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208話 託されたデータ




 その後、いい加減に限界に来たらしいレイジの体調を鑑み、今後の詳しい話し合いは後日に……という事になった。

 ……その宣言をした直後、レイジ本人がまるで電池が切れようにバタリと倒れた事でちょっとした騒ぎにはなった。フェイはその様子を見て、よくもただの人間がそこまでギリギリの状態を保てるものだと感心したものである。


 さて、話はその夜へと移る


 フェイは一人アルドラゴを出て、少し離れた渓谷の岩山の上に立っていた。

 そして、何か思いつめるように自身の掌を見つめている。

 その掌の上には、鈍く光る丸い水晶のようなものが乗せられていた。


 この水晶を受け取った際の出来事を、フェイは思い出す。


 白フェイが重力コントロール装置を撃ち抜いた直後の事だ。

 ロストブラストによって重力コントロール装置が撃ち抜かれ、流石のフェイも放心状態に陥った。その隙を狙って白フェイはフェイの拘束より抜け出してしまう。


 そんな……どうすればいい?

 この装置が一基でも動作不良となれば、この空に浮かぶ島が墜落しているのは聞いている。

 そんな最悪の出来事が、目の前で起きてしまった。

 否、自分で不手際で起こしてしまった。


 ひどく自責の念にかられるフェイの元へ、ルークがやってきた。彼がその手にしていたのは、爆散したはずのアークの頭部であった。

 そこで疑問に思う。アークの意識データが人形から離れ、本体へと帰ったのだったらこのようにして残骸が残る事はおかしい。事実、彼が生み出した戦闘人形の数々は土くれとなって消え去っているのだ。

 ならば、この頭部だけが残っている意味は―――?


『!!』


 気付いた。アークは最後の力を振り絞り、この頭部を残したのだ。

 それは、この頭部に詰められたデータがこの先必要となるからではないか? これが彼に出来る、せめてもの抵抗だったのではないか?

 フェイはルークにこの場に残って出来る限り装置の修理を行ってほしいと頼み、自身は狼の姿となって全速力でアルドラゴへと戻った。

 そして、この頭部をアルドラゴのメインコンピューターで接続すると、思っていた通りアークの元々のAIデータ……設計士アーキテクトのサポートAIとしての基本データが詰まっていた。

 これを利用して即座に設計士アーキテクトのAIを復元。更に、元々準備していた戦闘用アンドロイドボディに組み込んで現場へと送り込んだのだ。また、同時にメカニックの力も必要になると思い、嫌がるスミスを強引に説得して、同じく送り込んだ。

 機械操作の管理AIルーク、メカニックのサポートAIスミス、設計士アーキテクトのサポートAIアーク。この三人が全力を尽くす事によって、応急処置ではあるが重力コントロール装置の修復は間に合った。


 これが、アルドラゴ陣営にアークことマークスが帰還した顛末である。

 こうしてデータが復元できた以上、アークの頭部に収められたデータは必要ない。事実、時間が経てば残れていた頭部は、役目が終わったとばかりにサラサラと土となって消えていったのだ。

 ……その筈なのに、今も消えずに残っている物がある。


 それは、アークの右目に相当する部位だった。

 これだけが何故か消えず、こうしてフェイの手元に残っている。

 まるで、何か役目が残っていると主張しているようだ。


 本来ならば、アルドラゴのコンピューターで徹底的に調査するべきだ。何か重要な情報が残っている可能性が高い。

 だが……それをフェイは実行する事が出来なかった。

 もし、これがアークではなく、アウラムがわざと残したものだったら……その危険を考え、目のデータを調べる事を躊躇してしまった。尤も既に、アークのデータを復元する際にコンピューターに取り込んではいるのだ。今回も同じことだ……と思う自分も居るが、これ以上自分のミスでアルドラゴを危険に晒せない。フェイはそう判断した。


 だから……


『来てくれたのですね、お二人とも』


 フェイの前に現れたのは、何やら深刻な表情をしたゲイルとヴィオの二人だった。


「あんな手紙を渡されれば、来ざるをえないでござろう」

「なんだい、くれぐれもレージやアルっちたちには内緒で来てくれってのは……」


 そう、この二人を呼び出したのはフェイだ。

 それも、誰もが休んでいるこの夜中に……。


 フェイは、改めて先程思い返していた事柄を二人に話し、今この手にしているものが何なのかを説明する。


「うーん、いまいち話が見えないんだけどねぇ。で、結局のところアタシらが呼び出された理由ってのは何なんだい」


『はい。これは推測ですが、この目に収められたデータは、アークが我々に託した重要なデータであると思われます。ですが、敵の罠という可能性もあり、このままアルドラゴのメインコンピューターで解析するのは危険と考えました』

「じゃあ、どうするのでござるか? せっかくの手がかりなのでござろう?」

『ええ、ですから……これはコンピューターには接続せず、私のみの力で解析する事にしました』

「そんな事が出来んのかい?」

『いえ、本来ならば出来ないのですが……アークより託されたこれは右目に相当する部位です。そして、今の私には右目が無い』


 フェイは自身の顔の右半分を覆っていた眼帯をはぎ取る。

 その右目があるはずの場所には、ぽっかりと空洞が出来上がっていた。


『アークは恐らくこう言っているのでしょう。この右目を私の右目に取り付けろと。それで、この目の中にあるデータを解析できる筈です』


 その言葉にゲイルとヴィオは思わず顔を見合わせる。


「……それは、AI同士の阿吽の呼吸というか……言わずとも分かるものなのでござるか?」

『いえ、ただの私の勘です。ふふ、おかしなものですね、機械の私が直感に頼るなんて』

「なるほど……。で、それでアタシらをここに呼んだ理由って結局なんなんだい?」

『今から、この目を私に接続します。その際、もしもこれが罠であり、私の身体に何かしら異変があった場合……即座に私の身体を破壊してほしいのです』


 フェイのその言葉に、思わず二人の目つきは険しくなる。


「おいおいフェイっち……」

「それは本気にござるか?」

『はい。それに、これは艦長や姉さんたちには頼めない事ですから』

「まぁ……確かにレージたちなら反対するわな」


 一番付き合いの短いヴィオですら、彼の人となりは十分理解出来た。それは、ゲイルも当然同じだ。


『他のサポートAIたちは艦長の意思に反する行動は出来ない。だから、生身の人間であるお二人に頼むのです』

「……今、それをやる理由は? もう少し、皆と相談しても良いのでは?」

『この目に収められたデータもいつまで形を保っていられるか分かりません。だから、艦長や姉さんたちが休んでいる今、確認しなくてはならないのです』


 ここまで言われれば、ゲイルやヴィオの言葉は一つだけだ。


「わーったよ。フェイっちの覚悟……しっかり受け取った。任せときな」

「拙者も……了解したでござる」


 不承不承ふょうぶしょうという形ではあるが、なんとか了承は得る事が出来た。

 ならば、後は実践するのみだ。


『お二人に感謝します。では……接続します』


 フェイは二人に対してペコリと頭を下げると、手にしていた水晶を自身の右目へと取り付けたのだった。




長すぎたので分割します。後半部分も9割出来ているので、明日に投稿予定です。

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