214話 同級生
一か月もさぼって申し訳ありません!
再開します!
さてさて、ナイアも無事に正式メンバーになった。
スミスも……理想の形とは異なるが、一応戦闘メンバーに入った。
工房の方には、これから作る予定のアイテムの相談を済ませておいた。
後は……どうすっかな。
やる事は山積みの筈なんだが、やる事が多すぎて何から手を付けて良いか分かんねぇや。
そうやってぼんやりとアルドラゴの廊下を歩いていると……
『おや、ケイではないですか』
背後よりアルカの声が届く。
「おう、アルカか―――ってぬおっ!?」
何気なく振り向いたらば、びっくり仰天してしまった。
『なんなんですか、人の顔を見てびっくりするなんて失礼ですね!』
確かに背後に立っていたのはアルカであった。
なのだが、その姿は……あの、若返ったアルカであったのだ。
しかも、髪型がいつもの腰まで届く長髪ではなく、ショートカットになっていやがる。
腰に手を当ててぷんすかといった感じで怒っていらっしゃるが、不意打ちでそんなものを見させられたら驚くだろう。
やべーやべー、ひとまず落ち着け俺。
「な、何ゆえ……そんな姿を……?」
『いえ、ケイが言っていたじゃないですか。これからは、帝国に目を付けられにくいよう、表立って動かない方が良いなって。だから、ちょっと実験を兼ねて変装してみました。どうでしょうか?』
何やらあざとい感じでクルクルとその場で回って見せるアルカさん。
いや、似合っていますよ。
異常なまでに似合っているんだけどさ、どうもアルカとは別人感がしてしまって慣れないのよね。
それと、前にも思ったことであるが、アルカが若返ると一気に同年代っぽい感じがしてドキドキしてしまう。
いやほら、アルカ、ゲイル、ヴィオは俺より年上感があったし、ルークとフェイは年下っぽい感じだったものな。……実年齢はともかく。
……いやいや、そういう問題でもない。
確かに表にあまり出ずに行動すると言ったが、変装して活動するとは言ってないぞ。
「そもそも変装する意味もないだろ。透明になれるアイテムだってあるんだからさ」
『……言われてみればそうかもしれないですね』
「それとさ、アルカたちは実体化を解けば魔晶モードになるんだから、余計に意味ないと思うのだが」
『おお! その手がありましたか。……なんだか、最近実体で活動する事がほとんどなので、データ化出来るという事を忘れてしまいそうになるのですよね』
「自分で言う事かい」
言った俺自身でさえ、アルカたちがアルドラゴに搭載されているAIで、本来なら実体とか持たない存在だというのを忘れてしまう。
生身の肉体があるのは、あくまで俺とゲイルとヴィオだけ。
後は肉体は持っていても、ただのAIにしか過ぎないんだが……今更そんな事を認識しても遅いよな。俺の中で、こいつらはもう生身の人間と変わりないんだから。
……だからと言って、この姿を許容できるかと言ったら別問題になるんだけど。
『……ケイは、この姿が嫌いなのですか?』
俺があまり気落ちした様子した様子だったのが不安になったのか、アルカががっくりと落ち込んだ様子で口を開いた。
これはいかん。フォローせねば!
「いや、そういう訳じゃないんだ。……ただ、同世代の奴の姿を見ると、どうしても学生の時の事を思い出してな……」
本音だ。
この世界に来たばかりの頃は大して感じていなかったが、ある程度時間が経って落ち着いてくると、どうしても地球でのことを思い出してしまう。
それに、この空に浮かぶ島で日本都市みたいなものを見てしまったのも、俺の追想に拍車をかけてしまったのだろう。
忙しい時は思考の隅に追いやられているが、落ち着いてくるとどうしても昔の事を思い出してしまう。
……昔って言っても、つい半年くらい前の事なんだがな。
『………』
アルカは何とも言えない表情をしていたが、やがてスルッと姿を元に戻した。
ううむ、なんか気を遣わせてしまったなぁ。
『そういえば……今まできちんと聞いたことが無かったですけど……』
「どした?」
『……ご学友というのは、昔言っていた柳さんという方でしょうか?』
「ブッ―――!!」
噴いた。
今の今まで思考の隅にずっと追いやっていた記憶が蘇る。
忘れていたわけではない。
というか、忘れようにも忘れられない。
だって、彼女とのやり取りが、俺がこの世界に来てしまった遠因だもの。
だが、考えないようにしていたのも事実。
いい加減、この問題にもケリをつける頃合いか……。
「いや……柳さんは隣のクラスで、別に学友でも親しい仲という事もなかった」
そもそも、下の名前すら知らない。
元の世界ならいくらでも調べようがあったが、この世界じゃどうしようもないからな。
『そうなのですか。でも、ただの隣のクラスの方にしては、ケイの中で結構なウェイトを占めているご様子。一体何者ですか、その方……』
ぐいぐいとアルカが迫ってくる。
くそう。コイツがここまでプライベートに絡んでくるって珍しいな。
『よもや、その方は……ケイにとっての恋焦がれる御方―――』
「違う。それは違う」
即座に遮断した。
柳さんには申し訳ないけど、あの時と今の気持ちは変わっていない。
確かに、嘘をついて逃げてしまったけど、恋とかそういうのとは違ったと思うな。
まぁ今まで恋人とか居なかった人間ですから、あそこで「はい」と言っておけば、生まれて初めて恋人が出来た事で舞い上がったでしょう。
そのチャンスを潰してしまったことや、結果として彼女を傷つけてしまった事は今も後悔している。
彼女の事が嫌いだったわけじゃない。
ただ、彼女の事を知らなかっただけだ。
だから、あそこでするべきだった回答は―――
「友達から始めれば良かったんだよな……」
『ケイ?』
そう友達だ。
そこからお互いに知っていけばよかっただけの事だ。
まあ、所詮はたらればの話。
異世界に来たけども、過去には戻れないのだから仕方ない。
「柳さんの事は話せないけどさ、他の友達の事なら話せるぞ」
『おや、良いのですか?』
「出血大サービスだ。まずは、俺が親友と呼べる相手―――」
俺は、元々友達の多い方ではない。
クラス内では所謂陰キャと呼ばれる類の人間だ。
それでも、クラス内でそれなりに親しい友人は居た。特に、小学校時代から妙な縁で繋がれている奴が居る。
「金那川総司」
◆◆◆
「……空振りでした」
神聖ゴルディクス帝国……十聖者の一人、聖女ルミナこと本名:柳久美那はがっくりと肩を落とした。
此処は、砂漠の国ルーベリー王国より南下した地域に位置する国……ブローズ王国の首都アルディグである。
この地にゴルディクス帝国が総力を挙げて捜索中のハンターチーム……チーム・アルドラゴが滞在しているとの情報を受け取り、こうしてはるばるとやって来たという所だ。
が、当然のことながら僅か3日というタッチの差で、彼らはこの国より離れていた。
その事をこの地のギルドマスターから聞き、激しく落胆したという事だ。
それに、彼らの次の行き先……これがまた問題だ。
「空の上かぁ」
何気なく、ルミナは空を見上げる。
そこには、曇天の空があるだけで目に留まるものは何もなかった。
そんな途方に暮れた様子のルミナへ、背後より声が掛かる。
「正確には、興味を持っていたってだけで、行ったという確証はないけどね」
現れたのは、長い黒髪をポニーテール上に括った長身の女性であった。
もしここにレイジが居れば目を丸くしたであろう……彼女もまたルミナ同様にアジア人……いや日本人の顔つきであったから。
「烏丸さん……」
ルミナがそう言うと、女性は露骨に嫌な顔を作る。
「だからこっちの世界じゃクロウだっての」
その顔を見て声を聞いて、ルミナは慌ててペコペコと頭を下げた。
「ごめんなさい。なんだか、慣れなくて……」
「アンタだって、ルミナなんて名前名乗っているんでしょ? 今の私たちはもう日本人じゃない。この世界の住人なんだから、この世界の名前でしっかり生きないとね」
「でも、クロウって名前も烏丸のカラスから取ったんでしょ?」
「そりゃそうよ。この世界の住人だけど、元の世界を忘れたわけでもない。それに、烏丸って名字は気に入っているの!」
「は……はぁ」
思わず天を見上げ、そういうものかと納得する。
自分とて、元の世界の事を忘れたわけでもなければ親から貰った本当の名前が嫌いなわけではない。
ただ、この世界で暮らし、国での地位を上げる為に、色んなことを経験してきた。元の世界に居たら経験する事の無かった事を良くも悪くも色々……だ。
そんな自分が、元の名前を名乗る事はおこがましい……そう思って聖女ルミナを名乗っているのであるが……。
「それにしてもルミナちゃんの元カレは空の上かぁ……どうしたもんかねぇ」
「ブッ―――!!」
噴いた。
その後慌てて辺りを見渡し、誰にも見られていない事を確認する。
「も、元カレじゃありません! そもそも付き合ってもいないですから!」
そうなのだ。
振られただけだ。
その事実を思い出し、またずーんと落ち込んでしまうが、とりあえず今はその事を考えるのは止めようと判断した。
「あらそうだっけ。それにしても、妙な因果だねぇ。うちの学校から来たのって、会長サン……じゃなくてフォレストに私、それにルミナちゃんだけで、元々面識とか無い奴らばっかだったのに、よりによって元カレが帝国外で活動しているなんてさ」
「いやだから、元カレじゃないですって」
「そのアキヤマって奴も私たちと“同じ”なのかねぇ?」
「それを確かめる意味でも、まずは彼と話をしないと……」
「とんでもない戦闘機とかロボットとか、世界観無視だねぇ。こんなファンタジー全開の世界だったのに……」
「それは、帝国も一緒ですけどね」
ルミナとて、ゲームくらいやった事がある。どちらかと言えば本が好きな人間で、ファンタジー世界を舞台にした本は何冊も読んだ。
このようなファンタジー世界に生まれたかったと思う事はないが、それでもこの世界を旅行してみたいと思ったことはある。……実際に来てみると、全く面白くないが。
だが、世界の中でもより文明が進んだゴルディクス帝国が拠点となったのは、不幸中の幸いと言えたのだろう。外の世界の生活を知り、帝国でラッキーだったと言えるほどには今の待遇は悪くない。
何より帝国本国……特に中央部は水道・ガス・電気と生活に必要なインフラがしっかり整っている。それだけでこの国で生活できて良かったと思えるだろう。
「それでも、元の生活の方が100万倍マシですけど~」
スマホもネットも無ければ、毎週楽しみにしていた週刊誌もない。他のものはあるにはあるが、代替品というには物足りないものだった。
「あん? 何か言ったか?」
「いえ、単なるつぶやきです。それにしても、どうしましょうか。いくらうちの船でも、見えないほどの高さまでは上がれませんよね?」
「無理だな。鳥系の聖獣飼ってるやつなら行けるかもなぁ……ルクスあたりに頼んでみるか?」
「嫌です。私、あの人嫌いです。そもそも、あの人ってヘマして処分されたんじゃなかったでしたっけ?」
「おっとそうだったか。じゃあ、いよいよ手段がないよね。どうすりゃいいかな……」
「………」
どうするもこうするもない。
今回はここまでだ。
始まりは、自分の我儘。
帝国としてはやるべき事であっても、やらなくてはならない事ではない。
だから、自分が諦めればそれで終わりだ。
悔しいが、今回はここまで……
「駄目だよ。そんな簡単に割り切っちゃ」
ポンと肩に手が置かれ、クロウこと烏丸諒虎がこちらを真顔で覗き込んでいる。
「例え元カレであっても、会うって決めたんでしょ? 今まで流されるだけだった君が、初めて我を通した。それを飲み込んじゃだめだ」
「か、烏丸さん……」
「確かに、並大抵の事じゃない。でも、少々の無理をすれば届く距離に居るんだ。だから、ここは無理するべきだよ。そのタイミング……見誤っちゃだめだ」
「あ……あう……」
チーム・アルドラゴを放置する事は、帝国にとって大変危険だ。
だから、ここで彼らを追う事に意味はある。
でも……
彼らが帝国にとって脅威だから……彼らが持っているハイテク兵器を手に入れたいから……彼らによって聖騎士と剣聖を潰された。だから、その報復をしなくてはならないから……
そんな理由でルミナはチーム・アルドラゴを追っている訳ではない。
追っている理由は、単純明快。
「……わ、私、会いたいです」
会ってどうするかはまだ決めていない。
そう、会いたい。
会ってもう一度話をしたい。
それが、我を通す理由だ。
「おっし、よく言えた。だったら、私もその無理に協力しようじゃないの」
ぐしぐしと、烏丸諒虎の手がルミナの頭を強引に撫でまわす。
「あと、元カレじゃありませんから」
「そうだったか。後、私もクロウだかんね」
そう言った後、二人して「へへへ」と笑った。
とは言え、この場で自分たちに出来る事は何もない。
彼女の言うちょっとした無理をするには、一度本国と連絡を取る必要性がある。
そう、ある者の協力が必要なのだ。
その時だった。
ゴォゴォという音を立てて、自分たちが乗って来た空艦が上空に姿を現したのだ。
「聖女様、槍聖様! 本国より緊急連絡です。急ぎ、お戻りください!!」
艦の乗組員より声が飛ぶ。
緊急連絡! それが使用されるのは、二人が十聖者の位に就いて初めてのことだった。
ただ事ではない。
二人は急ぎ、艦内へと帰還し、通信機の前へと向かった。
「森君!」
モニターの向こう側には、見知った同郷の男がこちらを睨んでいた。
『……フォレストだ。まぁ、二人一緒で何より。ともかく、二人には今すぐこちらに戻ってもらう必要性が出てきた』
「こっちの事情も聞かずにざけんな……って言いたいところだが、ただ事じゃない事が起きたんだな?」
『ああ。通信機越しでは話せん。だから、二人には早急にこちらに戻ってもらう』
「しかし、ここはブローズ王国です。いくらさほど離れて距離になくとも、今から帰れば三日はかかってしまいますよ」
『心配ない。君たちの今の座標は、すでに報告済み。すぐに奴がゲートを開く』
「奴……って、まさか……」
この部屋は、本来通信だけを行う部屋であり、せいぜい人間が三人ほどしか入れない狭い部屋である。
その部屋の壁に、赤い円が浮かび上がった。
魔法陣。
これを作った当人曰く、そのように形を作っているだけで表面上の意味は無いらしい。
赤い陣の中心が水面のように揺れ、やがて波紋が広がるように色が消えていく。
すると、陣が描かれた部分のみ、壁は消えていた。
当然ながら、この部屋の壁が溶けて消えたわけではない。この陣のこちら側……ブローズ王国の上空にあるこの場所と向こう側……ゴルディクス帝国帝都の何処か。その離れた場所の空間が繋がったのだ。
これは、ゲートと呼ばれる空間転移能力。
そんな特殊能力を持つ者は、ゴルディクス帝国には一人しか存在しない。
「やあ、二人とも久しぶりだね」
その一人は、壁の向こう側で手を振っていた。
金色に染め上げられた髪に、人懐っこい笑みを浮かべた二人とは同年代の少年だ。
「……“アウラム”か。コイツを動かすって事は、本当に緊急なんだね」
クロウは現れたその男をその名で呼んだが、ルミナはいつもの癖で、その人物を本来の名前で呼んだ。
「久しぶり、金那川君」
その名で呼ばれた少年は、にっこりと笑みを浮かべる。だが、その口の端が歪んだ形になっている事を、二人は気付けなかった。
ようやく繁忙期が終わり、やっとこさ自由な時間を増やす事が出来ました。
最後に現れた男……当然、同じ名前の別人という事ではありません。
親友とか言っているのに気づかないとか、主人公アホなの!?
と思うでしょうが、ちゃんと色々細工して、正体分からせないようにしています。




