表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
213/286

209話 動き出した者達其の二




 この身体となってからしばらくの間体感していなかった、データ空間を移動する際の静寂な世界。

 光も音も何もない、ただの情報の羅列の海を突っ切って、フェイの精神は何処かへ向かう。


 何もなかった世界に色や音がゆっくりと……だが確実に戻ってくる。

 どうやら、目的の場所へと辿り着けたようだ。

 さて、ここは何処だ……?


「やぁやぁ、問題なく復元できたみたいじゃないか」


(!!)


 目を開いた瞬間、目の前に存在していたのは……彼女が最も忌み嫌う存在……アウラムだった。


(くそ、やはり罠だったか―――)


 フェイは即座に飛び退いてアウラムと距離を取ろうとするが、何故かその身体は彼女の意思を叶えようとしなかった。

 その原因はすぐに判明する。

 これは、フェイの肉体ではなかったのだ。


『おはようございます、マイマスター。予想外に早い再会で、こちらしても嬉しい限りです』


 その声でフェイも理解した。

 この身体の主は、アークだ。そのアークの視界を介してフェイは彼の見る世界を知ることが出来たのだ。

 彼の世界……つまり、敵の本拠地の情報だ。


「いやはや、皮肉が言えるのなら問題ないみたいだね。なんだい、まーだボディを爆破した事を根に持っているのかい?」

『……いえ、今のマスターは貴方です。例え仮初かりそめであろうと、その命令は絶対です。逆らう事は決してありません』

「でも、恨みは積もるわけだねぇ。まあせいぜいうっかり君をあっちの陣営に取られないように注意するさ。君にとっては残念だろうけども」

『それも仕方ありません。我々は、そういうものです』


 こちらの陣営に取られる……という言葉にドキリとさせられる。

 やはり、アウラムはアークと同等の力を持ったマークスが既にこちらに居る事を知らないのか? それとも知った上でこちらを嘲笑っているのか……。今、その判断をつけるのは難しそうだ。


「さて、実は向こうのチームに対抗して、こっちもチームを作る事になってねぇ。今揃っているメンバーの紹介をしようと思ってさ」

『……何故、私に紹介を?』

「そりゃあ、君も既にメンバーだからさ」

『……当然、拒否権はありませんね』

「そりゃあ、君たちはそういうものだからね。それに、君のその軍隊を作り出す能力は実に魅力的だ。やはり、悪の軍団と言ったら戦闘員は必要不可欠だろう」


 ニヤニヤと笑いながら、アウラムは廊下らしき場所の歩を進め、とある広い場所へと辿り着いた。

 やたらと明るいが、どうも室内のようだ。

 その場所には、既に複数の男女が居た。その中には見知った顔も居れば、初めて見る顔の者もいる。


「さて紹介しようか。彼は、アーク=ドールマスター。魔法の力で簡単な兵隊を作り、更に操ることが出来る。ええと、即興ならどれぐらいの数を作れるのかな?」

『30秒いただければ、20体は作れるでしょう。強さのランクは、低級から中級の魔獣程度。上級クラスの大型魔獣も作れますが、時間と魔力が必要です』


 すると、興味深げに話を聞いていたクリエイターらしき男が口を開く。話には聞いていたが、本当に聖騎士ルクスの身体を乗っ取ったらしい。


「ほほう、魔獣を作り出すのか……それは僕と役割が被るかなぁ」

「いや君たちの役割は近いと言えるが、それぞれ方向性は違っている。彼の場合は質より数が重視で、君の場合は数より質だ。もっと面白い魔獣を作り出して、僕を楽しませておくれ」

「うきゃきゃ……せいぜい期待を裏切らぬよう頑張るとしよう」


「さて、彼はルクス=クリエイター。魔獣という存在を生み出した、始祖みたいなものだ。元の名前は嫌いらしいから、その肉体の彼の名前を貰ったんだとか。どらかと言えば君……ドールマスター同様に裏方担当だが、肉体のポテンシャルもそこそこ高い。訓練すれば、前線で戦う事も可能だろう」

「悪いですが、ゴメン被ります。僕は戦うなんて性に合わない事はしない主義だからね」

「おやぁそんな事を言っていいのかい? 君自身の手で、長命種たるあの男の肉体を手に入れるチャンスだよ?」

「ぐ! 痛いところを突く。確かにこの肉体も悪くないが、あの男の肉体は実に理想的だ。あの身体ならば、肉体の劣化を気にすることなく何十年も研究が続けられる……」


 こちらも話は聞いていたが、このクリエイターなる男……当初はゲイルの身体を奪おうとしていたようだ。今の話を聞く限り、その野望を諦めてもいないみたいだ。


「さぁ次だ。そこの無精髭の彼はブラット=ノスフェラトゥだ」


 フェイ自身、彼の顔を見るのは実は二回目。一度、エメルディア王国騒乱の際に関わったことがある。その時はまさか、ここまで因縁が出来るとは思いもしなかった。


「俺はそいつの事を知っているぞ。何せ、俺の前の身体を踏みつぶしてくれた張本人だからな」

『……あの場では、ああする以外救出方法がありませんでしたから』

「チッ、核が潰れなかったら良かったものの、あの時は流石に死んだと思ったぞ」

「そう、ほんの小さな核が潰れない限り、決して死ぬ事のない不死身の肉体を持つ男……それがノスフェラトゥだ。更に、細胞変化によって自在に肉体の形状を変えられる。弱点と言えば戦闘能力がさほど高くなかったことぐらいだけど、今回最強格の身体を手に入れられたからね。戦闘面での活躍も当然期待しているよ」

「まあ、もちっと慣らさないとまともな戦闘は無理そうだけどな」


 そのまま次の人物の紹介をしようとしたところで、アークが気になっていたことを尋ねる。


『その前にちょっと聞きたいのですが、そのドールマスターやクリエイター、ノスフェラトゥというの何なのでしょうか?』

「二つ名だよ。こういうのは、そういう異名ってのが付きものなのさ。君の場合は、僕がそれらしい二つ名を考えておいた。格好いいでしょう」


 その言葉を聞いて、アークは「はぁ」と溜息を吐く。


「そして次に紹介するのは……グリードさん……二つ名は……そうだね、ビーストとでも名付けようか」


 今まで会話に参加してこなかった……一人の長身の女性を指す。

 桃色に染めた髪に、褐色の肌の美女。更に胸元が大きく開いたライダースーツのようなものを着込んでいる。

 だが、その名を呼ばれたというのに女性は興味なさげにあらぬ方向を見ていた。


「まぁ、彼女についてはおいおいだねぇ。ちなみに肉体面ではあのブラウと互角に戦えるほどのパワーファイターだ。戦闘面では頼りになるよ」


 すると、今まで興味なさげにしていたグリードなる女性は、苛立ちを含ませた顔つきでアウラムを睨みつける。


「……互角? 舐めるなよ。アレは貴様が時間を稼げというからわざと手を抜いたんだ。マジでやっていたら、アタシが勝っていた」

「あぁそう言えばそんな事も言ったけねぇ」

「信じていないか? だったらその身に叩き込んでやろうか……」

「おっと! 今はそういうの良いからね。君の実力は、後々しっかり見せておくれよ」


 気がそがれたのか、グリードはチッと舌打ちしてまたあらぬ方向に視線を向ける。


「そして、現時点で最後に紹介するのは……おや、来たようだよ」


 カツカツと足音を立てて、その人物は現れた。

 アークが振り返り、その人物を視界に捉えたことで、フェイは思わず声を上げそうになった。……実際には出せないのだが、とにかくそれだけ驚いたという事だ。


『わざわざ私をこんな場所に呼び出して、どういうつもりだアウラム。私は貴様に仕える身ではないと既に宣言した気がするが?』


 そう言って現れたのは、赤いアーマードスーツ……赤いミラージュコートに身を包み、まるで血の色のような赤黒い髪の色をした長身の男……フェイの……いや、アルカ、フェイ、ルーク三人の兄……

 ……エギルだったのだ。


「あぁ、ちょっとした思いつきでこちらも強い者を13人ほど集める事になってねぇ。その一人として、君をスカウトしたい」

『スカウトだと? ふざけるな。貴様の道楽に付き合うほど暇ではないと言ったはずだ。そこのサポートAIは好きに使っていいから、私を巻き込むな』


「まぁそう言うと思ったよ。でもさ、ちょっとしたお土産があるんだよなぁ」

『土産だと? 何を言っている貴様』

「はいこれ。今、君の視界に直接送ったけど、見えているかな?」


 アウラムの言葉に、エギルの動きが止まる。残念ながらその画像とやらをフェイは確認できない。一体、何の画像だというのか。


『……何故、貴様がこの画像を持っている? それに、これはいつの画像だ?』

「それは、君の“妹”さんの“今”の姿だよ。いやいや、どこかで見たことがあると思っていたけど、まさかこういう繋がりがあったとはねぇ」

『今のアイツの姿……だと? まさか、アイツの人格データは……』

「さてどうする? 別に君に僕の部下になれとは言わないよ。ただ、これまで以上に相互協力を申し出たい。僕からの要望はそれだけだよ」


 エギルはしばしの間、目を瞑って考え込んでいたが、やがて眼を開いてアウラムを正面から見据えた。


『よかろう。一時の間だけ、貴様に協力してやる。ただし、コイツのデータは私が貰う。もし、私より先に手に入れたり、破壊などしようとしたら……』

「分かってる分かってる。そこまで僕も馬鹿じゃないさ。君という強力な力をわざわざ敵に回そうとはしないよ」

『ならば良い。言っておくが、下らん事に私の手は煩わせるな』

「分かってるってば。君の力はここぞという時にしか使わないから安心しなよ」


 ……とんでもない事になった。

 兄、エギルがアウラムと手を組んでいることは知っていたが、今まで彼自身は関わっていなかった……それが、これからは本格的に関与するというのか。

 それに、彼らの会話にあった“妹”“今の姿”……この言葉の意味はフェイには理解できなかったが、誰を指しているのかは分かる。

 十中八九……アルカの事だ。

 エギルの狙いはアルカ。アルカのデータを手に入れてどうするつもりかは知らないが、良い事に使うとは到底思えない。少なくとも、レイジやアルカ本人にとって良く無い事に違いない。


「ところでずっと気になっていたんだがよぉ、なんでまた13人なんだ? 随分と中途半端な数じゃね?」


 ブラットが首を傾げながらアウラムへ尋ねる。

 すると、アウラムは自慢げに答えるのだった。


「ふふん、それはねぇ……13というのは彼の世界ではそれなりに重要な意味を持つ数字なんだよ。尤も、割と不吉な数字だけどね。恐らく彼……ケイの場合は自分のチームの数字は12にするんじゃないかな? 最初は7人かと思っていたけど、今は8人以上居るみたいだし。それに12は黄道十二星座に十二支、十二神将……日本人たる彼には馴染みのある数字だと思うしね」


 内容は理解できなかったが、納得はしたようで首を傾げながらもブラットは頷いた。


 ……やがて、視界にノイズが走るようになり、会話も雑音が混じって聞き取りづらくなってきた。

 これが、録画なのかリアルタイムなのかは不明だが、アークが見せたかったものは見れたと思う。

 特に、エギルが本格参戦してくる事については、先に知れて良かった。

 あの男が本気でこちらに絡んでくるのならば、相応の対策が必要となる。特に、アルカの護衛は急務と言えるだろう。


 ……兄だというのに、本当に彼が何を考えているのか分からない。

 一体、何が目的なのか。アルカのデータを使って何をするつもりなのか……。


 こうしてデータの閲覧を終えようとしていた時、最後の最後にとんでもない事実をフェイは知る事となる。


「いやはや、それにしてもアイツがケイに手を貸していたなんて驚きだったなぁ」

『アイツ? アイツとは何者だ?』


「……魔神ルシフェル。まるで猫のような姿をしていたが、間違いないさ」


「魔神だと? おいおい、魔神ってあの魔神だよな。昔、魔族を率いて世界を滅ぼしかけたって……」

「あぁ、僕のパトロンだね」

「そうだよー。かつて、魔族を率いて世界を二分する戦いを引き起こした張本人が、ケイたちに手を貸していたんだよ。おかげで、だいぶシナリオの修正を余儀なくされたけど、なかなかに面白い事になったなぁ」

『何故、魔神が再び世界に解き放たれたかはさておき、そんな奴が向こうの陣営に居るとしたら、厄介ではないのか? 仮にも神だぞ』

「大丈夫大丈夫。奴が神の力を使おうものなら、他の神が気付くはずさ。……あれ? でもそうすると、ケイの奴は魔神を神から守ろうとするかもな。そしたら、ちょっと面倒になるかも……まぁいいや。その辺はこれから考えようっと」


 ノイズ交じりのその会話を……フェイは聞いていた。


 魔神。

 あの猫の正体が……魔神。


 最後の最後に投げ込まれた超ド級の爆弾を抱え、フェイは元の肉体へと精神を戻したのだった。




 という事で、長かった5章もこれで終わりです。

 正直申しまして、本来の予定ならこの後1章分経過してからクライマックスに突入という流れだったのですが、ここまであまりにも長くかかりすぎたり、私のモチベーションの低下もありまして、次章よりクライマックスに突入します。

 と言っても、次回がラストの章というわけではありません。

 現時点では7章で完結予定。完結まではもう少し時間が掛かると思われますが、もうちょっと付き合ってやってください。


 最後に、ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。

 評価の方をいただけると、大変励みになります。ついでに投稿のスピードもアップすると思われます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ