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218話 オリハルコン




 ―――諦めろ。


 ファティマさんの無慈悲な言葉が、俺たちへと突き刺さる。


 これまでも、絶望的な戦いはあった。

 巨大なゴッド・サンドウォームと対峙した時、まともな武装も何もない状況で魔獣と戦わなきゃならなかった時、俺たちと同等のアイテムを持つアウラムとチーム全員で戦った時……。


 だが、今回のこれはその時とはまた違う。

 これまでは、苦境ではあったけどなんとかなった。

 アルドラゴのアイテムとチームメンバーの協力があれば、なんとか乗り越える事が出来た。

 だが、今回は現状の最強戦力であっても傷一つつけられないという状況だ。

 正直、どうやって乗り越えるべきなのか、頭の中が真っ白だ。


 艦長として、チームリーダーとして、何か指示をしなくてはならない。

 それなのに、何も思い浮かばない。

 くそ! 一体どうすりゃいいんだ。せめて、この場に倒れているゲイルたちを担ぎ、アルドラゴに戻って籠城でもするか?

 アルドラゴの装甲であれば、そう簡単に打ち砕かれる事はないだろう。

 ……確かに時間稼ぎは出来るが、何も解決はしない。それに、実際の籠城作戦と違って、外に救援は求められないのだ。


 そうして俺が悩みに悩んでいると……この場に居たもう一人の仲間が行動を起こしたのだった。


『なるほど、無敵の神気……ですか。ならば、神の金属による攻撃はいかがですか?』

「なに?」


 自身の近くから響く声に眉をひそめるメギル。

 そして、その発生源が自身の足元である事に気付いた。


 メギルが顔を下に向けたのと、大地を突き破って何者か―――フェイが飛び出したのはほぼ同時だった。

 身体をドリルのように回転させ、両腕の爪を天に向かって突き上げる。


「ぐぬっ!?」


 その瞬間、鮮血が飛び散ったのを、俺たちは見逃さなかった。

 当然、血を出したのはメギルである。

 そう、フェイの爪は、メギルの腹部を抉ったのだ。

 神気によって全く傷のつかない肉体を、フェイは確かに傷つけた。


「き、効いた!?」


 その事実に、俺たちはポカンと状況を見つめる事しか出来なかった。

 だが、その結果を確信していたのか、フェイは鋭い目つきで自身の爪についた血とメギルの傷跡を見据える。


『……やはり』

「何故……何故、貴様らがその金属を手にしている!?」


 自らから流れる血を確認したメギルは、大きく後ろへ下がった。

 そして、憤怒の表情でフェイを……俺たちを睨みつける。


 追撃を加えるには距離が開きすぎた事を悟ったフェイは、軽く跳んで俺たちの傍に着地した。


艦長マスター、この者たちが纏っている神気とやら、恐らく我々のオリハルコンならば打ち破る事が出来ます』


「オリハルコン!?」


 オリハルコンは、俺たちのハイ・アーマードスーツ、そしてフェイの肉体を構成している魔法金属だ。それが神には通用する……確かに、フェイの爪によってメギルの身体に傷はついた。

 だが、同じハイ・アーマードスーツを着込んでいるルークの打撃は通用していなかったぞ。これはどういう事だ?


 そう思っていると、隣に立つルークからすっとんきょうな声が響いた。


『あっ! 装備していたDアームズは元々のゴゥレムの装甲で、オリハルコンでコーティングされていないんだった! だから、全然効かなかったのか!!』


 え?

 なに、そういうオチ?


 じゃあ、俺たちはアイツら倒せるの?

 そう思っていると、同じく隣に立つアルカが口を開く。


『そうですか。先程のファティマさんの話を聞いて、疑問に思った事がありました。神の身体を覆っている神気を無効化出来るのは、同じ神気を持つ者だけ……。ならば、過去の戦争で魔神と呼ばれた存在をどうやって打ち破ったのか……』

「え? そりゃあファティマさんたちも同じ神なんだから、問題ないんじゃ?」

『今は神でも、当時は神では無かった筈です。彼らが神となったのは、あくまでも魔神を封印したのちの事です』

「!! そ、そうか!!」


 つまり、神以外の存在であっても、神を打ち破る事は可能。

 その方法というのが、このオリハルコンという事なのか!!


 すると、俺たちの声が聞こえたのか残り二人の神のうちの一人、海神ムーアが口を開く。


「あらあら、気づかれちゃったわねぇ。彼らがオリハルコンを持っているのは予想外だったけど、運よくそれに気付く前に対処できそうだったのに……」

「だが、だからと言って可能性が数パーセント上がっただけだ。普通の人間如きが、神に立ち向かう事など不可能だ」


 と、冷徹に言い放つファティマさん。

 その物言いに、俺はカッチーンときた。


「はは、言ってくれるじゃねぇか。アンタらは、当時神でもねぇのに魔神とやらを倒したんだろ?」

「……それは、我々がそれぞれの種族のナンバーワンの実力を持っていたからだ。お前は、当時の我々よりも強いとのたまうか?」

「そんなのわかんねぇよ。俺は当時のアンタらを知らねぇし。ただ、アンタらを軽んじている訳じゃない。今だってちゃんと力の差は感じているさ、だけど……」


 俺は一旦言葉を止め、この戦いの中ずっと思っていたことをぶちまける。


「俺にとっちゃ、アンタたちは神じゃねぇからな」


 この俺の言葉に、ファティマさん、海神ムーア、獣神メギルがピクリと反応した。体温が上昇した所を見るに、怒ったみたいだな。


「ほう、我々は神に値しない……そう言いたいのか?」


 いや、そういう問答をしたいんじゃない。


「この世界じゃアンタたちは確かに神なんだろうが、うちの世界じゃ神様ってのは、基本的に応えないもんなんでな」


 神の声を聞いたっていう宗教家は居るには居るが、俺が聞いた事はない。

 そもそも、うちは仏教だから神様自体とはそもそも無縁だけども。


「では、貴様らの世界の神は、一体何をしている?」

「知らねぇよ。そもそも会った事もないんだ。だから……」


 もし、地球にこの世界の神のような存在が居たら……と思う事はある。

 過去の戦争のいくつかは回避できたかもしれないし、一部の動植物の絶滅も防げただろう。

 だけども、そうなると人類史そのものが大きく変わってしまう事だろうし、文明自体の発展もどこまで進んだかは分からない。

 まぁ、所詮はたらればの話。

 このエヴォレリアと地球の存在する世界は、違うものなのだ。だから、そんな事を考えるのは無駄だろう。


「だから、人間の世界は人間でなんとかするしかねぇ。そして、俺たちの旅路も俺たちでなんとかする!」


 なんか最初と論点はズレた気はするが、俺の言いたい事はそういう事だ。

 どっちの世界が優れているかなんて論争をするつもりはない。

 自分たちは神なのだから、言う事には黙って従え……その在り方が気にくわないだけだ。


「ファティマさん」

「ぬ?」

「俺とアルカがアンタたちと初めて会った時、あの時さっさと俺たちを元の世界に戻す努力をしてくれていれば、そもそもこんな事にはならなかった」

「む、むぅ……確かにそうではあるが……」


 多少罪悪感は覚えているのか、ファティマさんはばつの悪そうな顔を作る。


「とはいえ、その時の腹いせでこんな事をしているんじゃないさ。

 あの時の決断があって、それからの旅があった。

 あれから多くの経験を積み、多くの出会いがあった。

 力もつけ、仲間も出来た。

 だから……だからこそ今の俺たちは此処に居るんだ」


 その仲間の一人が、ノエルだ。

 だから、今の俺は退く気は無い。


 そういう覚悟を決め、俺は力強く神たちを睨みつけた。


 しばらくの間、神たちはぽかんと口を開けていたが、やがてメギルが声を上げて笑い出した。


「ガハハハッ! なるほど、ただの愚か者ではないみたいだな」

「ええ、貴方の言葉は別に間違ってはいないわね」

「だが、我らにも責任というものがあってな。過去の負債……魔神めだけは、このまま放置するわけにはいかんのだ」


「つまり、ここからは本気という事だ」


 メギルの炎の鬣が、更に荒々しく猛る。


「ガハハハッ! 神気を貫いたはいいが、所詮は薄皮を切り裂いたのみ! 我の肉体にまともな傷をつけるには、膂力りょりょくが足らんかった!!」

『ぐぬ! そこは、今後の課題ですね!』


 フェイが悔し気に呻く。

 そこで俺は、本当に今更であるが気付いたことがあった。


「そういやフェイ! ハイ・アーマードスーツはどうした!?」


 そうなのだ。登場してから、フェイの姿は元のユニフォーム姿のままなのである。


『残念ながら、艦長マスターたちの充電を優先していた為、私の分は間に合っていません』


 その言葉を肯定するように、フェイの耳にあるイヤリング……そこに収められたオリハルコンの石は輝きを失っていた。


「ならフェイ! 《レオ》の使用を許可する! パワー不足はそれで補え!」

『良いんですか!? あれは艦長マスター専用のゴゥレムでは……』

「いや、別に専用というわけでもなかったんだが……とにかく、《レオ》でパワーはカバーしろ!」


 念のため《レオ》の説明をしておこう。

 《レオ》は12体製造予定の大型ビークルの一体だ。普段はライオンの意匠が取り込まれた大型ホバーバイクの形をしているが、戦闘時はバトルモードとしてパワーローダーに変形可能となっている。

 

 そうしていると、戦闘開始後に既に呼んでいた《レオ》が、駆動音を響かせてこちらへやって来た。

 それを確認したフェイは、《レオ》へと華麗に飛び乗り、更にバトルモードへと変形させる。

 これで、パワーにおいてはハイ・アーマードスーツと同等レベルまで引き上げる事が出来た。

 だが、ここで問題が発生する。《レオ》はあくまでもアルドラゴで精製可能な金属であり、オリハルコンでは無いのだ。

 オリハルコンでなくては、神たちの肉体を覆う神気は貫けない……ならば、どうするのか……。


 すると、バトルモードの《レオ》に操縦席に位置するフェイの肉体が、銀色の球体へと変わり、まるで水風船が弾けるかのようにパシャンと銀色の液体が飛び散った。

 その液体は、レオの全身へと浸透し、次第に《レオ》そのものを銀色へと染めていく。

 出来上がったのは、巨大な銀狼……いや、銀獅子へと姿を変えたフェイだった。

 つまり、《レオ》の全身を自身のオリハルコンで覆ったのだ。

 これならば、パワーを保ったまま神気を貫ける。


「ほう、なかなか面白い事をする」


 銀の獅子と対峙する炎の獅子……メギルは、獰猛な笑みを浮かべた。


 体格だけならば同程度の二体の獅子はにらみ合い、やがて一拍の後に激突した。

 双方の爪がぶつかり合い、空中にバチンバチンと火花が散る。

 無論一撃で終わる筈もない。

 振り下ろされた《レオ》の爪をメギルは同じく爪によって受け止め、そのままの体勢で今度は自らの爪を《レオ》目がけて振るう。

 振り下ろされた一撃を今度は《レオ》が受け止め、さながら両手を組んだ状態での力のせめぎあいとなった。

 パワーは一見すると互角……だが、フェイにとって圧倒的に分が悪い事はすぐに理解出来た。

 《レオ》と同化する事でパワーは補強する事に成功したが、フェイの特性であったスピードを生かした攻撃というものが殺されてしまったのだ。

 素早いスピードによって敵を翻弄し、その鋭い爪で切り裂くというのがフェイの得意とする戦法だったのだが、バトルモードの《レオ》ではその巨体さ故に素早くは動けない。

 尤も、このバトルモード自体、大型の敵と相対するための手段であり、そもそも素早く動くことは想定していないのだ。


「どうした? パワーが自慢ではないのか?」

『うるさいですよ!』


 フェイも気合を入れてパワーの出力を上げているが、対するメギルは顔色一つ変えていない。まぁ、フェイ側も顔色は確認できないが、ブォォという激しい駆動音が現在の必死さを物語っている。


 そして、時間と共に拮抗は終わりを告げる。


 ピキ―――と、《レオ》の爪にヒビが入り、それから間もなく《レオ》の両腕は粉々に砕け散ってしまった。

 アルドラゴが保有する最硬の金属と、この世界最硬の魔法金属オリハルコンの合わせ技である……《レオ》inフェイの腕が砕かれたのだ。


「―――マジか」


 思わず俺の口から声が漏れる。

 だが、冷静になって考えれば当然のこととも言える。

 オリハルコンは現時点で最硬であっても、完全無敵の防御を誇るわけではない。

 これが完全にオリハルコンで作られたものであれば、また話は違ったのかもしれないが、《レオ》はあくまでオリハルコンで全身をコーティングしただけ。表面だけの硬さでは、耐久にも限界はあるだろう。

 それに、この場合の優位性はあくまでも、神に傷をつけられる力を持っているというだけだ。


 ただ、向こうサイドが《レオ》を破壊できる力を見せたという事は……


『ケイ、貴方はなるべく前に出ないでください。いくらハイ・アーマードスーツであっても、敵はそれを砕く力を持っています』


 アルカが緊張感を滲ませた声を飛ばす。

 確かに、ハイ・アーマードスーツが持つ優位性は完全になくなった。


 そもそも、この場において俺が何をしているかと言えば、何もしていない。

 せいぜい、さっきからただ驚いているだけの観客ポジションです。


 というのも、今の俺には神たちに通用する武器一式を持っていないのです。

 確かにハイ・アーマードスーツであれば、オリハルコンによって覆われているので神たちに対して、攻撃は通用する。

 ただし、その手法は打撃に限られる。

 それも武装の力に頼らない、単純なパンチやキックだ。

 確かに、拳法等の徒手空拳に関する動きは俺の脳内にインストールされているけども、それはあくまで対人間に限られる。

 あそこまで普通の人間と体格が違うと、俺の格闘スキルは役に立たないのだ。


 加えて説明すると、同じ原理でトリプルブラスト等の遠距離武器も通用しない。また、アルカの魔法、ルークの重火器も神たちの神気を貫くことは叶わない。

 ハッキリ言って、今の俺たちが出来る事は、やぶれかぶれで立ち向かって玉砕するか、こうして見ているか……しか出来ないのだ。


 ……今、この時までは。


 ギュルギュルと悪路を走るタイヤの音のような異音が響く。


「なんだあれは?」

「これはまた……奇妙なものが現れた」


 残りの神たちの視界にも捉えられたのだろう。


 高速で回転しながら大地を踏み鳴らして現れた、巨大な球体……《アリエス》の姿を!!


 走行中、球体の側面部が開き、そこから巨大な箱のようなものがこちらへ向けて投擲される。

 俺は軽くジャンプしてその箱を手に掴むと、そのまま大地へと落す。

 箱は相当な重量があるのか、ドスンと音を立てて軽い衝撃を与えた。


 艦を飛び出した際、《レオ》、《アリエス》の出撃要請と、万が一の時の為にコイツの使用準備を整えてもらっていたのだ。

 よって、ちょっとだけ登場が遅くなったが、なんとか間に合ったようだな。


 俺は、目の前に鎮座している巨大な箱へ視線を下ろす。


 そのサイズ、約2メートルと俺の身長よりもでかい。

 一見すると、巨大なトランクケース。だが、その中にあるのは……


「……七剣開放」


 俺の音声キーワードに反応して、トランクケースがパカリと開いた。

 開いたと同時にその中に収められていた物体は宙に飛び出した。

 飛び出した物体“たち”は、俺の周囲をゆっくりと回転しながら浮遊している。


 トランクケースに収められていたのは、剣、剣、剣……。

 大剣、長剣、短剣合わせて、合計7つの剣だ。


 俺は、仮面の奥で思わず笑みを浮かべていた。


 これぞ、この半月の間開発を続けていた、俺の新たなメインウェポン。


 その名も、セブンソードだ!




 大して話が進んでいなくてすみません……。

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