243話 獣の国
主人公チームに視点戻ります。
大陸横断列車をハイジャックしたテロリスト集団……名前はあったはずだが忘れた……を退治してその後……。
俺たちは面倒ごとを避けるために、シルバリア王国内に入ったら、即列車を離脱するつもりだった。
……つもりだったのだが……
「お前たちが、チーム・アルドラゴとやらか」
大陸横断列車の執着地点であるターミナル……地球の大都市のものに比べると簡素なものであるが……に着いた俺たちを出迎えたのは、物々しい装備で武装した獣族の兵士たちだった。
先頭に立つ、リーダーであろう赤茶色の獣族の男は、俺たちを睨みつけると「ふん」と鼻を鳴らした。
明らかに歓迎していないどころか、敵愾心を抱いているな。
チラリと背後に居るエクストラメンバーを見てみるが、挑発的に睨みつけているのは吹雪だけで、後は無表情で控えている。
そして俺たちの護衛対象であるセルアはと言えば、烈火と日輪に挟まれる形で、怯えている。これだけの物々しい男たちに囲まれているのだ。普通の人間なら怯えて当然だろう。
俺のほうは既に麻痺しているのか、何とも思わないんだけど。
「テロリスト集団の討伐……まぁご苦労だったな。あの程度の者たち、我らで対処するのは簡単であったが……余計な手間を省いてくれた事は感謝しよう」
と、何やら強気な言葉を吐くのであるが、この男たちではまず無理だろうなと判断できた。
確かに人数だけは多いが、あの狭い列車内で……更に人質を守りながら……最後に爆弾の解除までという流れをこいつらが出来るとは思えない。
それに、あの四獣奏……特に俺の戦ったジョウベエはかなりの達人だった。こいつらが勝てる未来が見えないというのは、俺の過小評価なのかな。
「そして……獣王陛下の命により、これより貴様らを我が王都……獣王城へと案内しよう」
そう。
何の因果か、獣王国に到達した俺たちは、この兵士たちに連行される形で、獣王の待つ獣王城とやらへ向かう事になったのだった。
こうなった経緯について説明するとしよう。
話は数時間前に遡る。
◇◇◇
『ええと、艦長……お久しぶりです』
面倒ごとを避けるため、大陸横断列車より飛び降りようと画策していた俺たちであるが、突如として入ってきた通信に驚いてしまう。
それは、獣王国に囚われている筈のフェイによるものだったのだ。
「うおお! フェイか! 本当にフェイか! すんごい久しぶりだな!」
人質になって以降、一切連絡の取れなかったフェイからの通信である。
俺は大喜びで通信に応えるのだが、バイザーの画面の先にフェイの姿はなく[SOUND ONLY]と無機質な文字があるだけであった。
フェイはいずこに!?
『すみません。獣神メギル……様から許可をいただき、特例として通信を許されました。つもる話もありますが、急いで要件の報を伝えたいと思います』
あ、ギリギリで様をつけたな。
まぁ神様であるから間違いではないのだけれど、敬いたくないという気持ちは分かる。
しかし、緊急の要件か。すんごい嫌な予感がするのだが、フェイの身柄が確保されている以上、従わなくちゃなるまい。
「お、おう。何か頼みたい事があるんだな。何でも言ってくれ」
『今、大陸横断列車をハイジャックしたテロリスト集団を退治した所ですよね』
「………何で知ってるの!?」
全部退治し終わったのって、ついさっきの事ですよ。
『詳しい事は説明できませんが、獣族の方たちにもそれなりのネットワークというものがあるようです。それで、その解決のスピードからして、艦長たちが絡んでいるのではないかと推測しました』
「あたりだ。流石だなフェイ」
『それで、現在終着点のターミナルに王国の兵士がわんさかと詰めかけているのですが……』
なるほど、やはりか。
想定はしていたが、このまま列車に乗って獣王国に突入すれば、新たなトラブルが起こる事は間違いないようだ。
「ああ、情報ありがとう。俺たちも面倒ごとを避けるために、ターミナルに着く前に逃げ出そうと―――」
『その兵士さんたちに同行して、私の居る獣王城に来てほしいのですが……』
「―――なぬ?」
『迷惑なのは重々承知しているのですが、現在私の身柄を預かっている立場になっているこの国の王が、是非とも艦長にお会いしたいとおっしゃっておりまして……』
「この国の王……例の獣王って奴か」
元々、俺に会いたいって言っていたヤツだ。だが、まさかこんな形でアポイントメントを取ってくるとは思わなかったぞ。
「なるほど。元々どうやって会うべきか考えていたことだ。そっちが会ってくれるっていうんなら、手間が省けるか。……面倒は面倒だけど」
元々考えていた事は、王城に侵入してこっそり会って、それでこっそりとフェイを連れて帰るプランだった。
正直そっちの方がてっとり早かったんだけど、向こうがちゃんと会ってくれるっていうんなら、会わないわけにもいかない。
……めんどくさいけど。
「ところで……」
俺はいい加減気になっていたことをフェイに尋ねた。
「なんで声だけなんだ?」
『はうッ!?』
そう尋ねると、何故か衝撃を受けたかのような返事が返ってきた。
『い、いいえ! 何でもありません。決して、艦長たちにとても合わせる顔が無いとか、そういう事ではありません。だから、決して気になさらぬようにお願いします』
「いや、気にするなと言ってもなぁ」
『気にしないでください!』
「お、おう。そこまで言うなら、気にしないでおこう」
表面上はそう言っておくしかないだろう。
めっちゃ気になるけど。
「とにかく、すぐ迎えに行くからな。もうちょっとの辛抱だぞ」
『は、はい! よ、よろしくお願いします』
と、何やらフェイらしくもない様子で通信は終わった。
う~ん。
フェイなのは間違いないようだが、何か変だったな。
もしかして、軟禁中に何か変なことをされたか……。
あ、なんかそう思ったら腹立ってきたぞ。
いいさ。もし、そんな事になっていたら、覚えていろ……獣王国め。
◇◇◇
「これがシルバリア王国か……」
竜馬車に揺られながら、俺は外の景色を見て感嘆の息を漏らした。
それは、白銀の世界。
とにかく、白一色の雪で覆われた極寒の世界……それがシルバリア王国……通称獣王国であった。
元々北国出身の身であるから、雪自体は見慣れているのだが、異世界で見る雪景色というのは新鮮だった。
それに、地球の都市と違って道路整備とかされていないから、正に自然そのままの雪景色だ。
「獣王国は、一年の大半が冬なんだ。アタシとしては、雪が全然ないエメルディアの方が驚きだよ」
と、俺たちの護衛対象であるセルアは説明してくれる。
俺たちがこの国を訪れた表向きの目的は、セルアの墓参りであるから、チーム・エクストラとは別行動にして俺一人で獣王城に向かう事も考えたのであるが、メンバーから大反対をくらい、セルア本人からも同行を求められたので、仕方なく彼女も一緒に獣王城に向かう事になった。
大変申し訳ない気持ちになったが、俺たちとしてはこの国出身のセルアが居てくれると心強いのも確かである。
ちなみにそんな雪だらけの国でどうやって作物なんかを収穫するのかという話だが、地球と違って冬でも畑は耕す事は可能だし、木々も青々と茂っている。
植物の生命力が違うらしい。
そして、俺たちの乗る馬車を引っ張る竜馬も、寒冷地に適した進化という事で、全身が羽毛に包まれていた。
ここ数年で発表された恐竜の本来の姿みたいで、ちょっと寂しい部分もある。
となると、獣族が全身体毛で覆われているのも、この土地に適した進化と言えるのだろうか。
「ところでさ」
そんな事を考えていると、セルアがふと訪ねてきた。
「アンタたちって寒くないの?」
そう言われて、俺たちの寒さの問題とかあったなという事を思い出した。
俺たちに用意された馬車は、かろうじて壁と屋根があるだけで、暖房などの機能は全くない。室内の気温は5℃程度。外気温に至ってはマイナスだ。天然の毛皮の無い俺たちヒト族にとっては過酷な環境と言えよう。
普通のヒト族だったらの話だけど。
「いや、別に……」
俺たちは顔を合わせて、問題ないとアピールした。
「ふぅん。……まぁ、今更驚かないけどさ」
何処か諦めにも似た声でセルアは溜息を吐いた。
実際問題、俺以外はアンドロイドのエクストラチームにとって、あくまで寒さというのは情報に過ぎない。更に言えば、いくら機械であっても、この程度の寒さで機能不全になるほどヤワな造りはしていないのだ。
俺はと言えば、アルドラゴユニフォームの防寒機能によって寒さは一切感じていない。尤も、これを脱いだら今頃ガタガタ震えているだろうけど。本当に、アルドラゴアイテムさまさまだ。
そんなやり取りをしながら半日ほど馬車に揺られていると、目的地にたどり着いたらしいのか、兵士たちの号令と共に馬車がゆっくりと停まる。
半日で到着って速いな!
と思って窓の外を確認してみると、何やら巨大な城壁がでーんと聳え立っていた。
エメルディア王国王都の城壁よりもでかい。
「これは第一の門だよ。獣王城に向かうには、全部で三つの門を抜けなくてちゃならないんだって」
なるほど、魔獣対策なのか他国の侵略対策なのか、かなり厳重なんだな。
と、思っていると何故だか俺たちは馬車を下ろされた。
何事とか思っていると、兵士長だと名乗った赤茶色の獣族は、何やら挑発的な顔で言い出した。
「聞けば、貴殿はかなり名の知れたハンターだという話だったな」
「……まぁな」
狙いではないが、自分の想定以上にチーム・アルドラゴ……そしてチームリーダーであるレイジの名前は広まってしまった。
だから、その言葉自体は間違いではない。
間違いではないが、なんか腹立つ。
「この門は、多くの民が暮らす我が獣王城を守るための最初の門。故に、この門を抜けるには、それ相応の力を示す必要がある」
「……はぁ。だから?」
何やら嫌な予感はするが、とりあえず先を促した。
「他国の者であり、脆弱なヒト族である貴殿らをそのまま素通りさせることは残念ながら敵わん。よって、ここから先は貴殿らだけの力でこの門を抜けてもらいたい」
「……は?」
俺はポカンと目の前にデーンと聳える城壁……そして巨大な門を見上げた。
え? この門を自力で開けろとかそういう話?
っていうか、そもそもこういう門って自力で開けられるように作られていないだろ。
『ふむ。片方の門だけで、10トンはあるかと思われます。当然ですが、開き方は機械式であり、自力で開けられるものではないですね』
月影より冷静な説明が入る。
チラリと兵士長を見てみると、ニヤニヤとこちらを見てやがる。
『何言ってんだコイツ? 開けるんなら、自分たちで開けりゃいいじゃねぇか』
『馬鹿め。愚弟よ、これは馬鹿にされているのだ』
『そうですね。有名なチーム・アルドラゴの者たちなら、このぐらいの門は開けられるだろう。もし開けられなければ、自分たちに泣きつくしかない。そういう事ですね』
その通りだろうな。俺たちの目的の為には、この門を抜けるしかない。こいつ等としては、俺たちが気にくわないから、なんとか嫌がらせしてやりたい。
なんて底意地の悪い……。
『よっしゃレイジ! ここは俺が力を見せつけてやろうじゃねぇか』
『馬鹿め。愚弟よ、それは私の役目だ。女の身である私が簡単に開けて見せたら、奴らも認めざるを得ないだろう』
と、烈火吹雪の二人が意気揚々と立候補するのだが、それを俺は片手で制した。
そして、一歩一歩と門へ近づいていく。
静かな怒りを込めて。
「とにかく開ければ良いんだよな」
「あ、ああ。だが、武器は使ってはならんぞ。それに、開けるのは一人の力でだ」
本気で開けようとしている俺を見て、兵士長がやや焦った顔をしている。
ふむ。片方10トン……両方で20トンか。まぁ、問題ないだろう。
「よっ」
俺は、全力で門の中心を蹴り飛ばした。
すると、ゴガァンという轟音と共に門が蝶番ごと吹き飛んだのだった。
門があった場所にはただの穴が存在しているだけとなり、その穴の向こうよりゴォゴォと風と雪が吹き込んできた。
「……これで文句ないか?」
「………」
兵士長及び、後ろに控えている兵士たち全員が唖然と門があった場所を見つめている。
予想通り、本気で開けられるとは誰も思っていなかったみたいだな。
見れば、セルアまで目を点にしているな。エクストラチームの面々は、何故か満足そうにうんうんと頷いている。
『流石は先生だ』
『ハッ! ざまみろってんだ』
だが、俺はと言えば勢いでやってしまった事とは言え、後悔が押し寄せていた。
これって、壊したりしたら流石にまずかったかな?
そう思っていると、心中を察したのかテツが門の修理を申し出た。俺を含めたエクストラチーム全員で修繕に取り掛かり、ものの30分もかからずに終了。
腹が立ったからと言って、物を壊すのはいけないな。反省。
療養期間終了の為、これからは投稿間隔が少し空いてしまいます。
それでも、なんとか時間を見つけて続けていきますので、更新できた際にはまた読んでやってください。




