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266話 三つ巴




「ゲイルの身体の位置が分かるのか?」


「ゲイル……っていう人の身体かどうかは分かりませんが、生命力が著しく落ちている肉体が一つあります」


 ルキナのその言葉に俺は天を睨んだ。

 炎竜卿ゴート……奴の先ほどの言葉が正しいなら、今現在ゲイルの肉体は危機的状況にあると言っていいだろう。となると、生命力が落ちているという言葉も頷ける。


「……可能性は高いか。ルキナさん、すまないがその場に案内してもらっても構わないかい?」


「……その前に、レイジさんに聞きたいことがあります」


「聞きたいこと?」


 ルキナは俺の目を見据え、ゴクンと唾を飲み込み、問うた。


「レイジさんは、ゴルディクス帝国と敵対するつもりですか?」


 意外な言葉だった。

 俺は再び宙を睨み、真摯な答えを返す。


「正直言って敵対はしたくない……。ただ、逆にあっちから因縁つけられてきた結果、戦わなくちゃいけなくなっちゃったってのが正しいところだ」


 神聖ゴルディクス帝国。

 俺としては、極力関わりたくない存在だとずっと思ってきた。

 国と揉めるなんて、面倒な事この上ない。

 だから、なるべく接触しないように気を付けてきた……筈だった。


 だが、俺たちを付け狙うアウラムなる存在が、帝国を利用して俺たちを追い詰めようとしている以上、嫌でも関わらなければいけないのだ。

 個人的な意見を言わせてもらえば、ちょっかいかけてこないのなら、後は好きにやってくれとしか言えない。


 すると、ルキナは悲しげに顔を歪める。


「何故です? 貴方も()()()()()()()()()()()()()のでしょう? なんで敵対するなんてそんな……」


「いや、だから……あん?」


 ん?

 なんか変な言葉があった気がするぞ。


「ちょい待ち。()()()()ってどういう事?」


 するとルキナは顔をきょとんとさせる。

 まるで何が疑問なのかという顔だ。


「い、いや、言葉の通りなのですが……」


「何を勘違いしているのか知らないが、俺はゴルディクス帝国出身じゃないし、あの国に足を踏み入れたことすら無いよ」


 一体、この子は何を勘違いしてそんな言葉を吐いているのだ?

 なんでまた、俺がゴルディクス帝国出身だなんて思ったのだ?


「え? じ、じゃあ……何処で?」


「いや、何処って言われても……君の知らない国……としか……」


 まさかここで異世界から来たなんい説明するわけにもいかない。

 どう説明するべきかと悩んでいると……


『主よ。申し訳ないが、スピーカーのスイッチをONにしても良いだろうか?』


 バイザーに宿っているゲイルより声が飛んできた。


「ゲイル! 大丈夫なのか?」


『心配かけたでござる。今は、このレディと話させてもらって良いでござろうか』


「分かった。許可する」


 俺の言葉にバイザーのスピーカーがONに切り替わる。


『……ルキナ殿と言ったでござるな。少し話をさせてもらっても良いでござるか?』


「え! だ、誰!?」


 突如として聞こえてきた知らない声にルキナは慌てふためくが、今は細かく説明している暇はない。


『拙者の名はゲイル。今、主が探している肉体の持ち主でござる。現在は意識だけの状態だが、主の力を借りてこうして喋っているでござる』


「い、意識だけの状態の存在が喋る? そんな事、うちだって……」


『また口を滑らせたでござるな。

 ルキナ殿。お主、聖都アメイガス出身とは真っ赤な嘘。本当はゴルディクス帝国の者でござろう』


 ゲイルの指摘に、ルキナはわかりやすく狼狽えた。


「え! い、いや……」


『安心めされよ。だからと言って、ルキナ殿の全ての言葉を嘘だと断定するつもりはござらん。恐らくは、この地に来た方法、そして理由は不明……という事でござらんかな?』


「う……うぅ……」


 ルキナは言葉に詰まって、唸るしか出来ない様子だ。


『主よ。突然こんなことを言ってすまないでござる』


「いや、俺だって薄々察していたよ」


 言っちゃ悪いが、この子は嘘に全く慣れていない。

 そしてゲイルがこんな事を言い出した理由もわかる。


「ルキナさん。俺たちも追い詰められている。君だって、ここから抜け出すには俺たちの協力が必要なはずだ。だから、ここはしっかりと腹を割って話し合う必要があると思うんだが……」


 俺の言葉に、ルキナは「はぁ」と深くため息を吐き、やがて観念したかのように表情を引き締める。


「わ、分かりました。

 改めまして、私の名前はルミナ。神聖ゴルディクス帝国十聖者が一人、聖女ルミナと名乗っている者です」


「!」


『なるほど……それにしても、まさか十聖者の一人だったとは……』


 それも俺は予想外だった。

 十聖者? この子が?


「わ、私の能力は戦闘向きではないので……。とにかく、私が帝国の人間だからなんだというのですか?」


『いや失敬。これまで遭遇してきたゴルディクス帝国の者たちはいずれも人間的に破綻した者ばかりでな。ルキナ殿……いやルミナ殿のような者は初めてなので、我々も少し混乱しているのでござる』


「ああ。聖騎士は住宅街のど真ん中で一般人の被害も顧みず戦いをおっぱじめるし、剣聖とかいう奴とその仲間は一般市民の避難よりも先に俺たちに襲い掛かってくるし、拳聖のオッサンは……翼族の集落を一つ滅ぼしやがった」


 俺が次々に羅列した十聖者の悪行話に、ルミナは顔を歪めて俯く。


「そ、それは……はい。認めます」


 この行為も意外。

 帝国の人間ならば、それがどうしたと開き直るのかと思っていた。

 ……これも偏見か。


「でも、それをここで糾弾したい訳じゃない。君は帝国の中でも話が通じる人間だとこっちは勝手に判断している。だから、協力しないか?」


「協力……ですか?」


「俺たちが欲しいのは、ゲイルの肉体の正確な場所で、君が欲しいのはこの国から脱出する手段だろう。

 君は俺たちにゲイルの身体の場所を教え、その代わりに俺たちはキミに脱出の方法を教える。これでどうだろうか」


 しばらく考えた後、ルミナはコクンと頷く。


「わ、わかりました。それでお願いします」


「よし、まずはゲイルの身体の場所に案内してくれ」


 課題は多いが、今はとにかく時間が無い。

 ラザムがゴートの奴を相手している間に、全部やり通すぞ。




◆◆◆




 一方、研究所の外で待機中のアルカたち。

 リーブラ内部にあるミーティングルームにて、白熱した会話が繰り広げられていた。


 だが、その内容は……


『確かに、トレーニングルームを少し削れば、大浴場を建設する事も可能ですが……』


『どうせなら、もっと広い方が良いな。先生の記憶にある温泉旅館とやらのロテン風呂は、ちょっと小さいぞ』


『ああ。この際、トレーニングルームをそのまま温泉に……ああくそ、駄目だ! 流石に新装備の訓練のために広いトレーニングルームは必要だ』


『圧縮空間をもう1ユニット増設出来んかな。そうすれば話が早いんだが……』


『流石に内部施設の大幅増築となると……果たしてスミス達メカニックの手に負えるかどうか……』


『となると……風呂はもっとでかくして良いのか? だったらあれだ! レイジの記憶にあったが、でっけぇ滑り台みたいなやつ! あれが欲しい!』


『ウォータースライダーとかいうのか、パイプの中を潜って落ちていく……ああいうのもどうだろうか』


 最早そこまで行くと温泉では無くて温水プールの域に達していると思うのだが、とにかく夢は広がるばかりである。


 そこへ、ピピピと通信を知らせる音が鳴り響いた。

 最初は潜入したレイジたちより連絡が来たのかと思ったが、何処からの受信から確認してアルカは驚いた。


 なんとそれは、アルドラゴからの通信だったのだ。


『はい! こちら竜王国潜入中のアルドラゴAチームです』


『あ、やったー。通信が届いてよかったー!』


 聞こえてきたのは、元気いっぱいの少年声であることに安心する。


『ルークですね! でもまさか、次元を隔てているこの世界と通信がつながるなんて……』


 この世界に来てから、アルドラゴとの通信は何度も試していたが、いずれも失敗に終わっていたのだ。

 結果、次元が違う以上、現状の設備で通信を繋げることは不可能。そういう事だった筈なのだが……。


『扉が開いた海域は、特別次元の壁が薄いみたいなんだよね。色々試行錯誤してみたらなんとか繋がったみたい。

 ……って言いたかったんだけど、本当は協力者が居たおかげなんだよね』


『協力者?』


 心当たりのないアルカは首を傾げた。

 ルークの話し方からすると敵ではなさそうなのだが、それにしてはどうも歯切れが悪い。


『そんな事よりさ、ちょっとまずい状況なんだよね。ひょっとしたら、そっちもじゃないかと思ったんだけど……』


『まずい状況? 何事ですか?』


『帝国の艦隊が、この周辺の海域を囲んでいるんだ。……ただ、狙いはどうもぼくらじゃないっぽい。

 あいつら、竜王国に攻め入るつもりみたいだ』




◆◆◆




「おお。懐かしき我が肉体……とはすんなりいかないでござるな」


 と、ルミナの治癒魔法によって、肉体に刻まれた傷を癒しながらゲイルは言った。


 ゲイルの肉体は見つかったが、やはり完全に無事とまではいかなかった。

 流石にバラバラとまではいかなかったが、身体は開かれ、中身を調べつくされた後であった。

 そのせいで、風の魔晶を埋め込む器官が見つかってしまい、魂の移動方法というやつが明らかになったのだろうと推測される。

 それによって致死量の出血とまではいかないが、血が足りないせいでまともに身体を動かせない。

 なので、ルミナの治癒魔法で傷と体力だけでも癒してもらっている所だ。

 ルミナ自身は「この人、すっごいイケメンなのにどうしてこんな残念な口調なんだろう……」とぼやきつつも治療は手伝ってくれている。


「すまない主よ。まだしばらくの間は動けそうもないでござる」


「分かった。悪いがルミナさんは此処でゲイルの身体を癒してやってくれ。俺は、この先にあるっていうゲート開閉装置ってのを探しに行く」


 ここの研究員を脅したところ、その手の装置は最上階に位置しているらしい。


「いや、血が足りないのはどうしようもないでござる。ルミナ殿との約束がある故、ここは二人で向かって下され」


「……分かった。動けるまで回復出来たら、必ず追いついて来いよ」


 少し迷ったが、こればかりはアルドラゴの治療薬でも回復は無理だ。

 ならば、いずれ日輪(ナイア)と合流するまでは此処にいた方が得策かと判断した。


「了解にござる」


 そうして俺とルミナは二人だけで最上階へ向かう事になった。

 エレベーターらしき機械もあるが、この手の機械は止められたら最後。ならば、最初から階段を使った方がいいだろう。

 と判断し、俺たちは30階ほどの階段をひたすら走って上ることになった。

 意外な事に、ルミナからの反対はなく、体力も思っていたよりもあるのか俺の後にしっかりと付いてくる。


 ただ、その間、それまで交わしていた会話から、やや気まずい雰囲気となっていた。


「あ、あの、レイジさん」


 やがて、おずおずとルミナが声をかけてきた。


「レイジさんとは、立場的にも個人的にももっときちんとした話し合いをしたいと思っています」


「あ、ああ」


「ですので、それは今のゴタゴタが済んでから、じっくり話し合いましょう。それで構いませんか」


 この申し出は非常にありがたい。

 この子の話していた言葉の内容は確かに気になるのだが、今それに対処するには俺の容量キャパシティが足りなすぎる。


「ああ。そういう事なら問題ない」


 よし、これで目の前のことだけに集中できる。



 ややすっきりしたところで、俺とルミナの二人は研究所最上階にあるゲートコントロールルームとやらへ続く扉を蹴り飛ばし、中へと入りこんだ。


 そこは、指令室……という言葉がしっくりくる部屋だった。

 ちょっとした会議室程度の広さの部屋であり、壁には巨大なモニターが存在している。

 また、その手前には仰々しい機械が設置されていた。

 見た感じ、あれが異世界の扉を開くゲート開閉装置か……。


「やぁ、来るのを待っていたよ」


 そして、その部屋の中心に立って居たのは、俺にとって予想外……いや、心のどこかでやはりかと納得した存在だった。


 異世界より来訪した神……ロゼだ。


「……貴女は?」


 面識の無いルミナが訝しげに思う。


「おっと、君は初めて会う子だね。ボクはロゼ。ちょいと此処の責任者……ゴート君に世話になっている根無し草のドラゴンだよ」


 世話になっている……。

 その言葉で、何故この人がこの研究所内でゲイルに出会えたのか、その理由もなんとなく察せられた。


「ボクの心情としては、仲良くなった君たちとはなるべく敵対関係になりたくなかったんだけどさ、でもボクの信条としてはやっぱり、居場所を貰った恩はきちんと返さなきゃ気が済まないんだよね」


「それで、ゴートから此処を守るように言われた訳か」


「んー。ちょっと違うかな」


 そう言って、ロゼは自身が背にしている壁に向かって手を振るった。

 すると、まるで壁に設置されていたモニターがブゥンと音を立てて映像を映し出す。


「!!」

「こ、これって……帝国の……艦隊?」


 壁の向こうに広がっていたのは、研究所の外の景色ではない。

 広がっていたのは、青い空と海……そして空に浮かぶ巨大な月。つまりは、竜王国ではなくエヴォレリアの景色だった。

 そして、その海を覆いつくすように何隻もの船……いや、戦艦が存在していたのだ。


「という訳で、戦争勃発はもう目前なんだ。後は、このゲートで世界の境界を取ってしまえば、それで済む」


「ちょ、ちょっと待て! 帝国はどういうつもりなんだ。竜王国に戦いを仕掛ける……ってのは、分かりたくないが俺たち同様に邪魔な勢力を排除するっていう理由で理解はできる。

 だが、此処は文字通り世界が違う。そんなところにどうやって武力で侵攻するつもりなんだ!?」


 混乱する俺の背後で、冷静な言葉が聞こえてきた。


「……なるほど。それで、あたし……が此処に居るのですか」


「ルミナさん!?」


 振り返ると、ルミナが冷たい眼差しでモニターを睨みつけていた。


「何故、あたしが選ばれたのかは分かりませんが、あたしが此処に居る理由については理解できました。

 エヴォレリアと竜王国を繋ぐゲート……それはあたしが開けという事ですね」


 ……マジか。

 彼女を此処へ送り込んだのは、アウラムの仕業だろう。

 それが何のためかっていうのは、こういう事みたいだ。

 恐らく、彼女を俺が助けた事も想定内か。これが他の十聖者だったら、俺が協力したか怪しいが、見た目も性格も穏やかであるルミナならば、俺の警戒心も薄れる。

 ……そういう事かよ。


 知らず知らずのうちに帝国の手助けをしていたのか。

 ……実に腹立たしい。


(いやいや。それだけじゃないんだってばー)


 ……ん?

 何か、どっかで声が聞こえたような気がするが、今はそれどころじゃないので無視だ。


 すると、今まで俺たちの会話を聞いていたロゼが口を開く。


「ゴート君としては、いずれ戦うつもりでも、今はまだ駄目みたい。せめて、オルソが戦える段階になるまで、七十二時間必要。だから、それまでここを守ってくれ……それが、ボクの仕事だ」


 72時間。

 つまり、三日のうちにあの数百体存在するオルソ達にこの地に居る他の種族たちの魂が注入される。


 そして、戦争勃発か。


 対して帝国は、今のうちにゲートを開いてすぐさま戦争勃発……が目的と。


 ……どっちが勝っても地獄じゃねぇか。




 という訳で、今年最後の投稿となりました。

 上半期は環境が変わったせいもあって、なかなか落ち着いて小説を書くという事が出来なかったのですが、秋ごろよりようやくペースも取り戻せるようになりました。

 ストーリーの方ももう終わりが見えかけていますので、このペースを保ちつつ進めていけたらなと思っています。


 では、皆様よいお年を~

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