212話 あれから起こった事……
さてさて、お久しぶりでございます。
チーム・アルドラゴのリーダー、レイジです。
新たに登場した新星ハンターチーム……チーム・エクストラが世間を騒がしていることだろう。彼らが活躍している間……世間では戦争勃発を食い止めた英雄とか言われている謎のハンターチーム……チーム・アルドラゴは一体何をやっているのか……。
……今は特に何もやっていない。
エメルディア王国よりずっと東に位置する海に浮かぶ島にて、休養中である。
ちなみに、この島は強力な魔獣が潜むと言われている海域にポツンと存在する孤島であり、船の航路からも離れている。
一応、海域的にはエメルディア王国の領土であろうが、誰も全く住んでいない無人島であるから、今は俺たちが勝手に使わせてもらっている。
地球では大変な問題だけども、この世界の法律は知らん。誰も住んでないから別にいいだろうという勝手な判断です。
島の名前なんか不明なので、こちらも勝手にドル・アゴラとかアルドラゴをアナグラムにした名前を付けさせてもらった。
休養中休養中と言っても、今までが忙しかったからちょっと一休みしている最中です。
そんな中、俺はアルドラゴの艦長席に座って、チーム・エクストラの面々より報告を受けていた。
『―――とまぁ、そのような状況です。正式な依頼を受けていませんので、報酬とランクアップの功績は得られませんでした』
メインモニターに映るチーム・エクストラのリーダー、月影の報告に俺は頷いた。
報告によれば、雑務依頼のついでに海岸付近を哨戒していたところ、新種魔獣に襲われているハンターチームを発見。
自分たちの戦力で助けられるものがあれば、独自判断で動いても良いとの指令は与えているので、独自に救出活動を行い、ついでに魔獣を殲滅。
だが、まだ魔獣退治を認められないGランクハンター期間であるため、規約によって報酬は無し。ランクアップにも特に影響はしないらしい。
まぁこれは仕方ないな。
『ただし、新種魔獣の発見や生態報告の報酬は依頼とは関係なくいただけるようです。更に、その魔獣の命名権を与えられました。どうしましょうか……』
「命名権ねぇ……」
これで二回目だな。
実を言うと、ブローズ王国での活動時に遭遇した新種魔獣……デスサイズ、キャノンボール、アントルーパーは、正式にこの世界にその名前で登録されている。大ムカデはあれ一体きりだったのか、その後の発見報告を聞かない。……もう会いたくないが。
あの新種魔獣たちが一体いつまでこの世界に存在しているのか知らんが、例え異世界だとしても、俺が考えた名前が後世に伝わるというのは身に余る光栄である。
だが、この場合は命名権を得たエクストラチームの面々にその栄誉を与えるべきだろう。
と言ったのだが―――
『チーム全員一致で、艦長にその権利を譲るとの事です』
エクストラチームは全員AIだものなー。その手の自由発想系は苦手か……。
とりあえず、魔獣たちの外見や攻撃方法なんかは彼らの視覚映像を通して理解している。
確かに伝説生物の中でピンとくるやつは思い浮かばないな。ならば、外見からのイメージで名付けるしかあるまい。
「でかい蟹は“シザース”、巻貝は“ショットシェル”……これでどうだ」
シザースは、まんま鋏。
ショットシェルは、散弾銃の実包の名称だ。
『なるほど、ショットガンのように殻を飛ばす戦法を使う敵だからショットシェルですか。殻と絡んで実に素晴らしいネーミングです』
素直に褒められると恥ずかしい。
『それと、順当に考えて3日後の正式ハンター認定は、Dランクスタートになるのではないかと思われます』
月影の冷静な言葉に俺は頷いた。
基本的に、何かとんでもない功績でも上げない限り、俺の時のようなCランクスタートなんて事はあるまい。俺の場合は、ブローガさんと協力してワイバーン……いやカオスドラゴン退治があったからな。
そして、Gランクのハンターは他のハンターとの共同依頼以外に魔獣を倒す事は許されていない。いくらエクストラの面々でも、魔獣退治なしに功績を重ねる事は難しいだろう。
ともあれ、正式スタートしたのなら、こっちのものだ。
チーム・エクストラの面々には存分に活躍して、世間の度肝を抜いてもらおう。
月影との交信を終え、俺は再び艦長席にどかっと座りなおす。
「……はぁ」
ため息が出た。
今、この広いブリッジには俺一人だ。
何人かは艦の外でそれぞれの余暇を過ごしているが、これがフルメンバーではない。
俺たちがチームとしてハンター活動出来ない理由の一つ……数名のメンバーが、艦を降りてしまっているのだ。
彼らが艦を降りる事になってしまった原因……それを語るため、時間を巻き戻してみよう。
時刻は、あの天空の島での戦いの後……
◇◇◇
『おう艦長さんよ。頼んでいたやつ、プロトタイプが完成したぜ』
全身に圧し掛かる倦怠感と筋肉痛による鈍い痛みを堪え、俺はスミスが常駐する工房……いやメカニックルームへと足を運んだ。
すると、いつものロボットボディの姿に戻ったスミスが、俺に報告してくれた。
その言葉に頷き視線を向けると、そこにはスミスを一回り小さくしたようなロボットが鎮座していた。
見た目も徹底的に無駄を省き、円柱状のボディに4本の細い金属アーム、更にローラーで移動する脚部。印象的には某星間戦争シリーズの某マスコットロボである。
いや、狙ったわけではなく実用性のみを追求したらこうなるんだから仕方ない。
「操作に関しては問題ないんだな?」
『おう、既にマークスの奴に確認済みだ。マークスなら一度に50体。ルークの坊主なら30体はいけるらしい』
これで何をしようかと言えば、翼族の神オフェリル様に頼まれた依頼の一つ……重力制御装置のメンテナンスである。
確かにアルドラゴの技術ならば、異なる文明とは言え機械のメンテナンスくらい出来るだろう。だが、その数たるや258基!
一日一つやったとしても、半年以上かかる。とてもそんなのやってらんねぇ。
なんだけど、もう100年以上誰もメンテナンスしてないとか言われると、放って置くことも出来ないのです。それに、この島で暮らす翼族はいつ落ちるとも知れない場所で生活することになる。
なので、小さなメンテナンス用ロボを作成し、それで作業を行うことにした。
ここで役に立ったのは、マークスの魔力の糸による人形操作能力だ。尤も、いくら彼の能力でも精密作業の出来る機械を作り出すことは出来ない。
敵であった頃のアークでさえ、作り出せる人形はあくまで単純動作しか出来ないものだけであった。
だが、こちらにはあっちサイドには居ないメカニックという存在が居るのだ。そうメンテナンス用にしろ戦闘用にしろ、機械をこちらで用意すれば、アークのように自ら人形を自前で作り出す必要はない。
何より、設計士=マークス、メカニック=スミスという元々の役職の本領発揮とも言える。
「よし、これをアルドロイドType-Wと名付けよう。早速、量産体制に入ってくれ」
こいつが量産できれば、重力コントロール装置のメンテナンスもそれほど日数がかからずに済ませる事が出来る筈だ。
それに、用途はそればかりではない。
今回のフェネクス戦や前回のゴッド・サンドウォーム戦のように、アルドラゴで本格的に戦う事も多くなってくる。だとすれば、アルドラゴのメンテナンスや修理も当然必須となる。
その為にもこれは必要だ。
また、Type-Wと名付けているように、これはあくまで作業用。
いずれは戦闘用も作りたいなと考えている次第です。とりあえず今は作業用メイン。
よし、これでアルドロイドの話は一旦終わりだな。
その次の話をすべく、俺は改めてスミスに向き直った。
「なぁおやっさん、あの―――」
『おう、マークス用の新武装も出来とるぞ』
そう言って俺へと手渡したのは、一組の手袋であった。
……これも一応大事であるから、説明はしておこう。
これはマークス専用の新武装……《シュレッダー・グローブ》である。
敵だった頃のアークが得意としていたのは、指先から出る魔力の糸を使って人形を操るという事。同じAIであるマークスにも同様の事が出来る。ならば、それを応用してその魔力の糸を短時間だけ実体化させられるようにしたのが、このグローブだ。
更に、生み出す糸の硬度も変えることが出来、捕縛用の粘着性のある糸、拘束用のワイヤーのような糸、更に対象を切り刻む事が出来るほどの極細の刃のような糸にも変化可能だ。
そう、つまり鋼糸……現実には再現不能のロマン武器である。
ただし、ロマン兵装であるが故に難点が一つ。
使い方を教えてくれる人が居ないのだ。
漫画やアニメなんかで、鋼糸使いはそれなりに居る。だが、使い方を最初から最後までレクチャーしてくれる作品を、少なくとも俺は見たことが無い。
よって、この武装を使いこなすも無用の長物と化すも、すべてはマークス次第となった。
いや、こっちは指から糸を出すって感覚すら分かんないんだからしょうがない。
マークスさん、後は頼んます。
「―――で、スミスよ。わざと話を逸らしたろ」
『さぁて、なんの事かのう。儂は忙しいので、作業の方に戻らせてもらおうかの』
おっと逃がすか!
以前は俺の体力が限界だった為に話し合いはまた後日としたが、今日がその後日だ。
「頼む! また前みたいにアンドロイドボディを使って、戦闘の方にも参加してくれないか」
『前にも言ったが、ご免じゃ! 儂はメカニック。戦闘なんぞやってられんわ』
「そこをどうか……」
とまあこんな感じで戦力アップの為の打診をしているのである。
何せ、うちにはもう空いているAIが居ない。
そして残る戦闘用アンドロイドは、数日前にスミスが操作していたあの30代青年タイプのみ。
それならば、このスミスに頼むしかないだろう。戦闘スキルみたいなものは、後付けのダウンロードでなんとかなる。
そうしていると、何やらつかつかとメカニックルームへとやってくる足音が聞こえてきた。
『あらあら、艦長ではないですか』
現れたのは、我がアルドラゴのメディカル担当AI……ナイアである。
ちなみに、その姿はいつものボール姿でもなければ半透明のホログラムでもない。
きちんとした実体のある存在だ。
「おおナイア。身体の調子はどうだ?」
『はい、重みのある肉体と言うのは変な気分ですが、艦内を一周した頃には慣れました。問題なく活動できると思います』
そう。
今のナイアが動かしているのは、ナイア専用に調整された戦闘用アンドロイドなのだ。
見た目はまんまホログラム投影されたナイアそのままであり、ボール姿や半透明状態に慣れていた身としてはちょっとした違和感がある。……まあ慣れるだろう。
「それで……その……例の件についてだけど……」
『戦闘に参加してほしいとの事でしたね』
「ああ、艦長権限で命令するつもりはない。ナイアの正直な意見を尊重するつもりだ」
隣でスミスより『ほんとかぁ~』という視線を感じるが、これは本心だぞ。
無理強いした所で信頼を得られるか難しいし、何より俺は命令って言葉があまり好きじゃない。
だから、なるべく使う際は指令という言葉に置き換えることにしている。……意味は大して違わないけど。
『正直に発言すれば、メディカルである私が戦闘に参加することに抵抗……いえ、拒絶感があります』
うん。まあそうだよなぁ。
性格は……というか趣味はアレだけど、ナイアは医者だものな。医者は癒す者であって、傷つける者ではない。その気持ちは理解出来る。
『ですが、私が戦場に立つ事で、傷を負っている者……死を迎えようとしている者を救えるのならば、私が戦闘に参加する意味はあります。
……実際に戦闘を行うかは別問題として、このボディを用いて戦いの場に赴く事は受け入れようと思います』
そう言ってナイアは俺へと近づき、ポカンとしていた俺の手を取った。
『私はメディカル担当サポートAI……固有名称ナイア。改めて、この力を艦長の為に捧げる事を誓います』
性格はアレだけど、見た目は超美女な事もあってやたらドキドキしてしまったぞ。
アンドロイドボディだけあって血の通った温かい手では無いが、しっかりとナイア自身の意志が込められた手だ。
「……おおお……あ、ありがとうナイア」
しっかりとナイアの手を握り返し、こう答えることが出来た。
これで、サポートAIを搭載したアンドロイド組が4人揃ったわけだ。
さて、残すところあと一人はどうしたもんかなぁ。
とりあえずエクストラチーム結成秘話です。
今のうちに説明しておきますと、誰かが艦を降りた……というのは、決別したとかそういう理由ではないです。詳しく説明は出来ませんが、やむを得ない事情で降りた……という事です。




