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鋼鉄のアルドラゴ~SFアイテムでファンタジー世界を冒険します~  作者: 氷山鷹乃
第1章 ある日異世界で宇宙船と出会った
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21話 その名はアルドラゴ

2017/1/6……中盤部分の文章を多少追加しました。




 夜中……外を見たら朝焼けが見えたので、明け方だったのだろうが、ふっと目が覚めた。

 目が覚めた理由は、ただのトイレだ。


 部屋から出たところで、あ……ここ、俺の家じゃなかったと思い出す。

 ぼんやりとした頭で、宿屋にある共同トイレまでの道順を思い出し、用を足すのだが、そこでハッと気づく。


 俺、素っ裸じゃん。


 寝ぼけていた。

 忘れていた。


 慌ててトイレットペーパーの代わりと思われる紙の束でもって股間を隠し、某蛇さんを参考にしたスニーキングミッションでもって、部屋まで無事に帰還した。

 あぁ……良かった。他に宿泊客とかいなくて良かった。いたら、遭遇していた可能性高いぞ。

 いわゆる修学旅行とかでも、こう夜中にトイレに起きたら、必ず誰かと会うじゃん。……会わない人もいるかと思うが、俺は会う率が高いという話。


 あ、ちなみにこの世界のトイレであるが、実際の中世時代のトイレと違って、かなりきちんと整備されている。ちゃんと水洗だし、トイレットペーパー自体は無いものの、それっぽい使い捨ての紙は常備されているよ。

 おそらく、これも昔来たという異世界人が広めたんじゃないかな。なんかリアルの中世時代ってトイレ事情とか酷かったらしいし。

 そこだけ非常に助かりました。ありがとうかつての異世界人!


「やっぱり下着と寝間着は必需品だぞアルカ……」


 部屋へ戻って早々に、何気なく言葉として出たが、返事が無かった。

 大抵『はいはいそうですねー。どうせ私には分かんない感覚ですかねー』とか、投げやりな答えが返ってくるとばかり思っていたのに。


「アルカ? おーいアルカ? いないのかー?」


 枕の下をめくってみると、そこにあのビー玉は無かった。

 続いて敷布団の下。

 ベッドの下。

 カーペットの下までめくってみる。


 結果として、アルカは見つからなかった。


 また、一人きり……。


 その事実を実感した途端、ぞわりと寒気が走った。

 どうにも落ち着かない気分になったが、慌てて深呼吸して気持ちを静めた。

 駄目だ駄目だ駄目だ。

 どうも、俺は思っていた以上にアルカ依存症になっている。まぁ、客観的に見てもこの俺がこの世界で、曲がりなりにも生きていけているのは、どう考えてもアルカのおかげだもんな。

 無いと生きていけないって……うわ、中毒みたい。嫌な表現だなこれ。

 こうして改めて考えてみると、今の俺とアルカの関係って、あの有名な未来から来た青いロボットと主人公のダメ少年みたいな関係だな。

 頼り切っていると、本当の意味でダメ人間になっちまう。……でも、この世界で生きていく為には、アルカから離れる訳にもいかないんだよな……。

 なんというジレンマだ。


 今の所、アルカとは仲良くやっているし、会話だって下手すりゃ同級生の友達との会話より楽しい。まぁ、アイツ人工知能だから、今の俺に対して最適な言葉とかを計算してんのかもしれないけどな。……おっと、その辺は深く考えないようにしよう。この状況で、アイツまで不信になっちまったらおしまいだ。

 

 アルカだって、やっとこさ自由に動ける身体が出来て嬉しいんだろうさ。

 俺も、アルカ依存症を少し抑える為に、互いに自由時間的なものを設けるべきかもな。


 とりあえず、完全に目が覚めてしまったから、ちょいとばっかしランニングでもしてこようか。

 部屋で暇潰そうにも、潰せるような娯楽ものが何にもないし。考え事していると、マイナスな事ばっかり考えそうになる。


 ………

 ……

 …


 ミナカ村は、初めて来た時にもさっと回ってみたが、農業が主体みたいだな。

 家は全部で二十戸あるかないか……という感じ。

 どの家も、横に畑がある。恐らく、色んな野菜や穀物を作って、分け合ったりしているのか。

 ちなみに畑は、俺が今お世話になっている宿屋にもあった。料理に出て来た野菜とかはそこで栽培されていたのかな。

 そんな感じで見学しながらランニングしていると……


「ゼェゼェゼェ……」


 やはり、体力の無さを再実感する。村の周りを一周しただけで、この体たらくか。元々スポーツは得意では無いし、体力もある方ではないんだけども。

 こりゃ、本格的に鍛えないと駄目だな。基本はスーツ頼みになると思うけど、そのスーツを扱うにも、まず体力は必要だろうよ。


 ちなみに、ラザムとの戦いにてあまりにも無理な動きをした為、腱とか筋肉がブチブチ切れ、骨もヒビが入ったりしていたらしいが、それはラザムの治癒魔法によって完治したとの事だ。

 そうやって思うのは、やっぱり魔法ってすげぇな~という事。

 俺も覚えられたら、アルカ頼みになっている現状を打破出来るんだが、体内に魔力が欠片も存在していないとの事なので、覚える事は不可能。

 厳しいなー。この世界俺に厳しいなー。……前にも言った気がするけど。


 とりあえず、当面は体力の増加が目標かな。俺が一人で出来るのは、それぐらいっぽい。

 なんか、俺にも他に出来る事があればいいんだけどな。


 そうやってぼんやりと空を眺めていると……


「ん?」


 空に人が浮いていた。

 いや、浮いているというよりは、飛んでいる……か?

 遠目なんでよく見えないけど、なんかヒラヒラした服を着た女の人だった。


 あれが魔術師か?


 少しだけ警戒する。スーツはあるものの、アルカが居ない今はかなり不安だ。

 でも、何故か脅威というものは感じなかった。


 彼女の纏っている雰囲気が、何処か神々しく感じ、まるで精霊とか女神とか、一歩進んだ存在のように感じる。

 宙を舞う彼女をぼーっと見ていると、なんだかこの世界に来た事もそんなに悪くないような気がしてきた。いや、実際には悪い事しかないと思うんだけどな。

 ただ、なんとなくポジティブな気持ちにさせてくれた……というか、良いものが見れたなという感じだ。


「……まあ、頑張るか」


 弱音なら昨日散々吐いた。

 どこまでやれるか分からんが、やるだけやってみよう。

 俺は、パァンと頬を叩いた。……痛ぇ。


 そろそろアルカも戻ってきているかな……と思いつつ、自分の部屋へと歩を進めた。


 その後、部屋に戻ったら先に帰ってきていたアルカに『何処に行っていたんですか。心配したじゃないですか!』と怒られた。

 理不尽だなと思ったが、何故か少し嬉しかったな。




◆◆◆




 朝飯を食べ終わった俺たちは、世話になった村人達に別れを告げる。まずは一旦宇宙船に戻る為に、来た道を戻る事にした。


 が、その前にお世話になった礼も兼ねて、村付近に居るゴブリンの群れを一掃する事にする。

 元々は、数週間以内にやってくる行商人に王都への討伐依頼をする予定だったらしいのだが、ここまで世話になったのだからやっとかねば男じゃないだろう。

 ……まあ、昨日の戦いで多少は自信がついたのと、エネルギー問題が解決するみたいだから、節約の心配もなくなったおかげなんだがな。


 ただ、一つの不安はアルカの移動用端末であるゴーグルがラザムによって壊されてしまった為、目視によってゴブリンを探さなくてはならないのだが……。


 結果としてはなんとかなった。

 ゴブリンが近づいて来たら、アルカが反応して何処から来ると教えてくれたし、ある程度の数を倒したらば、当のゴブリンの方がこの付近から逃げ出したようだ。

 どうも、弱い魔獣は縄張りにどう足掻いても勝てそうもない奴が侵入してきた場合、その縄張りを捨てて逃げ出す習性があるんだとか。

 そこは地球の野生動物とかと一緒なんだと感心した。


 それが終わったら、いよいよ村を出る時だ。

 カリムなんかはついてくついてくとわめいていたが、父親の鉄拳によって黙らされた。親父さんグッジョブ。カリムには大変世話になったが、ついてこられると非常に困るのだ。

 リファリナには、何故か会えなかった。

 なんでも、部屋から出てこないらしい。病気やケガでは無いようだが、ちょっと心配だ。まぁ、昨日の今日だから、そう簡単に食われそうになった恐怖は拭えないか。


 とにかく、色々あったけども美味い飯を食わせてもらったり、一晩泊めてもらったりと大変お世話になりました。

 村長や宿屋の店主に感謝の意を込めて頭を下げたのだが、何やら面食らっていたな。ひょっとしたら俺みたいな立場の人間が、頭を下げるってのは珍しいのかもしれないな。


 そうして、群れからはぐれたゴブリンを退治しつつ、3時間ほど掛けて宇宙船まで帰還したのだが……


「なんでアンタ等が居るの?」


「うむ。お前たちのウチューセンとやらが気になっての。一回この目で見ておきたかったのじゃ」

「俺も、異世界の船ってもんに興味があってな」


 ファティマさんとラザムが、何故だか俺たちよりも先に着いていた。

 まあ、この人たちは事情も知っている訳だし、見せても問題ないか。


「ところで、コイツがそうなのかの? 何やら幻影の魔法が掛かっているのか、わしの目にはただの岩にしか見えんが」

「ほう……。ファティマの目でも見えないのか。神の目も誤魔化すとはすげぇな」

「幻影で隠されているのは分かるのじゃが、それがどういったものかは分からんのう」


 なるほど。この世界の頂点に近い存在であるファティマさんにも見破れないとなると、科学の力も侮れないものなんだな。なんかちょっと嬉しい気分だ。


『では、擬態機能カモフラージュモードを解きます』


 ブゥン…という起動音が響き、目の前の岩山が大きく揺れた。

 いや、揺れたではなく、歪んだ。

 テレビで見るような、ノイズが激しく走り、岩山は本来の姿を取り戻していく。


「うわ!」

「これは……また……」

「ほほう……これがそうか」


 三者三様の感想が漏れる。


 これが……これが、宇宙船なのか。


 アルカの艦という言葉から、何処となく有名ロボットアニメに出てくる戦艦みたいなものをイメージしていた。

 ただ、巨大ロボットを搭載する必要性がないせいか、当然あれよりは小さい。

 でも、でかい。

 全長で言えば、70メートル以上はありそうだ。

 見た目の印象も、地球の戦艦とか空母とかに比べると、ジャンボジェット……いや、戦闘機に近いかもしれない。

 ……あくまでも機械で表せば……だ。

 もっと、近く表現できるものを、俺は知っている。


 長い首のような物の先は、船首というよりもそのまま頭部のようだ。胴体部分には今は折りたたまれているが巨大な翼があり、地面に接地してある腕のような物には、爪のような物まである。

 これはまるで―――


「ドラゴン……か?」


 ラザムが呻いた。


「はっはっは、面白いのう。鋼の竜か」


 ファティマさんが楽しそうに言う。


 そう、そのフォルムは、鋼鉄のドラゴンそのものだった。

 無論、ドラゴンそのものではなく、宇宙船的なフォルムはしている。翼らしき物には噴射ノズルのような物があるし、腹や背にはキャノン砲とか銃らしき武器も備え付けられている。


 これが……これが、アルカの本体である宇宙船……いや宇宙戦艦の姿……なのか。

 ちなみに色は、黒と赤で彩られており、俺の着ているスーツと同色だな。その辺は意識して作られたのだと思う。


『どうですか、ケイ』


 あぁ、なんか感動している。

 くそ……格好いい。

 子供の頃の特撮物のロボを目の当たりにしたような感動だ。早く動くところが見てみてぇよ。


「こ、これって……名前とかあるの?」


『ぬ? ……ケイがアルカと名付けたのでは?』

「いや、お前じゃなくて、この艦の名前」

『むぅ……艦に搭載されている人格モジュールが私ですので、この艦=私という認識でした。ですので、この船もアルカとなるかと』


 うーむ。この艦の名前もアルカか。それはちょっと寂しいな。

 この艦の名前を呼ぶ時と、アルカを呼ぶ時とは一緒にしたくない。


「じゃあ……“アルドラゴ”」


『え?』


「アルカ+ドラゴンだから、アルドラゴ。この艦の名前は、そういう事にしよう」


『ふぅむ。私こと艦に搭載されている人感モジュールの事はアルカで、この艦自体の呼称はアルドラゴですね。……なるほど、了解しました』


 鋼鉄の竜……アルドラゴ!

 これからは、俺がお前の主人……いや艦長だ。


 ふふ……なんか今までの不安が色々と吹き飛んだ。こんな物を見せられたら、もう力不足とか役不足だとか言ってられないな。

 とにかく今は、早くコイツと一緒に空を飛んでみたい。

 その為には、まずは俺が頑張らないと。


 アルカとアルドラゴ。

 この二つの相棒に相応しい存在に……なれるかどうか分かんないけども、ここまで来たならやってやる!




◆◆




 鋼鉄の竜アルドラゴ。

 そして、それを操る魔獣ハンターのチーム。

 様々な魔道具を持ち、それを駆使して戦う姿から、その男についた異名は“アイテムコレクター”。

 その仲間……麗しき美貌を持ち、あらゆる魔法を巧みに操る魔術師。

 大地をも動かす豪腕を持ち、時には仲間の盾、時には敵を打ち砕く鎚となった鋼の巨人。

 目に捉えられぬ程の弓捌きで敵を射貫く音速の射手。

 鉄の毛皮を持ち、目にも止まらぬスピードで戦場を駆け抜けた獣人。


 彼らがエヴォレリアの歴史に名を刻むまで、まだしばらくの時を要する。





 ひとまずの区切りです。

 やっとこさアルドラゴの名称を出せたぞ! 宇宙船の名前でありました!

 正直、もっととっつきやすいタイトルに変えるべきなのか、迷いに迷っていたのです。とりあえず、今の所アルドラゴのタイトルは変えない予定でいます。


 次話より、本格的に冒険開始!

 早い所予定している仲間達も出したいけど、まずはケイとアルカにちゃんとしたテンプレ系の冒険をさせてあげたいのです。


 追記

 村を出る際、そういや村付近のゴブリンの結末を書いてなかったと気付きまして、そちらの文章を追加しました。

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