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268話 共闘




 エメルディア王国からおよそ200㎞は離れた海域。

 ここは、大型海洋魔獣の住処であり、船の航路からもずっと離れている。

 よって、点々と存在している大小さまざまな島には集落は存在せず、無人島の集まりとなっていた。

 そんな海域に、百隻近くの小型戦艦、そして十数艇の空艦スカイシップが集まっていた。

 その中でも異彩を放つのが、海面より三十メートル上空を浮かぶ、巨大な黒い戦艦の姿であった。


 ブローダー。

 神聖ゴルディクス帝国が開発した、最新式の空中戦艦である。

 空艦は言ってみれば、だたの飛行船であるが、これは言ってみればホバークラフトに近い。

 高く空を飛ぶことは出来ないが、宙を浮かぶことで波に左右されることなく海上を進むことができる。

 更に、様々な砲撃武装が取り付けられ、文句なしの移動要塞となっていた


 その巨大戦艦のブリッジと呼ばれる場所に、この大艦隊を指揮する男……弓聖フォレストは立っていた。


「これだけの戦力が集まる光景は壮観だと言えるが、本当にこの先に竜王国はあるのだろうな」


 その言葉に、背後に控える男……アウラムは満面の笑みで頷いた。


「それは確実です。既に潜入している工作員が、もうまもなく竜王国に繋がるゲートを開いてくれます」


「……工作員ね。そんなものをいつの間に送り込んだことやら」


 ふんと鼻を鳴らし、フォレストは再び前方に広がる光景に目を向ける。


 この戦いには、帝国のほぼ全戦力が動員されている。

 十聖者もただ一人……聖断ヴェルドのみが皇帝の護衛という名目で参加していないが、残りの全ての十聖者はこの場に集まっている。

 その中には、新参の聖騎士エギル、拳聖ガナード、剣聖オペラに加え、先の戦いで生死不明扱いになっていた聖獣士ビスクまでもが来ていた。

 彼女の話では、残り二人とははぐれてしまったらしい。また、何があったのかいつもマイペースで何事にも無関心だった筈なのに、やたらとビクビクした態度を取っていた。

 先のチーム・アルドラゴとの戦いにおいて、余程の恐怖を体験したのかもしれない。

 ともあれ、この戦場には、

 聖騎士

 剣聖

 拳聖

 槍聖

 聖獣士

 聖女

 弓聖

 の七聖者が集まっていることになる。

 これは、ゴルディクス帝国の歴史始まって初めての事だ。


「尤も、十聖者っていうシステムが始まったのは、ここ数年の事だけどねー」


「ん? 誰に対して言っている?」


「アハハ。何でもないよ」


「ところで、ルミナ君だけはまだ目にしていないが、きちんと配置についているのかね? 最近不安定なところもあったが、彼女は防御の要だ。きちんと動いてもらわないと作戦が崩壊する」


 そう問うと、アウラムはにんまりと笑みを浮かべて答えた。


「それは大丈夫。彼女は一番大事なところに居るからね。きっと、期待に応えてくれるはずだよ」


「そうか。ならば安心だ」




◆◆◆




「……なるほど、こうなったか」


 何やら手に汗握る様子でときたま「おー」とか「うへー」とか唸っていたロゼであるが、やがてうんうんと頷いて落ち着きを見せた。

 どうやら、来る時が来たらしい。


「け、結果が分かったのか?」


 尋ねると、


「うん。えーと、レイジ君の仲間の勝ち。おめでとー」


 と、パチパチと手を叩いて賞賛を送ってきた。


「……ふぅ」


 俺は僅かに力を抜いた。

 ラザムはうちのクルーではないが、立派な協力者だ。

 勝って生き残ってくれたことは素直にうれしい。


 なのだが、ルミナは……。


「……あ。っていう事は……」


 そうなのだ。

 俺がロゼとルミナに提案したのは、あくまでも先延ばしによる保留。

 決着がついてしまった以上、彼女は決断しなくてはならない。

 ロゼと戦い、ゲートを開いて戦争の口火を切る事を……。


「うん。これからボクはゴート君への義理で、このゲート開閉装置を守らなきゃいけない。そして、君は竜王国とエヴォレリアを繋ぐためにゲートを開きたい。そういう事だよね」


 ロゼはルミナを見据えてそう言うと、ルミナ自身も複雑な表情で頷いた。


「そ、そうなります……」


「で、レイジ君は……」


 ロゼの視線が俺に向く。


「俺としては、竜王国内の一般の人間たちの魂が、戦争に利用されなきゃそれでいい。

 でも、もしこの場でゲートを開くっていうんなら、俺もロゼに付こう」


「……え?」


 用意していた俺の言葉に、ルミナは驚いた顔で向き直る。

 え、なんか予想外だった?


「これは、竜族の神ファティマさんへの義理だな。戦争の勃発は防ぎたい。だから、ゲートを開くことは止めさせてもらう」


 俺は今回の件に対しては竜王国サイド、帝国サイドになんら関わりはないし、責任もない。

 ただ、偶然居合わせただけの良識ある一般人だ。

 だが、目の前で戦争が始まるっていうのに何もせずにいるほど普通ではない自覚もある。


「……レ、レイジさん」


「という事で、ルミナさん、ここは諦めて貰えないか。いくら君が十聖者だからって俺たち二人相手に勝つことができるとは思えない」


 ものすっごい何か言いたげな様子ではあるが、何を言うべきか言葉が見つからないのだろう。

 やがて、観念したかのように項垂れた。


「そ、そうですね。わかりました……」


 ようし。

 これで一件落着だな。

 強硬派の代表だったゴートは倒れ、帝国の工作員であったルミナはゲートを開くことを諦めてくれた。

 これで戦争は起きないし、オルソとやらを使った竜族量産計画もパーになった。

 めでたしめでたし。




 ……とは、やはりというかならなかった。


 突如としてパンッと手を叩く音が室内に鳴り響いた。

 鳴らしたのは、ロゼだ。


「あぁ……。これで一件落着になったらそれで良かったんだけど……」


「「え?」」


 突然の拍手と心底残念なロゼの物言いに、俺とルミナは揃って顔を向けた。


「実はボク。もう一つだけ果たさなきゃならない義理があるんだよね」


「「え?」」


「ゴート君にはこの国とこの家に住まわせてもらった恩。

 そんでもう一つは、この世界に渡る際に手助けしてもらった恩」


「……世界を渡る手助け?」


「前に君の仲間に言ったんだけど、ボクは特定の世界に移動する事は出来ない。でも、渡る側から手助けがあった場合は別だ。おかげで、力の方も半分しか使わないで済んだし。

 で、そん時に約束しちゃったのさ。

 やーやー。君さえよかったら、僕の作ったチームに入って、力を貸してくんないか……って」


「ま、まさか……」


 その口調……非常に聞き覚えがある。

 まさか……まさかとは思うが、ロゼの異世界転移を手伝った人物って……。


「うん。ボクは十三冥者とやらの一人に抜擢された。という事で、建前上とは言え我が盟主の約束で、このゲートを今すぐ開かせてもらおうかな」


 確定。

 その盟主とやらは確実にアウラムのヤロウだ。


 アイツはゴルディクス帝国に属しているが、その目的は帝国に沿ったものではなく、俺への嫌がらせだ。


「ま、待ったーッ!」


 さくっと方向転換して、ゲート開閉装置とかいう機械のパネルを操作しようとしたロゼに対し、俺は咄嗟に飛び掛かった。


 マズイ。

 この状況は確実にマズイ。


 ラザムの勝利によって、竜王国住民の魂は一応のところ守られたと思っていたが、まさかこのタイミングでロゼが立場を変えるなんて!

 このまま戦争が始まってしまったら、竜王国にとって分の悪い戦いになってしまう。

 戦争自体は起こるのはマズイが、もし始まってしまった場合、ゴルディクス帝国が勝つのはもっとマズイ。

 というか、もしゴルディクス帝国が勝った場合は文字通り地獄絵図だ。


「おっと。ボクとやるのかい? 今は君ひとりなんでしょ。多分……というか確実に無理だと思うよ」


 痛い。

 俺一人というのは、ノエルが一緒じゃないという意味だろう。


 確かに、前の戦いは力の差はあっても、ノエルの力があってなんとか戦う事が出来た。それが今は無い。

 それに、装備についても魔力感知に引っかからないように必要最低限の武装しか持参していない。

 正直言って勝てる見込みは無い。


 それでも……それでもなんとかしなくちゃいけない。

 俺は大慌てで階下に居るゲイルに通信をとった。


『聞こえていたかゲイル!』


〈状況は把握しているでござる。確かにこれはマズい状況にござるな〉


 流石。

 通信はONのままだったおかげで、これまでの展開はちゃんと聞いていたようだな。


『まだ身体を動かすのもしんどいだろうが、今は頼れるのが君しかいない。なんとか研究所の外に居るアルカたちに連絡を取って、この事を他の竜族に伝えてくれ!』


〈承知した! と言いたいところでござるが、心配ご無用でござるよ〉


『……どういう事だ?』


〈アルドラゴの新たなるクルー……プラム殿が既にアルカ殿たちの元へ向かったでござる〉





◆◆◆




 一方その頃、研究所の外で待機中の残りメンバーたち。

 彼女たちは《リーブラ》内部にて議論を交わしていた。


『大いなる問題です。外の世界で帝国の艦隊が集結しているという事は、目的は竜王国との戦争。しかも、どうやってか帝国側はこの海域に竜王国とエヴォレリアを繋ぐ道が隠されている事を知っているという事になります』


 アルカが自問自答のように言うと、フェイも頷いた。


『そこはあのアウラムが身を置いている国ですからね。帝国の動き自体もなんら不思議はありません』


『ケイに指示を仰ごうにも、研究所では通信は妨害されていて、連絡を取る事は不可能。それに、第1次タイムリミットを迎えました。という事は、何かしらトラブルがあったのでしょう』


 研究所の潜入したのは、レイジ、ゲイル、ラムザの三人のみ。

 他ルンバ―はは魔力感知に引っかかってしまう為、外にある《リーブラ》内部で待機することになった。


 だが、ここでレイジは万が一の場合に備えて潜入のタイムリミットを設けた。


 第一次タイムリミットは潜入開始して30分。

 その時間以内にゲートが開く、もしくは通信手段を確保して連絡を送る事になっていた。


 もし、それを過ぎても何の反応もない場合は、何かしらトラブル発生。警戒せよ。


 次の第二次タイムリミットはその10分後。

 もしそれを過ぎても何の反応もない場合は、予想以上に問題解決にてこずっている可能性大。突入して、救援を求める。


 既に30分は過ぎた。

 という事は何かがあった事は間違いない。

 約束の突入時間までは10分あるが、外の世界の状況もある。いっそ、飛び込んでしまって救援後に指示を求めるべきか……。


『こちらに残っているのが、AI組しか居ないというのも失敗でしたね』


 AIはあくまでも人間をサポートするのが存在目的だ。

 だから、自分の判断で何かを決めるというのが苦手……というか、考えられて造られていない。

 レイジのおかげでこうやって自立して行動が可能となったが、指示されていない事を自分の判断で決断する事は経験があまりにも少なかった。


『果たして今すぐ救援に向かうべきか……いえでも、既定の時間まではもう少しあります。もし今飛び込んでしまって、トラブルがさらに加速してしまう可能性も……いえ、既に状況が変わったのですから、指示を仰ぐ意味でもやはり突入して……』


 と、アルカはぶつぶつ呟きながら《リーブラ》内部をウロウロしている。


 その点、アルカたちと合流するまでは単独行動が認められ、既定のルールに触れない以上はある程度好きに活動する事を認められていたフェイは、今は待つべきだと判断していた。

 レイジが定めたルールとして、行動するのは既定の時間が過ぎてからとされているのだ。

 だったら、外の状況がどうだろうとルールは守るべきだろう。


 だが、アルカは今すぐにでもレイジの救援に行きたいと考えている。


 AIならばありえない()()に寄り添ったものだ。


 ああそうなのだ。

 認めたくはないが、どうやら自分たちには()というものがあるらしい。

 心というものなぞ、ただ思考と同意義の演算装置と変わらないだろうと思っていたが、どうやら違うらしい。


 AIは所有者が定めたルールを逸脱できない。


 それは、これまでも一緒だった。

 基本的には、AIは所有者の意見に従うものだ。

 だが、所有者たるレイジはアルカたちAIを自分の物だという認識が薄い。薄いというか、どうも彼の中では仲間とか家族というカテゴリーに入っているらしい。

 また、この世界に来てからは頼れるのがアルカたちAIしか居なかったからなのだろう。これからどうしたら良いのか、何をするべきなのか、常に相談してきた。

 アルカたちはAIであるため、意見を否定するようなことはしない。ただ、先の展開を予測して、忠告と苦言は要したことがあるが、レイジの言葉には全て従ってきた。

 そういった経験があったためだろう。過去の旅路の中には、レイジの判断を仰がず、自分で決断して行動を決めたことも何度かあった。

 尤も、それは計算の結果、レイジの利益になる行動だと判断したためだ。

 今回は違う。

 どちらの行動も利益になる可能性があるが、同時に不利益になる可能性もある。


 だからこそ、今迷っている。


 それでも、先ほども説明したとおりにルールがある以上はそれに従うのがAIというもの。

 本来ならば迷うはずも無いのだ。


 なのに迷ってしまうのは、そこに心というものが入り込んでいるせいなのだろう。


 この事について一度も話し合ったことがないのに、どうしてアルカの事情というものが理解できてしまうのか……。

 それは、フェイも同じだったからだ。


 今でも、レイジの救援に向かいたいという意志をなんとか押さえつけている。


(……そうはならないつもりだったんだけど……)


 自分は姉たちとは違いアルドラゴのメインコンピューターに接続していない。そのため、万が一艦のコンピューターに異変があった場合は独立した自分が動けるようになっている。

 また、それは逆もしかりであり、メインコンピューターに接続していない自分は、レイジの決めた規律に従う必要はなく、自由に動き回ることができる。

 その気になれば、反意を抱くことだって出来るのだ。

 一応、その保険として自身の制御装置をレイジに預けているわけだが。


 だから、自分の役目はこのチームを俯瞰的に見て、必要あらば調整し、またウジウジしがちな艦長を叱りつけるものだと思っていた。


 だが、レイジは言った。


「俺は別に主人とかそういうつもりはない。……ええと、()……みたいなもんかな。」


 はっきりでは無いが、フェイの中で何かが変わったのはこの時だったような気がする。


 兄。


 フェイには姉も居るし、弟も居る。

 勿論、人間で言うところの姉弟とは違うが中身は大差ないと思っているし、自分たち三人の繋がり……()は強いとなんとなく自覚している。


 だが、兄は違う。


 本当の兄……エギルには情なんてものはない。

 自分も含めて、AIは全て道具。

 効率的な使い方があればすぐに実行する。

 恐らく、自分以外の管理AIの中でフェイが選ばれたのは、運動性能が高かったからだ。

 偵察や自分の足代わりとして便利だと考えたのだろう。

 フェイが手元から離れた後は、そのデータを基にして量産して更に力を強めた。


 本当の兄からは得られなかった親愛の気持ちをレイジからは感じられた。


 対してアルカはレイジに対して弟……というよりは、対等なパートナーとして認識している節がある。

 下手をすれば、自分の感じている親愛以上の感情すら抱いている可能性も……いや、これは自分が指摘する事ではないなと判断し、フェイは考えるのを止めた。


 その時だった。

 ピピピ……と、《リーブラ》内に何者かの接近を知らせるアラームが鳴り響く。

 今現在、《リーブラ》は擬態カモフラージュモードにて待機中のため、視覚や感知によって見つける事は不可能もはず。

 だというのに、どういう手段で擬態を見破ったというのだ?


『ん?』


 不思議に思ってレーダーを確認してみれば、表示されていたのは味方を識別する赤いポイントマーカー。

 そして、そのマーカーに記されているナンバーは14。

 ナンバー1がレイジであり、2、3と以降の数字はアルカ、ルークと続き、艦外活動出来る全員分のナンバーが割り当てられている。

 14は最後にクルーとなった人物のナンバーだ。

 つまり……


『プラム!?』


 アルカがすっとんきょうな声を上げ、慌てて外へ飛び出す。

 すると、当の本人が全力疾走でこちらに駆けてくるところであった。


『プ、プラムさん! ルークから、もしかしたら貴女がこちらに居るかもって言われていたのですけど、反応が無いのでやはり居ないのかと……いえ、それよりも今まで何処に……』


「か、かんちょーピンチ! それと、ヴぁいれるって人に連絡入れて! 帝国が攻めてくるって!!」


 やや舌足らずな声ではあるが、ハッキリとしたその言葉に最初はポカンとしていたアルカたちはやがて驚きの声を上げたのだった。




◆◆◆




 ロゼとの戦闘が開始してしばらくが経っていたが、やはり劣勢に追いやられていた。

 元々、ノエルの力を借りて全く及ばなかったというのに、一人で立ち向かったところで勝てるはずもない。

 無論それはあちらも思っている筈なので、遊ばれているなーというのがよく分かる戦いとなっていた。

 なにせ、またしても鼻歌交じりに俺の攻撃を避け続けているのだ。

 また残念なことに、今の俺はアイテムボックスを持ってきていない。よって、まともに使える武装はセブンソードの中でも唯一小型で持ち運びが可能な陸剣フォトンエッジしかない。


 はっきり言って、今やっているの行為は無駄である。

 だが、無駄と分かっていてもやるしかない時もある。


 やがて、そうやって無駄な剣戟を繰り返していた時……


 動いた人物が居た。


 その人物は突如としてロゼの頭上まで飛び上がり、掌を真下へ向ける。


「おおっ!」


 危機を察知してか、即座にロゼは後ろに跳んで回避する。

 その途端、ロゼのいた場所は、ゴォンという轟音と共に奇麗に2メートルの正方形に凹んでしまった。

 それはまるで、見えない巨人の足……いや巨大なハンマーが振り下ろされたかのようだった。


「おや。やっとやる気になったかい」


 攻撃を避けたロゼはニコニコして、攻撃の対象者が凹んだ床の上に降り立つ姿を見ていた。


 対象者は続いて「はぁ」と息を吐き、両手を左右に広げるように構え……一気に正面に移動させる。


「おおっと!」


 途端、ロゼは両腕を左右に伸ばし、まるで何かを押さえつけているかのようにその場に踏ん張っている。


 何が起こっているのか……それは、ロゼの左右の空間が歪みを生じさせ、足元がこれまた正方形の凹みが出来ている事で察せられる。

 今ロゼは、左右から迫る見えない壁によって潰されそうになっているのだ。


「結界……あたしの能力はそう名付けられました」


 その体制のまま、対象者……ルミナはようやく口を開いたのだった。


 聞くところによると、結界とやらの能力は俺たちが使うバリアガントレットと似た性質を持つ力だった。

 要は、あらゆる攻撃を防ぐことが出来る、見えない壁を作り出せる力だ。

 バリアガントレットと違うのは、作り出せる壁の大きさ、厚さが自由自在な事。また修練を積んで離れた場所にも壁を作り出せるようになったのだとか。

 よって、このように攻撃に転用する事も可能。

 というよりも、最近はこの手の仕事ばかり回ってくるようになったのだとか。


 だが、何故?


 ルミナの立場では、このままロゼに加担してゲートをすぐさま開く方が良い筈だ。

 というか、彼女はそのために送り込まれてきたのでは無かったか?


 そう思っていると、ルミナはそのまま俺に背を向けたまま言った。


「……一度だけです」


「え?」


「一度だけ、貴方と共に戦わせてください。立場も何もかも今は全て忘れさせて、ただ貴方と共に戦いたいんです」


 意味が分からなかった。

 何故、ルミナがそこまでするのか俺には分からない。


 どういうつもりなのか、疑問はある。

 問い詰めたい。


 だが、今は時間が無い。

 俺一人の力では、ロゼには勝てないのだ。

 ならば、今は力を借りるしかない。


「分かった。行くぞ、ルミナさん!」


「は、はいっ!」


 俺の言葉に、やけに嬉しそうな声が返ってきた。

 ともあれ、強い戦力を借り受ける事が出来た。

 どこまで迫れるか分からないが、ロゼとのリベンジマッチ開始だ。




AI組の判断基準


所有者が居る場合は指示遵守。


所有者の指示であっても、指示の結果を予測して成功確率が低く、現状よりもマイナスになる場合は忠告。


所有者の指示が無い場合、所有者にとってプラスになる事であれば実行。


結果が予測できない場合は、行動を起こさない。

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