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216話 三柱の神




「ファティマさん……どういう事だ? なんだってアンタたちが、ゲイルたちにこんな真似を……」


 俺がそう声を絞り出すと、ファティマさんは特に表情も変えずに口を開いた。


「……今のこの状況は、そこの空色の服の男が、こちらに突っかかってきたため、止むを得ず戦闘になっただけだ。我々としては、無駄に戦いをするつもりはない」


 吹雪のせいかよ!

 でもまぁなんとなく理解はできる。『おうおう、なんだなんだてめぇら!』……みたいなノリで突っかかったんじゃないかと思う。

 だが、だからと言ってこの四人がここのでボロボロになるまで戦うのには意味があるはずだ。こちらに非がある事で、こいつ等がそこまで意地になる事はない。


「じゃあ、何のために来た? わざわざ世間話をするために来たって訳じゃないよな?」


 仲間をボコボコにつれた手前、こちらの口調もどうしても喧嘩腰になってしまう。

 相手は神ではあるが、本当の意味での神とは違う存在だ。この世界の神とは、人間の上位存在ではあるが、決して万物を超越した存在では無い。

 この世界の人間にしてみれば、文字通り雲の上の存在かもしれないが、俺からしてみれば力を持った偉そうな奴らでしかない。

 礼をもって接してくればこちらも相応の対応をするが、今回ばかりは無理そうだ。


 果たして、こいつ等はどういうつもりで現れた?


 ファティマさんはギロリと観察するように俺たちを睨んでいたが、やがて口を開いた。


「理由は簡単だ。……魔神を渡せ」


「……は?」


「奴がお前たちと共に行動していることは既に掴んでいる。我々の前に連れてこい。そうすれば、用は終わりだ」


 魔人……いや、この場合は魔神か。

 一般的なファンタジー用語ではなく、この世界に来てから聞き覚えのある言葉……ええと、なんだっけ?


『ケイ、私たちがこの世界にやってきた、原因ではないかとファティマさんに言われた存在の事です』


 アルカの注釈によって、記憶がふっと蘇った。

 そうだったそうだった。

 この世界に来た当初は、俺たちがこの世界に迷い込んだ原因はその魔神って奴の仕業だったんじゃないかって言われてたな!


 ……実際は、あのアウラムって奴の仕業で、アイツと帝国が当面の敵だったから、その魔神って奴の事は頭からすっぽり抜け落ちていたぞ。


 で、その魔神がなんだって?


「渡せって言われても……俺には、心当たりが全く無いんだが……」


 あれから仲間は増えたけど、ゲイルの事はファティマさんも知っている筈。フェイも烈火、吹雪も元はアルドラゴのAI。となると実はヴィオが―――って話だが、当人がこの場に倒れているのに渡せっていうのもおかしな話だ。

 じゃあ、誰?


艦長マスター……少々心当たりがあります。恐らくは、ノエルさんの事ではないかと』


 絞り出すようなフェイの言葉に、俺は息をのんだ。


 ノエル!

 そうか、アイツが居たか。

 確かに、正体不明の猫っぽい生物だったが、まさかその正体が魔神だと!?


 ……いや、最初こそ驚いたが、考えてみれば腑に落ちる。

 アルドラゴのエネルギーをチャージできるほどの膨大な魔力量……確かに魔の神であるのなら、持っている魔力量も規格外だろう。


 そうなると、なんだってまた魔神が俺たちに力を貸すのか……って話になるんだけど……。


 ダメだダメだ!

 当人がこの場に居ないのに、頭の良くない俺が考えたって分かるわけねぇ。


「アルカ、ノエルの状態は?」

『……まだ、意識が覚醒していないようです』


 という事は、この場にノエルを連れてきて釈明させる訳にもいかんな。


「悪いが、問題の張本人はまだ目覚めていないようだ。意識が覚醒次第、改めて連絡を―――」


「意識が無いのは幸いだ。そのまま拘束し、連行する」


 そうなりますよねー。

 だが、だからといって許容できる話でもない。

 ノエルは今や俺たちの仲間。ピンチを救ってくれた大恩人だ。

 正直言って、感謝の度合いはファティマさんを上回る。

 だから『はいそうですか』と引き渡せるもんでもない。


「その事なんだけど、まず先に説明させてほしい。俺たちがこの世界にやって来た原因は、魔神のせいじゃない」


「……だから?」


 ………言葉に詰まってしまった。

 そうだったな。この件については、俺たちの問題であってこの世界の問題でもなかった。


「アイツのおかげで俺たちは命を拾う事が出来た。だから、少しだけ時間をくれないか。せめて、アイツの話だけでも聞いてやってほしい」


 と、せめてもの譲歩をと思って言ってみたのであるが、神たちの返答は……


「とんな事情かは知らんが、奴がお前たちを助けた。それは理解した。だが、だからと言って奴の罪が消える訳でもない」


 ……そうなるよなぁ。

 凶悪な犯罪者が、ただの気まぐれで誰かの命を助けたとする。

 だからといって罪が軽くなるかと言えば……それは、また別の話だろう。多少の同情する者は出るだろうが、犯した罪が大きければ、その罪に善行はかき消される。

 魔神とやらは、言ってみれば全世界に対してテロ行為を行った首謀者のようなものだ。それが数百年前の事であったとしても、当事者であるファティマさんたちには憎んでも憎み足らない存在には違いないだろう。


 ……本来なら、俺がどうこう言える問題じゃない。

 ここは、この世界の住人の言葉に従って、素直に引き渡すのがベストな選択だ。


 ………

 ……

 ……なんだけどさ。

 あぁ、もうこの世界に来てから俺ってば、本当に馬鹿になったよな。


「なんのつもりだ?」


 ファティマさんたちの前へ、まるで立ち塞がるように俺は手を広げていた。


 あぁもう。

 命を救ってもらった大恩人、更に言えば大切な仲間を守るため、神に立ち向かうなんて……どこの少年漫画の主人公だって話だ。


「悪いが、魔神……いや、ノエルの身柄を引き渡す事は出来ない」


 そう力強く宣言すると、ファティマさんの眼光は更に鋭くなった。


「……私の耳の調子が悪かったか? 我々の要求を拒否したように聞こえたが?」


 怒気と共に殺気すら込められた言葉をぶつけられ、身体が思わず震え上がる。

 が、ここで怯んではいけない。


「その通りです。ファティマさんたちの事情……100%理解した訳ではないですが、その上で改めて言います。引き渡す事は出来ません」


 そう言うと、ファティマさんの隣に立つ海族の神の女性は、クスクスと嘲るような笑い声を発した。


「ふぅむ、おかしな事を言うのね。かつての大戦を引き起こし、何万人もの人間を殺した存在を貴方は庇うというの?」


 更に、獣族の神の男は呆れかえったような声と共に、隣に立つファティマさんに視線を向ける。


「ハッ! ファティマよ。貴様、こやつは話の分かる相手だと言っていなかったか?」


「あぁ、そのつもりでいたのたがな。しばらく見ぬうちに随分と愚かな考えを持つようになったものだ」


 愚か……ねぇ。

 まぁ、そう思われても仕方ないよなぁ。


「一般的に考えたら、アンタたちの行動は間違っていない。おかしいのは、誰だって俺だと思うだろう。……でも……」


 一旦言葉をのみ、可能な限り力強い眼光で神たちを睨みつけた。


「筋が通らねぇ」


「……なんだと?」


 どこのヤクザ映画だという話だが、本気でそう思っているのだから仕方がない。

 俺には、その魔神とやらを庇う義務はない。

 だが、ノエルには命を救ってもらった。だとするならば、その借りを返す義理がある。

 少なくとも、何もしないままにただ恩人の身柄を引き渡す、恩知らずにはなりたくない。


「ノエルがアンタたちとちゃんと話をして、納得したうえでアンタたちと一緒に行くって言うなら、何の問題もない。だが、ただ問答無用で連れていくって言うんなら、俺は黙って見ているわけにはいかない……そういう事だ」


 そう宣言すると、三人の俺を見る目つきが変わった。

 どうも、考えなしに俺がこうしているって訳じゃないって事は理解してくれたようだ。


「……なるほど、お前の考えは理解した。だが、だからと言って『はいそうですか』と従えるほど、事態は甘くない。

 お前たちにどんな事情があるのか詳しく知らんが、我々神は魔神の犯した罪を許す事が出来ん。例え、何百年経ったとしてもな……」


 聞いているだけで背筋が凍り付きそうな声だった。

 このままでは、話は平行線のまま……


「って事は……」

「うむ。やる事は決まっている」


 ゾクリと、肌が更に震えた。

 この周囲を満たしていた殺気のランクが、また一つ上がったようだ。


 すると、ザッという音と共に俺の両隣にアルカ、ルーク、フェイが立ち並ぶ。


「毎度言う事だが、これは俺の我儘だから、お前たちが従う義務は無いぞ―――」

『毎度言っている事ですが、これも私の我儘ですので、お気になさらずに』

『ついでに言うと、僕たちだよ~』


 アルカの言葉に、ルークが笑顔で追随する。

 それを聞いて、俺はホッと溜息を吐いた。

 巻き込んでしまって心苦しいが、大変心強いのも事実だ。


『それで、神級ゴッドクラスが三人……というか、神そのものですが、果たしてどうやって立ち向かうつもりですか?』

「あぁ、それが問題なんだよな」


 フェイの冷静な言葉に、俺は脳内で急いで計算をする。


 今現在、手持ちの武装……。

 やべぇ。ブレイズブレードは、ブラウ戦で折れちまったから、現在は改良も兼ねて修理に出して戻ってきていないんだった!

 その他の武器はあるにしても、製造中の新武装に比べると、どうしても型落ち感がある。

 そして、最大の問題……ハイ・アーマードスーツが収められた指輪……持っている事は持っているが、エネルギーチャージが不十分だった。

 つまり、使える事は使えるが、フルチャージの状態では戦えないという事だ。持って、10分という所か……。更に、ダメージを受ければその分だけエネルギーも減る。

 くっそ、こんな事ならもっと戦闘準備を万端にしておくべきだった!

 今後の教訓だな。

 ……今後があればの話だけど。


 となると、今回ばかりはいつもに増して短期決戦で挑むしかあるまい。

 しかし、神が三人となると、どう考えても勝率は厳しい……。せめて、ゲイルたちが戦線に復帰してくれれば、勝機もあるかもしれないが……。


 そう思っていたら、三人の神の一人……この場合は一柱か? ともかく、炎のたてがみを持つ獣族の神が一歩前に出た。


「心配するな。いきなり三人相手という大人げない事はせん。貴様らの相手は、おれだけだ」


 見るからに脳筋……というタイプの巨漢が、威嚇するようにそう宣言した。

 チラリと視線をその後ろに立つ二人に向けると、二人はやれやれと言った感じに肩をすくめている。

 という事は、本当に相手は一人だけか?


 ならば、僅かだが勝機も見えてきた。


「じゃあ、お前ら……行くぞ。チーム・アルドラゴ……レディ……ゴー!」


 俺の号令と共に、両隣に並んでいたアルカたちは散らばっていく。

 俺自身も後ろへ飛び、獣族の神……確かメギルとか言っていたか。奴と距離を取る。

 何はともあれ、こっちもハイ・アーマードスーツを纏わなければ、勝負にもならないだろう。


 左手に嵌められた指輪を、右の掌で強く押し込む。

 そして、あのキーワードを音声入力する。


「アームド……オ―――」

「グオォォォォォウゥゥゥゥッ!!!」


 だが、それを言い切る前に俺の身体は、一瞬にして距離を詰めたメギルの拳によって吹き飛ばされてしまった。

 速ぇ!!

 瞬間移動かと思う程の超スピードだったぞ! 20メートルはあった距離を一瞬で詰めるとか、何のアイテムも使わないでそれをやってのけたのは、流石は神という所なのか。


 アーマードスーツの機能のおかげで、吹き飛ばされただけでダメージは無いんだけどさ……


 変身中に攻撃仕掛けるのって、この業界じゃ禁忌タブーだろうが!!




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