゼVS槍聖クロウ……開始!
……そしてロゼの勝利!
クロウさん、決して恨みがある訳ではないですがオチ要因になってもらいました。
一応まだ出番ありますのでご安心を。
残りの十聖者の対戦カードは次回にて。




