23話 パワーアップ
視点、主人公サイドへ戻ります。
『レイジ……ですか?』
うむ。
この世界で生きていく為、とりあえず偽名使おう作戦だ。
他人になりきるとか、そんな大それたもんじゃない。
オンラインゲームでアバターに付ける名前みたいなものだ。
なんというか、あくまで自分ではなく、レイジという分身を操っている……みたいな感じで行動していこうと思ったのだ。
決して、現実逃避とかではないよ。
……本当だよ?
『で、何故レイジなのですか?』
「そら簡単。俺の名前はケイジ。アルファベットで、Kの次はLだ」
Keiji
↓
Leiji
KとLを変えただけだ。
あまり名前を変えちまうと、呼ばれた時に俺だと認識できないからな。
加えて言うと、あまり親しくない奴らに、俺の名前を呼ばれたくない……という気持ちがちょっとあるのだ。現時点での俺のイメージだが、冒険者=ハンターというのは、某世紀末な漫画みたいな荒くれ者……な奴らが多い気がする。そんな奴らに、馴れ馴れしくケイと呼ばれるのは、なんか抵抗あるのだ。
戸籍とかない世界だし、偽名でやっていけるのならばそうしたい。
「まぁ、アルカは俺の事はケイと呼んでいいよ」
『そうですか。私も今更レイジと呼びたくは無かったので良かったです』
まぁ、知り合いに変な仇名で呼ぶ事を強要しているようなもんだからな。
俺でもちょっと嫌だよ。
とりあえず、一度艦に……アルドラゴへと帰還した俺たちは、今後の方針を改めて設定していた。
まずは、この国最大の都市王都オールンドへ向かうと言う事。
そしてハンターギルドとやらに登録して、魔石稼ぎと金稼ぎだ。
ただ、それには多くの荒くれもののハンター達と接触しなくてはならない。
コミュ障の俺にとっては難題だし、実際問題ちゃんと渡り合える事が出来るのか……という不安がある。
スーツの恩恵でもってチート染みたパワーと能力があるのだが、その中身は喧嘩すらまともにやった事のない素人である。
ラザムとの戦い? あれってまともな戦いの範疇に入るのかな?
とりあえず、こんな状態では心許ない。
素手でもそこそこ戦える、技術と心構えがどうしても必要だった。
とは言え、今からその道のプロに弟子入りしたり、道場に通う訳にもいかん。
すいません。帰るまでに何年も掛かったとか、さすがに困るんです。
……なので、ズルします!
今、俺の身体は艦内の研究室と呼ばれる場所に居る。
意味不明の機械が所狭しと並べられている。なんか、MRIの検査機械みたいな物まであるな。
しばらくファンタジーの世界に浸っていたせいか、こうしてハイテク機械に囲まれると、なんかくらくらする。両立って難しいもんだな。
そして、アルカに言われるままに備え付けの椅子……なんか実験で使われるような雰囲気の……に座り、奇妙なヘルメットを装着する。
怖いよぉ。
これから何するか分かっても怖いなぁ。
『それじゃいきますよー。はい、深呼吸してください。吸ってー」
すー
『吐いてー』
はー
『せーのっ!』
ズガガガガガカ……!!!
頭の中が爆発した。
いやまあ、比喩なんだが。
それぐらいの衝撃があったという訳だ。
汗が大量に噴き出し、荒い息をつく。
時間にしてみれば一瞬だったが、すんごい長く感じたな。
『大丈夫ですか?』
「大丈夫……だけどさ、思っていたよりもきっついなぁ」
さて、今一体何をしたのでしょう。
正解……いわゆる戦いにおいて、達人と呼ばれている人達の動きを脳内にインストールしたのです。
と言っても、元になったデータが、いわゆるアクション映画である。
なんでそんなものがあるかというと、一度転移する前の直前の記憶を呼び覚まそうとした事があったのだが、その際に情報記憶として脳内に収められていた映画や漫画……いわゆるサブカルチャー分野の情報をアルカが読み取ったのである。……アルカが地球のサブカルチャーに妙に詳しいのは、この為だ。
人間、一度見たものであれば、思い出す思い出さないはともかくして、しっかり脳内に保存されているものらしい。
よって、俺が見た映画やなんかも、しっかり保存されている。
まあ、目を背けていたりとかしたら、所々抜けているらしいけどね。尤もアクション映画とかなら、特にそんな事もなく、ある程度の動きをトレースする事が出来たとの事だ。
重宝したのは香港系のカンフー映画だ。
昔の作品だったりすると、ワイヤーアクション等の特殊技術に頼ったりはしていないから、すんなりと動きを捉える事が出来たらしい。カンフー映画好きで良かった。
後はボクシング映画だったり、ガンアクションがメインの映画。
邦画のチャンバラ映画とかもインストールしたぞ。
まあ、ほとんどは殺陣と呼ばれる演技なんだけども、全くの素人である俺の動きより全然様になるだろう。
で、実際に動いてみた結果であるが……
「いだだだだだだ!!!」
全然身体がついていかなかった。
筋肉がさほどついておらず、関節も硬いままという状態において、いきなり技術だけで動こうなんて無理な話であった。
足なんて上がんねぇよ。股が裂けるかと思ったぞアレ。
まあ、あまり大げさに身体を動かさないように意識するなら、なんとか出来ない事もない。
とにかくこれからの課題に、筋トレと柔軟が加わった事は言うまでもない。
バレエダンサー並に身体が柔らかくなったら、無敵になれるんだが……。
尤も、さすがに改造手術までは受けたくないぞ。アルカは、やる気があるんでしたら……とか言い出したが、即座に断っておいた。
ともあれ、戦闘技術もゲット!
もし性質の悪い連中に絡まれたとしても、なんとか対処出来るだろう。……と思う。
心構え的なものは、なんとか場数を踏んで鍛えるしかあるまいて。
そこは自分で頑張りましょう。
◆◆◆
続いては、新装備である。
既存の装備にもある程度慣れ、そろそろ新しい物を……という事で、いくつかこんなものいいな出来たらいいな……という希望をピックアップしてみた。
その結果……
《フックショット》
腕輪の形をしたワイヤーを射出する武器。
蝙蝠男さんや蜘蛛男さんみたいな移動が出来たら楽なんじゃないかな? と思って、ピックアップしてみたのです。
普通にやったら、自分の体重を腕一本で支える事になる訳だから、とんでもない腕力と背筋力が必要ですよね。でも、そこはスーツのパワーでカバー。
ただ今の所、その高低差の移動を活かせるような場所が無いので、もっぱら遠くにいる敵をワイヤーで掴んで引っ張るという攻撃がメインです。
《ジャンプブーツ》
空気を圧縮して放出し、その勢いで高くジャンプする靴。
垂直距離で言ったら、100メートルは跳べるだろう。
ちなみに、最初に試した時は恐怖で失神しそうになった。……一気に100メートルだよ? いわゆる逆バンジージャンプ。平地にいる自分が、一瞬で高層ビルの頂上に立っていると想像してください。しかも、そのまま落下します。
……あれは怖かった。
ただ、このブーツの最大の利点と言えるのだが、空中でホバリングする事が出来るのだ。
これを利用して、空中で二段ジャンプする事だって出来る。まあ、二段と言わず三段も四段も可能なんだが。
加えて、地上でコイツを水平に使えば、超スピードで走る事だって可能なんだぜ。
慣れるまでかなり大変だったけども。
《ハードバスター》
トリプルブラストのハイスペック版。
トリプルブラストは三種類の弾を使い分けるものだが、コイツは一種類だけだ。ただ、威力が半端ない。
ラザムとの戦いで、トリプルブラスト以外の切り札的なもんが必要だな……と思って、ピックアップした。
撃った感想で言えば、夢のレーザーキャノンだった。
はたまた、腕そのものが銃になるという事から、ロッ○バスターと言えるか?
どちらにしても、これまたロマン武器である事に違いは無い。
ただ、威力がとんでもないので、使う機会は厳選するとしよう。
新たな武装の紹介終了!
実は、装備していないニューアイテムがまだまだアイテムボックス内にあるので、実際に使う機会にご期待あれ!!
そして、アルカの移動用端末ヘッドマウントディスプレイ……つまりはゴーグルも復活。
移動用端末としての役割は果たしていないが、レーダーや暗視機能、望遠機能はやっぱり必要なのだ。
続いて、スーツに覆われていない部分を防御する為、ネックガードを首に装備。こいつは、戦闘状態に入ったら自動的にフェイスガードが飛び出す。
最後に残された部分は、頭部。
こいつはフルフェイスのヘルメットを常時被っている訳にもいかんので、髪の毛は露出したままだ。ただ、スーツのオーバーリミット時、スーツの熱によって脳が沸騰しかけた。だから、その対策として耐熱ジェルを塗る事になった。
こいつはちょっと塗ると髪全体に浸透するので、かなり楽。耐熱機能が働いている間は、髪の毛が赤く染まる。ある意味では、ヘアスプレーみたいなもんか。
スーツにも耐熱機能はあるから、これで暑い場所での行動とかも可能だな。やりたくないけど、火の中に飛び込む事も出来るぞ。
こうして完全装備となった自分を鏡で見てみたのだが……。
「だ、誰だコイツ」
鏡に映った自分は、まるで何処かのヒーロー。
髪の毛が露出しているから、最近のアメコミヒーローっぽいと言えるかも。
ふぅむ。自分が着ているとなると、コスプレみたいで恥ずかしいが、客観的に見るとなかなか格好良い。
なんか名前つけたい気分だな。
『むむ。ケイも気に入ったようですね』
すると、今まで一人で何かやっていたアルカがふよふよと宙に浮きながらやってきた。
しかし、そういうの言われるとハッと我に返るから止めてくんないかね。
「ん? お前こそ姿が変わっているな」
逆三角形のエンブレムプレートの中心に、アルカの魔晶が埋まっていた。
なんだろう? アルカもオシャレしたい年頃?
『ふふん。これはですね………さぁ、合体!!』
「うおお!!」
突然、俺の胸めがけて飛び込んできた。
何が起こったのかと思わず身構えるが、アルカはピタリと俺の胸に貼りついていた。……正確には俺のスーツに。
「なにこれ?」
『はい。以前、ラザムさんと戦った際に、オーバーリミットというマニュアルに無いパワーを発揮しましたよね』
あぁ……あれか。
すんげぇしんどかったから、あまり思い出したくない。
『詳しく調べてみたところ、あれは隠しコマンドみたいなものですね。一発逆転の大技みたいなものです』
「あぁ裏ワザとか言っていたけど、本当にそうなのか」
『アーマードスーツの最大出力は100倍ですが、あの状態は一気に300倍までパワーを発揮できます。ただ、その代わりに燃費が異常に悪く、ものの三分程度しか持たない上に、使用した後はエネルギーがほとんど無くなります。まさに一発逆転を狙う時しか使えないですね』
あぁ……確か、普段スーツの青く光っていた部分が、赤く光っていたよな。
それで、三倍のパワーが出せて、その後一気に消耗って……まるでトラ○ザム。
まぁ、分かりやすくていいか。
『加えて言うと、強制的に止める方法がありません。ですので、後付けですがこういう物を作ってみました』
「ああ、このエンブレム?」
胸に貼りついている逆三角形のエンブレム。確かにただのプレートではなく、機械が詰まっているっぽい。
『これは、今の私に蓄えられている水のエネルギーを放出し、強制的に冷却する装置です。オーバーリミットが発動して、三分後……または状況を見て私が直接発動させます』
えーと……つまりこれって……
「カ○ータイマー?」
『当たりです!』
くそう、子供の頃から特撮もの好きだったけど、アルカまで感化されなくても……。
これって必殺技はキックとか、それっぽいの考えるべきかな。
なんか、ここまできたらとことんやってやろうって気になってきたぞ。
魔獣ハンターレイジ! さあ、冒険開始だ!!
という事で、パワーアップイベント……というか、装備追加話。
カンフー映画……きっとケイ君の頭の中には、ブルースさんとかジャッキーさんとかジェットさんの知識が豊富にある事でしょう。
ガンアクションとなるとジョン監督の映画とかになるんですかね。
それでどこまで戦えるかは、次話以降……という事で。
次話、いい加減王都へ到着します。




